面倒ごとを押し付けないで!   作:小鈴ともえ

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絶対にユルサナイ

   ~古明地さとり~

 

 

いざ対峙してみると本当に恐ろしく感じる。目の前に迫る大量の反逆者(嫌われ者)たち。迎え撃つは三人の取り締まり役(嫌われ者)と大量の怨霊。お燐は怨霊を操って援護してくれるので戦闘自体には不参加である。この七日厳しい訓練をしたおかげでお燐の怨霊操作は非常にうまくなった。

 

怨霊は人間だけでなく妖怪にとっても非常に危険なもので、私やお燐のような適切な管理ができなければ憑かれてしまう可能性もある。故に怨霊は味方に付ければ相手にとって相当な脅威になってくれるはずだ。怨霊は言葉で話したい者が多いらしく、私ではなくお燐と一緒にいる方が良いみたいだ。

 

相手の妖怪たちも相当な嫌われ者たちだが私以上に嫌われている者などいないだろう。人間、妖怪、怨霊からさえも等しく嫌われる呪われた能力。私を慕ってくれるのはもはや屋敷の動物たちくらいである。こいしは心の中でどう思っているのかわからないので何とも言えない。何も考えていないのかもしれない。覚妖怪が無意識を理解するのは難しい話だ。常に意識部分を読むことで相手の心の内を暴いているため、無意識領域は完全に効果範囲外なのである。

 

つまり私を倒そうと思ったら完全に無意識で私に攻撃をしなければならない。死角から無意識で放たれた攻撃は絶対に避けられない。逆に攻撃の意思があれば、たとえ相手が死角にいたとしても何処から攻撃されるか、どの部位を狙っているかまで手に取るようにわかる。この能力によって敵を作り、この能力によって命は救われる。後半の部分だけを切り取れたらどれほど良いだろうか。

 

叶うはずもない事を考えるよりは目の前の敵に集中すべきだろう。目の前の妖怪たちの数はざっと八百ほど。あれからまたかなり多くの妖怪が馬鹿に丸め込まれたようだ。狭い場所なら私たち三人(主に鬼二人だけ)でも鎮圧できるだろう。だが今回の場所は地獄跡地という事でかなりの広さがある。縦穴付近まで押されるまでに六割を潰すのもなかなかに難しい。

 

途中で通る橋にいつもいる水橋さんには既に今日の事を言ってある。嫉妬心が多そうだが危険が大きすぎるので来ない事にしたらしい。賢明だと思う。私もこんな立場でなかったら今日のような日は確実に家に引きこもっているだろう。あの時面倒ごとを承諾した私を殴ってやりたいが、いつまでも過去を嘆いていても仕方ない。こうなった原因も結局は私なのだからそこに過去も現在も無いのだ。

 

「お燐、怨霊を放ちなさい。操作は大丈夫ね?」「勿論ですよ、さとり様」

 

旧地獄になって以来(反逆者の数が)最大の戦争が始まった。勿論我先にと縦穴めがけて最短距離を行こうとする妖怪たちはいる。それをできるだけ阻止するのが私の役目だ。恐怖の幻覚によってある一定の数の妖怪はその場に停滞させることができる。しかし発動させているのは私なので当然妖力量は少ない。今はまだ勇儀や萃香の方にも大勢の妖怪たちが行っているから全て阻止できているが、二人に怯んでこちらに逃げ出してくる妖怪たちも増えてくるだろう。そうなった時は運を天に任せるほかない。

 

と思っていたら二方向から急に大量の妖怪たちがこちらに押し寄せてきた。流石にこれは手に負えない。いくらかは逃げられるかもしれない。もう少しの間は大丈夫だと踏んでいたのだがこればかりは仕方ない。幻覚を生み出すほうに力を使っているので想起による戦闘もできない状況だ。私がやられないように素直に道を通せば良いだろう

 

「……………………えっ?」何が起こったのか咄嗟には理解できない。ただ道をそのまま通って行くのではなく、避けた私めがけて一斉に妖怪たちが攻撃してくるのが見えたのと同時に勇儀の叫んだ声だけが聞こえた。

 

~星熊勇儀~

 

 

(地底が崩落しない程度までなら)暴れても構わない、と言われたので久々に力を振るっているが思いのほか楽しいものだ。一対一で戦わないのは好きじゃないが、弱い者が群れて私を倒しに来る様子は私たちが地獄に移り住む直前の人間にも見られた。あの時は強い絆で結ばれていたから裏切られた気がしたが今回は違う。私と何の関係もない弱者が強者()を倒すために群れているのは愉快である。妖怪は基本的に群れないものでもあるし。

 

「あっはははは!いやぁ楽しいねぇ!もっと私を楽しませてくれよ、お前さんたち!」

 

臆病な弱者よりは勇気ある弱者の方が好ましいに決まっている。その点で私に向かってくる妖怪たちは面白い。まだまだ暴れ足りないからもっとどんどん来てもらいたいものだ。

 

「なぁ、星熊の姉御よ。伊吹の姉御もそうだがどうしてさとり(あんな妖怪)の味方に付くのだ?お前さんも鬼なら仲間意識はあるんじゃないのかい?今ならまだこちらに付いてこのくそったれな妖怪によるくそったれな統治をなかったことにできる。さぁ、今すぐこちらに寝返るんだ。そして鬼による新たな地底の規則を作ろうではないか。地上にも出られないなんて鬼の名が廃るだろう?」

 

こいつ、本気で言っているのか?きっとただの馬鹿野郎なのだろうな。

 

「お前さん、私は同じ鬼としてとても残念な気分だよ。さとりがくそったれな妖怪だと?今の地底の統治がくそったれだと?ふざけるんじゃないよ。お前さんたちが地底の規則なんて作ってみろ。地底は直に地獄と化してしまうだろう。管理されている本物の地獄ではなく、管理者のいない荒れ放題の地獄だ。

 

それにお前さんたちに怨霊の管理はできるのかい?できないだろう。そうすれば地上の賢者に滅ぼされるだけだ。お前さんたちには圧倒的に知恵が足りていない。私が寝返ると思っているのがいい例だね。鬼は仲間を裏切らない。私にとってはお前さんたちのような鬼よりはさとりの方がよほど仲間だと思っているのさ。

 

それに地上に出られないのはさとりだけが悪いわけじゃあない。さとりが決まりごとに同意したのは確かだがその条約が発効されるまでに地上にいたい奴は出ることができた。つまり何が言いたいのかというと……今反乱しているお前さんたちはただの大馬鹿者だという事だ」

 

発効されるまでに地上に出れば、地底には戻れない代わりに地上で過ごすことができたはずだ。それをしなかった奴らが今こうして地上に出ようとしているのを見ると滑稽にしか見えない。

 

「そうか……ならば仕方あるまい。お前さんもこちらに付きたくなるようにしてやろう」

 

目の前の鬼が指を鳴らす。そうすると一斉に私の周りを取り囲んでいた大量の妖怪たちがさとりのいる道に走っていくのが見えた。いくらさとりでもこの数は相手にできないだろう。もとよりあの道に張っている罠にもかなりの妖力を使っているはずだ。となるとさとりが危ない。

 

「おいっ!さとりっ!逃げるんだ!」

 

「あちらに構っていて大丈夫なのかな?あちらに大量に妖怪を向かわせたとはいえまだここに私含めて鬼は数人いる。先ほどまでの戦いを見ている限りいくらお前さんでもこの状況は厳しいんじゃないかい?まあそんなことは気にしておられんからな。……皆一斉にかかれ!」

 

先ほどまでの私……か。確かにあれでは弱すぎる。だが私の力は断じてお前たちの思っているようなものではない。

 

「汚い手を使う上に鬼同士の多対一をするつもりかい。見下げ果てた奴らだねぇ。私としては早くお前さんたちを倒してさとりの様子を見に行きたいからありがたいっちゃありがたいんだけどね。だが私にとってお前さんたちは鬼の風上にも置けないような奴らだ。同族なのが恥ずかしいくらいだ。一発で伸してやるよ」

 

この前さとりが使ったものとはけた違いの威力と攻撃範囲を持つ私の奥義。

 

「山の四天王としての誇り、その身を以て味わうがいい」

  『三歩必殺』

 

 

   ~伊吹萃香~

 

 

つまらん。どいつもこいつも向かってくる奴らは弱すぎる。向かって来ずにさとりのいる道の方に逃げて行く奴はさとりが対処するらしいので放置しているが流石に弱い奴が多すぎるのではないか。親玉はまだどこかで見ているだけなのだろうか。

 

勇儀の方は大量の妖怪たちを相手にして楽しそうだ。私もあんな風に楽しめたら良いのだが生憎そうではない。

 

「浮かない顔をしているようだな、萃香の姉御。さとり(あんな妖怪)の味方に付くからそうなるのだ。どうだ、こちらに付いてあの妖怪に復讐をする気はないか?」

 

「ほほう、お前たちに付いて地上に出るのも悪くないかもしれないな。ところであんたの能力は何なんだい?面白そうな奴なら考えるかもしれん」

 

こういう時には先ず相手の情報を収集することから始めるべきだ。下手に感情的になっても良いことは無い。

 

「私の能力は身体を二つに分ける程度の能力。どうだい?悪くないだろう?」

 

身体を二つに分ける程度の事なら私でもできる。相手をおだてるためにもそういう事は言わないが。

 

「ほうほう、なかなか便利そうな能力じゃないか。今もう一人出してみてよ」

 

「もう一人の私は今あちらで勇儀の姉御の説得をしているところだ。どうだ、私たちの仲間になる気にはなったか?」

 

「一つ聞いておきたいんだけど、この反乱の一番上は誰なんだい?」

 

「それは勿論私だ。こんな能力を持っている私が頭でないわけがないだろう。心を読むなんて言う気持ちの悪い能力の奴が地底を支配するなんてもううんざりだ。お前さんもそう思うだろう?」

 

それは意外。こんな奴が頂点だから張り合いのある奴がいなかったのではないか?

 

「そうだねぇ。悪いが私はあんたらの側には付かない事にするよ。……どうしてかって?私はね、今の地底は嫌いじゃないんだよ。さとりが支配しているこの地底がね」

 

むしろこいつらが支配すると地底に終焉が訪れてしまう。

 

「端から考える気はなかったのではないのか?」「その通り」

 

だから言ったじゃないか。『考えるかもしれん』と。嘘は吐かないが本当の事を言うとも限らない。その駆け引きができないような奴にはやはり任せられないのだ。

 

「ちっ」目の前の鬼が舌打ちと同時に指を鳴らすと一斉にさとりの方に向かって妖怪が走り出した。さとりの事だから何とかするだろう。こいつを捕まえたらさとりの方を見に行こうかね。

 

「さてあんたは殺しはしないが大人しくしておいてもらうよ。あんたの最大の敗因は四天王に勝てると思ってしまったことだ。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

とりあえずうっかり殺さないようにだけ気を付けて捕縛しておく。勿論ただの縄だと鬼に引きちぎられてしまうので私の能力で密度を無限大まで高めた特製の縄である。さて、さとりはどうなったか。

 

積み上がった妖怪たちの屍骸。その付近に倒れている古明地。そしてその横で返り血に染まっているのは……。

 

「こいしちゃんかい?」

 

「っ誰?!って萃香?貴方もお姉ちゃんを傷つけに来たの?」

 

「違う違う。私は古明地が無事かどうか確かめに来ただけさ。それよりこっちに来た妖怪はこれで全部なのかい?」

 

「なぁんだそうだったのね。うーん、この妖怪で全部ってわけじゃないよ。少し殺り損ねた妖怪はあっちに行っちゃった。でもお姉ちゃんを傷つける妖怪は絶対に許さない。ただの一匹も」

 

あらあら、消えてしまった。彼女の姿を見るのもとても久しぶりだったが、今回もろくに話ができずに消えてしまった。古明地は生きているようなので起きたら話してやろうかね。一応目安だった六割以上はここで(主にこいしちゃんが)殺してしまったようだし、さっき聞こえた轟音は勇儀のものだろう。これなら紫からは何も言われまい。ヤマメだけでも残りは殺れるかもしれないし。

 

「おや萃香、あんたも派手にやったもんだね」

 

「あ?あぁ勇儀か。いや、こをやったのは私じゃなくて全部こいしちゃんだよ。私が来た時には既に古明地が倒れていてこいしちゃんがやった後だったよ」

 

「なんだ、そうだったのかい。しかしあの子もさとりが大好きなのにさとりはそのことをわかっているのかねえ」

 

「さてね。この前は『こいしに嫌われているから地霊殿に帰ってこないのかもしれないわ』なんて言っていたけどねぇ」

 

まあ安心しろ、古明地。あんたがどんなに悪いことをしてもこいしちゃんだけはずっと好きでいてくれるだろうさ。何もしなければ私たちも無駄にあんたを嫌うような事はしないしね。




原作に出てこない騒動の黒幕は変に強くしない方が良い。展開は面白くなるかもしれませんが、原作キャラ相手にオリキャラが無双するというのは個人的にあまり好きでないのです

一瞬だけでしたが久しぶりにこいしを出せたので満足です


また次回も読んでいただければ幸いです
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