面倒ごとを押し付けないで!   作:小鈴ともえ

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何も考えてませんでしたが前に出てきた牛鬼は牛崎潤美と一切の関係もありません。潤美が牛鬼だと言うのを忘れていた私の失態です。以後このようなことが無いよう気を付けます


寝てたら終わってた

   ~古明地さとり~

 

 

私が寝ている間に地底の反乱は収まったらしい。地底の主という立場にある者として本当に不甲斐ない。萃香によるとこいしが私を助けてくれたらしい。妖怪たちが一斉に私に向かって来たところまでは覚えているがその後すぐに気を失ってしまっていた。

 

つまり私が気絶してから萃香が私の様子を見に来るまでの間の事を知っているのはこいしだけという事だ。あの量の妖怪たちをほんのわずかな時間で倒し(殺し)きってしまったらしい。萃香もそこまで怒っているこいしを見るのは初めてだったらしい。彼女が思い出しているので私にもわかるのだが、怒ったこいしはとても怖く見える。普段は笑っているような子だから余計にそう思ってしまうのかもしれない。

 

あと萃香の心を読んで分かったのはこいしが別に私を嫌っていなかったこと。彼女が滅多に帰ってこないのは単純に家に帰ろうという意識が無いだけみたいだ。今回戦場に居合わせたのもたまたまなのかもしれない。彼女のおかげで助かったのは事実なので次回帰って来た時はできる限り甘やかしてあげよう。

 

「聞いているのかしら?古明地さとり」「あぁ、すみません。もう一度お願いできませんか?」

 

いけない。考え事をしているとつい他人の言葉が頭に入ってこなくなる。

 

「はぁ…まあいいでしょう。得体の知れない乱入者のせいで私たち地上側の妖怪のすることが無くなったばかりか、こちらの戦力の四割にも被害が出ているのですが」

 

四割とは言うものの今回来ているのが五人なので被害が出たのは二人だけである。

 

「それについては申し訳ありません。あの子の参加はこちらにとっても想定外の事態でして。それにしても一体どのような被害が出ているのでしょうか」

 

八雲さんは怪我などしないと断言できるとして、後の四人もかなりの強者に見えるが。特に茨木さんが来ているのは驚きだ。彼女は自分からここを出て行った鬼。勇儀や萃香ともあまり会いたくないと思っていたが。

 

「現れたと思えば次の瞬間にはフッと消えてしまう。彼女自身誰を攻撃するべきなのかわかっていないようでしたし。ただ私と華扇だけは何故か狙われませんでしたが」

 

それでいつの間にか攻撃されていた、と。皆等しく私を傷つけた妖怪の仲間として認識していたのなら誰彼構わず攻撃してもおかしくはないのかもしれない。

 

「多分ですが八雲さんと茨木さんが狙われなかったのは過去に会ったことがあるからでしょう。私の妹が無意識で行動するようになってもそれは忘れていなかったのだと思いますよ。……萃香はこいしの前に現れる頃合いが悪かったのでしょう」

 

萃香がこいしに誤解されかけたのはまあ仕方のない事ではないだろうか。全員やったと思った瞬間に敵側の頭領を連れた者が現れれば疑うのも頷ける。

 

何故か今回の騒動は私の計画とは全く異なる方法で解決されてしまった。地上に助けを求めたのも意味はなかったという事である。無駄な面倒が増えただけのようにも感じる。少なくともこれで地上に対して地底側からは強く言えなくなってしまったという事だ。

 

「ほとんどこいしだけで片が付いてしまったとはいえ助けを求めたのはこちらの方です。良ければ温泉にでも浸かって行きませんか?傷を治す効能もあったような気がしますが」

 

まあそんな効能が無くても妖怪はかなりの速度で傷が治る。つまり妖怪に対しては治りがいくらか早まる程度の効能である。ここに人間が来ることは無いのであっても仕方のない効能ではある。

 

「私は遠慮しておくわ。まさか勇儀と萃香(こいつら)がいるとは思ってなかったし」

 

「なんだよ華扇。久しぶりに会ったんだから温泉で酒でも飲もうじゃないか」

 

「そうそう、私たちの仲だろう?少しくらいいいじゃないか」

 

”助けてくれ”そう目で訴えてくるが私にはどうしようもない。手出しなんてできないに決まっている。だから私は静かに首を横に振ることしかできない。

 

「……はぁ。少しだけなら付き合ってあげるわ。少しだけならね」

 

少しと言いながらも何升飲むつもりなのだろうか。鬼の少しは私たちにとっては全然少しではない。

 

「他の方はどうされますか?」

 

残りは地上代表(?)の八雲さん、その式神の八雲藍さん、八雲さんの友人らしい亡霊の西行寺幽々子さん(ちなみに被害が出ていないもう一人はこの方)、鬼に恐怖している鴉天狗の射命丸文さんだ。

 

射命丸さんに関しては何故連れて来られたのかすらいまだにわかっていない様子。ご愁傷様である。

 

「私たちも全員浸からせていただきましょう。折角ですし」「え"」

 

こっそり帰ろうとしていたようだが賢者にはどうやっても逆らえない。頑張れ射命丸さん。

 

 

   ~八雲紫~

 

 

折角私の選んだ精鋭を連れて行ったのにさとりの妹一人に手柄を全てとられてしまった。手柄に関してはどうでもいい。そんな物は特に求めてもいなかったから。だが突然現れたり消えたりする妖怪相手には流石に天狗の速さも意味をなさなかったらしい。藍も怪我をしたようだし。

 

さとりが言うには、彼女の妹の行方は誰にもわからずいつどこから出てくるか全く予測できないらしい。今回出てきたのもたまたま近くにいたからだろう、という事だ。無差別に見えた攻撃も知っている相手は攻撃しないように気を付けていたようだ。確かに今思い出してみれば昔一度会ったことがあったかもしれない。地上で……?何故地上で会ったのだろうか。

 

「少し良いかしら?さとり」

 

「えぇ、いいですよ。というか何故私も一緒に入っているのでしょうか。勇儀と萃香にお燐にヤマメはわからなくもないですが」

 

「まあ広いからいいのではないかしら。それより貴方の妹さんは普段どこにいるかわからないのでしたね。ひょっとして地上に出ていたりしませんか?」

 

地上で会った理由を考えればそれしかないと思うのだが。

 

「それは私にはわかりません。普段は地霊殿から出ませんし。少し聞いてみますか。ヤマメー、少し良いでしょうか」

 

「ん?あぁいいよ。なんだい?」「こいしが地上に出ているのではないかと思いまして」

 

なるほど普段縦穴にいる妖怪なら見ていてもおかしくはないという事か。

 

「こいしかい?うーん……んー……覚えてないねぇ。でもたまに不自然に糸が切れていることがあるからもしかしたら地上に出ている奴は地底のどこかにいるかもしれないね」

 

無意識でしか認識できない彼女を思い出すのは普通の妖怪には難しい。私の場合は境界を少し弄ることで覚えているが他の妖怪たちはそんなことはできない。思い出せ、というのも酷である。さとりも読めるのは意識部分だけなので、仮にこの土蜘蛛がさとりの妹を見ていたとしてもその記憶をたどることはできない。

 

「やはりこいしですかね。今のあの子には何を言い聞かせても無駄でしょうし地上に出るのを止めることは不可能でしょう。八雲さんはどういった対応をしてほしいのでしょうか?悪いのは全面的にこちらなので私にできることなら多少無理してでもやりますが」

 

私がさとりにどうしてほしいか、か。地底を監視しやすいようにするにはどうすればいいか。そんなことは聞かなくてもわかる。

 

「そうね、私が地底に降りてくるのを許可していただけないかしら?」

 

「ふむ。約定を破る形にはなってしまいますがそれはこちらの方が先でしたからね。それにそうなると地底の監視も簡単にできるようになりますしね。「ならそれでいいのかしら?」少し急ぎすぎですよ。こちらからも条件を付けさせていただきます」

 

相変わらず私の考えはさとりに筒抜けになってしまっている気がする。

 

「条件とは……何を望むつもりで?」

 

権力も財も十分持っているはずだがそれ以上に何かを望むのだろうか。それとも代わりにさとりも地上に出たいとかか?

 

「望むことはただ一つ、地底の平穏に他なりません。貴方が地底に降りてくるのは承認しましょう。ですが地霊殿の外で地底の妖怪に関わるのはやめていただきたいのです。目的が地底の監視ならこの屋敷にある資料だけで事足りるでしょう」

 

つまり来るときは直接地霊殿に。帰るときも地霊殿から家まで直接、という事か。確かにこの屋敷にある資料を読めば地底の近況や住人まで把握できる。しかしどうしてそこまでして私を地底の妖怪から遠ざけたがるのだろうか。私が勝てない、と思った妖怪はさとりを除いていないのだが。

 

「どうして私と地底の妖怪たちとの接触を避けたがるのかしら」

 

「簡単なことです。貴方の力は強大すぎる。旧都での喧嘩なんて鬼たちだけで十分なのですよ。面倒ごとを起こさないためなら如何なる努力も致しましょう」

 

悪事というわけではないが毒を以て毒を制すのと考え方自体は変わらない。

 

「やはり貴方は面白い妖怪だわ。わかりました。その約束は守りましょう」

 

契りを交わしたことを証明する紙への署名を以てこの契約は絶対となる。地上での面倒ごとを増やさないようにするためにも私から約束を破ることは無いだろう。そしてそれは恐らくさとりも同じなのだろう。

 

「そういえばさとりは藍の事をなんと呼んでいるのかしら?」

 

「八雲さんの式神さん、ですね。「長くないの?」…ではどうしましょうか。八雲さんと八雲さんだとどちらの事を言っているのかわからないですし……」

 

本気で言っているのか冗談のつもりなのか全然わからない。

 

「普通に名前で良くないのかしら」

 

「あぁ、その手がありましたね。それでは貴方を紫さん、彼女を藍さんと呼ぶことにしましょう。彼女を呼ぶ機会はないような気がしますがね」

 

本気で言っていたようだ。賢いのかそうでもないのかはっきりしてほしい。でもまあ確かに藍がここに来ることはほとんどないだろう。もしかしたら永遠に無いかもしれない。

 

さとりと話していてかなり時間が経ってしまったが、そろそろ鬼に絡まれて酔いつぶれた天狗が溺れそうなので止めに入ってやらなければならない。彼女の負っていた怪我はもう痕すら残っていないようだ。




次回は時間をかなり進めてのスタートになるかと思います。大結界が張られる辺りでしょうか


また次回も読んでいただければ幸いです
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