【忍殺実況】ヤモト・コキ育成計画.mp0【完結】   作:いらえ丸

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ドージョー日常回です。


#10「ヤモト・コキ育成計画.mp10」

「ハァーッ! ハァーッ!」ネオサイタマはオオヌギ地区、とある一軒家の地下ドージョーにて、ヤモト・コキは息も絶え絶えにメンターへ向けカラテを構えた。訓練用のジュー・ウェアは多量の汗で濡れそぼり、顎から滴る雫がその疲労の程を物語る。

 

 対するレイズは両手を開いた半身の構えで静かに佇んでいる。身じろぎひとつせぬ極限の脱力姿勢は、黒のハカマ・ウェアに一切の揺らぎを与えない。一見、隙があるようにも見える構えだが、実際そうではない事をヤモトは今しがた痛みを伴って学んだところだ。「イヤーッ!」「ンアーッ!」一瞬の気の緩み。レイズはヤモトの未熟さを咎めるように稲妻めいたコッポ掌打を放った。

 

「イヤッ! イヤッ! イヤッ!」「ヌゥーッ!」レイズの絶え間ないワン・インチ・コッポ連撃がヤモトの未洗練の防御をこじ開けていく。互いの間に小刻みカラテ応酬! チョーチョー・ハッシ!「イヤーッ!」ワン・インチ拮抗を破ったのはヤモトだ。鞭めいた裏拳がレイズの側頭部を狙う!

 

「イヤーッ!」「ンアーッ!」その時である! 強か脇腹を蹴られたヤモトがタタミ2畳ほど水平に吹っ飛ぶ! 勢いそのままゴロゴロと転がり、片膝ついて是正! これは一体如何なるカラテ技巧によるものか? もし読者の方々の中にニンジャ動体視力をお持ちの方がいれば見えた事であろう! ヤモトの決死の裏拳を最小限コッポ肘打ち動作でいなし、流れるように回転コッポ・キックを繰り出したレイズの素早い攻防一体タクティクスムーブが!

 

 おお、ゴウランガ! 刹那を見切ったアプレンティスに応じる様に、メンターもまた刹那を見切ってみせたのだ! なんたるニンジャ同士のカラテ・トレーニングによる師弟愛カラテ・コミュニケーションか!「スゥーッ! コォーッ!」ザンシンを怠らず呼吸を整えるレイズの何と堂の入ったメンターぶり! タツジン!

 

「イ、イヤンアーッ!」片膝姿勢のヤモトは踏み出そうとして、前のめりに倒れた。ニンジャとはいえ、過酷なトレーニングにより足腰に力が入らないのだ。これ以上はオーバーワーク、カラテ鍛錬の効率も悪い。「お疲れ様ドスエ」レイズは機械音声めいて答えた。「ありがとう、ございました……!」

 

「ぐっ、ハァーッ! ハァーッ!」メンターからの休憩の許可を得て、疲れ果てたヤモトはドージョーの中心で「大」の字になって息を整えた。しばらくは動けそうもない。ヤモトは額に張り付く前髪を払い、ひんやり心地よい木製の床に身を預けた。そして、のっそり首を傾けてレイズの方を見た。

 

「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」見れば、レイズは試合直後だというのに木人形に向かいカラテ鍛錬していた。その掌が狙うのは首、鳩尾、股間……全て人体の急所だ。コッポ・ドーであると言っていたそのカラテは、一目でニュービーニンジャのヤモトにも分かる程に慈悲の無いサツバツ・カラテだった。

 

(((レイズ=サン、いつもカラテしてる……)))レイズという少女に師事してから約一週間、ヤモトはメンターがカラテ鍛錬以外をしている様を見た事がなかった。否、実際料理や入浴等のカラテ以外の行動はしていたのだが、ヤモトから見てそれら日常生活動作の全てがレイズにとってのイクサ備えに思えたのだ。

 

 レイズは実際12歳と年下で幼く、痩せぎすで背も低い。だというのに、その身に宿すカラテやセイシンテキはヤモトより遥か高みに至っているように思えた。だが、何よりもその瞳に燻る得体の知れない感情・執念こそがレイズという少女を最も人間離れさせているのだとヤモトは彼女というニンジャに触れて感じ取っていた。

 

「スシ、食べる」「アッハイ」気が付けば、ヤモトの視界いっぱいに色とりどりのスシが入ってきた。反射的に返事をしてしまったが、これは初めての事ではない。どういう訳か、トレーニング前後はこうしてヤモトにスシを食わせるのだ。しかも手作りの、美味いスシを。「イタダキマス」ヤモトはまずタマゴ・スシを食べた。

 

 今の生活に不安や恐怖はあまり無い。なにせレイズから課せられるトレーニングがあまりに過酷なものだから、不安を感じる暇がないのだ。時折行われる実戦を模した練習試合のおかげで、日に日に自身のカラテが向上しているのを実感できるのだから、少しだけ楽しみもないではない。ただ、(((流石にスシは飽きてきたかな……)))アナゴ・スシを嚥下し、ヤモトはそう思うのだった。

 

 

 

◆ーーーーーーーーーー◆ーーーーーーーーーー◆

 

 

 

 世はまさに大海賊時代な実況プレイはーじまーるよー。

 

 前回はヤモト=サンと一緒に買い物して、名無しのクランを「サークル・ミカン」に改め、最後にお祝いパーティして終わったところですね。

 

 で、見ての通りあれからちょこちょこ家具を加えたり調整したりして、なんだか生活感のあるおうちになってきたところです。

 今一番わかりやすい変化といえばこのドージョーでしょうか。

 このように、入り口から見て右の端っこの床をタタミに替え、その上にはメディテーション用の高級座布団とか、チャドー練習用の茶器とかその他色々を設置しています。巨大モチヤッコもここにあります。僧帽筋が歌ってる!

 それ以外のスペースは板張りそのままにして、タタミの逆の端っこにはずらりとトレーニング器具が並んでいます。

 ドージョーらしく壁の上んトコにショドーも飾っています。右の「不如帰」がレイズの字で、左の「カラテ」がヤモト=サンの字ですね。これ、ショドーの熟練度によって上手さが変わるんですよ。ちなレイズのショドーレベルはカンスト済みで実際流麗です、奥ゆかしさ貯めてる時になってました。字が上手い女の子も性癖ですね(隙自語)

 

 そんな感じでちょこちょこ改装しながらヤモト=サンのトレーニングを監督してたんですが、やってるうちにちょっと気が付いた事がありましてね。

 

 それはというと、いかんせんレイズちゃんはカラテがザコいという事です(今更)

 いやまぁ、今現在の総合的な強さは原作設定的には程々それなりまぁ……人並みでしょうねぇなんですが、こと素手のカラテが貧弱極まってて困ったな状態なのです。

 なにせレイズちゃんが習得しているカラテ技は基本、カトンをぶち込む為の布石か、立ち回り用の技ですからね。メイン火力はあくまでやっぱジツなんですよ。

 これまでは別によかったんですけど、そんなジツ頼りのカラテでヤモト=サンのメンターが務まるかって話でさぁ。一念勃起してメインとなるカラテを定めようってな塩梅です。

 

 と思ったちょうどその時、悲しい事にソウルの特性なのかレイズちゃんの筋力の伸びが悪くなりはじめたんですよね。こんな筋肉じゃあ、普通のカラテストレートで火力が出るはずもなく、どうしたもんかと思案し田所=サン、玄人の私はすぐ思いつきましたね(玄人の風格)

 高い筋力を必要とせず、手数とクリ威力で火力が出せ、かつレイズのジツとの相性が良く立ち回りが強化されるそんなカラテ……ありますねぇ!

 

 それがコレ、「コッポ・ドー」です。イヤーッ! イヤーッ!

 

 このコッポ・ドーというカラテですが、一言で言えば男の天敵カラテです。なんてったって奥義の名前が「ボールブレイカー」ですからね。実際コワイ。原作ではデソレイション=サンというやべーやつが使ってたのが印象的ですね。

 まぁ今のレイズちゃんの練度じゃボールブレイカーは習得してないんですけどね。言わばニュービーコッポマンです。鍛錬用の服装もそれに合わせてハカマ・ウェアにしてみました。ええぞ! ええぞ!(袴フェチ)

 

 とりあえずまぁ、習得したコッポの火力の程を見てもらいましょう。じゃ、この最高級木人形くんにロックして、弱Pの2連を当ててみます。

 

「イヤーッ!」

 

 カカカカッとな!

 このように、手数の多いコッポ・ドーモーションは一回の弱で二回、弱連で四回攻撃を浴びせる事ができます。単純威力だと微妙ですが、コッポ・ドーのクリ威力は実際大したもので、クリティカルが出ると確率で相手にスタンや攻撃力ダウンの蓄積デバフを入れる事ができたりします。

 だから、PVPでのコッポ・ドーは人気なんですね。まぁ弱点はないとは言えませんが、それでも十分メインを張れる良いカラテです。

 

 そして何より、コッポ・ドーはレイズちゃんとの相性が思ってたよりも良好でした。またさっきの木人形くんでその理由をお見せしましょう。

 使うワザはさっきと同じ弱連。それに時限で近接カラテに炎ダメージと炎上デバフを付与する「アペ・カラテ」というバフ技を入れてみます。

 

「イヤーッ!」

 

 ドバババーッと、(火力を)出してきた!

 するとこのように、アペ・カラテを併用して手数の多い技を使うと、実際なかなかの火力が出ます。高DPSな。

 

 さらに時限強化技の「セルフタキギ・ジツ」と、使用後のクリ威力を向上させる「イロリ呼吸」を使ってから。さっきと同じ事をすると……。

 

「イィヤァーッ!」

 

 ドバババーッ!(変態糞総督)

 こんな感じで、TDN弱連が実際ヒサツ・ワザめいた威力の攻撃になります。

 さらにさらに、さっきと同じ条件で最大溜め強連撃をすると……。

 

「あの、レイズ=サン、ちょっといい?」

 

 アッハイ(脊髄反射)

 スシを食い終わったヤモト=サンが何か話しかけてきました。肩にかけたタオルがセクシー……エロい!

 とはいえそっちから話しかけてくるのは珍しいですね、好感度イベでしょうか?

 

「そのコッポ・ドー、私にも教えてくれない?」「ダメです」

 

 ダメですダメですダメです(ボタン連打)

 

「あ、うん、そっか。ごめんね急に、ぶしつけな事言って……」

 

 実際コッポ・ドーはヤモト=サンの育成方針に合ってないのでNGです。

 いや、ヤモト=サンの成長傾向的には合ってないでもないんですが、コッポ・ドーにはひとつとんでもねぇ欠点があってですね……。

 

 このコッポ・ドー、熟練度が上がると「ニンジャ邪悪さ」が上がるんですよ(諦観)

 曰く、コッポ・ドーの高みに至るにはあらゆる人間性と敬意を捨てた殺人マッシーンにならなければいけないとか何かで……ナンデ邪悪になるのん? 私にもわからん。仕様でしょ(鼻ホジ)

 ただ、今回は運よく邪悪さを癒すモチヤッコぬいぐるみがあるので、レイズちゃんはそれで邪悪にならないよう上手くやる予定です。

 

 もしヤモト=サンが邪悪にならないようコッポ・ガールになるならモチヤッコへの祈祷の時間が必要で、実際色々もったいないですからね。そんな事してる暇あったらチョップのひとつでも振り下ろしておくべきです。邪悪なヤモっちゃんなんてオイラ見たくないんでぇ!

 そして今周のヤモト=サンには腹斜筋で大根すり下ろせるくらいの疑似ニンジャスレイヤーめいた器用万能ビルドになってもらう予定なので、技巧一点張りのコッポはキャンセルだ。筋肉イェイイェイ!

 敵男ニンジャのボールをブレイクするヤモト=サンの画が見たい兄貴は自分で育成して、どうぞ(ダイマ)

 

 さて、ヤモト=サンがスシを食べ終わったので食後の脳内カラテのお時間です。ヤモト=サン、そこの座布団に座ってドーゾ。

 こういったトレーニングのルーティンもクラン管理用のアイテムで組む事ができます。いくつかパターンを組んでおいてそれを時と場合でチェンジして使っています。今回はレイズちゃんが自宅にいる時用のトレーニングメニューですね。

 今回のトレーニングの内訳としましては、

 

1.模擬戦

2.機械体操

3.筋力トレーニング

4.ルームランナー

5.模擬戦

6.スシ

7.模擬戦

8.カラテ・リピート

9.ダルマ・サンドバッグ

10.アグラ・メディテーション

11.チャドー・トレーニング

12.模擬戦

13.スシ

14.イマジナリー・カラテ

15.木人拳(倒れるまで)

 

 こんな感じです。

 裏で色々試行錯誤した結果、多分これが一番強くなれると思います。

 ちなみにですが、レイズちゃんと違ってヤモト=サンの基本カラテモーションはまだ決めてません。ちょっとマシになったチンピラパンチな。スキルもデフォルトのやつ以外なにも覚えてません。

 何を覚えさせるかはまた今度決めます。まぁ疑似ニンスレ目指してるから、とりまジュー・ジツは覚えてもらおうかな。カポエラも少々(ヒーローの鑑)

 

 はい、並んでイマカラが終わったら回復したスタミナ使い切るまでひたすら木人拳だ! イクゾォォォォォォッォォ!!

 

 てなわけで倍速かけます。ここ、木人拳中に倍速かけると凄い高速で木人形殴りまくるからちょっとシュールなんですよね。

 

 ……なんで等速に戻す必要があるんですか。

 

◆「ヤモト・コキ」が「実際限界」です◆

◆このままでは「行動不能」になってしまいます◆

 

 おっ、そうだな(承知の上)

 見ればヤモト=サンの息は実際荒く、意識も朦朧としているみたいです。そろそろ終わりにしましょうか。たおれそう(怪物牧場)

 トレーニングを終了し、フラフラなヤモト=サンにチャを飲ませて風呂にブチ込みましょう。レイズちゃんのスタミナや衛生ゲージにはまだ余裕があるので、今のうちにご飯を作ります。

 献立はまぁスシでいいでしょう。実際スシが一番効率よく回復できますからね。やっぱスシゲーーなんやなって。モロチン、使うのはオーガニックです。二人分の「マツ・スシセット」を握りましょう。ほらいくどー!

 

 おっ、スシ握り終えたら風呂上り平坦JKとかいう英知の化身がエントリーしてきましたね。フィヒー!

 

「イタダキマス……」

 

 ほら、食えよ食えよ。

 レイズは飯食ってから風呂入りましょう。ボタン連打で食事タイムを若干短縮できます。んまぁ~い!

 

 じゃ、俺風呂入ってくるから、その後メディテーションな。

 お風呂シーンは軽く倍速で流して即ヤモト=サンと並んでメディテーションです。ああ^~生き返るわぁ~。

 

 さて、瞑想が終わった本日の修行の成果を見ましょうか。ホワボに近づいて、リザルトを見ます。

 ご開帳^~(気さくなリザルト)

 

 ん?

(修行の成長が)止まって……見えるのは私だけでしょうか?

 いや、実際にはちゃんと成長してはいるんですけど、昨日より明らかに成長率が低いです。それも著しく……ナンデ?

 これアレですか? 今日ちょっとスパルタ過ぎたとか? いやいや、一昨日の方が残り体力的にはキツかったはずですし……。

 んー、もっかいチュートリアル読んでみましょうか。読んでないところもあるので原因を探してみましょう。

 

(チュートリアル熟読中……)

 

 あっ、これかぁ!(原因特定)

 どうやら、ヤモト=サンの「楽しさ」が低いのが原因のひとつみたいです。「楽しさ」はNPC特有のゲージらしく、普通に本人の情報を閲覧すると見れるみたいですね。

 この「楽しさ」ですが、まぁ要するに娯楽が足りてるかどうかって事みたいです。実際我が家には娯楽になるアイテムが一切なく、それが「楽しさ」を回復できない状態にさせてるようです。

 あと、ずっと同じトレーニングメニューをこなしてると徐々に楽しくなくなり、しまいにゃヤモト=サンが「嫌である」といった旨の発言をしてくるとか。

 加えて同じ食べ物を食わせ続けても同様に「楽しさ」が減少していくようです。

 

 書いてある通りヤモト=サンの情報を確認してみると……。

 ファッ!? クゥーン……(悲嘆)

 どうやら大分楽しくないらしいです。なんで言うてくれへんねや。

 

 どどど、どうしよう?

 いやどうすればいいかはわかってるんですが、娯楽アイテムって何?

 そんなカテゴリーの家具あったっけ? ちょっとカタログ見てみましょう。

 

 テレビとか? 分からんけど買いで。

 あとは……ラジオも買おう。音楽機器も買おう。あとは何だ? ダーツあるじゃん、如何にもアジトっぽくて良いね、買いです。ショーギセット? 楽器? コミックセット? 全部買いじゃあ!

 よし、明日にはアイテムが揃うぞ! 通販で買えないアイテムは今から買いに行く! 往くぞクロイヌ!

 狙いのブツは、バットだ!

 

 ヤモト~、野球しようぜ~!

 

 

 

◆ーーーーーーーーーー◆ーーーーーーーーーー◆

 

 

 

 ヤモトの朝は早い。敬虔なグレーター・ボンズめいて早朝に起床し、作り置きのスシを食した後は夜までずっとカラテ・トレーニングに勤しむ。これはヤモトから言い出した事で文句など出るはずもないが、そのハードさは聊か想定の範囲外であった。

 

 今日も朝から晩までカラテだ。そう思って起床したヤモトだったが、どういう訳か違ったらしい。諸々の用意を終えていざドージョーに入ってみると、メンターであるレイズはアイサツもそこそこに、こう言った。「ヤモト=サン、野球をしませんか?」

 

 あまりに予想外な提案にヤモトは閉口して呆けてしまったが、脊髄反射的に「アッハイ」と返していた。そうして始まったのが、今現在の遊び漬けである。投手と打者しかいない野球に、アドバンスド・ショーギやダーツ投げ。困惑を超えて徐々に楽しくなってきたヤモトは、ケマリの際にはお互いニンジャの身体能力をフルに使って遊んでいた。久々に爽やかな汗が流れた。

 

「少し用事がある」スシではない昼食の後、そう言って家を出たレイズを見送ると、ヤモトは途端に何をすべきなのか分からなくなった。手慰みにオリガミを折ってみたが、どうにも集中できない。気を取り直して掃除をしようと思ったが、この家にはロボット掃除機以外の掃除用具が存在しなかったので、ヤモトは途方に暮れた。

 

 結局、やる事が見つからなかったヤモトはドージョーに戻って木人形相手に無心でカラテを振るっていた。やはり、何もしていないと不安や焦燥感が溢れて来るのだ。「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」こうしてただ我武者羅に鍛錬をしていると、どういう訳か心が安らぐ。この精神性の変化はルーティンワークによるものか、あるいはイクサに準じようとするニンジャ性ゆえか……。

 

「イヤーッ!」雑念を吹き飛ばすストレート。余計な事を考えるな。過去も未来も現在とは無関係だ。一人になると沸き上がってくる雑念は思考の悪循環を生む。ヤモトは一息ついてドージョーを離れ、滝めいたシャワーに打たれてセイシンテキを整えた。

 

 そうしてリビングに戻ると、時刻は午後3時だった。集中できていなかったらしい。キョートは時間の流れが遅いとは誰のコトワザだったか。ヤモトは停滞した時間間隔を如何にして潰すかまたも途方に暮れた。窓から見るオオヌギのプレハブ小屋がどこか遠い。

 

 その時である。ブロロロロロロロロ! 接近する聞きなれないエンジン音。レイズのモーターサイクルではない。何者かがこの家に停車しようとしているのだ。ヤモトの胸中に先ほどまでカラテで追い払っていた不安や焦燥感が活火山めいて吹き上がってきた。(((ソウカイヤ!? 追手……どうすればいい!? カラテ? 守らなきゃ! レイズ=サンの家を、アタイが!? 守れるの?)))

 

 冷や汗が出る。歯を食いしばる。握りしめた拳に不必要な力が入り、思うように身体が動かない。これでは、ろくなカラテを振るう事ができない。なら何の為にトレーニングしてきた? 親身になってくれたレイズ=サンに顔向けが?(((それでもアタイはニンジャだ! やれるかどうかじゃない! やらなきゃ!)))

 

「イヤーッ!」ヤモトは風となった。瞬きのうちに階段を駆け下り、ガレージに入った。するとそこに聞き慣れないエンジン音の大型車両がエントリー。許可もなしにシャッターが開いたのだ! レイズ謹製の電子ロックがこうもあっさりと開錠されたのを鑑みるに、車の中にはヤバイ級のハッカーがいて、当然凄腕のハッカーの仲間には凄腕のスラッシャーがいるはず!

 

 ヤモトはバックでゆっくりエントリーしてきた大型バンの様子を注意深く伺った。息を吐く、拳を握る。ヤモトの瞳に桜が宿る。いつ、ニンジャが飛び出てくるか分からぬ。そうでなくても、暴力はすぐだ。

 

 やがて、ヤモトに対し車体側面を向け停車したバンは、異様な駆動音を立てて変形した。側面のドアが展開し、徐々にその全容が明らかになっていく。バッと閃いた光が文字列を形成し、ヤモトの視界にソレが映った。「プーレク宿原」この大型バンはクレープ屋の車両だったのだ。

 

 唖然とするヤモトを無視してクレープバンはさらに変形していった。ドア内部のシャッターが開き、色とりどりの展示クレープが並ぶショーケース。トントントンとリズム良く垂れてきた掛け軸はクレープのメニュー表だ。やがて店内を隠していた蛍光ピンクのシャッターが開き、中から腕組み仁王立ちするイタマエ・ウェアのレイズがヤモトを見下ろし、厳かに言い放った。「エーラッシェー」

 

「エーラッシェー」レイズは重ねて言った。状況を理解できないヤモトは中途半端にカラテを構えて目を丸くしている。「エーラッシェー!」レイズは腕組みを解いてスシ・ザンマイめいたポーズで言い放った。ちなみに。エーラッシェーとは古代のスシ儀式で用いられたとされる神聖な文言である。妄りに乱用してはいけない。

 

「エート……」ヤモトはカラテを解いてレジ前に立った。見ればレイズの目は一心にヤモトの目に照準されており、無言の圧力はヤモトに何かを訴えかけているようである。「じゃ、じゃあ……アンコオレンジクレープを」「ヨロコンデー」レイズは熟練スシ職人めいた手さばきで注文のクレープを仕上げてみせた。どうやら相当な鍛錬の末に体得した技術であるらしい。

 

「クレープドーゾ」「ドーモ」ヤモトはオレンジアンコクレープを受け取った。受け取ったはいいが、レイズの視線が気になる。だが受け取った料理を口にしないのはあまりにシツレイだ。まだ状況を把握しきっていないヤモトだったが、恐る恐るクレープを口に入れた。

 

 瞬間、舌を通して身体を駆け巡る幸福感。クリームの柔らかな甘味とオレンジの酸味がトモエ螺旋めいて絡み合い。互いを高め合っている。アンコの奥ゆかしい甘さが爽やかに嗅覚を刺激し、次の一口を切望させる。ヤモトは欲望に従って二口めを頬張り、三口、四口と続いてクレープを食していく。

 

 思えば、久しぶりのクレープであった。キョートにいた頃はこういった類の甘味を食す機会はそうそうなかった。ネオサイタマに来てハイスクールに通っていた頃も、アサリ=サンと一度食べたくらいだ。我知らず、ヤモトの目元に小さな雫が浮かんでいた。

 

「エーラッシェー」レイズが次を催促する。全く奥ゆかしくない店主である。ヤモトは笑顔になって答えた。「オススメ四つ、お願いします」「ヨロコンデー」さっそく作業に取り掛かるレイズに対し、ヤモトは声色高く言った。「二つはレイズ=サン用だよ」レイズの手が止まる。「四つ? 二つで充分ですよ」「四つください」「二つで充分ですよ」「マッチャ・ドリンクもください」「わかってくださいよ」

 

 ヤモトは可笑しくなって目尻を下げた。少女のニンマリ顔を見て、店主の恰好をしたメンターもまた、無自覚に薄く笑んだ。二人暮らしの一軒家、その広漠なガレージにて、少女達によるクレープ屋遊びはしばらく続き、満腹になった二人は夕食を取らずに眠った。その日、ヤモトは疲労感ではなく、充実感によって熟睡した。




◆コッポ・ドー◆
 発生・手数・クリティカル威力に優れるカラテスタイル。
 また、クリティカル発生時には「スタン」と「攻撃力低下」の値を蓄積させ、一定値を超えると対象に上記の状態異常・デバフを発生させる。

 コッポの道を究めるには、あらゆる良心と人間味と敬意を捨て去らねばならない。
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