そんな彼女達も北大阪の王者という看板に胡坐をかくことなく、地区予選後に合宿を開いた。
これはその初日に起きた悲劇・・・・・・。
この物語は「キャラ崩壊」によって構成されています。
「・・・・・・ほな、覚悟は出来とるか?」
監督、愛宕雅枝が連れてきた五人に振り返る。
やってきたのは彼女達のOGが活躍するとある大学だ。
実力に天と地ほどの差がある訳ではないだろうが、それでも彼女達以上の実力者が跋扈するであろう世界である。
確かに彼女達にも不安はあるだろう。
だがそれを微塵も感じさせないほど、彼女達は堂々としたたたずまいで頷いた。
それを見て頼もしげに笑うと、雅枝は目の前の扉を開いた。
「失礼します!」
その一言で中の視線のほとんどが彼女達に集まる。
にもかかわらず、彼女達に怯えたような仕草は全くなかった。
「本日お世話になります千里山女子高校です、よろしくお願いします!」
「「「「「よろしくお願いします!」」」」」
雅枝に続いて五人が声を揃えて挨拶をする。
それを受けて中の一人の女性が歩み寄り、同じように挨拶をする。
人数差は圧倒的、もちろん挨拶の迫力も圧倒的だった。
それでも彼女達に揺るぎは無い。
何故なら彼女達は、誇りある千里山女子高校麻雀部員レギュラーだからである。
それを頼もしげに見守りながら。
「・・・・・・ま、堅苦しい挨拶はこの辺にしといて」
挨拶を交わした女性は笑みを浮かべ、雅枝の肩をポンと叩く。
「よう来た雅枝、久しぶりやん。
久々に一杯飲みながら語り合おうやんか」
「昼間っから何言うとんねん、あんたは」
親しげな挨拶にツッコミを返す雅枝。
どうやら知った仲らしい。
「まま、ええわ。
ほんなら中入ってさっそく打とうやないか」
そう言って五人に向き直る女性。
同時に、その表情からは笑みが消えた。
「うちらの有意義な時間を無為に使わせるような真似さらしたら、どうなるか分かっとるな?」
対する雅枝も、いつになく険しい表情で返した。
「そっちこそ、せっかく胸借りよ思て来たっちゅうのにあっさり倒されよったら、明日からどの
ギラリと軽くにらみ合う二人。
が、直ぐに相手の女性の方が「ブフー!」と吹き出す。
「あっはっは! 相変わらずええ覇気しとるなぁ、雅枝は。
そっちの子らもええ感じに育っとるようやし、楽しめそうやん」
バンバンと雅枝の肩を叩きながら再び笑顔に戻った女性は、「どうぞー」と手を差し向ける。
「改めて歓迎するで、千里山女子一同様」
それを受けて、雅枝を筆頭に彼女達はフロアに入って行った。
千里山女子高校。
麻雀が大流行している日本においてその名は非常に有名だ。
日本で上位五校に入る全国常連校だからである。
もはや周囲からの期待も凄まじいもの、全国出場を果たせて当然と言われている。
そんなプレッシャーの中で、今年も彼女達は地区予選を勝ち抜き全国出場を果たした。
麻雀の腕前だけではない、その心持ちも全国区だった。
しかし、だからと言って敵無しかと言うとそういう訳ではない。
全国優勝を果たしているのは自分達ではない、東京の白糸台高校だ。
それを抜きにしても強者と呼べる学校はそこかしこにいる。
時に大番狂わせで初出場校が上位に食い込んでくることもある。
それを考えれば彼女達に余裕はない。
切磋琢磨を忘れては、全国出場校の名を汚すことになる。
そういうわけで全国出場を果たした彼女達は、北大阪の王者という看板に胡坐をかくことなく地区予選後に合宿を開いたのだった。
夏休みを利用した少し長め、泊まりがけの合宿。
合宿と言ってもホテルにいるのは本当に夜の間のみ、それ以外はバスでの移動だ。
どこへ向かうかと言うと監督である雅枝の顔が効く、あるいは千里山女子のOGが活躍する大学や実業団である。
せっかくの合宿なのだから同じ学校内で延々と打ち続けたり勉強を繰り返したりしてもあまり意味は無い。
むしろこういう新しい刺激を受けるためにこそ利用するべきだ。
千里山女子レギュラー陣としても、そんな雅枝の意見に文句は無い。
それどころか願ったりかなったりだ。
口では「勉強させてもらいます」などと言いながらも、負ける気で打つことなど決してしない。
千里山女子レギュラーは全国出場を果たしたというプライドを、OG達は普段から彼女達よりも高いレベルのところで打っているというプライドを、それぞれ賭けて戦っているようなものだ。
練習試合などと銘打っておきながらも、その高レベル具合は全国中継されていてもおかしくないほど白熱していた。
そんな白熱した練習も中盤を超えた頃。
「竜華」
「あ、はい」
タイミングを見計らって雅枝は部長の清水谷竜華に声を掛けた。
冒頭で絡んでいた女性に肩を抱かれながら。
「離せっちゅーに」
「ええやんか、うちと雅枝の仲やしー」
「はぁ・・・・・・私はこれから
時間掛かるかも分からへんから、時間になったらバスで先にホテル向かっとき」
「はい、分かりました」
「積もる話もあるさかいなー」とひたすら絡む女性を鬱陶しそうにしながらも、肩を抱かれたまま雅枝は去って行った。
そして予め指定されていた時間、17時を迎える。
千里山一同は世話になった大学生達に頭を下げ、その場を後にした。
「ふぁー・・・・・・さすがに疲れたなぁ」
江口セーラが大きく伸びをして首を解すようにぐるぐる回している。
「江口先輩、それ止めといた方がええですよ。
それで半身不随になった人とかおるみたいですし」
「ええっ!? 嘘やろ!?」
セーラを驚かせる一言を放ったのは船久保浩子。
このメンバーからはフナQの愛称で親しまれている二年生である。
なお監督の雅枝とは親戚関係だ。
「なぁ泉! お前そんなん聞いたことあるか!?」
「えっ!? いや、その・・・・・・。
なんや首に限らずボキボキ鳴らすのはようないってのは聞いたことありますけど」
突然話を振られて驚きながらも答えているのが二条泉、一年生だ。
「せやで、セーラ。
それに第一首を鳴らすなんてそんなん・・・・・・」
彼女達に続いて、先程雅枝に声を掛けられていた竜華に支えられながらよろよろとついてきた少女がビシッと告げる。
「おっさんみたいやんか」
「・・・・・・疲れとるようで言うことはそれかい」
「スマンなぁ、うち病弱やさかい・・・・・・」
「そのアピールやめぇ」
コホコホと本当か嘘か分からない咳をして見せるのが園城寺怜、今年の千里山のエースだ。
この五人が今年の全国出場を果たした北大阪の覇者、千里山女子のレギュラーメンバーである。
先程まで格上の大学生と真剣な表情で打ち合っていた彼女達も、一度日常に戻れば可愛らしいものだ。
「結局監督は戻って来んなぁ。
しゃあない、言われてた通り先にホテル行こか」
あまり大きくはないが千里山女子専用の小型バスに乗り込みながら竜華はそう告げる。
そして雅枝を除いた一同が揃って乗り込んだところでバスは宿に向けて発車した。
「怜、大丈夫?」
いつになく疲れた調子の怜を心配して竜華が声を掛ける。
怜は竜華に膝枕されながら軽く手を振って返事をした。
「平気やで、竜華の太股さえあったらどうとでもなる」
「・・・・・・いつもそう言うけど、うちの太股でええのはなんでなん?
いや、怜がそれでええならええけど・・・・・・」
「竜華のやないとあかんねん。
他のは固かったり細かったりしてイマイチやねん。
おー、これやー、これぞ至高の太股やー」
すりすりと太股に顔を擦り付ける姿はただのおっさんである。
一同にとってはもはや見慣れた光景であるがそれでもツッコミを入れたくなってしまう。
「ま、ええわ」とセーラが無理矢理に話題を変える。
「俺も疲れたわ、早いとこホテル行って風呂入りたいなぁ。
温泉とかあったら最高なんやけど」
「ありますよ、温泉」
「マジか!?」
「サーチ済みです」と眼鏡を光らせる浩子の一言で盛り上がるのは、もちろんセーラだけではない。
「温泉ですか、いいですねー、のんびりと」
「最高やね、温泉で膝枕っちゅーのも乙なものかも知れへん」
「怜膝枕しとったら、うちあったまれんのやけど・・・・・・」
「ええんやで、湯船に肩までつかろうや」
「怜溺れるやん」
今から温泉に入る楽しさを想像して盛り上がりながら、一同のバスはホテルへと向かうのであった。
のんびりと温泉につかり、備え付けの浴衣に着替えて夕食を済ませる。
「いやぁ、夕飯美味かったなぁ」
お腹をさすりながら満足気に声を上げるセーラ。
泉も同じように言う。
「温泉も気持ちよかったですし、ええ所ですね」
他のメンバーも口々に満足気な感想を告げる。
そして、「今日はもう疲れた、部屋でゆっくり休もか」と部屋に戻ってきたのだった。
「ただいまー、って誰もおらへんけど」
「おかえりー」
はははと笑いながらドアを開けるセーラを迎える声があった。
「へ? 誰やろ?」
部屋の中まで入って行ってようやくその姿を確認できた。
長髪、メガネ、スーツ、それはまさに彼女達の尊敬する監督愛宕雅枝だった。
打ち合わせとやらが長引いて今しがた部屋に戻ってきたところなのだろう。
ただ一つ、雅枝は彼女達と別れてから変わっていたところがあった。
姿形ではない。
赤くなった顔と周囲に散らばった中身の無い
そして今なお口にし続けている右手の中身が入った缶。
「監督放っぽっといて皆で温泉と食事、楽しかったかぁ? ひっく」
そう、彼女は酔っぱらっていた。
キリッとしたキャリアウーマンを思わせる真面目で隙が無い普段の姿はどこへやら、何やら楽しげに笑いながら
どうしようこれ?とおろおろしながらも怜が声を掛ける。
「か、監督、いくらなんでも生徒の前で飲酒は・・・・・・」
「うっせー! こちとらもう大人だぞ! 何の文句があんねん!」
「あかん、もう完全に酔うてますやん」
完全に取り付く島もない。
何とか宥めて早めに寝かせてみようかと画策してみるが、こちらの首に手を回して至近距離で酒臭い息を浴びせられ、真面目に注意してみても理不尽に怒られる。
それどころか適当なジュースを差し出して座らせ、取留めのない会話を延々とし始める次第である。
もはや普段の雅枝の面影はどこにもなかった。
「おう、竜華」
「な、なんでしょ、監督?」
ぐいっと肩を掴んで抱き寄せる雅枝とされるがままの竜華。
「お前、付き合ってる男とかおらへんの?」
「ぼふっ!? い、いませんよそんなの!」
「なんやもったいないなぁ、こんなに可愛くてええ
「ちょ、か、監督!」
太股をさすったり胸を持ち上げたりスカートを捲ってみたり耳に息を吹きかけてみたり、もはや完全なるセクハラ親父であった。
「なんや、いかんぞーお前達。
高校生ちゅーのは短いねん、価値あるブランド
麻雀に生きるのもええけど恋愛もせなあかんねん、恋せよ乙女やねん」
「何回言うんですか、恋せよ乙女やねんって」
「うっせー! 文句があるんやったらええ恋の10や20してみぃちゅーねん!」
「10や20ってことは別れも10や20ありますよね!?」
必死に抵抗する竜華及び千里山一同。
そんな姿に雅枝はため息をつくと空になった缶をその辺に投げ捨て、新たに缶のプルタブを起こした。
これで何本目か、数えるのも面倒くさいほどである。
「おう、泉」
「な、なんでしょ?」
「お前も初恋位したことあるやろ、何才や? 相手は誰や?」
「な、な、なんですかいきなり!?」
「そういう話の流れやったやろが、語れ、実名で赤裸々に。
あ、嘘ついてるのが分かったらレギュラーから落とすさかい」
「理不尽すぎる!!」
「ど、どうしよ? そんなん無理に決まってますやん!」と慌てふためく泉。
助けを求めて周囲に視線を向けてみるが皆興味ありげにこちらを見るのみ。
だがそんな中、頼りになるセーラがびしっと手を上げた。
「はい! 監督!」
「なんじゃい、セーラ?」
「俺はそれよりも監督の話が聞きたいです!」
話を振り直した。
これはこれで泉に取っては助かるが、また取留めのない話が延々と続くと言うことでもある。
それはそれで困った。
だが雅枝は怪しげにフフフと笑う。
「ええんか?
うちはお前らみたいな
百戦錬磨の「おとなのおつきあい」やねんで?」
「おー! 聞きたいです! おとなのおつきあい!」
セーラは目を輝かせて喰いつく。
こうしてみると後輩を助けると言うより、純粋に自分が楽しみたくて話を振っただけではないだろうかと思ってしまう。
「おとなのおつきあいっちゅーと、やっぱエロエロっすか!?」
セーラの突然の発言に、ぶふっとジュースを吹き出す千里山一同。
咄嗟に止めようと竜華が口を開く、が。
「ちょ、セーラ何聞いて・・・・・・」
「おう、エロエロよー!」
「普通に答えた!?」
こうなるときっと止まらない、また取留めなく話が始まるのだ。
それもセーラが振った話題、エロエロな話について。
「おおっ、例えば!?」
「例えば・・・・・・」
しみじみと何かを思い出すように語り出す雅枝の姿がそこにはあった。
以降、全年齢ではお送りできない内容が暫し語られることになる。
雅枝自身の名誉のために具体的な内容は伏せるが、その内容は話を振ったセーラが思わず「お、おおおお・・・・・・!」と声を上げてしまったり、怜が赤い顔で「うぁ・・・・・・」と声を漏らしてもじもじしたり、竜華が「か、監督・・・・・・そんなことを・・・・・・!」と慌てながら顔を隠してみたり、浩子が「・・・・・・あかん、今度親戚の集まりとかで愛宕姉妹と顔合わせた時、どんな顔してええやら分からん・・・・・・」と呟きながら頭を抱えたり、泉が「え? あの、今のってどういう意味なんでしょうか?」と聞いて怜に「・・・・・・大人になれば分かる」と説得されたりする内容だったことは告げておく。
そして夜は過ぎ、日は昇った。
「うぅ、頭痛い・・・・・・生徒の前やというのに昨日飲み過ぎてしもたか・・・・・・。
それもこれもあの女が昼間から酒に誘うから・・・・・・くっ」
そこには洗面台で顔を洗い、水を飲みながら頭を押さえる雅枝の姿があった。
小さくため息をつき目を覚まさせると、雅枝は寝室に戻る。
既に千里山一同も起床して朝食に向かう準備を整えているところだ。
「か、監督!」
不意に声を掛けられた。
昨日と変わらずに目を輝かせるセーラだった。
「ど、どうした? セーラ?」
「お、俺! 一生監督についていきますから!」
「お、おう・・・・・・?」
話の内容が分からずに首を傾げる雅枝。
何やろうかと首を傾げながら周囲の様子をうかがう。
が、竜華も「か、監督・・・・・・あわわ・・・・・・!」と顔を逸らすし、怜も「お、おはようございます、監督・・・・・・」とどこかよそよそしい挨拶をしてくる。
浩子に至っては「・・・・・・ごめんなさいおばちゃん・・・・・・私、こんな時どんな顔をしたらええのか分からないの・・・・・・」と顔を合わせてもくれない。
ここに至って雅枝もようやく気付いた。
な、なんやろ・・・・・・みんなの反応がおかしい・・・・・・。
「あ、監督、おはようございます」
と、真面目に挨拶してくれる声があった。
「泉・・・・・・おはよう」
彼女だけは普通に挨拶してくれた。
何故だかは分からないがありがたい。
昨日の自分は何をしてしまったのだろうかと考えていると、泉はそのまま言葉を続けてきた。
「あの、すみません、昨日の話でよう分からないところがあったんですけど・・・・・・」
「昨日の話・・・・・・昨日何話したやろか?」
「はい、あの・・・・・・」
そしてまたしばらく全年齢ではお送りできない内容が語られた。
「い、泉! あんた! どこでそんな言葉覚えたん!?」
「あんたやあんた」とどこか冷たい視線を向けながら、他の一同は去って行った。
その後、大会の様子を見るに監督としての威厳は取り戻せたようだが、それまでにどれくらいの時間がかかったのかは不明である。
咏「なんで飛ぶのーん?」
酒は飲んでも飲まれるな、ですよ(しみじみ
タイトルは「愛宕雅枝の消失」と悩みました(威厳的な意味で
でも千里山で中の人ネタって言ったら誰だろう?って興味もわくと思ったんです。