IS学園と本土をつなぐモノレール線路下には、通常車両が通るための
「はい止まってくださいねー、所属と目的の説明お願いしまーす」
それぞれ学園所属を示す証明書を掲げ、告げたそれを記載するための用紙を差し出す2人組の警備員――しっかり着込んだ厚手の制服に、キャップ帽を目深く被っているため顔は窺えないが、声と服越しに浮かび上がる体の隆起から、一応女性であることはわかる――に対し、運転手は隣に座る女性の様子を窺うが、先に口を開いたのは彼女の方だった。
「所属は倉持技研及び日本政府、目的は男性反応者用の機体納入よ。事前に連絡されてたでしょ?」
「確かにありましたが、担任が不要と断っていたはずでは?一応念のため、積荷も確認させていただきますよー」
返答を聞き、『ついに実力行使に出たか』と内心呆れてため息を漏らす警備員達。執拗に息のかかった機体を一夏に持たせようとする彼等に対し、千冬は『グレート・ホワイト』の存在を理由にその都度蹴ってきたはずだが、大衆前での
荷台を開けて乗り込む警備員達の前に有ったのは、運搬中の転倒や移動防止のため金具とベルトで固定された、1機のIS。忌々し気に急かす同伴女性の差し出したタブレットに表示されたデータを確認すると、機体名は『
「何だこれ……ふざけてるなぁ……質の悪い冗談かと思った」
こんな機体を寄越されたところで、一体誰が乗りこなせるんだか、と呆れた様子でタブレットを眺めていた警備員が、機体の点検を終えて戻ってきた同僚に画面を見せると、そちらも同じようなことを想ったようで、似たような表情を浮かべる。
「確認は終わった?早く機体を納入したいんだけど?」
「あーはいはい。今降りますんで、もう少々お待ちを」
荷台に乗り込んだまま、姿を見せないことへの不快な様子を隠さずに女性が急かしてくるため、さっさと片付けて戻る警備員達。学園の本部へと連絡を済ませ、シャッターの開放が許可されると、運転手に挨拶もさせずトラックを走らせていく。
「ふぅ~……なぁ、どう思うあの機体?」
「少なくとも、碌な試合にならんだろ。せいぜい
トラックが見えなくなったところでシャッターを閉鎖し、帽子を取って
点検に見せかけてこっそり待機形態の専用機で解析したデータから、
しかし身も蓋もな言い方をしてしまえば、文字通り身を削って放つ『零落白夜』は問題点が多い。接近してシールドエネルギーを削減する一撃離脱に特化し過ぎたせいで、『グレート・ホワイト』の様な装甲で防御を固め、遠方から銃砲撃を放つタイプの相手には成す術がなく、逆に軽量系のヒット&アウェイに優れた相手の場合、逃げ続けるのを追って、いたずらに発動させたまま動き回れば、それだけでエネルギー切れを起こしてしまう。
要は想定される相手、戦況共にあまりにも限定的過ぎて、データを得ようにも頼みの『零落白夜』が足枷となって満足に戦えない以上、せいぜい動かない
「その点
「『
セシリアの専用機、『ブルー・ティアーズ』に搭載された同名のビットは、『
「さて、もうそろそろ試合も始まるが、一足早くお開きにして、観戦にでもいかないか?」
「まじめにやれ……と答えるべきだろうが、念のため監視用に
まだ勤務時間のはずだが、逸る気分を現すように、こっそり胸元から取り出した小瓶に口を付けるオクタビアだが、話を振られたオーガスタも帽子こそ被り直しているが、笑みを浮かべる口元には煙草を咥えており、答えを聞くまでもなかったようだ。
時間は戻り、トラックが検査を受けていた頃、
「調子は良さそうだな。まぁ、相手は代表候補生なんて同年代では十分大物だが、今回の試合は、あくまで参加者各員の稼働データ収集が主だ。いくら機体の性能がいいからと言って、無理に勝とうとしなくてもいい。最悪適当に乱射したら、試合放棄で戻ってきたっていいんだ。あまり気負って、無理だけはしないでくれ」
監督官として同伴していた千冬の激励を受け、顔の上半分をドラゴンの頭蓋骨を思わせるヘッドカバーで隠した一夏が、コクリと頷く。
この1週間、移動面の訓練を重点的にこなしてきた。重量型の『グレート・ホワイト』では千冬のアドバイス通り砲台よろしく攻撃に徹し、相手からの攻撃は装甲で耐える強引な戦法でどうにかできないこともないが、相手は代表候補生。易々とこちらに有利を許すとは思えない以上、折角PICでの軌道調整と各所のブースターでの強引な高速飛行も可能なのだからと、フルパワーを見せつけることで機体――次いで自身の有用性と、「不格好なデカブツ」と嘗めて高を括っている女性至上思考者達に対する挑発と警告をこなそうとしている。
やがて試合開始を前に、アリーナへのゲートに身構える。本来ならカタパルトで射出されるのだが、ガルガロス・モデルでも重量がトップクラスの『グレート・ホワイト』ではカタパルトが耐えられないため、自力で向かわねばならない。
「……出撃する」
そして短く告げ、点火したブースターの出力を一気に最大限まで発揮し、アリーナへと跳躍する様に飛び込んでいく。
同じころ、別のピットでは真耶同伴の元、セシリアが自身の専用機、『ブルー・ティアーズ』の最終チェックをしていた。
「シールドエネルギーMAX、武装、動作、共に
「了解しました、速美君も準備万全のようですので、カタパルトに向かってください」
真耶の案内に従い、カタパルトに到着すると同時に『ブルー・ティアーズ』を展開し、両足をカタパルトにセットする。
「セシリア・オルコット、ブルー・ティアーズ!行きますわ!」
直後作動したカタパルトに身を任せ、アリーナへと飛び立つ。すでに『グレート・ホワイト』はオオトカゲが歩行する様に規定の位置に着き、対峙している。
『間もなく、セシリア・オルコット対速美一悠の試合を開始します』
「此度の騒動に巻き込んでしまったこと、改めて謝罪申し上げますわ」
「そこはどうでもいい、遅かれ早かれ誰かが相手になった。それよりも
カウントはまだ始まっていないが、だからこそこうして会話できる余裕も多少あるのだろう。しかし直後
「?それは一体……」
「行くぞ、殺す気で来い」
「……」
開始前にピットから管制室に辿り着き、真耶と共に試合の成り行きを見守るつもりだった千冬は、早々に一夏の言い放った宣言にしゃがみ込み、伏せた顔を両手で覆う。
内心不安を抱きながらも、初陣の勇姿に期待も抱いてはいたが、逃げに徹することで軽快に回避し続け、早々スカートアーマー状に搭載された『
「……!」
「ま、まぁ、一夏君も言ってますが、ガルガロスさんの真似してみたんでしょ?あの年頃の男の子ならそんな感じの憧れくらい誰だって持ってますよ」
「……ただのカッコツケだったらまだマシなんだよ……加減は理解してるから実際そこまで行くような例はそうそうないらしいが、あの人たちのは事実上の死刑宣告みたいなもんだ……」
「……!」
手の隙間から向けた左目に映る真耶の懸命にフォローしようとする姿は、立場関係なく好ましいものだとは思うが、生憎そんな暢気なことを言ってられる様な話でもないのが現実なのを理解しているがために、千冬はなかなか立ち上がれずにいた。
彼等の掛け声は好戦的な性格を表すように攻撃的な内容の物が多く、例えば各所で大暴れした姿が記憶に新しい悠紀耶は「ひと暴れさせてもらおうか」と割かし日常的な範疇に収まっているが、その
ちなみに他の仲間達も、ある種の名乗りみたいなノリでこうした独自の掛け声を有しており、初対面時、全裸で満足に言葉も発さぬままだったブラッドでも、「
「大体データ収集が主目的だって伝えたのに、なんで早々『殺す気で』なんて物騒な発言を代表候補生にぶつけるんだよ……。いくら実物を満足に触れるどころか、碌に見たことないような素人共より覚悟も技術もあるからって、戦地でもないのに何をやらせる気なんだ……」
「でも、一夏君の方は一応言う程殺気を感じさせては来ませんよ?少なくともその辺りは、ちゃんと理解してるみたいですね」
「……!……っ!」
辛うじて口元が見える程度とはいえ、シールドに限らず、壁や地面、果てはIS本来の戦場とも言える空中へと縦横無尽に駆け回り、時折セシリアが反転して放つレーザーライフル『スターライトmkIII』のレーザーを装甲で受け流しながら追撃を続ける一夏の顔は、確かに真耶の言う通り敵意や殺意は感じられる様なキツさは見受けられないが、逆に無感情で機械じみているともとれる。
「早々にこんな話をするのもなんだが、とにかく残りの試合に関しては、互いに手の内を知っている他の男子陣と四十院、これを見てある程度
再び視線を自身の手に向け、どうするか考えようとしたところに、先程から執拗に声をかけ続けていた『
「なぜ『白式』搬入前にも関わらず試合が始まっていて、しかも受け取る予定の
「当然でしょう、彼の専用機は件の『
「入学間もない一般生徒が
「己が身を削り、人を殺しかねない機能を発するなど、加減のできない素人には到底危険すぎる武装しか搭載されてない上に、それを最優先した結果他に芸のない、機能のオマケ同然な本末転倒の産物が国際規格通り?他国が最新型のスポーツカー開発に取り組む中、1度世界最速を記録したからと、とうに現役を引退した蒸気機関車の再現に必死な国は考え方が違いますね。えぇ、凡人の私には、到底理解できない崇高な思想なのでしょう」
執拗に乗り換えを強制してくる相手を、多忙や慣れを理由に切り上げていたこれまでの様に、挑発も交えて真正面から受け流し続ける千冬だが、先に堪忍袋の緒が切れた相手は、知らぬ間に地雷を踏み抜いてしまう。
「信じられない!自らの専用機が有した
「あ?」
記録され、多くの人目に晒された以上、他人が『ブリュンヒルデ』として称賛なり『出来レースで成り上がった世間知らず』と軽蔑なりする分には――前者の場合騙しているような罪悪感や、その裏でどのような嘲笑や軽蔑がされているのだろうとの恐怖から、必死に緊迫と吐き気をこらえながら――甘んじて受け入れている千冬だが、その地位と実力に懐疑的な彼女は、称号に縛られるのを酷く嫌う。
そもそも――剣道の腕に覚えはあるし、未開の才が眠っていたにしても――束との交友関係なんて社会的な注目を浴びる要素以外はそれまで突出した部分のない自分が、乗り始めた途端並み居るプロの軍人やスポーツ選手などを相手に剣1本で勝てたのは、身を引いてから思い返してみると、どうしても異常としか認識できなかった。対峙したイタリア代表のアリーシャ・ジョセスターフが「アンタにしてみれば結果の見えた消化試合の1つだったろうが、出せる限りを尽くした」と再会の席で話題になった際に八百長を否定した第2回『モンド・グロッソ』決勝戦のように、かつての戦績が全て接待試合の結果ではなかったにしろ、やはり――ありもしない筈の――親友を負かした相手や、その所属国家に対する束の報復を過剰に恐れた結果、『ブリュンヒルデ』の座と称号がなし崩し的に押し付け同然に与えられたとしか思えない部分が強く、ドイツで鍛え方の違いを実感してからは、余計それありきで用意されたハリボテにしか見えなくなった。
そして自身がそこに座したせいで一夏に生じた莫大な弊害を無視し、比較すればないも同然の恩恵を厚かましく振りかざし、「束のご機嫌取りに持ち上げた」と疑えば余計怪しくなるほど称賛を交えて否定する日本政府関係者への疑惑と嫌悪感は、「自分のせい」と抱え込みがちな彼女が唯一外部へと明確に向ける悪意でもあった。
「『ブリュンヒルデ』の矜持?束怖さに押し付けられたあんなお飾りの称号が、そこまで大層な物だったとはな。生憎と『
「がっ……はぁ……!」
普段は周囲を気にするあまり、猫背で縮こまっているが、千冬は女性としては背が高い。そんな彼女が背を伸ばした状態で襟元を掴んで顔を合わせれば、大抵の女性は足が地面から浮き上がり、首を絞められることになる。事実相手は、それまでの毒を放てど基本受け流すような態度から一転して放つ怒気と、首を絞められる息苦しさで、満足に声を発することもできなくなった。
「ちょっ……先輩!それ以上はまずいですよ!?」
「っ……!」
対照的に――女性としては平均的だが――小柄で、並ぶと千冬の胸元ほどしかない真耶が必死に引き留めたことで手を放され、解放された女性。足をもつれさせ転倒したため、そのまま座り込んだ状態で息を整えると、何とか立ち上がって床に着いた各所を払う。
「とっ、とにかく!試合終了後にでも専用機変更の手続きをしてもらいますかね!1個人の意向でどうにかできる案件じゃありませんよ!」
キッと千冬を睨み付けて啖呵を切ると、強気な言葉とは裏腹に、逃げるように去っていく。
「個人がどうにかできる案件じゃない、ねぇ……どうにかできる代表にいつまで経ってもおんぶにだっこな連中が、何を言ってるんだか……」
『織田がつき、羽柴がこねる天下餅。座るままに食うは徳川』とは戦国時代の権力の移り変わりを歌ったものだが、さながら束がついてガルガロスが現在進行形でこねている