重量級の『グレート・ホワイト』でアリーナ内を地面からシールドまで縦横無尽に走り回り、『
「そろそろ20分経ちますが、両者共にダメージはごく軽微。観戦してる生徒達の様子からしても、盛り上がりには欠けてるようでしょうけど、互いに機体の長所を活かし、決定打を受けないように立ち回る様は、
神楽が限定展開したハイパーセンサーで客席を眺めると、客席の生徒達の中には退屈気に欠伸をする者や、アリーナから目をそらし、隣接する生徒と談話に興じる者が多々存在している。大方専用機所持同士の代表候補生対男子
だが彼女が語る様に、自身の機体に対する理解と、相手の行動を探り合う駆け引きは、同年代の
「なるほどな。互いに優秀だからこそ、攻め手に欠けて拮抗してるって訳か」
「そうですね。貴女も見ていた方がいいと思いますよ?間もなく戦うことになる訳ですし」
本来なら男女で使用ピットを分別されていたが、護衛の役職から同伴が許された翔摩が隣で眺めながら分析に感心するのに対し、神楽の振り返った先では、義豊がベンチの上で仰向けに寝転がっている。
「初見だからこそ面白いってもんもあるのさ、所詮面白半分で参加した訳だしな。まぁ、私としてはさっさと終して部屋に戻りたいところだがね」
先日の食堂以来、卒業まで在籍させたい本社からの注意喚起もあってペットの連れだしを禁じられた義豊の授業態度は、見るからに悪化しており、上の空で明後日の方を眺めていたり、ノートに授業の内容ではなく、爬虫類の絵を描いて時間を潰したりと、現在のような手持無沙汰な様子を隠そうともしない。それどころか堂々居眠りして、初日の箒よろしく千冬に出席簿を振るわれても全く動じず、起きさえしない図太さで、周囲を呆れ返らせていた。
にも関わらずいざ指名されれば余裕で正解を答え、操作も内容は専ら雑務と言えど、日々日常的に使っていたおかげで精密性はとても高く、装備の切り替えなどに対する反応速度も1秒かからず、つい先度ウォーミングアップと称し、最近届いたばかりの物も含め、一通りガチャガチャと武器を切り替え続けていた。
「左様ですか。まぁ、貴女がそれでいいのでしたら……」
話を持ち掛けこそすれど、無理に付き合わせる口実も手段も――ついでに言えばそうする利もない以上、切り上げて観戦に戻る神楽。翔摩も天井を見上げながら鼻唄を奏でる義豊に、呆れた目こそ向けれど、「
戦闘開始から30分。未だ両者共にダメージらしいダメージは、装甲が僅かに破損した程度で、重要な勝敗判定要素たるシールドエネルギーの消耗は、1桁あるかどうかしかない。とはいえ疲労は確実に蓄積しており、セシリアは機動が荒くなって被弾が増え、一夏も跳躍や着地の際、時折足を滑らせるようになる。
「(このまま続けてもじり貧の泥仕合になるだけ……仕掛けるなら次の被弾が頃合いですわね)インターセプター……」
肉を切らせて骨を断つ思いでタイミングを待とうとしたセシリアは、その前準備としてとある装備を呼び出す。苦手な近接戦装備のため、今でも呼び出しに時間はかかるものの、悟らせまいと方向を間違えたと自覚する努力を続けた結果、ボソリと囁く程度の声色で済むようになったそれをこっそり@スターライトmkIII』に沿えるように持って飛行を続けると、遂にその時は訪れた。
右足首の外側に掠ったと視界に表示された瞬間、その足を基点にぐるりと反転し、呼び出したショートブレード、『インターセプター』を投げつける。それまでのレーザーと違う攻撃に、思わず身を固め、構えた腕で跳ね返す一夏だが、そこから攻撃に戻る前に、セシリアは反撃の態勢を整えていた。
「騙していた訳ではありませんけど、『ブルー・ティアーズ』のビットはまだありましてよ!!」
直後機体から分離させぬまま起動させたミサイルビットから、今までのお返しとばかりに次々と発射されるミサイルが一夏に襲い掛かる。そして発射しながら周囲を旋回すると同時にセシリアは『スターライトmkIII』を拡散仕様に変更し、AI制御で上手く軌道調整されたレーザーも合わさり、一夏の姿は爆煙に包まれる。
やがてミサイルを全弾撃ち尽くし、レーザーもエネルギー切れで止まるのに合わせ、セシリアも動きを止め、荒れる息を整える。これだけ撃ち込めば、少なからず装甲やシールドエネルギーも削れているはず。果たしてどこまでかはわからずも、最早これ以上自分が打てる手はないも同然。しかし残弾はともかく、疲労に関しては激しく動き回っていた分相手が上なはず、と僅かな期待を抱いていた彼女を、直後衝撃が襲う。
『おぉっとここで遂に決着か!?刀折れ矢も尽きた様子のオルコット選手、トドメを刺すように歩み寄る速美選手に反応すらできません!』
完全な部外者で、面白半分に実況を担当する生徒が言う様に、先の突撃とアリーナシールドとの衝突で絶対防御を発動させた『ブルー・ティアーズ』は、シールドエネルギーを1桁まで削られた。あとは実況通りトドメを刺すばかりと、女性上位思想生徒の非難を無視して、3本の脚でぎこちなく歩み寄っていく一夏。
そして弾切れか発射に耐えきれないのかはともかく、大きく振り上げた右手を降ろす直前、風切り音と共にヘッドカバーの左目頭付近に何かが突き刺さる。その先を見れば、いつの間にかセシリアが
「『
管制室にて観戦していた千冬は、事前に提示されていた装備情報に掲載されてなかった
「確かに彼女の経歴には、射撃だけでなくフェンシングも複数の大会で表彰台に上がってきた腕前とはありましたが、あんな装備報告されてませんよ!」
「いや、小声ではあったが『インターセプター』は呼称装備していたのに、『
真耶の反応は尤もだが、実際目の前では存在しない筈の『
「何だこの杜撰な管理は!それでも兵器開発の責任者か!」
思わず怒りの余りデスクに両手を叩き付け、マグカップやら何やらをひっくり返してしまうが、それどころではないとばかりに荒げる息を整える間もなく、真耶の手を引き管制室から飛び出しながら指示を出す。
「今すぐ全ピットのゲートを開放!どこでもいいから即座に撤収できるよう準備をすると同時に、誰1人として入れるな!完全封鎖しろ!」
「油断しましたね……。私自身も予想外でしたが、まさかこうして窮鼠が猫を噛むようなことができるとは……?」
一方アリーナでは、突如空が曇り始めると共に雨が降り出し、多くの生徒達は慌てて観客席から立ち去っていく。しかし勝利を前になおも鬱陶しく惨めに抗れ、開始以来見下していた物騒な鉄面皮に怒りでも浮かべているだろうと思い、顔を上げたセシリアの予想に反し、すでに空洞の眼窩と共に顔の左半分が晒された一夏の顔には、真逆とも言える恐怖が浮かんでいた。
「あ……っ!……っ!ぁぁ……!」
慌てて破損した左腕で無理矢理顔を隠し、無理をさせて何度も止まるブースターを始め、あちこち破損を広げながら反転して手近なピットへと逃げ込む一夏。雨の中残されたセシリアは、気の緩みと共に垂れた手も、そこから零れ落ちた自身の窮地を救った見知らぬ