INFINITE XROSS FUTURE   作:ゲオザーグ

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いい加減投稿しようと思って更新日時見たら4月から全然手ぇ付けてなかった・・・


剥がれた鉄面

 ピットへと突入直後、限界を迎えつつあった『グレート・ホワイト』を解除し、勢いのままゴロゴロと何度も床に横転する一夏。何とか体を起こそうとするも、息が整わないのもあってうまくいかず、右手の『セグロアシナガバチ(ブラックベリード)』だけ再度展開した状態で壁まで這いより、左手を突くことで何とか体を起こすが、直後ドサリと尻を突き、背を預けることで何とか体を持ち上げていた。

 

「一夏!!大丈夫か!!」

 

 直後通路側のドアを壊さんばかりの勢いで開け、飛び込んできた千冬が目にしたのは、未だ息はヒュウ、ヒュウ、と掠れ乱れ、両手で抱え込んだ身体も震えが止まらずにいたものの、何とか落ち着かせた一夏が、無針注射器を腕に突き立て、精神安定剤を注入している姿だった。

 声に気づくと顔を向け、歩み寄ろうとするも腰が上がらず、グラリと上半身が前に倒れ込む一夏を、即座に駆け寄って受け止めた千冬は、肩を貸しながらベンチまで運び、膝枕で寝かせる。

 

「すまない、相手(オルコット)の方も予想外だったようだが、武装の確認に穴があった。完全にこちらの非だ……」

 

 右腕で目元を隠していた一夏は、千冬の謝罪に首を横に振る。機体の状態もあったと言え、彼自身油断して不用心に近寄った末と自覚しており、千冬を責めるつもりなど微塵もない。

 

『あの、先輩、そろそろ……』

 

「あ、あぁ、そろそろ次の試合が始まるか。一夏、急かしたくないが、とりあえず控室に行こう。汗も酷いから、シャワーを浴びて流しておけ」

 

 できればもうしばらく宥めていたかったが、耳元のインカムに真耶から通信が入り、已む無くピットを去る準備に入り、一夏の呼吸も落ち着き、身体に力が入るようになったのを確認すると、汗を拭う程度の気持ちで持参したタオルで顔を隠してやり、ゆっくり上半身を持ち上げて自身の首に手を回させ、肩を借す。

 

「真耶、すまんがそちらに向かうまで、もう少しだけかかる。それと一夏(速美)は以降の試合に参加できる状態でないため、残りの試合は全て棄権するとも伝えてほしい」

 

『わ、分かりました。一応通知で少しは時間を稼げると思いますが、なるべく早くお願いしますね』

 

「すまんな、感謝する。さ、行くぞ一夏。少し急ぐが、まだ厳しいなら背に乗ってもいいからな」

 

 クラス対抗戦や個人トーナメントの様な学園規模でない試合の場合、発進前に担任か副担任が監督官として同伴し、機体のチェックをする必要がある。チェック自体は軽く目視するだけでいいのだが、そうした事情のため、次の試合前に他のピットに向かわねばならない以上、あまりゆっくりしてもいられない。

 そのため年齢的には羞恥も強かろうが、最悪背負って移動するつもりの千冬だったが、肩を貸してもらっているだけでも申し訳なく感じる一夏は、小さく「大丈夫」と答え、少し遅れながらも、徐々にペースを合わせて歩いていくが、あろうことかその道中で妨害される。

 

「ああ、やっと終わりましたか。ちょうどいい、早速手続きに移りましょう」

 

「……何の用ですか?今彼はあまり他人と接せる状態ではないのですが」

 

 『白式』を搬入してきたあの女性が、待ち伏せしていたかのようにまだ残っていたのだ。ウンザリした千冬を無視して、書類とサイン用のペンを無理割り一夏に押し付ける。

 

「そうですか、でしたら尚更さっさと手続きをしないといけませんね。さ、機体変換の確認書です。時間も押してるようですし、手早くサインだけお願いします」

 

 滲み出た体液で左目周辺が染まっていることなど気にせず、一方的に要求を突きつける女性に対し、一夏は渡された書類にタオル越しでも目を向けることなく、当然の疑問と共に突き返す。

 

「何のことだ……俺の専用機は、既にある。どこの誰が作ったかも……わからんような代物は……いらん」

 

「製作は倉持技研。国産IS業界においては、大手かつ政府の信頼も高い、十分信用に値する企業です。1個人が製作し、1試合で早々バラバラになる様なジャンク品とは違います」

 

「それはそちらが元来使用する予定の素材にケチをつけてランクを下げさせたからでしょう。それに単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)の再現にお熱で、オマケ同然の仕上がりになったそっちの機体の方がジャンク品でしょうに」

 

 元々『グレート・ホワイト』の装甲には、ガルガロスが用意した素材が用意されるはずだった。しかし提示されたその素材の性質を疑問視し、クレームを入れたため、通常の金属を使った結果、ブースターの多用や『セグロアシナガバチ(ブラックベリード)』の乱射を始めとした機動に耐えきれなかった。それを抜きにしても、少なくとも要望を聞いて、それに沿ったものとして製作された『グレート・ホワイト』に対し、ただ一方的に自分達の都合で、頼んでもないものばかり詰め込んだ『白式』は、見栄の押し付けに過ぎないのは明確だ。

 

「そこに関してはご安心を。篠ノ之博士に協力を仰ぎ、無事完成してますから、性能も十分折り紙付きです」

 

「ヘルストームさんの誘いで当人と飲みに行ったが、『ペーパープランでゴミ箱行き確定の代物に人手をとられてお釈迦にされた専用機と代表候補生が哀れで見てられなかったから、そっちに手が回るよう最悪搭乗者(パイロット)を選ばず動かせる程度には手を貸した』と聞いたぞ。そもそもブレード1本で身を削ってどう戦えと?」

 

 早く控室に行きたいところを、いつまでも足止めされているとあってか、苛立ちを露にするあまり、千冬の口から敬語が消える。合わせて一夏も目の前の相手を敵と認識し、いつでも自己修復が済んだ銃器を展開できるよう構える。

 

「屁理屈ばかりグダグダと……とにかく、早くサインしてそのゴミからの乗り換えの手続きをしなさい!でないと」

 

 直後彼女の発言は、一夏に文字通り掻き消された。部分展開した左手の『セグロアシナガバチ(ブラックベリード)』を周囲に向けて乱射し、背後の壁を武装名にちなんだかの如く蜂の巣にしたからだ。

 

「まだゴチャゴチャ、文句つけてくるってんなら……今度はアンタも、こうなるぞ」

 

 そのまま恐怖で何も言えないのをいいことに、横を通り過ぎようとするが、千冬が「少しだけ待ってほしい」と告げ、足を止める。

 

「今回の件で、委員会からも何かしら通告が来るでしょう。生憎と今までの、要請とは名ばかりの一方的な乗り換え強要は全て記録してまして、随時垂れ流しさせていただいてましたから。当然、ゴミを作ったヘルストームさんにもね。ついでに例の機体ですが、既にその物的証拠として、学園の方で接収させていただきましたよ。検査を担当した整備課生徒達からの報告結果は、予想通り酷いものでしたがね。『現役を引退した蒸気機関車の再現』と表現しましたが、訂正しましょう。いつまで人力車の記録を自慢して、車の再現と新たな引手探しに躍起になってるんですか?」

 

 言いたいことを放ち切り、「それでは、切れた首の皮がまた繋がればいいですね」と締め、一夏と共に歩みを進める千冬。直後事態を理解した相手の喚きを無視して控室に着くと、真耶に事情を説明し、すぐに向かうことを伝える。

 

「すまんな、今から向かう。一夏、1人でシャワー浴びれるか?できれば上がって落ち着くまでは残っていたかったが、さっきの奴のせいで大分時間が削られて、な……」

 

 何分精神的なダメージのせいで、今もまだ足がふらつく一夏の様子に、オロオロしながら不安げに尋ね、「汗が気持ち悪いかもしれんが、やはり戻ってから支えながら一緒に……」となかなか部屋を出れずにいる千冬に対し、当の一夏はベンチに座り、俯いてこそいるが、「大丈夫」と肩に手を置いて落ち着かせ、そこからゆっくり立ち上がり、ノソノソと歩きながらシャワー室に入っていった。

 

「な、何かあったらすぐ連絡するんだぞ?『グレート・ホワイト』は外すな!?」

 

 未だ不安は拭えないが、余裕がないとあって、千冬は最後まで声をかけながら已む無く慌てて部屋を後にする。

 

 

 

 

 

 

 一方試合を見ていた神楽達も、彼の豹変した錯乱ぶりに心配していた。

 

「まさか早々にヘッドカバーを破壊されるなんて……」

 

「極端な程顔を見せたがらないってのに、ほぼほぼ晒しだされたあれは大分きたろうな……」

 

「ん~~~っ!!試合は終わったかい?」

 

 心配する神楽と翔摩に対し、大あくびと共に体を起こした義豊は、興味無さげに尋ねる。

 

「ええ、最も噂の彼は、もう参加できなそうですが」

 

「だな、今通信記録(ログ)確認したが、オープンで山田教諭のお知らせがあった。彼には悪いが、コイツは早く帰れそうだな!」

 

 代表選択では自分から参加表明しておきながら、余程ペット連れ出し禁止が堪えて面倒になっていたのか、帰室願望を隠しもせず、飛び跳ねるように立ち上がると再度ガシャガシャと武装を武装を高速で切り替えながら、大きく振り上げた腕を振り下ろす。

 

「そこまで嫌ならさっさと棄権したらどうだ?」

 

「生憎と上から宣伝がてら暴れてこいって通達が来てましてね。断ったら養育費9割削るとか馬鹿にもほどがある事言ってきたんで、腹いせがてら機体情報の暴露(リーク)で稼ぐと脅して、それが嫌なら逆に1戦勝つごとに倍の予算よこせって吹っ掛けてきたもんだから、相手にゃ悪いが早速施設のリフォーム代辺り充実させてもらうとしますよ」

 

 あまりにやる気がない振る舞いに、やっとピットに到着した千冬が棄権を勧めるが、彼女はペットへの金銭を理由にそれを蹴り、早々に出撃準備を済ませ待機する。

 

「ハァ、わかった。シールドエネルギーMAX、武装、動作よし。行ってこい」

 

「はいよぉ!鬼島津チェストォ~~!」

 

 そのまま勢いよく飛び出していった義豊は、圧倒的な操縦技術で弾を圧倒。模造刀含む刀剣を始めとした無数の折れた刃物を材料に作られた、2m近い大太刀『薩摩隼人(さつまはやと)』で機体の手足を斬り落とし、火縄銃を模した外観に反し、高い連射性能と片手で扱える勝手の良さを備えたアサルトライフル『種子島(たねがしま)』で蜂の巣にしただけでなく、弾の降参を無視して3m近いIS用の突撃槍『桜島(さくらじま)』を振るい跳ね飛ばし、複数のパーツをビーム状の電磁磁場で繋げた電磁連結蛇腹剣『奔百足(はしりむかで)』で巻き取って駒の如く回し、トドメに左右の両脇に展開される大型ガトリングガン『黒犀(くろさい)』で再度蜂の巣にするオーバーキルをかまし、無人のアリーナに勝利の雄たけびをあげる。

 

 

 

 

 

 

 

「影でよく見えなかったけど……彼の左目……」

 

 一方一夏にトドメを刺されることなく放置され、飛行可能になるまで回復した『ブルー・ティアーズ』でピットに戻り、特に足止めなどもなく控室でシャワーを浴びていたセシリアは、短時間だけ見えた彼の素顔と、浮かんでいた恐怖の表情を思い出し、思考の沼にはまっていた。

 

「(目の光が……むしろ眼球自体がなかった……おそらくヘッドカバーの破損後、一転して見せたこちらに怯えた様子は、顔を見られたことに対するもの……彼にとって隻眼と知られることは、それほどまでにコンプレックス、或いはハンデキャップだと思っている……?観客の生徒達には見えなかったけれど、どちらにしろ、知らず存ぜずでなぁなぁにせず、しっかりと謝罪しなくては……)そうと決まれば、いつまでもこうして棒立ちで浴びてる訳にも行きませんわね」

 

 一転して思考がまとまると、すぐさまシャワーを止め、風邪をひかない程度に髪や体を備え付きのタオルで吹き、着替えを済ませて一夏側の控室に向かう。

 

「速美さん?オルコットです。先程の件について謝罪したく……」

 

 偶然にも、千冬が去って間もなく一悠(一夏)のいる控室に到着したセシリアだが、扉をノックして声をかけても反応がない。すでに帰ったのかとも思ったが、千冬が動揺の余り落ち着かず確認が足りなかったためか、半開きの扉からは、シャワーの水音が聞こえている。

 

「し、失礼しますね……?」

 

 まさか浴びている途中で倒れてでもいないかと不安になり、――聞こえているかどうかはともかく――一応断りを入れてから室内へと向かうセシリア。彼女が目撃したのは、当たらずも遠からずとばかりに、先程までの自分同様棒立ちのままシャワーを流し続ける一悠(一夏)の姿。

 

「あ、あの……大丈夫ですか……?」

 

 そ、と伸ばした手を肩に載せられた瞬間、ビクリと身を跳ねさせ、弾かれたように振り返った彼が目にしたのは、急な動きに驚き、手を瞬時に引いたまま硬直したセシリア。幸いISスーツを着たままだったので裸体は見られなかったものの、出口を封じられた形となり、咄嗟に取り出したMk23も、満足に照準が定まらないうちに震える手から零れ落ちてしまい、『グレート・ホワイト』も修復が不完全な上、狭くて展開できない。

 

「お、落ち着いてください!私は危害を加えるつもりはありませんわ!た、ただ先の試合での謝罪をしたく……」

 

 とっさに掌を前にした両手を上に向け敵意がないことを伝え、話を聞いてもらおうとするが、動揺した一悠(一夏)にそれを聞く余裕はなく、転倒した拍子に座り込んだまま体を丸め、震えるばかり。

 

「……す、少しだけお待ちくださいませ!」

 

 らちが明かないと判断し、せめて目的(謝罪)を果たすために誠意だけでもわかってもらいたかったセシリアが、いったんシャワー室の出入り口から去ると、しばしゴソゴソと音を立てる。やがて、「ど、どうぞこちらへ!銃を持ったままでも構いませんので!」と自棄になったような叫び声で呼びかけられ、言われた通りMk23を拾い、ずぶ濡れのまま出た一悠(一夏)が目にしたのは、あろうことか下着までも脱ぎ、後ろ手に組んで裸体を晒すセシリアの姿。顔こそ伏せているが、羞恥心を抑えた決死の姿に、驚愕と警戒のあまり再度銃を取り落とし、慌ててシャワー室に駆け込む。

 

「こ、これは色仕掛け(ハニートラップ)ではありません!私は先の件で謝罪に来ました!そのために危険物を所持していないことをアピールする方法が、これ以外思い浮かばず……!?

 

 言っている途中で「なぜこんな突っ走った行動に出たか」と後悔の念から徐々に声が小さくなっていき、遂には羞恥と合わさって、途中で体を震わせたまま黙り込んでしまいそうになるが、その前に何かが頭に被さる。動かした拍子にずり落ちるそれを手に取ると、先程自分も使った備え付きのタオルだが、持参した覚えはないし、乾き具合から判断するに、まだ使った様子もない。

 

「それでもいいから……とっとと体隠せ!」

 

 ドア越しとあって、元から小さく、掠れた一悠(一夏)の声は聞き取りにくかったが、それでもセシリアにわざわざタオルを投げ渡した意図――特に彼女を責めたり、それこそあのまま襲ってくるようなこともないことは伝わった。とりあえず聞いてくれる余地はできたことに安堵したセシリアは、「し、失礼しました!」と羞恥のまま咄嗟に下着だけ身に着けると、その上にタオルを巻き付けて隠し、「ど、どうぞ出てきてください!」と改めて促す。その間にやっと落ち着いた一悠(一夏)も、シャワーを止めて別のタオルを被って苛立たし気に出ると、なるべく距離をとれる位置のベンチに座る。

 

「で、謝罪……ってのは……?」

 

 タオルで見えないが、動きで彼がこちらを向いたことを認識したセシリアは、改めて切り出す。

 

「はい。先の試合で、私はあなたの機体のヘッドカバーを破壊してしまい、素顔を晒させてしまいました。そちらの事情は知りませんし、完全に当て所を誤った事故だったとはいえ、精神(メンタル)を土足で踏みにじるような真似をしてしまったのは事実。故にその件を詫び、何かしら誠意を示さねばと思い、参りました」

 

 何とか落ち着いて話せる状態となり、ようやっと謝罪を伝えたセシリアは、加えて土下座までしてみせる。

 

「事情は分かった……アンタを責めるつもりは……ない。俺も……火器不調で……不用心に……近付き過ぎた……だから……これで終わりだ。とっとと……着替えて……戻れ」

 

 口調こそ辛辣だが、元々大事にするつもりもない一悠(一夏)としては、それより早く彼女に退室してもらいたく、そっぽを向く。それに対しセシリアは、頭を上げて様子を窺うと、「わ、分かりました……」と意図を汲んでそそくさと着替える。

 

「そ、それでは、今日はこれで失礼します。ただ、後日改めてお詫びの品を持って謝罪に参りますので、その時はよろしくお願いいたしますわ」

 

 立ち去り際に、再度訪れることだけ伝えたセシリアが部屋を後にするのを確認した一夏は、呼吸こそ荒いが、ようやっと部外者がいなくなったとこに安堵し、バタリと仰向けに倒れる。




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