INFINITE XROSS FUTURE   作:ゲオザーグ

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剣と鎧

 シャルロットを含む世間に名と顔を知られた男性反応者が、身柄の保護を名目に揃って集められてから数日。専用機が完成するまでは、千冬と神楽、そしてジルベルトが講師となっての座学と、用意したコアを搭載した『ラプト・イェーガー』に搭乗しての実技を中心に行われていた。おかげでISに関する知識がほぼからきしだった弾も、ある程度専門用語を聞いて、意味を連想できるくらいには知識を身につけることができるようになったが、それから間もなく、頃合いを見計らったようにガルガロスから『専用機が完成した』と呼び出しがかかった。

 一足早く要望を出していた一夏だけでなく、着いて間もない3人、加えて1人(シャルロット)は企業用の量産機の試作品にも関わらず、一夏と同様に差し出されたタブレットに入力したデータだけで4機――不慣れと気後れで「通常仕様の量産機で十分」と遠慮した弾の機体を、要望通り有り合わせの量産機で間に合わせたとしても3機――も製造するには、圧倒的に時間が不足するはずだった。専用機や試作機は、普通ならフレームの製造だけでも1月はかかり、その組み立てやコードの配置、コアのAIや武装の調整なども含めると、製造や調整を並行したとしても、最低ほぼ半年近くはかかる。

 それをわずか数日で済ませたのは、相応の技術と機能を備えた独自のパーツ生産工場を持っているようだ。あるいは勝手な要望を押し付け、足を引っ張ってくる政府や委員会の役員達に対する腹いせで、余程手を抜いたのか。

 

「コアの初期登録(エントリー)は済ませてあるから、これから機体のお披露目がてら、コンセプトの説明と初期化(フィッティング)から第一形態移行(ファーストシフト)まで起動テストするぞ。最低限お前らが出した()()はかなえてるはずだ」

 

 現在ガルガロスが一夏達を連れて訪れているのは、普段彼が籠っている自室ではなく、大型旅客機の格納庫のような空間が眼下に広がる一室。空間の具体的なスケールがどれ程かは不明だが、中央付近には周囲から照明で照らされた()()のISが佇んでいた。遠めに見た限りでは少なくとも手を抜いた様子はなく、完成(ロールアウト)したばかりだからなのか、どの機体も塗装はされておらず、表面は揃って金属的な黒や鈍灰色ばかりにも関わらず、それぞれ武装やデザインで個性を主張しあっている。

 

「んじゃ順に説明してくぞ。まずは一夏(イチ)の機体からだ」

 

 ガルガロスの説明開始に合わせ、窓の手前に並んだ機械の1部から緑色の線でできた各機のホログラム3Dモデルが実物と同じ並びで現れると、向かって1番左にあった機体のモデルが高速で回転しながら大型化し、残りは縮小されて手前に移動し、それぞれ同じペースでゆっくり回転をはじめる。

 

「名前は『グレート・ホワイト』、見ての通り銃器てんこ盛りの遠距離砲撃型だ。こんだけぶちこみゃあ、大抵の奴は近寄るどころか、その場から動くこともできずに銃弾の洗礼浴びるしかねぇだろうよ。一応しっかりとブースターも積んでるから、チマチマ動き回る奴が相手でも一方的にハチの巣にはされねぇぞ。っても、この特製装甲をぶち抜ける奴はまずいねぇだろ」

 

 まず目を引くのは背中に搭載された2連装の大型キャノン砲と、その周囲を囲うブースターだが、腰にも大型のバトルライフルが備え付けられ、カマキリの鎌のような両腕にも、人間でいえば手の甲部分に2連装の中型砲台が3つ縦に並んでいる。そして肩から突き出る装甲には、左右に2連装砲を搭載した、それぞれ独立起動するように見える砲台が3つずつ並んでいる。

 なぜこれほどまでに重装甲かつ過剰なまでの火力かといえば、一夏のリクエストが「相手を近寄らせず倒せる機体」だったから。近寄らせないためにはすなわち装備の主体が火力に任せた遠距離からの射撃となり、当然その火力の余波で操縦する一夏自身が負傷しないよう、装甲も強化した結果、これほどまでになった。

 各所にスクリーンで詳細な性能が記載されたグレート・ホワイトのモデルが先ほどとは逆に小さくなると、次に出てきたのは、対照的に外部の銃器がなく、肥大した肘から先が目立つ、隣の機体。

 

「この『イースレイ』は翔摩(ショウ)のだ。格闘戦向けに手足周辺のブースターは小型化して、装甲は一際強固にしといたぜ。拡張領域(バススロット)にゃ一通り装備詰め込んどいたが、後で中身確認して整理しとけよ。で、隣のは(ダン)に用意した一般仕様の『ラプト・イェーガー』。コイツに関しちゃ、特に言うこともねぇだろ」

 

 徒手空拳や近接武器の扱いに長けた翔摩(しょうま)は、しかし銃器の扱いがからきしダメなどではない。それでもやはり慣れたそちらに行動の比が傾くのは当然であるため、「格闘戦に有利な機体を」とリクエストされた結果、間合い(リーチ)の調整は搭載されたAIに任せ、一夏のグレート・ホワイトとは逆に、近接戦の邪魔にならないよう外付けの銃器を持たないように設計された。その次のラプト・イェーガーを退屈そうに飛ばし、ホログラムモデルがグレート・ホワイト以上に大柄な機体に切り替わると同時にその説明に入る。

 4つのセンサーアイに、大きな牙状の顎カバーを備えた頭部ユニットが昆虫を連想させるこの機体は、肩に乗った大型ランチャーや、尻尾に付いたボウリングの玉ほどの鉄球など、見るからに各所が武装してあり、三角錐型の腕は手にあたる底面の頂点部分に、指ではなく展開式の鉤爪が収納されている。

 

「続けてシャルに用意した『バンデット・ハウンド』だが、拡張領域(バススロット)は最大で戦車10台くらいは収納できる。つまり移動式の武器庫にもなるっつー訳だ。まぁ手の形状の都合で持つのは難しいから、銃器は各所のコネクターに接続して、AI経由でさっきのグレート・ホワイトみたく稼働させることになるが。後肩の「アクティオンゾウカブト(アクティオール)」は前、上、横から4,8、16連装を選択できる。どれが出るかはシャル次第だから、好きにかまして錯乱できるぞ。拡張領域(バススロット)内の装備はどれも併せて作った新造品だから、後でショウやダンにも使わせて、相互性も確認しといてくれや。で、最後に残ったコイツだが……」

 

 最後に映し出されたのは、本来ならこの場にあるはずのない、搭乗者(パイロット)不明のIS。左腕の肘から手首は大型のキャノン砲、右手は刀型のブレードになっていて、腰の左右には、折り畳みナイフの要領で1対の回転収納式ブレードが搭載されたシールドが、それぞれ陣取っている。そしてそのホログラムが拡大されるとともに、それまでその場にいたガルガロスが唐突に歩き始める。

 

「この前日本政府との交渉ん時、腹いせがてら『使ってねぇんだからついでに寄越せ』って要求してみたコアがあってな。一応(ツラ)たたすために表向き出血大サービスってことで量産コア5つと交換したことになってるが、まぁそこはどうでもいいか。ザックリ言っとくが、あの『タイガー・シャープバイト』はそん時くすねた『暮桜』のコアを使った、アンタ用の機体だよ、千冬(フユ)

 

 自分の(対面)(財産)を第一に気に掛ける政府の高官達あざ笑うかのように、使用したコアの入手経緯を話しながらあるいていたガルガロスが足を止めたのは、一夏の隣に並んでいた千冬の前。そしていぶかしむ彼女の肩を軽く小突くと、かつての愛機を生まれ変わらせた姿だと告げる。

 

「く、暮桜って、千冬さんがモンド・グロッソの代表時代に乗ってた…!」

 

「マジかよ……。引退する時に手放したって聞いちゃいたが、いくらかつての乗り手がここにいるからって、それを軽々しく取り寄せるって……」

 

流石に業界でも名の知れた大手の令嬢だけあって、真っ先に反応したのはシャルロット。続けて付き合いの長い弾も復帰するが、それでも完全には追いついていない状態だった。

ISコアは基本、1度搭乗者(パイロット)のデータが登録されれば変更やリセットは効かず、所有者以外が機体のシステムに干渉することもできない。そのためモンド・グロッソの出場選手のような専用機持ちは、武装の破棄や制御システムの厳重化の義務こそあるが、引退後も護身を兼ねて専用機の所有を許可されており、搭乗者(パイロット)の方も機体に愛着を持ち、引き続き所持し続け、イベントなどの際に装着した姿を見せることもある。しかし千冬はモンド・グロッソ優勝後に一夏を失い、『見殺しにしてしまった』と考えるようになってからISの展開や搭乗をしなくなり、帰国後の選手引退と同時に愛機暮桜を手放している。当然IS学園への就職が決定してからも、各所との交渉や書類整理などの事務に精を出し、たとえ操縦を指導する場面においても、決して自らはISに乗ろうとはしなかった。

そうした事情もあってか、本来なら喜ぶべきであろう千冬の顔はひどく曇っており、しばし目を泳がせ、無言で口を開閉してから弱々しく話し始める。

 

「…………わざわざかつての専用機に使われていたコアを取り寄せるなど、お気遣いありがとうございます。しかし折角用意していただいて申し訳ありませんが、あの機体の受け取りは、辞退させていただきたく思います」

 

「ハァッ!?」

 

「なっ…!」

 

「えぇっ!?」

 

「ちょっ!?」

 

「っ…!」

 

「あぁ~やっぱり……」

 

 帰国以来、自身の功績も含め、極力ISに関する話題を避けていたことから、何か思うところがあると考えていた弾と、目の前で再度動きを止めていたガルガロス以外は、彼女の返答に皆驚愕する。

 

「いらねぇってか。ソイツはやっぱ、2年前の大会か?」

 

その理由に思い当りがあるガルガロスが訊ねると、帰ってきた答えは肯定だった。

 

「はい。一夏があのような目に遭ったのは、世間にもてはやされ、愚かにも舞い上がっていた私のせいです。ISのせいなどと、言い逃れするつもりはありません。だから、とても怖いんです。新たな力に現を抜かして、また一夏を失ってしまうのではないかと……。ですから今の私では、あれに乗っても引き出せる性能はせいぜい基本の1割が限界でしょう。例え世間から『伝説のブリュンヒルデ』などと称賛されていても、性能を十全に活かしきれないのであれば、所持に必要性を得られないかと。翼を失い、刀折れ矢も尽きた戦乙女(ヴァルキリー)など、誰も必要としませんから」

 

 見方によっては、国の都合に振り回された哀れな偶像と取れなくもないが、彼女はそれさえも「見抜くことができなかった自分が未熟だった」と結局自身を責め立てるだろう。それでも無意識のうちに張りぼての栄光とそのきっかけになったISを拒んだ結果、全盛期からIS適正を大きく下げ、ドイツで発症したISへの拒絶反応につながった。いくらか癒えた現在においては、かつてのように急な脱力や嘔吐などの症状こそ発しなくなったものの、満足に飛び回るどころか、数歩歩くことすら大変な労力となることだろう。折角最新型の専用機を提供されても、その性能を完全に発揮できないのであれば、所持する資格はない。そう考える千冬に対し、ガルガロスの見解は異なるものだった。

 

「別に構いやしねぇよ。『タイガー()・シャー()プバイト()』は元々一夏(イチ)の『グレー()ト・ホ()ワイト()』のついでみたいなモンで、データ取得だなんだはハナから計算外だったしな。それに()()()()()()ておくのは勿体なかったし、そもそもアンタがそう考えてるのと同じように、万が一アンタの身に何かあった時、悲しむのはイチだ。」

 

「っ…確かにそれはそうですが、だからと言って使いこなせない機体を渡されても意味はありません。護身だけなら学園に配備されている『打鉄』でも事足ります。」

 

 ただでさえ一夏のことを挙げられると、一気に反論の余地がなくなってしまう千冬だが、何とかこらえて必死に言い逃れをするが、直後思わぬ伏兵が現れる。先ほどから隣に並び、服の袖を掴んでいた一夏だ。

 

「千冬姉は……『タイガー・シャープバイト』のこと…嫌い?」

 

「い、一夏? 急にどうかしたのか?」

 

 タイミングも内容も唐突で、どう答えるべきか悩む千冬だが、普段何かと彼女の行動を気にする一夏は、珍しく視線を彼女ではなく、眼下の一角に並ぶ機体――それも『グレート・ホワイト(自身の専用機)』ではなく、千冬が頑なに受け取ろうとしない『タイガー・シャープバイト』の方に向けていた。

 

「座学の時、ISのコアには…意識みたいなものがあるって……教わった。さっき、千冬姉が手放してから、凍結されてた…って聞いたけど、その間…『暮桜』は、苦痛と孤独しか、なかったと思う。それに…『暮桜』は、どんな姿でも……千冬姉と、一緒にいたいんじゃ、ないかな」

 

 千冬が感じたのは、しっかり学んだことを覚えていたことへの感心と、痛いところをつかれたことへの苦笑だった。束が製作したISのコアには、「愛着を持ってもらえるように」と1種の学習成長型AIが搭載されている。――対してガルガロスのコアには、サポートAIとしての任を果たすことを優先し、事前にある程度機体の装備などのデータを登録してある。――故にその点に触れられると、それなりの覚悟を持って決めたはずの誓いも最早ただの片意地でしかなく、周囲からすれば「いつまでこんな茶番を繰り広げるんだ」としか思われまい。

 

「ハァ、わかった。わかったよ一夏。素直に受け取るからそんな目を向けないでくれ。と言っても、当の『暮桜』……もとい『タイガー・シャープバイト』が私を受け入れるかどうかは別だがな。もしかしたらとっくに見放しているかもしれんぞ?」

 

「どーだか。少なくとも貧相過ぎた攻撃面は大幅に強化させてもらったぞ。昔みたいに品のない特攻はしなくてもいいから、そこは慣れとけ」

 

 そして束の説得も(むな)しく、千冬が選手引退とともに「引き続き所持していても、今後満足に性能を発揮できる見込みがない」と手離した後、『暮桜』は凍結処分された。――正確には何度か新たな搭乗者(パイロット)を乗せようと試みられたが、『暮桜』は誰1人受け入れず、候補者達は指1本動かすどころか、その場から微動だもできなかった。かと言ってAIをリセットして新たな機体に搭載しようにも、コアを取り出したまではよかったが、当然というべきか頑なにリセットを拒まれたことが原因だったのだが。

 そうした経緯から、例え千冬自身に拒まれようと、『暮桜』は彼女以外を受け入れる気などさらさらないと考えたガルガロスが、より長所を伸ばし、同時に短所を補うようにと作り上げたのが、この『タイガー・シャープバイト』だった。

 かつて千冬は、刀型近接ブレード『雪片』1つで敵の懐に潜り込み、自分のシールドエネルギーを攻撃に転用する唯一仕様特殊能力(ワンオフアビリティー)(れい)(らく)(びゃく)()』で相手のバリアを切り裂き、強制的に『絶対防御』とよばれる保護機能を発動させる、文字通り『身を削る』戦い方をしてきた。しかし近年ISの発達はすさまじく、現在量産型の主体となっている日本製の『打鉄』や、シャルロットの実家であるデュノア社が製造しているフランス産の『ラファール・リヴァイヴ』を含む第2世代機相手なら問題なく立ち回れるものの、世界各地で試行段階に入っている第3世代機や、その先の世代機が主流になっていけば、いずれ懐に入る間もなく撃墜されるだろう。仮に現行の量産型が相手でも、千冬以外では『零落白夜』を発動できたところで、オンオフのタイミングを見極めきれず、攻撃のタイミングを見計って動き回るうちにエネルギー切れを起こし、勝手に自滅するのが確実と言えるほど使い勝手が悪い。そして何より『零落白夜』はシールドエネルギーに対しては非常に強力だが、それこそ眼前に並ぶガルガロス・モデルのような装甲を充実させた機体に対しては、最早無力に等しい。

 いくらISがまだ発展途上にあるといえ、ただでさえ中遠距離用の射撃武装がなく、唯一の攻撃手段も非常に使い勝手が悪い機体など、到底使えるものではないと判断したガルガロスは、まず攻めの手を増やすべく武装――とりわけ使い勝手がよく、多様な機能を備えた射撃武装の追加を、最優先で行った。それこそが左腕の肘から手首と一体化し、大きくせり出した大型の口径変更機能搭載キャノン砲、『ネコザメ(ブル・ヘッド)』で、連射速度だけでなく、銃口をカメラのシャッターよろしく絞ったり広げたりすることで、発射するビームの威力や攻撃範囲を調整できる。近接に関しても、相手の攻撃を防ぐと同時に、反撃用のシザーブレードを収納した腰のシールドユニット

オグロメジロザメ(グレー・リーフ)』を装備し、そして何より代名詞たる『雪片』と『零落白夜』に対しても調整を行った。攻撃時に放出されるエネルギーを抑え、なおかつ刃部分に集中させることで、絵面的には大分寂しくなったものの、元来の『零落白夜』より少ないエネルギー配分でより大ダメージを与えるようになっている。加えて『雪片』そのものを右手と一体化させることで、より効率のいいエネルギーラインを接続できたのも大きい。

 

「拒絶反応と体調の急変については、『暮桜』のコアに蓄積されたデータで大丈夫だろ。体への負担は機体が調整してくれるはずだが、実質まだ慣らしもできてねぇから、無理はすんな。さぁて、いい加減話聞いてるのも飽きたろ? そろそろ待ちに待った初搭乗(ファースト・フライト)といこうか」

 

 

 

 

 

 

「足元注意しろよ、乗る前にひっくり返って怪我でもしたら笑えねぇわ」

 

 すでに先ほどの部屋から付近のエレベーターで降り、現在はそれぞれの機体に搭乗するところだが、いざ間近で見たときに見せた反応は様々だった。自分のものであることを確かめるようにヘッドギアを撫でる一夏、改めて対峙した実物を前に、先ほどのホログラムモデルでは見られなかったところを眺める翔摩、おっかなびっくりな様子で前に佇む弾、到着するや否や真っ先に駆け寄り、各所の点検や細部の構造チェックをするシャルロット、そして正面に立ち、大きく姿を変えたかつて(『暮)の愛機(桜』)を懐かしむかのように目を閉じたままの千冬。それでも誰1人としてガルガロスの忠告に耳を傾けた様子のものがいないのは、ある意味では面白い共通点ともいえる。

 そんな中、最初に機体から目を離したのは弾で、困惑した様子でガルガロスの方を向く。

 

「えーっとぉ、これどうやって乗ればいいんですかね?」

 

 ガルガロス・モデルは全身に装甲が並べられているのは周知の事実だが、そうした構造上、機体そのものが極めて大型化する上、姿勢も全体的に前かがみとなっている。そのため人間と同様直立状態で設置できる通常のISと違い、腕を前方に伸ばすか、左右に広げて手を地面につけ、脚を大きく曲げた、さながらゴリラのナックルウォークのような待機姿勢をとらなくてはならない。そのため通常のISならそのまま背中を預けるように座れば問題なく搭乗できるが、ガルガロス・モデルで同じようにするには、下から潜り込んで背中を押し付けた状態をしばらく維持しなくてはならない。流石に危険すぎるためそのようなことはないはずだが、かといっていくら機体を触っても目立った反応はなく、それこそ一夏が初めて『打鉄』を装着した時のような、勝手に装着される様子もない。

 

「やっぱ聞いてくるか、だろうと思って準備はしてあるさ。とりあえずいったん離れな」

 

しかしガルガロスも開発者として当然対策は取っており、皆が1度機体周辺から離れると、機体を固定していたハンガーが形を変えていき、前かがみだった機体が頭を上に向け、手足を大きく広げた体勢に変化した。これなら通常のISと同様に搭乗できる。

 

「ほぉ~、これはまたすげぇ仕組みで……俺が最初に乗ったときは、機体をひっくり返してあおむけの状態で乗ったっけ」

 

「これなら心配なく乗れるだろ。さすがに通常のIS取り扱ってるようなとこじゃ、まだ設備は整ってないみてぇだからそうするのが一般的らしいがな」

 

これでやっと乗れると安堵したのか、感心した様子の翔摩の横を一夏が通り過ぎ、さっそく自身の機体『グレート・ホワイト』に乗り込む。直後ヘッドギアが下がってセットされ、左右から正面部装甲が展開、各所のロックが解除されると同時に前方へと倒れこむが、即座に両腕を地面につけ、転倒を防ぐ。

 

「どうだイチ、まだ初期化(フィッティング)途中だから多少反応が鈍いとこもあるようだが、勝手としちゃあ悪かねぇだろ?」

 

「大丈夫……。終わるまでは、このまま…で、いいのか?」

 

「おう、そのままじっとしときゃあ、あとは全部機体が終わらしてくれらぁ。お前らもこの後訓練あるから、さっさと乗り込んで慣らしとけよ」

 

 そのまま残りのメンバーをけしかけるように言い放つと、続けて前に進んだのは千冬とシャルロット。それから1歩遅れて弾と翔摩も駆け寄っていく。

 

 

 

 

 

「だいぶ慣れたみてぇだな。これならダンとフユ以外、明日明後日にでも戦闘訓練も可能か」

 

 全員が機体を装着してから20分後。無事第一形態移行(ファーストシフト)を終えた各機は無着色で鈍い銀色だったフレームも、それぞれ完了と同時にカラーリングが施され、細部のデザインも搭乗者(パイロット)に合わせ少しばかり変わった。現在はそれぞれ思い思いに各所を飛び回っているが、千冬だけはまだISを受け入れきれてないのか、1メートルもない高度でゆっくりと漂うように進んでいた。ガルガロスが戦闘訓練は尚早と判断したのは、そんな姿を見たがゆえだ。

 

「千冬姉、大丈夫?」

 

「あぁ、動かすこと自体は問題ないが、やはりブランクが長かったのと、機体の急激なハイスペック化に体がついていけてないみたいだ。これはもうしばらく、リハビリが必要なようだな……」

 

 そんな姿を見て、心配そうに降下してきた一夏に対し、千冬は姉としての威厳や、IS操縦については一日の長があることもあって気丈に振舞おうとするが、実際に乗ってみて、現状への不安やいくつかの感覚に対するギャップが隠し切れず、ついつい弱音を見せてしまう。実際弾は何度か暴走させ、地面に転落したり急激な上下運動を繰り返したり、急加速直後に停止してつんのめったりと、『ラプト・イェーガー』との勝手の違いに悪戦苦闘しており、シャルロットや翔摩も、停止や着地する位置が予定より多少上下前後にズレるなど、「慣れた」とはいえるもののまだ完全に「使いこなせる」ようにはなっていないようだ。

 

「もう少ししたら機体を待機形態にして戻りな。不調じゃ無理して訓練しても、大して成果も挙がらねぇだろうからよ」

 

「っててて……そうっすね。これ以上はもう体がもちそうにないです」

 

 流石にもう限界を迎えたようで、苦笑しながら体を起こす弾は早々と機体を待機形態にすると、腰にリングが交互に朱色と藍色に染まったチェーンとなった機体が装着される。それに倣い、翔摩も訓練を終えて機体が変化した黒いベルトを手首に装着するが、残りの3人はまだ訓練をするようで、解除する様子はない。

 

「私はもう少し慣らしておこうかと」

 

「俺も…もう少し付き合う」

 

「僕ももう少し動かして、機体の癖を掴んでおこうかなと」

 

「そうかい。じゃあ俺は先に戻るから、あとは好きにしてな」

 

 

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