INFINITE XROSS FUTURE   作:ゲオザーグ

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ブリュンヒルデはもういない

 動作確認も兼ねた実働訓練を終えた面々は、最初に呼び集められた管制室にて、ウィンディが用意したお茶やジュースなどの飲料を口にしていた。このうち一夏と千冬は、データ整理のため戻ったガルガロスから、「気が向いたら機体にエンブレムでも考えてみたらどうだ?アピールにもなるし、より愛着沸くだろうよ」と言われ、早速以前渡されたタブレットPCを触っている。

 

「ほぅ、なかなかカッコいいじゃないか。躍動感もあって、見栄えも優れている」

 

 一夏が参考にと検索していたのは、機体名の元となったホホジロザメが水面に飛び出す姿――通称『エア・ジョーズ』。それらの画像を元に描き上げたのは、三日月形に大きく体を曲げ、大きく口を開けながら上半身を水面から突き出した姿。そのエンブレムデザインはホホジロザメの荒々しさと、力強さを見せつけるようでいて、一夏自身の周囲に対する「害成すものは容赦なく襲う」との警告にもなっている。

 一方千冬のエンブレムは、水面から尻尾を出し、水底(みなぞこ)へと頭を下げ、潜り行くイタチザメ。だがその口には背中に羽を備えた鎧姿の戦乙女(ヴァルキュリア)の上半身が収まり、下半身共々自由ではあるが、とうに抵抗する力を失ったように水面を向く手から離れた剣と盾が、水面へと浮き上がっていく。

 

「うわぁ…千冬さんのエンブレム、結構エグいですね……」

 

 そこに声をかけたのは、2人に休憩を呼び掛けようと後方から近付いた弾。いくらサメ由来の機体名だからと言って、エンブレムに人が襲われる姿を使うとは思わなかったようで、コップを手にしたまま、顔を引きつらせている。千冬はそのリアクションが予想通りだったようで、軽く(あざけ)る様に笑うと、エンブレムに込めた思いを語り出す。

 

「やっぱり、そう思うか?まあ、そう思わせることも狙ったが、このエンブレムは私なりの決別の意を示したものでもあるんだ」

 

「決別…ってことは、モンド・グロッソの部門優勝者が『戦乙女(ヴァルキュリー)』の称号を受け取ることに関係があるんですか?」

 

 直後、弾に続いて寄ってきたシャルロットが混ざる。彼女が尋ねた様に、モンド・グロッソの出場選手は各競技で優勝すると『戦乙女(ヴァルキュリー)』の称号を贈られる。そして総合部門での優勝者には最上級の称賛を込め、とくに有名な戦乙女(ヴァルキュリー)『ブリュンヒルデ』の名が冠される。2度にわたりその名を冠した千冬が、その称号の由来を餌とするサメをエンブレムにしたのは、すでに選手の座を引退した彼女なりの、モンド・グロッソに対する痛烈な皮肉かと思ったための質問だったが、千冬の回答は少し違っていた。

 

「その通り。私はもう選手は引退したが、少し遠出すると、すれ違う相手から未だ『ブリュンヒルデ』と呼ばれてな。それ自体は構わんが、私にとってあの称号は、都合のいい操り人形として翻弄された印象しかないんだ。このエンブレムは、大切だったはずの(もの)と引き換えに得て、初めてその愚かさと空虚さを知った自らへの戒めと、生まれ変わったつもりで、今度こそ失うまいと込めた決意を表しているんだ。だから、過去の自分の象徴(ヴァルキュリー)新たな自分の象徴(イタチザメ)の餌食にしたのさ」

 

 話し終えた由来を聞いて失望されたと思い、「惨めな話だろ?」と締めくくる千冬。しかし、弾は彼女が一夏()を失ってからその称号や周囲の称賛を忌避し、むしろ苦しんでいたことを知っていた。故に聞いたところで、改めて彼女がどれほどその称号と、国の見栄のために唯一の肉親を切り捨てられた事実、そしてそれを知らされず、強く反発して助けにも捜索にも行こうとしなかった自分を憎んでいるかを理解こそすれど、決してそれを理由に彼女を責め立てることなどするつもりはなかった――仮にしようものなら、すぐに手を出そうと一夏が待機していたのも、あるにはあったが。

 

「まあ、予想はしてましたよ。千冬さんがどれだけ後悔してたかは知ってますし。……流石に優勝トロフィーとか賞状とかをまとめて処分しようとした時は驚きましたけど」

 

「帰国直後から精神が荒んでいたって聞いたことはありましたけど、それが原因だったんですか。……本当に、彼が大事なんですね」

 

「あぁ、私にとって唯一の肉親で、最大の支えだ。守るためなら、それこそ国にだって牙を突き立ててやるさ……」

 

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