愛・塀・中   作:かさつき

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命短し恋せよクソッタレ。


その10

 木曾に拘束具をはめて入渠させた。バカ天龍は、もう傷も治っているだろうに、まだちんたら湯船に浸かっていやがる。貴様はバカ天龍からボケ天龍に格上げだ。全くとんでもないことをしでかしてくれたものだ。

「お、マジ。格上げ?やったぜ。ごほーびくれ」

 違う。意味合いとしてはむしろ不名誉なほうだ。基地全体に大迷惑がかかったんだぞ。なんなら妙高はお前の巻き添えで壊疽に殺されてしまった。

「はぁ?死んでいないのですけど?提督の目は節穴?或いは重篤な記憶障害をおもちなのかしら?」

「お餅いいな。提督、今度もちつきしようぜ。ウネとキスでペタペタやるやつ」

 臼と杵だろうが、ボケ。話を逸らすな。何故こんなバカな真似をした。だいたい、妙高はこういう馬鹿騒ぎに待ったをかける役だろうが。なぜこいつの手綱をはなした。

「そんな役、拝命した覚えがありませんわ。というか、今回のは私の計画ですけど」

 なにぃ、お前が首謀者か!なおのことややこしい。目的を述べろ、目的を。

「はぁーあ……やれやれね。これだけやってまだわからないの?……だから、木曾に言ったのよ。こんな不能は止めておけと」

 阿婆擦れは大袈裟に嘆息する。まさか妙高、生粋の悪女たる貴様が木曾のためとかヌかすんじゃなかろうな?

「教えませんよ。四十路の不能親父に乙女心の機微が理解できるとは思いませんので」

 その点は大いに同意するが、重傷を負ってまで誰かの為に行動する貴様が想像できんと言っている。何を企んでいるんだ?というか、全世界の乙女に謝罪しろ。

「へへん。ちょっと思ってたのと違ったけど、結構上手くいったじゃん。さすが妙高だな」

ここでバカ天龍改めボケ天龍が横から茶々を挟んできた。何を得意げにしていやがる。

「言った通りだったでしょう?やはりこの不能男は、不測の事態に弱いのよ。ちょっとしおらしいところを見せればコロリ」

「……?いや、いいや。何か知らんがオレらにめっちゃ気ぃ遣うってな。妙高スゲェ」

 聞き捨てならん。貴様らに気を遣った覚えはない。泊地の防衛という、当然の仕事を遂行しようとしただけだ。あと、天龍は「不測の事態」を理解できなかったようだ。

「その気持ちをほんの少しでも、木曾に向けてあげなさい。朴念仁で不能って生きてる価値あります?ご要望とあらば、チンチンもいで差し上げますよ?」

「お、木曾起きた!」

 起きぬけにバカと不能の声を聞かされるのは人生の損失だ、との至言があるーーたしかこれもシェイクスピアだ。その損失を被ったのは、どうやら砒素であったらしい。

「ここの入渠槽はまるで肥溜めね!なによこの拘束びくともしないじゃない!」

 そりゃそうだ、山城の力でも壊せなかった特別製だからな。

「どっから用意したのよこんなの。この腐れ不能!イカレチンポ!チャンスにもピンチにも弱いハゲ!前世ウジ虫!ゲテモノちんかす人間!脂ぎった悪臭デブ親父!性格破綻ロリコン!先天性のくず!下痢便ゲロ野郎!存在が陰毛レベル!人生の敗北者!」

 なかなかの罵倒レパートリーだ。それを聞いて、妙高と天龍はゲラゲラ笑いやがる。もういい、貴様らさっさと上がれ。修復はとっくに終わっただろうが、飯でも食ってこい。あとついでに、山城を呼んでこい。

「うーし、上がるか。じゃあなー」

「後で、私のお昼を作る栄誉を与えます。感謝なさい」

2人が出ていったのを確認して、砒素に向き直る。

「そろそろ、気はすんだか」

「済むわけないでしょ、クソが。くそ以下のくそが」

 もうそろそろ悪口の残弾も尽きて、砒素は「くそ」を連呼する機械に成り下がった。

なぁ、砒素よ。お前はストレス発散担当なんだろう?私に悪口を云えば、気が済むのか。何かもっと他に、やるべきことがあるのではないか?

「ウザ、キモ、クサい!うるっさい!うるさい!うるさい……!オレだって、やりたくないのよっ!知らない!知らない!どうでもいい!嫌い!嫌いよ……っ。放っておいてよ!」

 砒素はヒステリーを起こした。そうか、お前にもやりたくないことがある。お互い様だ。じゃあ、そうだな。互いの利益の為に、ストレスの大本を呼び出してくれ。つまり、木曾のことだが。

「……ふんっ」

 プイッ、と顔を背けた。ダメか、仕方ない。落ち着いた頃にまた来るとする。

「二度と来ないで」

 そうしてやりたいが、そういうわけにもいかないんだ。

「お呼びですか?誰かに必要とされるなんて、幸福だわ」

 そうこうしていると、キラキラした山城がやってきた。

「暫く、監視を頼む。それと、君にも後で訊くことがあるからな」

「木曾に暴れられたら、私では抑え切れませんよ?」

 お前の仕事は、鎮圧じゃなくて救護だ。木曾たちがはやまった行為に走る可能性がないとも言い切れん。

「なるほど、分かりました」

 その場は山城に任せ、私は執務室へ戻った。

 

 

 執務室には千代田がいた。何故か下着姿である。その第一声。

「どうぞ!」

 何が、どうぞ、なんだ。今日は疲れた。これ以上トラブルは勘弁してくれ。

「あるぇ…?っかしぃなぁ…。さっき助けたときの顔は、ときめきの顔だったんだけど?」

 それは気のせい森の精、だ。さっさと服を着るがいい。

「自分の部屋に置いてきちゃった。しばらく、このまんまでいいや」

 お前、自室からここまでその姿で来たのか?頭は大丈夫か?あと、4月といえど、寒くないか?

「お?提督が優しい?デレ期?ゴールイン?幸せな家庭?子づくり?どうぞ?」

 だからどうぞ、じゃねぇ。展開が早過ぎる。あいだを挟まんか、間を。

「ふーむ。木曾ちゃんもこの優しさにやられたんだねぇ」

 ニヤニヤと千代田は気色悪い。あと、何故そこで舌舐めずりをする。さて、未だに信じられんが、心理のスペシャリストたるお前の意見を拝聴するとしよう。自分でいうのはなんともきまりが悪い。木曾は私を、憎からず思っているというが、本当なのか?

「いや、あの……気づいてないの提督だけだよ?天龍ちゃんでも知ってる」

「そうか。それは……凹むな」

 私の洞察力は天龍以下か。それといま、さりげなく天龍を馬鹿にしただろう、お前ーー同意する。

「この一連の馬鹿騒ぎを企てたのは、まさかの妙高だと聞いたが、それは事実か?」

 千代田は首肯する。

「企てた、っていうか、策を出したって感じ。思いつきは天龍ちゃん。で、全員が仕掛人だね」

 ならば壊疽の発言とも一致する。一応確認しておくが、何故止めなかった。

「んー……なんとなく?エイプリルフールだし、嘘ついちゃえ、的な」

 まあ、いい。尋ねておいてなんだが、お前はノリと性欲で行動するのを知っているから、あまり興味はない。

「提督に知りつくされてる!?も、もうこれは、実質結婚では?お嫁さんでは?」

 やめんか阿呆。今、私はイラついているからツッコミもぞんざいになるぞ。

「ぞんざいに、突っ込まれちゃう……?濡れてないのに?痛いのもアリ、かな……。ごくり」

 うるせぇ、黙れ。そんなことより不気味なのは、妙高だ。あいつはこの手の馬鹿騒ぎを傍観しながら嘲笑するタイプだ。おいコラ心理のスペシャリスト、お前の所見を述べるがいい。

「そんなに不思議ぃ?妙高ちゃん、分かりやすくない?」

 お前と一緒にするな。お前だけだ、本泊地の面子の心理状態を完璧に理解しているのは。

「んーとね。妙高ちゃんは、優位に立ちたいタイプ。 誰かと仲良くなるなら、まず相手の上に立ってからいきたい娘。前の基地までは司令官を骨抜きに出来たから、基本的に泊地の中でも上手くいってた。後ろ楯があるわけだしね?でも此処では違った」

 なるほど?私は不能だった、奴の武器が通用しないと。それがどうした。

「あのね。その武器はコミュ力不足の裏返しなんだよ。凄く優秀な娘なんだけど、それだけは苦手。同じ目線での関わり方が分かんない。提督は優しいから、実はちょっと仲良くなりたいって思ってるんだけど、今までの欲で支配出来た人たちと違うから、戸惑ってるんだね」

 思わず鼻で嗤う。ダウトだ。私と仲良くなりたいだと?だったら我が息子を掌握し、朝食をタカってくるはずがなかろう。

「無意識だろうけどね?考えてみてよ。嫌いな人と朝ごはん食べないって。提督がそんなに料理上手じゃないの知ってて、わざわざ提督に頼むんだよ、あの娘?」

ふん……じゃあ、何か?奴は仲良くなりたい対象を策に嵌めて嘲笑うのか?結局、度しがたく歪んでいるということじゃないか。

「だからさ、優位に立ちたいの。対等の関係の作り方が分かんないの。自分の方が優れてるって思い込まないと、プライドが許さないわけ。今回は提督がテンパるのが見たかったんだね。で、どうだ見たか!ってなったわけ」

 けっ。解らんな。奴が優秀なことくらい、私は嫌というほど知っている。それでも気が済まんのか?拗らせすぎだろう。

「口に出して伝えればいいよ、それ。あとはまぁ…昔、何かあったんじゃないかな?誰かに……その、いじめとかDVとか。虐げられた経験?みたいな」

「っ……ふん。そういうことか。なら、納得した。この話は終わりだ」

「え。あ、そう?……なになに?どうしたの急に」

「何でもない」

 やはり、千代田は恐ろしい。こいつめ、見てきたように言い当てるもんだ。いや、実際見てきたのだが、忘れているだけか。私は飯を食いにいくが、お前はどうする。

「え、あ、えーと。お腹減ってないから、まだいいや」

 

 

 

***

 

 

 

 後れ馳せながら告白しよう。妙高は私の×××である。より正×には、×を素×に作×された×工の艦娘だ。

 

(誰かの手で塗りつぶされているので判読不能)

 




読んでいただいた皆様に、深くお詫び申し上げます。
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