妙高は湯沸室にいた。何とか自分で飯を作ろうとしていたらしい。おう阿婆擦れ、ちょっと面貸せや。
「私の言いつけをすぐに守るとは、良い心がけね。存在が陰毛レベルの提督に、お昼を共にする権利を差し上げてもよくてよ?というか、お昼ご飯作りなさい」
やなこった。なに、少し聞きたいことがあるだけだ。要するに、私はお前に尋問をするためにきた。先にも述べた通り、貴様の為に飯は作らん。
「ふぅん?私が作っては、隊の士気が下がってしまうけれど、よろしくて?」
それはよろしくないが、腹が減れば千代田なり山城なりが勝手に作るさ。お前は空腹を我慢しながら、勝手に士気を下げるがいい。
「ふぅ…残念だわ。貴方とランチを共にしたかったのだけれど」
頬に片手を当てて首を傾げるいつもの仕草、本当に残念そうな顔を作る。千代田の話を聞いた後だと妙な気分になるが、いつもの女狐ムーブだと自分に言い聞かせた。
「こんな所にランチなんぞとシャレたものを期待するな、と……朝も同じことを言ったな?」
妙高はつまらなさそうに流し台に体重を預ける。はち切れそうなヒップがムニィ、と変形したが、我が息子は依然落ち着きを保っている――もうちょっと腕白でもいいが、これは自然なことだ。
「それで、尋問とは何かしら?ききたいこと以外は答えてあげますわ」
なんじゃそりゃ、素直に答える気はないってか。ではこうしよう。今から勝負をする。君が勝ったら言うことを何でも聞いてやる。私が勝ったら、質問に答えろ。
「あら……何でも?ふぅん…お昼は作りたくないのに、望みは叶えていいの?矛盾していません?」
お。なんだコイツ、超わかりやすい。明らかに興味を示したぞ。内心ほくそ笑みながら、私はとっておきを取り出す。
「よし、ではコイントスだ」
「何ですか、それ?随分古い…コインというか、寛永通宝?」
私の父は古銭の収集が趣味でな。その遺品を掻っ払ってきたのだ。ほらよ、表か、裏か。
「ああ、そう。では……表で」
意外とあっさりひっかかったな、コイツ。
「残念、裏だ」
「……ちょっと待ちなさい。本当に裏?」
もちろんだとも(よく知らないが)。ほら、ここに「文」と書いてある(ように見える)。これは一文銭だ(多分)。普通、額面の書いてある方が裏だ(と聞いたことがある)。従ってこちらは裏面だ(と私がいま決めた)。
「ちっ……無効よ無効、こんな勝負。このイカサマ不能ハゲ」
妙高は聞こえよがしに舌打ちをする。これは予想通りだが、知ったことじゃない。私は単に妙高をコケにしたかっただけだし、勝負なんぞ関係なく訊くことは訊く。
「さて、執務室に盗聴機があるのは本当か」
「はぁ?執務室に?何故?」
それは此方がききたい。というか、貴様が前の基地からパクってきた物だと聞いたが。
「まぁ……それは事実ですけど、わざわざ執務室に仕掛けます?私、執務中の提督に興味ないのですけど?」
それはそうだろうが、じゃあ誰が仕掛けたんだ。やはり壊疽か?
「そもそもアレ、壊れていたのですよ。私以外に、直せるとは思えないけれど」
なに?じゃあ、あれは壊疽の嘘か。それならそれで構わないが。というか、収容時の身体検査をどうやってすり抜けた。
「それはもちろん、分解してシモの穴に」
ケツに隠したのかよ?ヒくわー。
「いえ、前です」
同じだ、たわけ。大事なところがズタズタになるぞ。
「艦娘ですし、ちょっとやそっとじゃ。ローションも使いましたしねえ?」
ねえ、と言われても困る。散々男に股を開いてきたんだろうが、流石に安売りしすぎではないか?ちょっと便利な小物入れじゃないんだぞ。
「イチモツ入れではあるのですけどね」
やかましい。だいたい、何の為にもってきた。誰のどんな弱みを握るつもりだ。
「いやだわ、おぞましい。私をそんな悪女だとお思い?」
面白いなそれ。そういう抱腹絶倒ギャグは皆の前でかますがいい。
「ま、強いていうなら、情報収集の為ね。別に確固とした目的があった訳じゃないわ。ここがつまらなければ、さっさと脱獄するつもりだったのですよ」
とんでもない告白だ。刑期を伸ばしとくからな。あと、脱獄したところで、周りには敵さんがうようよしてるんだが、それはそれとして、脱獄してないってことはなにか、此処は面白かったのかヨ。
「ま、笑えるオモチャもありましたしね。イジられ放題の司令官なんて美味しい食材、どう料理してやろうかと」
ケッ、そいつは重畳。
「フム……あの盗聴機、ジャンク品に紛れて捨ててしまったと思っていたのだけれど、執務室にねぇ…」
なに?ちょっと待て。さっき壊れていたと言ったじゃないか。自分以外には直せないとも。
「訂正します。識字能力があれば直せるわね。私、デバイス関係の書籍をいくつか持っているから、それを盗み見たのではないかしら」
盗聴機の直し方が載ってる本なんぞ捨てちまえ。もうこの際どうでも良いが、どうやってもちこんだ。
「本ではなくて電子書籍ですよ。私の艤装に接続されたコンピューターのメモリに保存されているのです。所持品検査に艤装の分解まで含めておくことを提案します」
もう遅ぇわ。私はその手の話題にとんと疎いが、そもそも分解したくらいでどれが何の電子機器か、判るものなのか?
「見る者が見れば。元通りに直せるかは別ですけど」
そのコンピューターは自分で艤装に接続したのか?いや、まて。ひょっとして、お前の砲撃が異様に正確なのは、そのせいか?
「あら……今まで気づいていなかったの?シモ・ヘイヘじゃあるまいし、あんな超高精度砲撃を感覚だけで出来たら化け物ですよ。私の視力が良いのもあるけれど、演算装置の補助があってこその芸当です」
ほう。君のイメージが変わったな。優秀なスナイパーかと思っていたんだが、実際は優秀なエンジニアだったのか。
「あら、人生の敗北者にしては気の利いた褒め言葉じゃない。お昼を共にする権利を差し上げても良くてよ?」
お前、本当に腹減ってるのな。飯は作らないし、敗北者じゃない。あと、さっきは流したがハゲでもねぇゾ。
しかしなんだ、千代田の言っていたこともあながち間違いではないようだ。妙高は優秀だが、コミュニケーション能力が欠如しているーーわかりよく言うと職人気質、悪くいえばオタク趣味だ。悪女でオタクで職人って、どんな飯食ったらそういう歪な成長が出来るのやら。顔と体は良いから男が勝手に寄ってきて、それに付き合ってたら悪女になっちまったのかもナ。ケッサク。
「それで、心当たりは?お前の艤装のメモリにアクセスして、電子書籍を探り当てて、ジャンク品から盗聴機を修理してみせた犯人は誰だ」
口に出してみるとなかなかの知能犯かも知れない。とりあえず天龍でないことは確かだろう。
「知能犯…ねぇ。時間をかければ、誰にでも出来ますわ。艤装なんて普段は格納庫に置きっぱなしですし、パスワードも設定していません」
何でそんなにセキュリティが弛いんだ。千代田のケツの穴かヨ。
「不能の癖に、知ったかぶりは止しなさい。あの娘のケツの穴はあれで意外とーー」
言わんでいい。知りたくもない。質問に答えろアホ。
「誰かに見つかるなんて想像していなかったのよ。見られて困る物もないし」
私が困っているではないか。
「ええ。良い仕事をしたわ」
そうかよ。で、確か君の艤装のメンテナンス主査は、山城のと同じ妖精くんだったな?そこから当たるか。
「あら、山城を疑っているの?」
念のためだ。可能性を1つずつ潰す。まさかとは思うし、大方壊疽あたりの仕業だろう。
「どうかしらね。まぁ、あまり興味ありませんけど」
何か含みのあるような言い方だ。
「そうねぇ……仮にもし壊疽の仕業なら、ベソや味噌、木曾あたりが貴方にチクっているのでは?」
そう信じたいところだが、今回ばかりは仕方ない。君ですら知らなかった盗聴器の存在を、壊疽が知っていたとしたら第一容疑者にせざるを得ないだろう。第二が君で、第三が山城、第四が千代田だ。そもそも、盗聴器があるかどうかは、私も半信半疑だが。
「ふぅん……なら、ご自由に」
訊くことは訊いた。精々第一容疑者にならんように振る舞いに気を付けることだ。じゃあな。
「がんばんなさい。期待せずにまってるわ」
……ああ、そうかい。
***
妙×の奴め、嫌なことを思い出さ×やがる。あの日も×れ際、×にそう言われた。それが最後だった。
或いは……ひょっとしたら、×の欠片が×っているのかも知れないな。
(誰かの手で塗りつぶされているので判読不能)
よんでいただいた方、ごめんなさい、許してください。