愛・塀・中   作:かさつき

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汚れたままで抱き締める。そういう愛も或太郎。


その2

 4月1日、早朝。時刻○六○○。

 今日は、嘘をついても許される日なのだとか。まじりっけ無しの正直者である私は、いつもの様に生きるだけだった。屋上で朝日に向かって紫煙を燻らしていると、天龍が現れた。

「ん!おいこら、提督。煙草は体に悪いんだぞ。そんなもん吸うってバカなんかお前」

「ほう。君でもそれくらいは知っているのか」

 バカにバカ呼ばわりされても、特別な感情は抱かない。何せ相手はバカだから真面目に付き合うとバカをみる。だいたい、吸う者の気も知らず体に悪いだなんだ、世間の実にやかましいこと。公衆の場で副流煙を撒き散らす傍若無人の阿呆タレならいざ知らず、孤独な男がたった一人で吸って、何処をけしからんと思うのか。心の健康は、大切だ。体は健やかであっても、心が萎れていては意味がない。あちらが立たねばこちらも立たず、なのである。アッチが勃たん私はせめて、心を盛り立ててやる必要がある。人前に出る時の臭いケアだって私は万全なのだから、煙草を否定する輩に耳を貸してやる必要を感じなかった。

「提督はバカだから知らんと思うけど、今日は嘘ついても良い日なんだってよ」

「はぁん、そうかい。君はどんな嘘を吐こうというんだ」

「それを言うバカはいねぇよ」

「そりゃ、御尤もだ」

「ご……ごもっ…?何言ってんの、頭おかしくなったんか?」

「……いや、なんでもない」

 このバカは傍から観察したり、からかったりする分には意外と面白いのだが、直接会話するとそうも行かない――ヤツは日本語が不自由なために、会話を成立させようと努力するだけでだんだん体力気力を削られる。やはり真面目に接してはいけない。

「ええと…あれだ。君は屋上に何しに来た。何か用でもあるのか」

「そりゃお前、朝やることっつったら、決まってんじゃんか。知らねぇの提督」

「ふむ、察するに、朝勃ちの処理かな?」

「アサ、ダチ。何……?提督よぉ、ホントに頭良いヤツはな、ムリに難しい言葉を使わないんだぞ」

 妙高辺りに聞かせれば、提督は勃たないでしょう、とか言ってゲラゲラ笑うんだろうが、生憎こいつはどこまで行っても天龍だ。言うことだけは一丁前だが、不能ジョークの通じるヤツじゃなかった。

「そうかい。まいった、わからない」

「へへん。そりゃもう、ラジオ体操だよ。朝おひさまに当たると元気になるんだぞ。バカな提督は知らねぇだろ」

 想像以上に健全な理由だった。コイツにこれ以上元気になってほしくない。

「殊勝なことだ」

「俺は違うぞ。どっちかといえば提督じゃんか」

 多分「主将」と聞き違いをしたんだろう――面倒くさいから流した。

「というかそれなら、こんなに早起きして朝日に当たっている私は健康じゃないか。煙草なんぞ問題にならんな」

 ついでにアチラも元気になってくれれば嬉しい。

「お、そうだな!……あれ、そうか?」

 バカを騙してバカにするのも一興であるが、すぐにネタバラシした。

「嘘だ」

「やっぱりそうか!バカにすんなよ!」

「今日は嘘ついても良いと言ったじゃないか、さっき」

「人を傷つける嘘はダメだっつぅの」

 その通りだと思う。いちいち健全な天龍は、さっきの嘘でちょっとでも傷ついたのか?

「なんだ、君は今ので傷ついたのか」

「いや全然」

「なんじゃそりゃ……ムカつくヤツだ」

「おう、そうか。よぉし、と……腕を前から上にあげてぇ、大ぉーきく背伸びの運動からぁー!はい!いち、に!さん、し!」

 ラジオ体操第1を敢行する天龍を尻目に、屋上を後にした。ラジカセもないのにどうするのかと思っていたら、まさかの自家詠唱を始めやがったので驚いた。物覚えの悪い天龍が、何で記憶しているんだろうかと一瞬不思議に思った。そういえば、うちの腕白娘は、スポーツに関することだけは記憶力が良くなる。以前は剣道を嗜んでいたのだし「主将」に反応したのも頷けた。

 

 

 

***

 

 

 

 この場をお借りして、読者の皆々様方にお詫びをせねばならない。先般、私に関する情報は物語の本筋に一切関係ないと申し上げたが、あれは嘘である。何を隠そうこの泊地に所属する艦娘たちは、私の×××である。

 

(誰かの手で塗りつぶされているので判読不能)

 




読んで頂き、すみませんでした。
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