愛・塀・中   作:かさつき

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蓼食う虫も好きトキメキとキス。


その8

 一六◯◯。

 夕食用のじゃがいもを蒸かしていた千代田をひっ捕らえ、状況を説明した。放送機器さえない欠陥収容施設はこれだから困る。どうしても作戦実施にタイムラグが出来てしまう。

「お、なになに?対潜哨戒?久しぶりに早起きしたし、張り切っちゃおっかな」

 12時過ぎを早起き呼ばわりするな。もう既に山城が哨戒機を出しているから、君はそのサポートに入れ。島の南方5kmのポイントに待機、山城を護衛しつつ、逐時報告を。定時無線は15分おき。2番無線を使え。4番は木曾に持たせてある。ただし島の近海30km圏内で敵潜水艦の活動を認めた際には十五番暗号を使うこと。敵の脅威度が高いと考えられる場合は十七番暗号だーーその時は木曾を向かわせる。elite程度ならば君らも対処出来るだろうが、場合によっては泳がせても良い。敵に侵攻の意志があるなら必ず第二、第三の攻撃を仕掛けてくる筈だ。1時間半経っても成果がなければ南東1kmのポイントまで後退し夜間偵察機を出せ。木曾…と治っていれば天龍にも、夜間対潜哨戒を行わせる。

「どしたの?やる気じゃないの提督」

 命がかかっているんだ、やる気にもなろうさ。君たちは易々と死にはしないだろうが、私は違う。

「提督が死んでちゃ、私たちだって同じでしょ?一蓮托生だって」

 そうならんように心がけている。なんでも良いから出動しろ。握り飯を持たせてやるから腹がへったら食うがいい。山城にも渡してやるように。具は魚の切り身、菜っ葉の酢漬け、おかかである。

「え!……てて、提督の手作り!?おほぉー!」

 私の昼飯になる筈だった弁当を見て、ヤツは急にキラキラし始めた。何がそんなに嬉しいか。

「て提督の、てあ、手汗が。染み込んでるん…だよね。それが、私のお腹の中に……!?犯されちゃ……っ、あ。やばい、染みてきた。下着かえなきゃ」

「染、み……何がだ変態め」

 生唾をのむ千代田に、本日2回目のドン引きをかます。藪をつついてアナコンダが出てきた気分だ。本当に無理だ生理的にダメだ。本人の目の前でそういうこと口に出すべきではないと思う。さっさと働け。

「もう、ね。頑張る。私、頑張るから。見てて。久々に本気だから」

 是非そうするがいい。そんでもって、私の寿命を延ばしてくれたまえ。

「帰ってきたら、お楽しみだよね?もう濡れてるけど、我慢するから」

 そんな訳がなかろう。君は自分が囚人だということを忘れているのではないか。と、まぁ。ヤツは私の返答も待たず、ギンギラギンの闘気を身に纏って出陣した。本当に余裕あるなコイツら。

 

***

 

 定時連絡、1回目。

「発1。宛3。動きなし」

「3番。動きなし了解。観測を続けろ」

「1番了解。観測を続ける。通信終了」

「通信終了」

 通信機の妖精くんを指でねりねり弄りながら思考する。今もって不可思議だ。妙高と天龍を叩きのめしたくらいの大物が、山城の索敵に引っ掛からんというのが薄気味悪い。ヤツにさえ見つけられんということは、この世に存在しないか、ヤツの索敵能力を更に越えたバケモノかだ。後者なのだろうけど、私にはどうも納得し辛かった。

 

 定時連絡、2回目。

「発1。宛3。動きなし。2番キモちわるいくらい元気です」

「3番、動きなし了解。我慢して観測を続けろ」

「1番了解。我慢して観測を続ける。通信終了」

「通信終了」

 山城は命の流れが分かる、とか何とか言っていた。その発言の真偽は知らんが、少なくとも奴に超常的な知覚能力があることは事実である。本人いわく、地球の裏側で起きていることまで分かるそうな。初めは鼻で嗤っていたが、その能力による戦術的・戦略的優位性を実感することが増えてから、そうそう馬鹿には出来なくなった。現代のレーダー兵器が裸足で逃げ出す絶大な索敵範囲と精度。軍事衛星から情報でも拾っているのかと思うくらいに正しく、素早い。天龍たちを撃ち抜いてからすぐに逃げたとて、奴の索敵範囲外には逃げ切れないと断言してよい。やはり、海中に潜んでいるのか?

 

 定時連絡、3回目。

「発1。宛3。動きなし」

「3番、動きなし了解。観測を続けろ」

「1番了解。観測を続ける。おにぎり大して美味しくなかったです」

「3番。贅沢言うな。通信終了」

「1番。通信終了」

 しかしまぁ、海中でも同じことか。海に潜った程度で山城の索敵から逃れられるとは思えない。向こうさんも現代の電子兵装を配備している訳じゃなし、こちらの様子を探るためにはある程度まで浮上する必要がある筈だ。そうなったとき、先んじて情報を得るのは間違いなく山城である。ただ、向こうさんの射程範囲まで接近を許してしまったら、負けるのは山城である。だからこそ千代田に護衛させたのだ。

 

 定時連絡、4回目。1時間が経過した。

「発2。宛3。動きなし。私のおっぱいは動きます。帰ったら美味しくどうぞ」

「3番。動きなし了解。索敵に集中しろ」

「2番了解。通信終了」

「通信終了……」

 危機感とか無いのかコイツ。どうでもいいが、千代田の変態度合いはこの1年で磨きがかかっている気がする。私はとんでもないモンスターの手綱を握っているのかも知れない。こんなのでも、うちでは貴重な航空戦力だ。山城は索敵力こそ高いだが、その代償なのか何なのか、戦闘能力はポンコツと申し上げて差し支えない。山城の存在に気付かず足元に浮上してきた潜水カ級を、その馬鹿力で鉄拳粉砕したのが過去最大の戦果である。砲撃や爆撃が当たらないのは勿論のこと、回避能力もへなちょこ、辛うじて対空能力は見てやっても良い程度。色々なものが見えすぎるせいで、山城は一点に狙いを定める行為が不得手だそうだ。「弾幕蒔いとけ」精神で、当たれば儲けのギャンブル戦闘しか出来ない。どうひっくり返っても費用対効果がみあわないから専ら索敵要員である――航空戦艦のくせになぁ。

 

 定時連絡、5回目。

「発1。宛3。動きなし」

「3番。動きなし了解」

「1番。帰ったら、自室の模様替えをしたいです」

「3番了解。好きにしろ」

「1番、了解。お風呂入りたいわ。通信終了」

「通信終了」

 どうやら動きがあったらしい。暗号が使われた。敵潜水艦を発見したが脅威度は低いので泳がせておく、と。大した敵ではなかった様子だ。暗号って今どき合言葉かヨ、と深謀遠慮なる軍略家のお歴歴に文句を賜りそうだが、味があるので良しとする。あと、この辺りの深海連中、日本語が得意じゃないのでボチボチ効果がある。まぁ、平文で連絡してる時点で向こうに筒抜けなのは覚悟している。そもそも、この基地の構成員や能力もキッチリ把握されていることだろうから気休めも良いところだ。さておき、目的の頭脳級の行方は、杳として知れない。本当にいないのじゃないか?いや、油断は禁物。もう少し様子を見るべきだ。

 

 定時連絡、6回目。

「発1。宛3。動きなし」

「3番、動きなし了解。次の定連を最後に帰投せよ」

「1番。戦果はないが、よいですか?」

「3番。夜戦なぞリスクでしかない」

「1番、了解。次の定連後に帰投する」

「2番、了解。次の定連後に提督の胸へ帰投しまーす。通信終了」

「おととい来やがれ。通信終了」

 山城と千代田に夜戦させたら、無印の駆逐イ級にすらボコボコにされかねない。大体にして、山城の性格には戦闘以前の問題がある――要するに、厭戦的なのだ。だが決して死にたがりではないし、むしろ生き延びようとする執念は誰よりも強いかもしれない。ひょっとしたら彼女の前任基地が壊滅したことに何かしらの関係があるのだろうか。

 

 定時連絡、7回目。

「発1。宛3。動きなし。これより後退します」

「3番、了解。4番は次の定連の後、出撃する。準備せよ」

「4番、既にできている。いつでもいける」

「2番も、いつでもイケます」

「3番、了解。1番、2番は後退せよ。2番はちょっと黙れ。通信終了」

「1番、了解。通信終了」

 さて、向こうはどう出る。本泊地の対潜戦闘に関して木曾の右に出るモノはない。彼女に仕留められないなら我々の敗北は決定的。いったん島の周囲を警戒させるか?木曾を囮みたいに使うのは気が引けるが背に腹は代えられん。向こうに侵攻の意志があるとすれば、必ず動きがあるはずだが果たして――。

「発4。宛3。聞こえるか?」

「む?3番、通信良好。トラブルか」

「いいや、その……私的なお願いがあるんだが」

「それは……作戦終了後にせよ」

「いや、その。うん、そうだな……4番、了か――」

木曾が言うより早く、2人の通信が入った。

「1番、まもなく帰投します」

「2番も、帰投しまーす」

「3番、了解。4番、出撃せよ」

「あ……ああ、4番出撃、する」

 




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