愛・塀・中   作:かさつき

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愛・おぼえていますけどなにか。


その9

 対潜警戒任務開始から5分後、木曾から緊急の入電があった。

「てて、提督、少しいいか」

「!?……お、おい。どうした?」

 任務中の木曾とは、いつも必要以上の会話をしない。しかし、仕事は人並み以上にこなす職人気質の艦娘で、私は彼女に好感をもっている。だからこそ木曾が通番すら宣言せず、やたらと気さくに話しかけてきたことに戸惑ったのだ。

「あ、あぁ、そうだった。すまない。え、と……こちら4番。いや、大した、用事ではないん……だが」

「緊急性のない話題は後にすることだ。今は非常時だぞ」

「そう、だな……。すまない。通信終了」

「……?まぁ、いい。通信終了」

 

 

 それから5分の後、再び入電。

「こちら画素。クソ提督応答せよ」

「だから通番で……。は?が、そ?」

 なんだお前、どういう風の吹き回しか。出撃中に君が顔を出すなど槍が降るからやめてくれないか。木曾はどうした。

「女の子の話も聞けねぇクソ提督は、馬の肛門に顔突っ込んで窒息死するがよい」

 なんだコイツ一体。度し難いバカ者め。天龍ですら公私の区別をつけるというのに。いや、アイツは戦闘狂なだけか。

「木曾泣かすなって言われたろがい。ええかげんにせぇよハゲ」

 泣かしてねぇし、ハゲじゃねぇ。何もないなら切るぞ。対潜警戒を怠るな。

「え、ちょちょちょ、待てし。話はまだ――」

「作戦行動中だ、たわけ!全員揃って死にたいか!」

 いい加減カチンときて強い言葉を使うと、内弁慶の画素は直ぐしおらしくなる。

「ちっ……違。違うし、むしろ皆の為だし……違うし。うええ……」

 なんなんだよ、このくらいで泣くなら出てくるなよ、がきんちょか貴様。変に毒気を抜かれてため息が漏れる。

「はぁ……なんだというんだ一体。さっさと作戦に戻るがいい」

「ぐしゅ……。ばかぁ……、ぐえぇ」

「もう切るぞ」

 画素がこんな状況でわざわざ出張ってくるなど明らかに異常事態だ。一体何が起きている。

 

 

 くそ、またか。3度目の入電。

「発4、宛3。聞こえるかしら」

「3番、聞こえる」

 この落ち着いた声音は、味噌、か?お前もお前で、なんだ一体。さっさと木曾に代われ。

「ごめんなさい、こっちも結構切羽つまってるのよ。対潜警戒は怠らないから話を聞いて」

 わかった、聞くからさっさとしろ。

「今から、木曾ちゃんに代わるから、急かさず焦れず話をきいてあげて欲しいの。お願いよ」

 わかった、わかったから。

「……4番だ。あ、いや、ええと、オレは木曾……です」

「で、です?どうした、お前らしくない」

 やはり異常だ。帰投させるか?いや、今帰投させてどうなる。少なくとも潜水艦の存在があるのは事実だ。

「あ、あの、だな。少し伝えておきたいことが」

「なんだ?」

「うん……」

 木曾は、たっぷり10秒は黙っていたろうか。急に訳のわからんことを捲し立てた。

「て、提督のことは、き、き、嫌いじゃないぜ。だだ、だから、手始めに胃袋を握り潰す。首洗って待っとけよな!」

 ……お、おう?それはあれか、宣戦布告か?

「え……その。違った。間違いだ」

 そ、そうか。で、本当のところはなんだ?伝えたいこととは?

「あぅ。あの、か、帰ってから言う……言います」

 それでいいのか?じゃあ、そういうことで。通信終了。

 

 

 意味不明な通信から、再び5分後、再び入電。げんなりしてきた。

「オッス、オラ壊疽。提督さん。今から裏切るね♡」

 はぁ?貴様、なに世迷言を――。

「せやかて工藤、話きかへんのやもん」

「……っ?は、話?なんだ話とは」

「あは。もう遅いってば(>∀<)」

 おい、まて。木曾の様子がおかしかったことと関係あるか。

「ん?んー……そうだよにぇ。うん、そう。まぁええやん。木曾っちに興味無いんでしょ?」

 興味云々ではない。腐っても司令官だ。命を預かる立場だ。問題があれば対応する。そういう仕事だ。

「ふーん。いいじゃない……どうでも。敵なんかいないからね」

 待て、どういう意味だ。

「さいなら」

 バツン、と嫌な音がして、通信が切れた。そして、通信室の入り口の扉が勢いよく開いた。

「そしてこんにちは。私、壊疽ーさん。いま貴方の後ろにいるの。ジ・エンドオブインポ提督を襲いに来たよー☆ミ」

 お前、出撃中では……と確認を取りかけた瞬間、高速の抜き手が私の鳩尾に突き刺さり、私は昏倒した。

 

 

 

 

「ぐ……ああ……?」

 両手両足、どこから用意した物か知れないが、鎖で縛られている。そういえば、ヲ級を鹵獲(?)した際にも使っていた気がした。床が硬い。ここは倉庫か?こんな時のためにカーペットでも敷いておくべきだった。

「おはよ。よく眠れた?」

「何をしている。んん…………!?」

 壊疽の舌が私の口内に這い回る。

「んっ。んう……ふぅっ。あは、初めて、奪っちゃったぁ」

 良く知ってんなお前。確かに初めてである。貴様で捨てることになるとは予想出来なかった。

 口どうしの粘膜接触に飽きると、今度は顔面を嘗め回し始めた。万力じみた圧力で頭を固定され、顔を背けることすら叶わない。あれだ、健康診断のエコー検査に似ている。ぬるぬるで生暖かいナメクジのような感触をただただ、受け入れた。ちなみに口内は雑菌の温床であり、唾って乾くとめちゃくちゃ臭い。

「ペッ…。なんのつもりだ、ボケが」

 口に入ったものを、これ見よがしに吐き捨てて問うた。壊疽はニヤニヤ笑いながら説明する。

「オレは、提督のことイヂめられればそれで良いんだけどね?木曾っち、提督ラブチュッチュなのにムッツリだから、こういうの出来ないの。だから、代わりにNE☆」

 木曾が私を……?そうか、そいつは困った。私は木曾に何も返してやれんじゃないか。

「へぇ?それ聞いても、何とも思わない?あんなイケメンに惚れられるとか超役得やん」

 思わない訳じゃない、が、こちらにも事情があるのだ。

「あっそ。ま、元々はね?今日は皆で協力して、木曾っちの恋をサポートしてやろうぜ的なエイプリルフールイベントだったワケよ。基地のピンチに颯爽と問題を解決する木曾っち!提督メロメロ、いっぱいちゅき、ゴーールイン、的なやつ。天さん発案ね」

 そもそも企画段階で破綻した計画であること以外は概ね納得した。バカの天龍はそこまでバカだったか。で、他の奴らは知っているのか?

「もちのろんろん。もろちんちんでしょ。知らないのは提督のみって寸法よん☆あと、敵襲云々も嘘」

 そしてそれに乗っかる本基地の構成員も皆が大馬鹿であるし、それに簡単に騙された私は最上級のバカデミー賞助演男優賞を拝受したわけだ。

「しかし、解せん。何だって貴様がそんな下らんことに乗っかるのだ」

 どちらかというと、人の幸せをハンマーで叩き壊して回るタイプだろうが、貴様。今回の場合、ある意味一番まともなのは壊疽であるが。

「うっふん!よくわかってる。最初はくだらないと思ったよ?木曾っちがなんでこんな不能のおっさん好きになるのかも理解不能だった」

 そこはほっといてやれヨ。趣味嗜好は人それぞれだ。

「木曾っちはさ。特別扱いでも良いんだけども、さ……。あんなの聞いたら、もう、ねぇ?盛り上げざるを得ないじゃない」

 な、何だ、気色わりぃ。下半身に顔を近づけるな。

「実は執務室に盗聴器があんだけどね」

 いや待て、ふざけんな。サラッととんでもないこと暴露しやがるコイツ。知らんぞそんなもん。一体何処に。

「みょこたんが前の基地のやつパクってきたんだって。いつでも誰でも提督のプライベート覗きほーだい」

 あんの、くそ阿婆擦れが。無事に脱出したら即刻掃除だ。草の根分けても探しだしてやる。

「はぁ……はぁ……ふふ。お千代がさ…言ってたじゃん?」

 奴は私の股間に頬擦りせんばかりのテンションだ。何だと言うんだ――千代田がどうした?

「提督には『まだ種がある』んでしょ?」

 眩暈がする。貴様あの色狂いの発言を真に受けたのか。

「木曾っち提督ラブ勢なワケ、でもオレが提督の初めて奪っちゃうワケ☆子ども作っちゃうワケ♡木曾っちは中で指くわえて見てるワケ(笑)……木曾っちどんな顔すると思う?興味あるよね。いやマジで。泣くかな?怒るかな……いっそ狂っちゃわないかなぁ!端正な顔がクシャってなるの、見ーてーみーたーいーのほぉー☆」

 バカデミー賞主演サイコ女優賞か貴様。要するに木曾の目の前で俺を襲って反応が見たい、と。そんなことのために、こんなハチャメチャイベントにのっかったのか?妙高と天龍が後ろをとられたのも貴様ならば理解できる。で、木曾に気をつかう作戦の性質上、私に真相を明らかにするのも憚られて、奴らは流れに身を任せていたわけだ。天龍が妙なけがの仕方をしていたこと、全員やたらと危機感が薄かったこと、諸々得心がいった。顔面にゼロ距離砲撃は控えろと言ったろうが馬鹿者。

「そ。味噌とか画素も結構焦ったみたいでね。作戦(笑)中だろうがなりふり構わず取りなしに入ったんだけど。どっかの誰かがさっさと通信切っちゃった☆いやはや、にしたって木曾っちの意気地無しっぷりは草生えたよ」

 まさか、あれか。さっきのあの謎発言は、愛の告白か?あくまで一般論だが「嫌いじゃない」で伝わる思いも無いと思う。というか、胃袋を握り潰すってなんだよ木曾。中学生でももうちょっとマトモな……いや、言うまい。木曾の心模様に気が回らなかった私の責任でもある。ああくそ、もう誰でもいい異常に気づけ私を助けろバカども。特に天龍、言い出しっぺの尻拭いくらいするがいい。

「まぁ、勝手に喚いてればイイヨ。じゃ、痛いようにするからネ?ええと?前立腺、だっけ。お、結構鍛えてるぅ……アハ、いっただき…まぁす♡」

 

「ちょぉっと待ったぁ!」

 

 バカデミー賞コメディ映画賞受賞者の千代田が部屋に踏み込んできた。

 

「提督の初めては!!私が奪うんだから!!!」

 

 いや、今は救いの女神と呼ぶべきだ。

 

「混 ぜ て よ!!!!」

 

 訂正。女神は女神でも、死神である。ふざけんな貴様、状況わかってんのか。壊疽は一瞬面食らったが、ゲラゲラ笑い始めた。

「ぶへははは。ざぁんねん。ま、いいよ?邪魔しないんなら。てか、オレもう辛抱堪らんのだけど。さぁさぁ」

「おっしゃあ、喜んでー!!!!!」

 貴様本当にいい加減にしておけよ、と千代田をなじりかけた瞬間。私は見た。

 

 乳の谷間から棒状の何かを取り出す千代田を。

 壊疽の背後でそれを振りかぶる千代田を。

 私に向けてバチコーン☆とウインクする千代田を。

 

 哀れ壊疽。奴にしては珍しく背後への警戒を怠っていた。ガスゥ、という惨い音がして、下手人は意識を手放した。

「ふふーん!」

 今回ばかりは助かった。それはそれとして、やりすぎでは?

「壊疽ちゃん止めるんだよ?こんくらいやんなきゃさ。艦娘だし、ただの鉄パイプだから大丈夫だって」

 よくここが判ったな、と言いかけて、言葉を引っ込めた。山城がいる――それ以上の説明は不要だ。というかお前、私のケツ狙ってただろうが。よくもまぁ、自制がきいたもんだ。

「むむ?ふ、ふ、ふ。提督ともあろう者が、忘れているとは、ね」

「ああん?」

 キメ顔の千代田が、私の顎をクイッ、とやった。

「私…無理やりスルの、嫌いだよ」

 なんだ、いつもの千代田か。だが不覚にもちょっとだけ、本当にちょっとだけカッコイイと思ってしまった。

「あ、そうだ。私のときはちゃんとローション使うからね?」

 よし、いつもの千代田だ。で、またウインクをバチコーン☆、と。その補足さえなければなぁ、お前。その「私のとき」とやらが来る予定はない。

 




よんでいただき、お詫びのしようもございません。
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