隻腕の狼、ヤーナムの地に潜む   作:澱粉麺

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番外・夢の狩人
存在しなかった世界:修羅の末路【上】


 

 

 

ヤーナム市街。

そして、夢の狩工房。

 

いつもの如く、その夢の狩人は使者の導きの元にて狩場へと行く。青褪めた血を得る為。そして、狩りを全うする為に。

 

人形に血の意志を捧げ、力とす。

それらを使者に捧げ、糧とす。

そしてまた、狩場へと赴く。

いつもの如し、夢の狩人の光景。

 

 

だがその時は何かがおかしかった。

 

眩暈う感覚。熱を帯びた感覚。何かが焼き焦げる香り。人が焼ける脂の臭いだけではない。全てが燃え盛っている、狩場の香り。

 

 

そして、異国の香り。

 

 

血に寄り、獣狩りの香の臭いと獣臭さが充満したヤーナムとは別の香りである。

その焔と焦臭の奥に、なんとか、その独特の匂いを嗅ぎつけることが出来た。

 

それは、ある狂った狩人から奪い取った、狩装束からする情緒と感覚を想起させる。

あれは確か、ヤマムラという男だったか。

 

 

 

紫色のランタンの前に目を開ける。

一面の火景色。ほんの少しだけ、微かに残る雪が、この世界が冬であった事を教える。

 

夢の狩人は、口を覆うスカーフを少しだけ緩めた。暑くて堪らない。

 

 

ここは何処だ。

 

それを突き止める為にも歩く。

手には、鉈と鋸を混ぜたような武器を持ち、もう片方の手には単純な構造の短銃を持って。

 

 

敵が、居ない。獣も居ない。動くものが居ない。生きているものが全て居ない。手に握りしめた鋸鉈を、だらんと静かに仕舞う。

 

 

生きて居られる筈もない身体の造形で暴れる獣や、流線的な姿をした化物、死なない狩人など、様々な異常に出くわした彼の脳には啓蒙が溜っている。

そのような彼をすら驚かしめ、新たな啓蒙となるような景色である。

おお、脳に蠢く感触が走る。

 

 

何もかもが動かない。

動くものは焔の揺めきと風のみ。

木すらも火に燃え、鳥や虫すらも居ない。煙すらも燃え尽くされた恐ろしい場だ。

 

 

本能か、何かしらの気配を感じたか。

狩人はより火の強い方へと向かっていく。

より強い方へ。より、強い方へ。

 

燃え盛る焔の、その更に猛る業火へ。

 

 

その先には、城らしきものがあった。

それは最早推察するしかないほど焼け落ち、変わり果てた木の屋代。その上背からきっと、元は城だったのではないか。そんな推察。

 

 

感じる。

びりびりとする程の匂い。

強者の匂い。死の匂い。

 

あくまで無表情のままに歩を進める。

スカーフの下にも、笑みなどは無い。

ただその啓蒙に満ちた脳味噌に、暗い使命感に似た悦びを感じて。

 

 

彼にはもう、青褪めた血などどうでも良かった。ただ狩りを全うする。全うする為に、どんな強敵であろうとも轢き潰す。

 

次第に、その殺す事こそが目的となっている事にも気付いているのだろうか。

 

 

 

「!」

 

 

気配を感じる。

 

その気配は、人ならざるようでいて、尚人らしい。そんな不思議なもの。これまで数知れず、人外と出逢って来た彼がしかし、初めて感じる感覚でも会った。

 

 

それは龍じみた雰囲気でありながら、なによりも人らしき様子。人でありながら、人に非ず。

 

目先の存在は、そのような無謬。ざんばらの髪に白い線が一本。手先はずたぼろに傷付き血が出ている。そしてその眼は、あらゆる地獄を見てきたかのように、暗く澱んでいた。

 

 

「…お主は…誰だ…?

まだ、この国に生きている者がいるとはな…」

 

 

まだ変声を迎えていない少年の声で、その龍は呟く。今にも泣き出しそうな童の声は、しかし大人びているようでもあった。

 

 

「…まだ命がある内に疾く逃げると良い。

あの者を斃そうなど、考えるな」

 

 

話しながら、彼は何かを諦めるように目を伏せる。全てを諦めてしまったように。

 

 

夢の狩人は知らない。この眼の前の少年が、竜の呪いを受けて死を忘れた存在であるという事を。不死の身体の存在である事を。

 

 

名を、竜胤の御子と言った。

 

 

 

「……それでも、往くというのか?」

 

 

尚、それでも歩く足を止めようとしない狩人に、御子がそう語りかける。

 

 

 

「…ならば、一つ。

あの者…『修羅』は、不死だ。

幾ら殺しても死ぬ事は無い」

 

 

御子は狩人に、持っている情報を吐露し始める。顔にはほんの少し、希望が抱かれてある。

 

得体の知れぬ輩ではある。だが、であるからこそ。此奴なら、何かを変えてくれるのでは無いかと。成し遂げるのではないか。

 

この月の香りのする異国人なれば、この地獄を、葦名として終わらせてくれるのではないかと。

 

 

 

「だが…もし幾度か倒したならば、また闘えるようになるまでは少しだけ時間がかかる筈だ」

 

「その隙に。奴が持っている大太刀の片方でいい。私の所に持ってきてくれないか」

 

 

 

はい、いいえ。

どちらでも答えることが出来る。

 

狩人は、素直にそれに頷く事にした。

まあ、断る理由も、ないだろう。

 

 

 

「おお、そうか…!

…ありがとう、異国の者よ」

 

 

龍の落胤は、それは嬉しそうに顔を歪めた。

そして、その黒炭塗れになった手をぎゅっと強く握りしめた。血が滲む程に。

 

 

 

「……頼む。

あやつを、殺してやってくれ……」

 

 

 

そうして、頭を下げる。

 

狩人は、何も言わずに立ち去る。

先に征む。

 

 

炎が燃え盛る更に先へ。

 

 

『修羅』。

不死身。

大太刀。

 

何が待ち受けているのか。

見当も付かないようであった。

だがそこに、確かな強敵が居ると言うことだけはわかった。それが自分の邪魔をするのだと。

 

ぎりぎり。壊れそうな程強く、ノコギリ鉈の取手を強く握り締める。

 

その強き感情は恐怖か、悦楽か、使命感か。

 

 

 

 

 

……

 

 

 

汗は、不思議とかかなかった。

それは身体が、汗をかくことすらも勿体無いと。生理現象に用いるエネルギーすらも、この先に有るであろう死闘に用いようと、無意識に動いているかのようであった。

 

籠った熱が、脳を溶かして行く。

啓蒙がじくじくと溜まっていく。

 

炎が上に立ち登るように、その葦名の城を登っていく。その度に焔は強く、熱くなっていく。

 

上に、更に上に。

焔を出す元となった者があるのだ。と。

 

 

がしぃん。ノコギリ鉈の変形する音。

血の結晶じみた装飾品が三つほど捩じ込まれてあるそれは、彼が墓をも暴き、力を求めたという事の証座である。それほどに、狂っている。

 

 

階段を登り切る。

そこには誰も居ない。

 

顔を上げれば、そこには燃え盛る足場がある。

夢の狩人は思った。

 

誘っているのだと。

 

ここから来る様に誘っている。

誘っている事に気付くような強者を。

我を討ち倒さんとする勇者を。

ただ闘争千万を求める狂者を。

 

それを、登る。

当然に熱さは感じた。だが内側に迸る獣性が、熱さも傷も、忘れさせた。

 

 

どくん。

どくん。

 

 

登った先は、天守閣であった。きっと絶景で有ったのだろう景色は、最早黒と、灰と、炭に汚れた橙色の炎にのみ支配されている。

 

そしてその先に、『其れ』は居た。

 

 

鼓動が早まる。息が速くなる。瞳孔が開く。

アドレナリンの噴出。血が滾る。

 

 

ゆっくりと、座って居た。

待ちかねたように、立ち上がりながら。

焔を迸らせながら。

 

 

それこそが、羅刹の御姿。

朱色の禍ツ神の御身。

そして、ある忍びの末路。

 

 

片方の腕は鉄で出来ている。

そのような手など、如何な絡繰であろうと動くはずが無い。だがそれは意思を持つかのように、自在に動いている。

 

両の腕に、大太刀を備え持つ。

片方は赤く、片方は、黒い。

刀に色などあろう筈が無い。だが幻惑か、錯覚か、その剣が纏う凶々しい気配は、妖しいまでの色を放っていた。

 

彼が主君に渡された楔は、もう手には無い。刀の名に込められた一片の慈悲すらも捨て去ったように。

 

 

 

 

…ここは、存在しなかった世界。

ある国が、一つの悪鬼により滅びた世界。

 

 

狼の名は、失った。

隻腕の狼ですら無い。

 

 

それは、ただの『修羅』であった。

 

 

 

夢の狩人は、血の滾りをそのまま鉈に込める。

 

獣狩りの夜が、始まる。

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

赤き大太刀と黒い大太刀が同時に、交差するように振われる。

 

それを狩人が前に飛び込み避ける。

瞬間、大太刀より墨をも思わせる斬撃が発破される。ばらばらに引き裂かれるようなもの。だが当たらねば意味は無い。

 

 

 

大太刀を振り切った隙に、狩人がその右手に握るノコギリ鉈を押し当てる。

そして、その鋸を、ぞるりと引き裂き切り刻む。胴体の肉ををごっそりと削いだ。

 

だが削いだその破片からは血では無く、代わりに溶鉄が溢れ出す。聖杯が置かれし地下を守る、番犬を思い出す。しかし、その炎の禍々しさは、あれの比では無い。

咄嗟にそれから退く。

 

 

刹那、修羅から刃が放たれる。それは大太刀ではなく、飛来する鋭利。燃え盛る手裏剣である。また後ろに引きながら避ける。

 

それを追い詰めるように、修羅が追い、切り込んでくる。恐るべき俊敏。

 

赤き大太刀が振われる。避けるが、掠る。

黒い大太刀。ざくりと当たる。狩人の悲鳴。

 

赤と黒、両方。振り下ろされる。

 

 

 

ばちん。

 

その音は、夢の狩人が裂けた音では無い。

彼が撃ち放った短銃の音である。

 

修羅が振るう両の腕の力は、その銃の撃ち込まれた衝撃で逆流する。恐るべき怪力が、彼自身を苛み、膝を着かせた。

 

 

狩人はその修羅に向かい、走る。

そして、鋸鉈を仕舞う。銃痕は浅い。だがその穴に、狩人は思い切り腕を捻り入れる。

 

 

びきびき、みちみち。肉が裂ける音。

 

ぶちぶちぶち。臓腑を捻り割いて、放った音。

それらが、連続して鳴った。

 

 

内臓攻撃。

 

内側を抉り取るそれは、先ほどまでと違い、確かに狩人の腕に鮮血が付いている。火では無く、ちゃんとした血肉が。

 

 

すん、と匂いを嗅いだ。

スカーフを越して口に入った返り血を舐めた。

 

 

ああ、なんだ。

ちゃんと、人の味じゃあないか。

ならばちゃんと死ぬだろう。

 

 

ぞくぞくとする感覚が、血の意志を取り戻させる。痛みすらも失わせるその感覚は、先程の太刀での一撃の傷をすら夢のように無くす。

 

リゲイン。

 

 

ずず、と修羅がゆっくりと立ち上がる。

その顔にあるものは苦悶でも悔しさでも無く、狂った敵と出逢えた、喜びそのものだった。

 

両腕に、刀を構える。

構えというよりは、無形。だらんとただ垂れている様な姿ではあったが、しかしその構えはなによりも恐ろしげであった。

 

ぐつ、ぐつ。

溶岩が煮えたぎるような笑い声。寡黙なままに、しかし確かに笑っている。

楽しいか。楽しいだろう。狩人が目を歪める。

 

 

 

暫くの硬直。

 

 

その硬直を解いた者は、狩人である。彼のステップは幽霊のように姿を溶かし、無形の背後を取る。その無防備な背中を狙い、みしみしと腕が鳴る程、力を溜めた大振りの撃を放つ。

 

 

が。

 

 

ガキィン。

 

 

は、と気付けば体勢を崩して居た。

狩人の首を刈らんと赤太刀が唸る。狩人はなんとか、前に踏み出しそれを避ける。

後ろに退くのではなく、前へと。それは彼が悍ましい獣の夜に学んだ生き延び方であった。

 

 

今のは何だ。何が起きた。

攻撃の瞬間、刀が閃いた。

瞬間、身を崩していたのだ。

 

修羅の護りは、護りの域をも越えて、そのまま相手の体幹という命綱を切り刻む技となっているのだ。そういう推測を立てる。

 

彼は、それが極めたヒトの技術の極地である事を知らない。知る由も、必要も無いが。

 

 

ならばどうする。

1つ。攻撃の隙のみを狙う。

2つ。飛道具に頼る。

そして3つ。関係無く、攻め立てる。

 

狩人は3つ目を選んだ。

 

 

思い立ったように、懐より血の臭いのする丸薬を手にし、一息に飲み込む。禁忌の薬、獣血の丸薬。それの効能が、身体に染み渡る。

 

鋸鉈を握る手に、万力が籠る。

その柄に、ヒビが入るほどに。

 

修羅はその光景を見ている。

かの弾きの為に、待ちの一手をしているわけではない。狩人の更なる変化を、深化を、虎視眈々と、待っているのだ。

 

 

ぞん。

再び、狩人が踏み込む。

鋸鉈による一撃。弾かれる。体勢を崩しながら、まだ振るう。また弾く。

 

「!」

 

驚愕は修羅のもの。

リーチが伸びた。鋸から、鉈の形態に変形しながらな攻撃は変則的にその威を伸ばし、そして開く機構が殊更に身体を裂く。

 

その隙を見逃さずに鋸鉈。弾く。まだ鋸鉈。弾く。鋸鉈、弾く。

鋸鉈。弾けない。

 

 

回転率だ。

修羅の刀はどちらとも大振りで、強力である分、近距離では取り回しが悪い。

その点、中距離と近距離を選び、それぞれ最適な武器の形に出来る仕込み武器は、その攻撃の速度をみるみると上げていく。

 

それの行き着く先は、『弾き』が間に合わない、という段階である。

 

 

幾度も撃ち合う最中、武器としての業物の度合いであれば大太刀…不死斬りの方がよほど上。ノコ鉈が破損してもおかしくはない。だが埋め込まれた血晶が、量産品にしかすぎぬそれを、不死斬りに並ぶ逸品としている。

 

 

どんどんと被弾が増えていく。

両腕にある二刀を弾きに用いとも間に合わぬ。それほどに速攻。そして速さに見合う、剛力。

 

痺れを切らした様に、修羅が太刀を振り抜いた。普通の敵なれば相手を切っていたであろうそれは、しかし虚しく空を切る。

 

 

 

危。

 

ひたりと、鋸が首筋に当てられていた。

 

「……」

 

 

狩人は、それを思い切り押し引いた。

 

血が流れ落ちていく。ぎざぎざの刃は首の繊維をぼろぼろに引き裂いた。

首の半ばまで千切れ、血が失われていく。

 

修羅が、膝を突き、倒れた。

 

 

 

(………)

 

 

 

狩人が、背を向ける。

思ったよりも呆気がなかったと。

 

 

 

 

 

 

 

 

回生。

 

 

 

 

 

 

「!」

 

桜色の光が夢の狩人の目の端に映った。

瞬間に、鋸鉈を構える。その判断だけが、彼の命を救った。

 

ぶん、と黒墨じみたオーラが狩帽子を掠める。振るった鉈が当たらなければ、そのまま素っ首を落とされていた軌道であった。

 

 

修羅が、立っている。

首の傷は、既に繋がっている。先程つけた傷のほぼ全てが、もう塞がっている。それは炎で焼き塞いだようなものでもない。

 

 

不死。不死身。成る程。

御子が話していたのはこの事か!

 

 

修羅が黒い不死斬りを、畳に突き刺す。

そして赤太刀を両腕で持つ。

そして構えた。今までの様な無形の構えではなく、顔の横に太刀を構えて。

 

それまでが本気で無かった訳では無い。ただ、それでも、そうだ。

今は、先程の修羅よりも確実に強いと分かる。

 

 

 

そしてまた、状況は悪い。

狩人は右手にある鋸鉈を捨てる。先程の黒い不死斬りの一撃を防いだ際に、それは壊されてしまったのだ。ただ弾いた、それだけで破損。それは爆発的なまでの威力を表す。

 

 

先程までの武器の代わりに。

装束の下より、細身の直剣を取り出す。そしてまた、背負っていた重厚なる鉄鞘にその剣をがちりと嵌める。瞬間にして剣は、特大と言っても良い、質量で押しつぶす大剣と化した。

 

 

それは、真の月光よりも狩人を導いた聖なる剣。欺瞞の聖剣、ルドウイークの聖剣。

その剣にも当然の如く、血の結晶が3つ程捩じ込まれ、大の付く業物となっている。

 

 

だが、武器の良し悪しの問題ではない。

相性の問題。先程は片手で俊敏に振るうことが出来る鋸であったからこそ防御を崩せた。

しかし今のこの聖剣は、一振りが重い。かといって直剣の状態では威力が足りない。

 

ならばどうする。一刀に下す。

弾かれぬように。

 

 

ぐお。

思考を止めるような速度で修羅が参る。赤太刀の一撃は、両腕で持つ分、先ほどよりも力強く、そして強烈。

 

1、2、3回。

それぞれ避けて背後に回る。

しかしその背後にもすぐに刃が来る。

 

なんとか回避をするが、狩装束が避け切れずに裂ける。元より、獣の前には無力な防御性ではあるのだが。

 

 

す。刀を振り上げる。そのままに振り下ろし、踏み込む。

瞬間、炎が足元よりまろび出し、それを纏いて横に薙ぎ払う。

焔を纏いし十文字は、二の手要らずである。

 

それをまた回り込むように避けるが、その余波は天守閣の地を、そして掠めただけの短銃を破壊した。

 

 

 

…だが、今だ。この隙。大技の後のこの隙に万力を込め、一撃を突き刺す。

 

 

狩人の狩装束が、内側からの膨張にみちりと音を立てる。筋肉の膨張による繊維の悲鳴。

 

 

流星の如し。

鉄塊は、狩人の尋常ならざる膂力に思い切り突き出され、その切先を破壊そのものに変える。

 

 

弾く事が難しいであろう、点である突き。

聖剣による、大質量の一撃。

それは確かに『弾き』にくくはある。

 

 

 

だが、それは悪手。

 

 

 

ずん。

突きは、当たらず。見切られ、踏み躙る。修羅は突きを前に飛び避け、剣を支配したのだ。

 

 

 

「…!」

 

 

そしてまた、狩人が体勢を崩す。

 

だが、まずさは先程の比では無い。

そうだ、今度はもう、避ける事が出来ない。

剣から手を離す、そんな簡単な事すら、この刹那の戦いにはあまりにもスロウリィ。

 

 

剣を踏みしだき。とん、と華麗に上に跳躍。しながら、胸部から腹部に斬傷。

 

斬られ、引き攣るように背を伸ばした狩人の身体を、赤き刀が背後から心臓を刺し貫いた。

 

影落とし。

 

 

 

だがまだ狩人は生きている。

その刃を掴もうとする。

 

 

しかし、修羅の技もそこで終わりでは無かった。

 

刀に、再び朱墨じみた奔流が纏わりつく。

…狩人の心臓に、刺さったまま。

 

 

 

「………ッ!」

 

 

夢の狩人が声にならない慟哭をあげる。

掠るだけで鋸鉈が壊れるような一撃。それが今、体内に発せられようもしているのだ。

 

 

ぞるり。

心の臓から、薙ぎ払われる。

徹底的なまでに、もう一度。

力の余波が、天守の空気を揺るがした。

 

 

 

狩人の身体は、最早、身体というのも不適切。

それほど無惨に、四散していた。

 

 

 

 

 

YOU DIED.

 

 

 

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