ストライクウィッチーズ 空戦魔導士の追憶   作:水無月 双葉(失語症)

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続いてしまいました。
のんびりと更新していきますので、宜しければお付き合い下さい。



第10話 進むために

「無事扶桑からの増援と補給が届いた様だが」

 

 広く無機質な室内、その壇上に設けられた重厚な議長机に用意されたシンプルだが上質な椅子に座って居る初老の男性が、穏やかな声で話す。

 

「坂本少佐及び補充員二名、宮藤芳佳、北条輝が着任しました。通常通り軍曹待遇としております」

 

 凛とした美しい女性士官の声が、無機質な室内を彩る。

 

「戦力の強化はありがたい事だ」

 

 初老の男性が口元を綻ばせた。

 

「それでだ、この北条とか言うのは本当に男なのか」

 

 初老の男性の隣に座っていた、口元に髭を蓄えた神経質そうな男性が咎める様に訊ねる。

 

「はい、間違いありません」

 

「そうか、ならその北条ってのは少尉待遇としろ」

 

「そんな無茶な……指令、軍紀では通常軍曹待遇の筈です」

 

 蔑む様な目線で女性士官を見ながら軍司令、トレヴァー・マロニー空軍大将は口元を歪めた。

 

「それは君達ウィッチの関してだ、男性の適応では無い。世界初の男性魔法使い、私としては少佐待遇でもと思っているのだ、しかし、君達の立場も考えて少尉とするのだよ、ヴィルケ中佐」

 

 かなりの嫌味を含ませた言い方のマロニー大将に対して、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐は姿勢を崩すことなく言い返す。

 

「それでは軍紀が乱れます」

 

「私は君達の為に言っているのだよ、中佐。不服ならその男、こちらで引き取るが? 世界初の男性魔法使いだ、存分に役に立って貰わねばな」

 

 二人のやり取りを聞いていた初頭の男性が、マロニー大将に一度視線を向ける。

 

「マロニー大将もそれぐらいで、ヴィルケ中佐の気持ちも分かる。北条だったかな? その男は世界初の男性魔法使いなのだろう、そんな男が軍曹程度では格好がつかんのだよ」

 

 ミーナは一瞬床に視線を動かすと、気付かれない様に小さく息を吐いた。

 

「すまんなヴィルケ中佐、少々厄介な話だが君の部隊だからその男を任せられるんだ、他の部隊だったら正直許可は出せん、ある程度君の部隊の優遇もする、どうか納得してくれんか」

 

「分かりました。北条輝は少尉待遇とします。これ以上現場を無視した話はお控え下さい」

 

 ヴィルケ中佐の言葉にマロニー大将は馬鹿にした様に口元に笑みを浮かべると、隣に座っている初老の男性に目線を向ける。

 

「首相も随分と甘いですな。しかし最近、ネウロイの襲来が不定期になっているそうじゃないか」

 

 マロニー大将は首相に一言言うと、ヴィルケ中佐に顔を向け呆れた様な声を上げ、大袈裟に溜め息を付いて見せた。

 

「確かに、今までの週一回のパターンから徐々に間隔が狭まって来てます」

 

 直立不動の体勢のヴィルケ中佐は意に介した様子も無く言い返す。

 

「今のままで行く訳には如何だろうが」

 

「これ以上現場を無視した空論を押し付けられるのは、先程お断りした筈ですが」

 

 マロニー大将はヴィルケ中佐の言葉に眉を寄せると、不機嫌さを隠すことなく顔をしかめた。睨み合う二人に対し首相が咳払いをし空気を変えると出来るだけ穏やかな声色を出す。

 

「結果が出せれば良いのだよ」

 

 首相のヴィルケ中佐を見る目線は穏やかだ。ヴィルケ中佐は彼が首相でいる間はそうそうマロニー大将の好きにはさせないであろうと、胸を撫で下ろす。

 

「ご安心ください。ブリタニアの、いいえ、世界の空は私達ウィッチーズが守って見せます」

 

 確固たる信念を持ったヴィルケ中佐は、この時初めて柔らかい表情を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は少しだけ遡る、それは坂本達三人が基地に着いた直後の時間である。

 

 

 

 考え事をしながら基地内を歩いていると、廊下の向こうにチャコールグレーの制服に焦げ茶色の髪を二つ結びにした女性が通り掛り、俺は急いで後を追った。

 

「すみません」

 

 後ろから呼びとめると、その女性は振り向くと同時に俺を睨みつける。

 

「……貴様、あぁ、坂本少佐が連れて来た……」

 

 敵意むき出しのその表情に、俺は出来るだけ表情を動かさない様に心掛けた。

 

「坂本少佐と扶桑から来ました、北条輝と言います」

 

「……カールスラント空軍、ゲルトルート・バルクホルン大尉だ」

 

 予想外の高位の方に、俺はちょっとだけ背筋を伸ばす。

 

「失礼しました大尉。すみませんが基地司令と坂本少佐に面会がしたいのですが、如何すればよろしいでしょう」

 

「着いて来い」

 

 それだけ言うと、バルクホルン大尉は歩き出した。俺は慌てて後を追う、暫く歩くと重厚な造りの両開きの扉の前に連れて来られバルクホルン大尉は軽くノックをすると、返事も聞かずに扉を開けた。

 

「中佐、面会だ」

 

 バルクホルン大尉は中の人物にそれだけ伝えると、俺を見て首だけで入れとジェスチャーをする、男の魔法使いだから異端視されてもしょうがないと思いつつも少しだけ寂しを感じる。

 

「失礼します」

 

「何だ? 北条」

 

 室内に入るなり坂本少佐が不思議そうに声を掛けてくる、いつもと変わらないその態度を嬉しく感じた。

 

「此処の指令と少佐に話さないといけない事があるので、たまたま出会えた大尉に連れて来て貰いました」

 

 椅子に座っていた、やや赤みがかった明るい茶色の髪を長髪にした穏やかな雰囲気を持った女性が立ちあがる。

 

「美緒から話は聞いているわ。私はミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐です、此処の指令をしています」

 

 ミーナ中佐は名前を名乗ると、柔らかく微笑む。

 

「それで、話しと言うのは何なのかしら」

 

「中佐、私は部屋から出ようか」

 

 ミーナ中佐の言葉を遮る様にバルクホルン大尉が声を掛ける。

 

「北条さん、でしたね。トゥルーデ、バルクホルン大尉は此処のナンバースリーになります。同席させますが構いませんね」

 

「大丈夫です、後で中佐が話す手間が省けますので」

 

 俺の言葉を合図にバルクホルン大尉がミーナ中佐の隣に並び、三人の圧に俺は少し誤ったかなと後悔を始めた。

 

「では、北条、聞かせて貰おうか」

 

 そう言った坂本少佐の圧が一番恐ろしく感じ、俺は覚悟を決める。

 

「俺……自分の事です」

 

 一人称を言い直した俺に、ミーナ中佐が小さく吹き出した。

 

「俺。で構いませんよ、その方が話しやすいのでしょう」

 

「ありがとうございます、かなり荒唐無稽で信じがたい話をします、ですが、俺は嘘は絶対に話しません、信じて下さい」

 

 全員を一度見渡すと、坂本少佐の眉が少し寄っていた。

 

「俺は扶桑の人間ではありません、扶桑によく似た日本という国から神隠しに合ってこちらに来ました」

 

「北条、お前記憶が戻ったのか……いや、記憶喪失の振りをしていたのか」

 

 いきなり核心を付いて来た坂本少佐に、俺は言葉を失いかける。

 

「はい、信じて貰えるとは思えませんでしたし、記憶喪失と勘違いしてくれたので利用しました」

 

「北条さん、今になって、いえ、何故このタイミングで話す気になったのか、理由を教えて貰えるかしら」

 

 落ち着かないのだろうか、ミーナ中佐が少し眉間に皺をよせ人差し指で机を何度も叩く。

 

「坂本少佐は得体の知れない俺を信じてくれた、それを知った上で中佐が受け入れてくれた事、そして何よりこれから命を預け合う仲間達に真実を知って欲しかったからです」

 

「北条、お前と私は海軍だから、少佐は付けなくて良いぞ」

 

 豪快に笑いながら坂本少佐が言い切り、ミーナ中佐に助けを求める様に視線を向けたらにこやかな顔で頷いたので、俺は観念する。

 

「では、改めまして。ミーナ中佐、坂本……さん、バルクホルン大尉、話を聞いて下さい」

 

 それから俺は、思い付くだけの言葉を並べて行った、西暦2020年から来た事や住んでいた世界の歴史や生活、俺の魔法はこちらに来た時に与えられたという事実、最初全く信じてくれなかったバルクホルン大尉だが、持参したスマホでバルクホルン大尉の写真や動画を撮影して、直ぐに見せたら顔を引きつらせていた。

 

 何より三人が驚いたのはタッチパネルとピンチインとピンチアウトで画像の大きさが変わった事だった、これはチャンスと思いミーナ中佐と坂本少佐の写真と動画も撮影して二人に見せたら少し照れていた、俺はすかさず撮った動画などは隠しフォルダに無言で隠す事にする。

 

 そんな話の中、三人の表情が曇ったのが、俺が住んでいた世界にはウィッチが居ない事と魔法の存在が無い事、そして人間同士で戦争を行った事がある話だ。

 

 兵器とかについては落ち着いたら改めて話そうかと思いこの場では敢て話さなかったし、ミーナ中佐達も訊ねないでいてくれた。

 

 ミーナ中佐からはこれから軍司令部に行く予定だったので先に話して貰えて助かった事と、ここでの話は四人の秘密にすることを提案され記憶喪失の振りを続ける事になった。

 

 帰り際、廊下でバルクホルン大尉に俺の世界のカールスラントに当たるドイツの事を聞かれ、ドイツに旅行に行った事があったのでニュルンベルクの街並みとカイザーブルク城の写真を見せたらスマホを抱きしめてそっくりだと涙を流し蹲ってしまったので、俺は落ち着くまで背中を摩り続けた。

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