ストライクウィッチーズ 空戦魔導士の追憶   作:水無月 双葉(失語症)

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第2話 何気ない日常からの……

「ただいま戻りました」

 

 籠に入った野菜の山を持ち直して裏口から入るとタイミング良く大先生を見つけた。

 

「おかえり、輝」

 

「大先生ただいま戻りました、書類は無事に局に届けて来ました、帰り道に山川の小父さんに捉まって畑仕事を手伝わされました、で、お土産です」

 

 大先生が籠の野菜をひとつ掴むと満足そうに頷く、因みに大先生とは芳佳ちゃんの祖母の芳子さんの呼び方で、母親の清佳さんは先生と呼んでいる。

 

「今年も良い出来だね、何時もの所に置いといておくれ」

 

「はい、分かりました」

 

「ただいまー」

 

 大先生と別れて台所に入ると同時に元気な声が聞こえてパタパタと走る音が聞こえる。

 

「輝さん、ただいま」

 

「芳佳ちゃんおかえり、廊下走っているとまた大先生に怒られるよ」

 

 俺の言葉に芳佳ちゃんはうへぇと言う顔をした。

 

「あはは、おばあちゃん厳しいからなぁ」

 

「分かっているなら止めなよ」

 

 笑って誤魔化している芳佳ちゃんに呆れながらも桶に張ってある水で胡瓜を洗うと芳佳ちゃんに放って投げる、ワタワタしながらも受け取った芳佳ちゃんは嬉しそうに胡瓜を頬張りだす。

 

「さて、宿題を見てあげるからやっつけちゃおう」

 

 芳佳ちゃんがまたうへぇと顔を歪めるが首根っこを捕まえて部屋に引きずって行く。

 

「ちょ、ちょっと輝さん、ちゃんと歩きますから、歩きますから~」

 

 

 

 

 

「芳佳ちゃん、湯加減大丈夫?」

 

「丁度良いですよ」

 

 風呂釜の薪を調整しながら少し大きな声で聞くと中から機嫌の良い声が帰ってきた。

 

 コレも俺の日課のひとつ風呂炊きだ、入る順番は大先生、先生、芳佳ちゃんで最後に俺、この順番に落ち着くまで色々とあったが片付けもあるから最後にして貰っている、薪って結構におい有るからね、元々風呂は温めだったし特に問題は感じていない、最初は壁一枚向こうには一糸纏わぬ芳佳ちゃんが……などど想像もしたが3日で慣れた、後パンツ丸出しにも、いや、ズボンらしい、因みに芳佳ちゃんはスク水だ、そう、スク水だった。重要だから二度言った。

 

 

 

 

 

 今、俺は山川の小父さんが運転している耕耘機が引っ張る荷台に座っている、西瓜の収穫の手伝いの帰りなんだが、何度か芳佳ちゃんが通う横須賀第四女子中学校の生徒とすれ違っているので、上手く行けば学校から帰る芳佳ちゃん達を拾えるかもしれない。

 

 そんな事をぼんやりと考えていたら、耕耘機の速度が少し落ちたので、体を捻り道の先に目線を向けた。

 

「おーい! 美千子」

 

「芳佳ちゃん!」

 

 山川の小父さんとほぼ同時に声を上げると、二人はこちらを振り返り全身を使って手を振ってくる。

 

 荷台の西瓜を少し積み直して二人が座るスペースを作り、自分は少し後ろに座った。

 

 授業やクラスでの噂など取り留めの無い話に花を咲かす二人の会話を何となく耳にしながら軍港に目を向けると、巨大な空母と数隻の駆逐艦? が停泊していた、こんな光景を見る度に好きな人が見たら大興奮なんだろうなと頭の片隅で考える。

 

「赤城か? アレって」

 

 俺の呟きに美千子ちゃんが会話を中断し、軍港に目を向けると少し何かを考えだした。

 

「入港した軍艦ですね、新聞に出てましたよ」

 

「戦争の船だね……嫌だな」

 

 俺達の会話を聞いた芳佳ちゃんが眉間に皺を寄せ辛そうに呟く。

 

「お父さんの事?」

 

 美千子ちゃんの言葉に芳佳ちゃんは小さく頷いた。

 

「うん、お父さんが行っちゃったのは、私が六歳のころだったの……」

 

 芳佳ちゃんはお腹の前で指を組むと当時の事を思い出しているのだろう、普段の快活な表情はなりを潜め、口を真一文字にきつく閉じた。

 

「三年後に戻って来たのは鞄一つ分の遺品と死亡通知……軍の機密だからって亡くなった理由も場所も教えてくれなかった……だけど、ひとつだけ分かっているのは、戦争が無かったらお父さんは死ななかったって事」

 

 芳佳ちゃんは六歳の頃からずっと父親の事を思っているのだろう、あの小さな体で我慢して受け入れて今を必死に生きている……掛けたい言葉はいくらでもある、でも、俺はそれを口にする勇気を持ち合わせていなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 少し離れた山道に一台の小型自動車が止まっていた、見る人間が見れば直ぐに分かる三人乗りのその自動車は、扶桑皇国陸軍の指示の元に作られた車両である、その証拠に一人の若い男性兵士が双眼鏡を使い眼下を確認していた。

 

「あの少女ですか?」

 

「あぁ……あれが宮藤芳佳だ」

 

 男性兵の呟きに、後部席に座っていた年若い女性士官は確認する事無く言い切った。

 

「どう見てもごく普通の女学生ですね」

 

 男性兵の言葉に、女性士官は手元の資料に目を落とす。

 

「学業成績は最近目まぐるしく成績を伸ばし上の中、運動は中の中、特技は……料理か……」

 

「本当に有力候補なんでしょうか……なっ!」

 

 いきなり驚きの声を上げて、男性兵は目から双眼鏡を外し身を縮めた。

 

「どうした? 土方」

 

 常に沈着冷静な従兵が驚きの声を上げたので、女性士官は眉を寄せる。

 

「荷台に座っていた男性と双眼鏡越しですが目が合いました、気付かれたかもしれません」

 

「何?」

 

 女性士官は車から降りると、土方と呼ばれた男性兵の隣に立つと荷台に視線を向けた。

 

「あの男か」

 

 荷台の上から周りを確認していた男は首を傾げると、西瓜に肘を掛け軍港に顔を向け様としていた。

 

「確かに気にしている様子は、土方伏せろ」

 

 言葉を掛けながら身を伏せた女性士官を土方は顔を見合わせる。

 

「坂本少佐、気付かれて居ますね」

 

「あぁ……何者だ、あの男」

 

 土方から資料を受け取った坂本は資料の頁をめくり出す。

 

「この男か……ここ数か月前に居候を始めた男で、診療所の小間使い的な事をしながら宮藤の勉学を見ているのか……他には……記憶喪失だと、推定年齢は17か8……出自などの肝心な事は記憶が無い……か、随分と都合の良い話だ」

 

 坂本が吐き捨てるのと同時に急ブレーキの音が響き渡り何かが盛大にぶつかる音が木霊した。

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