Return to ZERO   作:ジェラール_

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ウルトラマンZがウルトラ面白いので初投稿です。

完全な自己満足の産物ですが、よろしければお付き合いください。


おはよう283プロ

 出勤してからわずか三秒後の出来事だった。視界いっぱいに広がる文字の群れと、鼻をくすぐる紙とインクのにおい。何事かと一歩引いてみれば、「してやったり」と言わんばかりの満面の笑み。唯一の同僚である事務員がにこにこ笑顔で差し出してきた週刊誌には、こんな風に書かれていた。

 

『283プロダクション。

 

 アイドル跋扈する芸能界戦国時代において隼のごとき速度で業界に突入した新興プロダクションだ。立ち上がり当初は所属アイドルが一人しかいなかったにも関わらず、運がよかったのか、それとも彼女のプロデューサーがよほど有能だったのか、あるいは業界にもともと覚えがあったのか。新人アイドルの頂点を決める『W.I.N.G』にて見事に優勝をつかみ、以降も優れたアイドルを輩出している今最も勢いのある事務所の一つである(現在四名のアイドルが所属しているが、彼女たちを預かるプロデューサーは一人のみだという。事務員はアルバイトであるとのうわさもあるが真偽は不明だ)――』

 

「間違ってないのが笑えないよなぁ」

 

 週刊誌をテーブルに放り投げ、『四名のアイドルを預かるプロデューサー』であるぼくはぐっと伸びをする。めきごき、とちょっと不安になるような音が鳴った。運動不足ですか~、とからかってくる事務員を適当にあしらって、ぼくは『羽丘零斗』と書かれている自分のデスクへと向かう。アイドル達の知名度や人気も上がってきて、嬉しいことに仕事は山積みだ。嬉しくはあるがさっさと済ませてしまいたかった。

 

「俺が運動不足なら世の中の人たちはみんなナマケモノも同然だぞ、七草」

 

「あら、そうですか~? それは失礼しました~」

 

 七草はづきは283プロ唯一の事務員(アルバイト)であり、ダンス、ボイス、ビジュアルトレーニングのトレーナーも務める才女だ。なぜアルバイトで居続けているのかはわからないが、きっと彼女なりの理由があるのだろう・・・単純に、ここの給料がよくないからかもしれないが。いくら勢いがあるからとはいえ、そうやすやすと給与が上がるわけではない。彼女の家は大家族であり、少しでも家計の助けになればといくつものバイトを掛け持ちしていると聞く。ひとつの仕事に絞ることは、最初から考えていないのかもしれない。

 

 「誰かさんが養ってくれれば、私もここ一本に絞れるんですけど~」

 

 「馬鹿言え。そんな気もないくせに年上をからかうんじゃねえよ」

 

 軽口を飛ばしあう。ぼくたちはお互いに冗談を言い合える気安い間柄だった。劇的に忙しい日々の中、遠慮のない会話はプラスに働いている。ぼくにとっては特に。仕事の仕方という意味でもそうだが、三年前から続く苦しい日々が、少しでも和らぐように感じるから。

 

 「む~、乙女の純情を疑うなんてよくないと思いますよ、羽丘さん」

 

 「そう思ってほしいなら普段の言動と行いを正すんだな。乙女は事務所の床に突っ伏して寝たりしない」

 

 「そう思うのは羽丘さんが乙女の生態を知らないからですよ~」

 

 全くもって中身のない会話だが、これが意外と仕事を促進させてくれる。仕事に集中しろ、と怒られるかもしれないが、これでもきっちりと仕事は片付いているのだ。ぼくは生まれついてのおしゃべり野郎なので、デスクワーク中は口を動かしているほうが集中できる。業界の先輩には「変わってるな」「よく雑談と仕事を並行できるな」と言われたが、すでに自分のワークスタイルとして確立しているので変えるつもりはない。

 

 書類とメールの山を切り崩していく。TV番組への出演、ラジオのMC、地域PRイベントへの出演依頼、雑誌のインタビュー、ドラマのオーディション、エトセトラ、エトセトラ。仕事とあれば何でもござれ、というわけにはもちろんいかない。業界には他人の失敗や不幸をことさらに喜ぶ奴、個人を悪し様に表現しようと躍起になっている奴、そしてそれら「スキャンダル」というコンテンツによって金を稼ごうと目論む奴がごまんと存在する。プロデューサーというのはアイドルの「今」と「未来」を預かる仕事だ。人生において失敗というものは経験せねばならないことだが、それはあくまでアイドル自身と、ぼくが選択した結果として存在しなければならない。間違っても、彼女たちを他人の悪意によって傷つけさせるわけにはいかない。星の数ほどある仕事の中から、「彼女たちにとってプラスになるであろう仕事」をピックアップし、そのうえで一人一人の個性や性格を考慮しつつ振り分けていく。ほんの少しでも気を抜くのは、ぼくを信じてくれているアイドルたちとその家族、彼女たちを応援してくれるファンの方々に対し失礼にあたるだろう。たった四人、されど四人。そのぶんの人生がぼくの双肩に乗っていると考えれば、気も引き締まろうというものだ。

 

 やれ今期の各球団の成績がどうの、やれ今の流行がどうの、やれアイドルたちの評判はどうのと七草としゃべりながら仕事をやっつけていると、「おはようございまぁす」という猫なで声が聞こえた。被り物の声。この事務所で開口一番そんなものを使うのは一人しかいない。

 

「おう、おはよう冬優子。今日も早いな、一番乗りだ」

 

 ぼくがそう言うと、挨拶の主は露骨に嫌そうな顔をした。

 

「・・・はづきさんがいる時はふゆって呼んでって、いつも言ってるでしょ」

 

「お気になさらず~」

 

「ふゆが気にするんですけど・・・」

 

 ほんとにもう・・・とぼやきながら、黛冬優子はレッスンルームの鍵を持っていく。283プロダクションでは土曜の朝六時ごろになるといつも見られる光景だった。

 

「冬優子ちゃん、いつも早いですねぇ」

 

「冬優子は人一倍の努力家だからな」

 

「ふふ、よくご存じなんですね~」

 

「あいつは俺が最初に担当したアイドルだぞ。知らないことなんてあるもんか。何年一緒にやってきたと思ってる。例えばな・・・」

 

「ちょっと! 聞こえてるわよ! 恥ずかしいからやめてったら!」

 

 冬優子のお叱りを受けたのでほどほどに切り上げることにする。そろそろ社会が目を覚ます頃合いだ。案件というのは早ければ早いほどいいのだと誰かが言っていた。それに倣うべく、ぼくは再びモニターと向かい合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで」眼鏡の奥の鋭い目を細め、初老の男性は「スーツ」を検める。「こいつはもう動かせるのか」

 

「ええ、中に人が入りさえすればね」

 

 少し白髪の目立つ男性が応じる。彼はつつ、と「スーツ」を指で撫で、その出来栄えに満足したような笑みを浮かべた。対する初老の男性のほうは、やや不安が残るといったふうだった。

 

「しかし、もう三年経つ。彼の身体も、大なり小なり変化しているだろう」

 

「ご心配なく。零斗の身体データはもらっていますから。それに、今度実際に着てもらう予定ですよ」

 

「ほう」初老の男性が感心したように頷いた。

 

「そいつはいい。データだけでは細部の調整ができないからな」

 

「本当に。しかし、あんな大けがからたった三年で復帰してくるとは・・・やはり彼は類稀な努力家だ」

 

 まるで父が子を慈しむような笑みを浮かべる白髪の男性。初老の男性も彼に同意するように大きく頷いた。

 

「そうだな・・・。ともあれ、我々がすべきことはこのスーツを彼と共に完成させることと、何よりも羽丘くんの帰還を祝福することだ。このスーツでもってな」

 

 再度「スーツ」に目をやる。銀と赤と青。鋭くはあるがどこか柔らかさも感じさせる目つき、「父」譲りのマッシブな造形。頭部に二本備えられたスラッガー。きっと誰もが知っている、光の国の新世代(ニュージェネレーション)を牽引する若き最強戦士。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウルトラマンゼロ。そのアクション用のスーツが、相棒――羽丘零斗を待つかのようにたたずんでいた。

 




次回の投稿は一週間後です(鋼の意志)

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