Return to ZERO   作:ジェラール_

2 / 9
前回の続き。短めです。

イメージ的には30分番組のBパート。

それでは今回もお付き合いください。


おはよう283プロ②

 283プロには現在四名のアイドルが所属している。そのうち二人が高校生であるので、土曜に朝からレッスンに来るのは冬優子ともう一人。・・・なのだが、もう11時を回っている。ここまで遅くなるのは比較的珍しい。いつもならば冬優子とじゃれあい始めるくらいの時間なのだが、今日は違うようだ。なにか彼女が興味をひかれるような面白いことでもあったのだろうか。芹沢あさひの行動は基本的に彼女の中にある感受性や論理に基づいているから予測はできないが、ある程度予想することはできる。さて今日は何が飛び出すのかな、と思っていると、なかなかの勢いでドアが開け放たれた。小柄な銀髪の少女が、目を輝かせて飛び出してくる。あさひはぼくを見るや否や挨拶もそこそこに駆け寄ってきた。

 

「おはよっす! プロデューサーさん!」

 

「おー、おはようあさひ。なんか面白いものでもあったか?」

 

 そうなんすよ! と興奮を抑えきれない様子のあさひが手にした紙袋の中から取り出したのは、ぼくにとっては見慣れた何の変哲もないソフビ人形。銀と赤のツートンカラー。胸に輝く菱形のカラータイマー。左腕に装着されたブレスレット。『メビウス』と呼ばれるウルトラ戦士が、あさひの手の中からぼくを見つめていた。まさかこんなところで「再会」するとは露ほども思っていなかったので、ぼくは声を抑えることができなかった。幸い、あさひはメビウスに夢中でぼくの動揺には気づいていないようだった。彼女はキラキラした屈託のない笑顔のまま、ぼくの眼前に人形を突き出す。ウルトラソフビシリーズでメビウスが商品化されたのは2013年が最新だった気がするが、思っていた以上に良くできている。体の模様やメビウスブレスの意匠など、とても1000円以下で手に入るフィギュアとは思えない。動揺が感心に上書きされていく。

 

「見てくださいこのキャラ! かっこよくないっすか!?」

 

「ああ、そうだな。しかしメビウスか、懐かしいなぁ。最後に見たのは三年前のフェスだったっけな」

 

「メビウス? これ、メビウスっていうんすね。初めて見るキャラクターだったからつい買っちゃったんすよ。ほかにもほら、見てほしいっす! 見たことないキャラとモンスターがいっぱい!」

 

「えっ・・・」

 

 「初めて見る」「見たことない」という言葉に、再び動揺がぼくを襲う。『ウルトラマンメビウス』が放送開始したのがあさひの生まれた年だったんだからそりゃ見てるわけないよなあ、という冷静な心と、いやそんなに昔の作品だなんて嘘だろ、終わったのついこないだじゃないのか、という現実から目を背けようとする心が混ざり合ってとっ散らかっていく。そうして感情の暴風に見舞われた心を立て直すのにたっぷり十秒かかった。メビウスはわりかし新しいほうの作品だと思っていたのだが、よくよく考えてみれば現行の『ウルトラマンタイガ』はニュージェネレーション7作目なわけで、『メビウス』放送終了から実に十三年近く経っている。ちょうど目の前で首をかしげているあさひがそうであるように、赤ん坊が中学生になるくらいの時間だ。まったくもって新しくはないという事実にぼくは改めて愕然とする。なんてこった。そういえばあの頃ウルトラマンの主題歌、挿入歌といえばProject D.M.Mだったが、今はボイジャーに代替わりしている(ぼくはどちらも好きだ)。・・・自分が年を取ったというのを実感する。いや、まだ大丈夫だろう。まだ二十七歳だし。いけるし。

 

「プロデューサーさん? どうかしたっすか?」

 

「あーいやなんでもねえ。俺もおじさんになったなーって思ってただけだから」

 

「・・・? プロデューサーさんはおじさんじゃないっすよ?」

 

「・・・あー、ありがとな。ほれ、レッスンしに来たんだろ。冬優子が待ってるから行ってやりな」

 

「ほんとっすか! 冬優子ちゃーん!」

 

 ちょっと涙が出そうになったのであさひを冬優子に押し付けることにした。あさひはああ言ってくれたが、どんなに取り繕ったところでぼくはもうアラサーのおじさんなのだ。冬優子の嫌そうな顔が目に浮かぶが、若い子の相手は若い子に任せよう。それにそろそろ、愛依と灯織の授業が終わる頃合いだ。久しぶりに迎えに行ってやろう。そうしよう。内心の乱れから目を背けつつ、ぼくは愛車のカギを取り出した。

 

「あれ、羽丘さん。どこ行くんですか」

 

 デスク越しに聞いてきた七草に、

 

「んー? ・・・久々に愛依と灯織を迎えに行ってやろうと思って」

 

 と正直に話すと、彼女は「はーい、いってらっしゃい」と返事をして、それから思い出したように「あ、そうだ」と続けた。なんだか嫌な予感がするが、一応聞いておいてやることにする。ぼくが先を促すと七草はにこにこ笑顔で、

 

「おみやげはプリンがいいです」

 

 聞かなければよかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何を買ってきたのか気になったので、事務所を出る前にあさひが持ってきた紙袋の中に目をやる。確認できたのは、ゼットンにゴモラ、ミーモス、シェパードン、それからウルトラマンエックスのソフビだった。「見たことない」というあさひの言葉を思い出して、「見なければよかったかな」と少しだけ後悔した。・・・しかしあさひ、エックスとはなかなかいいチョイスをするじゃないか。今度ブルーレイボックスを貸してあげよう。気に入ってくれるといいが。

 




今回はここまで。

お付き合いいただきありがとうございます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。