Return to ZERO   作:ジェラール_

4 / 9
まさかここまで長くなるとは思わなかったのでひとまずキリのいいところまで仕上げました。もうちっとだけ続くんじゃ。

アイマス原作なのにアイドルが出ねえ、なぜだ。

それでは今回もお付き合いください。


羽丘零斗の原点②

 レッスンルームに向かう愛依と灯織を見送ってから、ぼくはデスクに戻る。何やら物欲しそうな七草にコンビニで買っておいたプリンを与えてから、事務所を出る前にあらかじめモニタに待機させておいた一通のメールを開いた。現在ぼくの心を大いに乱しているこのメールが届いたのは先週のことだ。送り主は岡島社長。件名はなし。本文も友人や家族に送るような至ってフランクなもので、実にあの人らしい簡潔さだった。しかし、その内容はぼくにとって極めて重要なものだ。

 

 

 

 

 

 

『まずは回復おめでとう。君が元気でいてくれることを心から嬉しく思う。君がアイドルのプロデューサーをやっていると聞いたときは驚いたが、なかなかどうして楽しんでいるようじゃないか。生き甲斐があるというのは素晴らしいことだ。

 

 少し前から君に身体データの定期的な提出を求めていたね。あれで薄々察しているかもしれないが、手短に用件を伝えようと思う。

 

 世界中が君を待っている。――もう一度、ゼロになってくれないか。

 

 もちろん、無理にとは言わない。だがもし、君にその意志があるなら、来週の日曜日、円矢プロ本社に来てほしい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この文章を見ているとどうにも思い出に押されて涙腺が決壊しそうになる。先ほどの焼き直しではないが、少しばかり頭の中を整理することにした。椅子に腰かけ息を吐いて、ぼくは目を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 初めてゼロに会ったのは、ぼくが円矢プロの一員となって一週間後のことだった。ゼロに関しては、「ぼくがスーツアクター及び声優を担当すること」「今後のウルトラマンを牽引する存在にしたいこと」「強くカッコいい存在であること」など様々なことを知らされていたが、ぼくの心を躍らせたのは「ゼロはウルトラセブンの息子である」という設定だった。あのセブンの息子を、ぼくが演じる。それだけですさまじいプレッシャーと、それを上回るワクワクを感じた。ぼくの特撮好きは『セブン』に端を発している。役者を志したのだって、元はと言えば「セブンのようなヒーローになりたい」という憧れがあったからだ。そのセブンと関わりを持てる。高揚しないわけがなかった。

 はじめてゼロのスーツを見た時の衝撃は今でも覚えている。上半身は父であるセブンに似たプロテクターに、父と真逆の青い体とカラータイマー。下半身は父と同じ赤色に、上半身と比較するとやや短いが、それが力強さの表現となっている脚部。頭部のスラッガーは2本に増えていて、その目つきの鋭さはどちらかと言えば『ウルトラセブンⅩ』劇中のセブンを彷彿とさせたが、それがゼロの持つ若さと奔放さを現わしているようで、純粋にかっこよかった。

 

「これが・・・ウルトラマンゼロ・・・。俺が、この中に・・・」

 

「ああ、そうだ。君が、ウルトラマンゼロだ。・・・とはいえ、まだまだこれを着るには早いぞ。可能性だけでは演技はできない。君にはまず、演技者としていっそう成長してもらわなければならない」

 

 岡島社長の言うとおりだった。演技者としては素人に毛が生えた程度の若造であるぼくがゼロという大役を演じようと思うのであれば、並大抵のことでは務まらない。一刻も早くぼくを「使える」ようにするべく、さながらレオに対してセブンが行ったそれのような、円矢プロが誇る精鋭による地獄のレッスンが幕を開けた。

 

 拳法を使う以上ある程度の武術は修めねばならないので、ある日は武道における体の正しい動かし方を学んだ。体力には自信があったが、今までとは全く別種の筋肉の使い方の前にぼくの体は情けなく悲鳴を上げることになった。当然、休むことはなかった。死体に鞭打つかのごときしごきに、何度となく膝を折りかけた。

 

 ある日は感情の現わし方を叩き込まれた。スーツ越しに役者の表情は見せられない。だからこそ、声と指の先にまで感情を滾らせなければならない。何度も叫び、何度も激情を迸らせる訓練をした。声は枯れたし、レッスン中は別に腹立たしくもないのに怒りに震えたり、特に悲しくもないのに悲嘆にくれたり、何もおかしくないのに笑い転げたりしていたので(すぐ治ったとはいえ)情緒がやや不安定になった。

 

 ある日は視界がほぼないに等しい状態で激しいアクションをこなせるよう訓練した。一度スーツに袖を通せば、頼れるのはごく小さな覗き穴と周囲の状況を覚え的確に動く反射神経と判断力だ。見えない、というのは思っている以上に体運びに影響を及ぼす。自分では構えているつもりが全然できていないことなどよくあることだ。意識と現実の齟齬をなくすために目隠し状態での格闘など無茶苦茶なことをやった。ジープで追い回されるレオの気持ちが少しだけわかった気がした。

 

 今思い返しても寒気がするほどのスパルタ特訓だった。怒号を浴びない日はなく、できない自分を憎まない時はなかったが、それでも楽しかった。闇雲に走るしか出来なかった頃とは違い、何ができて何ができないのかを教えてくれる人たちがいる。プロが自分の実力を客観的に判断し、改善策を提示してくれるというのは得難い経験だ。存分に使い尽くしてやろうとさえ思っていた。後に当時の師匠から言われたのだが、

 

「どれだけキツい課題を出しても、厳しすぎるくらいにダメ出ししても折れない。むしろそれを吸収してもの(・・)にしていくもんだから、おれたちもつい熱くなりすぎてな。必要以上にお前をしごいてたんだ」

 

 ということらしかった。そのおかげで、おおよそ半年の突貫工事ではあったが(想定していたよりも早くOKが出たそうだ)、何とかぼくは役者として半人前程度には仕上がった。円矢経営陣にも認められたことでゼロのデビュー作――『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』の撮影は、当初の予定よりもやや早まる形で開始されたのだった。

 

 撮影中、ぼくは興奮しっぱなしだった。自分が演じるゼロの活躍が単純に心躍ったし、「クロマキーの上でやったアクションが合成されるとこんな風になるんだ!」という感動をCGで描写されたウルトラの国に抱いた。そしてそこに攻め込む悪のウルトラマン、ベリアルの『絶対悪』然とした佇まいに痺れた。数多のウルトラ戦士を歯牙にもかけぬその強さもさることながら、黒地に赤、鋭角なシルエットの中に確かにウルトラマンを感じさせるデザインには心底から惚れ惚れした。

 

 もちろんタイトルの通り『大怪獣バトル』シリーズの要素も詰め込まれていて、たくさんの怪獣が出演することもぼくを小躍りさせた。ウルトラシリーズの魅力は、怪獣がいなければ始まらない。 

撮影スタジオを見学させてもらった時はまるで子どもに戻ったかのようにはしゃいでいたことを覚えている。地球のレイオニクス、レイの相棒であるゴモラはめちゃくちゃかっこよかったし、怪獣墓場に集結した怪獣たちの中にガッツ星人やメトロン星人、エレキングを見つけた時は無性に嬉しかった。カプセル怪獣たちも活躍したし、正直セブン怪獣たちの描写に関しては100点満点だと思っている。異論はもちろん認めるけれども。

 

 そして何より、ウルトラセブンを間近で見ることができた。思わず涙するほどに感極まっていたため、セブンのアクターさんが困惑していたらしい。

 

 

 

 

 

 撮影自体は順調に進みつつがなく終わり、共演者やスタッフの皆さんに「よかったよ」「素晴らしい演技だった」と絶賛されたのだが、正直に言えば全く満足のいく演技はできなかった。この話をすると大抵「理想が高い」と言われるのだが、ぼくにしてみればゼロはセブンの息子なのだから最高にカッコよく、強くなくてはならない。当時のぼくの演技はゼロの秘める可能性と過酷な修行の末に得た強さを表現し切れていなかったのではないか。

 今でも『ウル銀』を見返すたびにそう思うのだが、283プロきってのウルトラオタクである天井社長に言わせれば「やや突っ走り気味なところが若さを感じて大変すばらしい」のだそうだ。当時映画館に足を運んでくれたファンの感想もおおむねそのようなものだったので、不満を感じているのは本当にぼくだけなのかもしれない。

 

 ゼロの第一歩は大成功に終わり、それ以降、ウルトラシリーズの中心には必ずゼロがいるようになった。『ウル銀』の好評を受けて『ダークロプスゼロ』『ベリ銀』『キラー ザ ビートスター』に代表されるOV・劇場作品も制作され、もちろんその全てにぼくはゼロとして参加した。例に漏れずこの時期のゼロの演技には思うところがあるのだが、ありがたいことにそのどれもが高い評価を受け、その過程でぼくは円矢と正式に「ウルトラマンゼロ専属アクター」として契約を結んだ。この契約が生きている限り、ぼく以外がゼロを演じることはないというものだ。「ゼロを君に任せる」と言われた時の嬉しさとプレッシャーに勝るものは、きっと今後感じることはないだろう。・・・この契約が、現在進行形でぼくを悩ませているのだが。

 それに嬉しい出会いもあった。のちに『ジード』で再び共演することになる竜田光臣と初めて知り合ったのは『ビートスター』の現場だった。あの頃はちっちゃくて可愛かったことを覚えている。今ではすっかりイケメンになってしまったが。そういえばあいつ、最近気になる子がいるとかなんとか聞く。喜ばしいことだ。今度からか・・・兄貴分として相談にのってやろう。

 

 続く『ウルトラマンサーガ』あたりから、ぼくはゼロを表現することに慣れてきた。というのも、この頃になるとアニメやゲーム作品で声をあてることや、特撮ではない普通のドラマ作品に出演することも多くなってきていたので、自然と演技の引き出しを増やす必要が出てきたからだ。「ゼロ以外の演技はできません」では役者としてお話にならない。

 

 サッカー少年を演じた。アングラ社会を潜り抜ける青年を演じた。大国の治安を守る騎士を演じた。正統派アイドルの「中の人」としてステージに立つこともあった。かと思えば中二病に罹患した大学生になり、ある時は戦国武将として乱世を駆け、あるいはやたらとテンションの高い教師として熱血指導を行ったりした。・・・その全てがぼくを成長させてくれ、同時にぼくの中の「ウルトラマンゼロ」を補強してくれた。

 

 みんな愛すべきキャラクターたちだ。ぼくの人生になくてはならない存在だ。誰もが完璧じゃないということを教えてくれた。悩みながら、傷つきながら、それでも前に進んでいく。みんな魅力的で、演じることが楽しくて仕方がなかった。その一方で、ゼロはぼくの中で確固たる存在であり続けた。理由は明白で、ゼロは役者・羽丘零斗のオリジンだからだ。彼がいなければ、ぼくは役者にはなれなかっただろう。逆もまた然りだ。やや傲慢な気もするが、今ここにいる「ウルトラマンゼロ」は、羽丘零斗がいなければ生まれてこなかっただろう。

 

 

 これまでも、きっとこの先もずっと、ゼロはぼくの「特別」であり続ける。ゼロと共に生きていく。ぼくはその覚悟をしていたし、そうできるものと信じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし不運というのは唐突にやってくるもので、予測、ましてや回避などとてもできるものではない。それは雷鳴のように突然に訪れた。

 

 忘れもしない3年前の8月。いち役者として出演していた舞台で、会場となっていたホールの天井の一部が崩落する事故が起き、ぼくは重傷を負った。・・・事故、と呼ぶのは適切ではないかもしれない。どうも、犯人がいたようなのだ。犯人の名前は知らない。知る機会がなかった。彼あるいは彼女は前々から出演者の一人――優れた役者だが、以前から女性関係で良くない噂が絶えない人だった。この事件に関しては全くの無関係だったらしい。便宜上Yと呼ばせてもらう――に恨みがあったらしく、彼を殺害するために公演の一月前から綿密に計画を練っていたそうだ。確実に彼を殺せるタイミング・・・上演終了の挨拶のタイミングでホールの天井を崩落させたが、幸運なことにYはかすり傷ひとつ負わなかった。その日、Yは全く別の位置で観客に挨拶をしていたからだ。

 

 しかし悪いことは起きるもので、崩落する機材の真下に子どもがいた。なぜかは分からない。長々とした舞台挨拶に飽きて席を立ってしまったからなのか、それともお手洗いに行った帰りだったのか。いずれにせよ、このままではその子の命が失われてしまう、それだけは確実だった。

 

 無意識のうちに駆け出していた。壇上を全力で走って、立ちすくむその子を思いきり突き飛ばした。ごめんよ、と謝った直後に冷たい感覚が全身に走って、その後のことは覚えていない。多分気を失ったのだと思う。次に目を覚ました時は病院のベッドの上だった。全身が馬鹿みたいに痛くて、その上身動き一つとれないくらいに厳重に拘束されていた。病室にはYがいて、ぼくが目を覚ましたことに気付くと飛び上がって驚き、直後に「ごめん、俺のせいだ、ごめんよう」と泣き崩れた。騒ぎを聞きつけた医師たちがやってくるまで、Yの慟哭は続いていた。

 

 医師の話によるとぼくは3か月もの間昏倒していたらしい。脇腹を鉄骨が貫通、全身打撲と骨折のデパート状態だったというから驚きだ。聞くだけで体が痛くなってくる。生きているだけ奇跡というものだ。全身ミイラみたいにされていたのはそれが原因だったのか、などと他人ごとのように考えていると、医師が深刻な面持ちでぼくに告げた。

 

「羽丘さん。貴方の怪我は一朝一夕に治るものではありません。よくて5年、最悪10年単位でリハビリが必要になります。・・・お辛いでしょうが、どうか気を強く持ってください」

 

 その時ぼくは何も言わなかった。自分でも驚くほどに穏やかな心持ちで、ただぼんやりと、「ああ、もうゼロを演じることはできないんだなぁ」と思っていた。軽いストレッチはしてもらっていたとはいえ3か月も寝たきりだったぼくの身体は衰えに衰えていた。とてもじゃないがスーツを着て動くことなど叶いそうにない。腕も足も動かないのではどうしようもなかろう。どれだけゼロを演りたいと願っても、願うだけでは現実には勝てないのだから。だがぼくとは違い、ゼロはまだ生きている。それだけが救いだった。

 

 たとえぼくが止まったとしても、ゼロはその限りではない。スーツに誰かが入れば少なくともゼロは動く。声ばかりはどうしようもないが、最悪ライブラリ音声でどうにかなる。こういうところは創作物の利点で、ガワさえあればそれなりになんとかなるのだ。ぼくと同じ身長190cm台の体格のアクターを探すのは苦労するだろうが、円矢ならなんとかするだろう。

 

 人生とは思うようにいかないもので、必ずどこかで帳尻が合うようになっていると祖父に聞いたことがある。何かを切り捨てたぶん何かを得る。何かで成功した分何かで失敗する。そういう風にできている、と。きっと今が、何かを・・・ゼロを失う時なのだろう。この時は、本気でそう思っていた。

 




ほとんど地の文しかない。なんだこれは・・・たまげたなぁ。

というわけで今回はゼロと負傷のお話。次はアイドルたちの出番!・・・のはず。

お付き合いいただきありがとうございました。
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