イヴですか? いいえ、アダムです。 作:ザ・サード
(ん?)
奇妙な感覚が私を目覚めさせる。
(何これ、水? まるでプールに潜ってるように全身が水に触れているような、変な感じ)
一秒、二秒と過ぎ、面倒になった私は二度寝しようとして、飛び起きた。
(いやいやいやいや!? なんで水の中にいるの!? 普通にありえないよね!!)
目を開けてみればそこは少し狭い水槽の中だった。
よく見る培養層みたいな物の中に私は閉じ込められているようで、ちょっと叩いたくらいじゃ壊れなさそうに感じた。
(あれ、てか私の手こんなに小さくなかったよね、髪も黒から金になってて長くなってるし……それにこの体格からして明らかに高校生じゃなくて幼稚園児くらいに幼い……まじでどうなってんの?)
ぺたぺたと体を触っていると首の周りに大きな鉄っぽい何かでできたチョーカーがはめられている事に気づく。
それはとても大きな物で、そのチョーカー一つで首がほぼ覆われているほどだ。
(てか、これチョーカーと言うよりは首輪っぽい、何でこんなのつけてんの? 私に一体何が起きたって言うの?)
そのままうんうんと悩んでいたが、それでも仕方ないのでそーっと外の様子を伺ってみると、何人か人がいて、どうやらそいつらが私をここに閉じ込めているようだ。
そのままじっと見ていたらどこかで見たようなやつと目があった。
「 」
何故かは分からないが、すごく驚いた様子で周囲の人間に私を指差して何か言っているようだった。
何言ってるかわからないのでとりあえず日本語でOK。
それから少しして、私はその水槽から出されることとなる。
そして、それから私の日々は驚きの連続だった。
最初のうちは情操教育のようなものと言語に関する教育を受けさせられたのは必要なことだからまあいい。
食事やある程度の訓練で体ができてきた頃、私は自分のことを知った。
私は純粋な人間ではなく、
私の体にはナノマシンが組み込まれていて、念じるだけで体を自由自在に変化させることができる。
本来なら私が生まれる予定はなかったが、本命のプロジェクトの子にとある研究者が悪影響を与えつつあり、もしもそれが矯正不可能だった場合に備えて私が生み出されたらしい。
そのおかげか私の体内のナノマシンはその子に比べてやや新しく、研究者が言うには1.5世代物らしい。
そして、私のつけているチョーカーだが、これには反抗防止用に爆弾やら電撃やらが組み込まれているらしい。物騒だなおい。
ちなみにこれは本命の子にはないらしい。私は所詮予備なのでそこまで気遣ってはくれないと見える。
ここまでの話を聞いて気づく人がいると思うけど、どうやらここはToLOVEるの世界らしい。
そんで私は本来存在しないはずの金色の闇、もしくはイヴの妹に生まれてしまったようだ……。
なぜこんなことになってしまったのかは分からないが、正直もうなってしまったものは仕方ないのでなるようにしかならないだろう。
ただ、戦闘訓練の時間はちょっと辛い。これが一番辛い。
痛いし辛いし苦しいし、何よりも殺し合いをさせられるのが何より嫌だった。
酷いと体の一部がなくなるし、その度に再生処置をされて何事もなかったかのようにリトライだもの、何もかも投げだしたて逃げたくなるわ。
そんな拷問のような日々が続くこと数年、思わぬ所でチャンスがやってきた。
『E−2、今回の実験は捕獲した他宇宙からの侵略者の情報を探ることだ、君には最下層に封印されている奴から変身を使いできる限り情報を引き出せ』
E−2というのは私の名前。
プロジェクト・イヴの二番目だからE−2とは安直と少し思う。そもそも人につける名前じゃない。
まあそんなことは今更なので言われた通りにさっさと最下層へと向かう。遅いと電撃だし、あれ地味に痛いから嫌なんだよね。
テクテクと歩くこと少し、とても荘厳で金庫のような印象を受ける扉の前に辿り着く。
扉のすぐ側にいた研究員が幾重にも掛けられた封印を解いていく様子が見える。
そこまで厳重にしなきゃいけないものなんて、一体何を閉じ込めているのか、私は少し怖くなった。
『よし、入れEー2』
巨大な扉に少しだけ空いた隙間を通り、私はそこへ足を踏み入れる。
そこは暗く、まるで地獄への入り口を彷彿とさせるような嫌な雰囲気を漂わせている。
一歩二歩、三歩進んだ所でようやく職員の誰かが電灯をつけたようで、視界全てが一瞬白く染まる。
眩しくて目を細めるが、それもすぐに慣れ、少しずつそこにある物の輪郭があらわとなる。
「………………え?」
そして、それを認識した瞬間、私の思考は停止した。
それはこの世界にあるはずのないものだった。あってはならないものだった。
出版社こそ同じだが世界観はまるで異なる世界の異物。イレギュラー。
なぜ? どうして? 考えるが答えは出ない。そして、同時に納得した。
ああ、そうだ。確かにこれは他宇宙からの侵略者だろう。
姿形は人に近いが、それは犬と猫を比べて似てるという程度のことで、人から見れば怪物そのものだ。
手の数も指の数も違う、人に翼は生えていない、そして何よりここまで巨体ではない。
人を超越した知能、異能、生命力を持ち、別宇宙からやってきたそれらのことを私は知っている。
かつて、それらは聖書から名を取ってこう言われていた。
『これらは現在、《天使》という呼称を用いられている、E−2、貴様は早急にこれの脳内へダイブし、奴らの生態を調査せよ』
(これは、もしかして唯一無二のチャンスじゃない?)
奴らは天使がどういうものか分かってない。
ザ・セカンドが存在しない世界なのだから当然といえば当然なのだが、これを私に好きにさせるという選択肢が致命的なほどに誤りである。
奴らはこれをただの宇宙人程度にしか見ていない。だからこそこいつの持つ価値に気づかない。
(だが、できるか? ぶっちゃけ試したこともないし、失敗したら確実に死ぬ)
不安要素は多い、がここを逃せばもうチャンスはないかもしれない。
覚悟を決め、私はそいつに近づく。
厳重に固定されているのか、それとも意識がないのか、その両方かもしれないのか、私が近づいても何の反応も示さない。
私の髪の毛の一部を鋭い短剣のように変化させ、そいつの頭脳へと突き刺す。
特に抵抗はなく、容易にそいつの精神へと侵入することができた。
何度も何度も何度も訓練させられたのだから、まあ当然か。
(だけど、問題はここから)
正直な所、こいつに同情しないこともないけど、まあ運が悪かったと思って諦めて欲しい。
動物なんて今世で数え切れないほど殺してるし、喋るかどうかで命の価値を変化させるほど私は器用ではない。
人の命も猫の命も等しく価値は同じ、というのが私の考えなので、その理論でいけば私は立派な人殺しということになる。
まあ今更そんなことはどうでもいい。
そんなことよりも私は能力を次の段階へ移行させる。
精神だけを同化して相手に入り込む
奴らにバレないようにこいつの操作法を探り、それはすぐに見つかった。
肉体と同化する方法、これが今の私が一番欲しかったものだから。
『何かわかったか、E−2、報告せよ』
外で何か言っているようで、それはもうあまり時間がないということでもある。
時間をかけては怪しまれる、だから私はすぐにそいつを操作して……私の体へ同化させ始めた。
『何だ!? 何が起こっている!?』
奴らも気づいたようで、……いや、外から見れば巨大なこいつが年端もいかない少女へと吸い込まれ始めたのだから気づかない方がおかしいか。
『これも変身兵器の能力だというのか!? いや、あれにそんな性能はない、ならこれは天使の……E−2! 今すぐに能力を解除し離脱せよ!』
(はは、気がつくのが少し遅いよ、もう殆ど融合は完了してるから)
チョーカーに電流が走るが、その程度では能力を解除することはできない。
それもそうだ。ナノマシンは強力な電流を浴びるとその機能を一時的に麻痺してしまうという欠点がある。
いくら反抗防止用の機能だとしても、それが原因で実験が中断してしまっては元も子もないないので、ナノマシンの機能を阻害しない程度に抑えられているのは体験済みだし、そもそもそこまで本気にになって反抗したことなんてなかった。
本気で反抗すればそうでもないかもしれないが、奴らはこれを私の仕業とは考えていないのでそこまではしない。
とてつもない早さで天使が私の体へと吸い込まれていき、体感して一分もしない内に全てが私の体へと入り込んだ。
『E−2! 現状を報告せよ! 聞こえているのか!!』
あのメガネが慌てた様子でこちらへと怒鳴りつけてくる。
ついでに電流を流してくるのが鬱陶しくて仕方ない。
(ああ、さっきからビリビリビリビリと電流がうざい……もういいよね)
私が右手をチョーカーに当てると、触れた部分から蒸発した。
『な!?』
そしてすぐに爆発されないように遠くへ放り投げる。
ボン、と小さな爆発が起きるが、所詮人の首を飛ばす程度しかないので被害は殆どない。少々壁が焦げたくらいだ。
「んーん! やっとこれで自由の身ってことだよね〜」
両手を組んで頭の上へ伸ばす。
(あのチョーカーがないだけでこれほどの開放感があるなんて、我ながらなんて単純な生き物なんだろうね)
『緊急事態発生、緊急事態発生、実験体E-2が暴走、鎮圧部隊は最下層エリアに集結し、これを鎮圧せよ、殺害は許可できない、繰り返す』
そんなことを思っていると、とても耳障りな警報が室内に鳴り響く。
「ま、そうなるよね、どうせここから逃げても逃亡し続ける生活になるだけだし、ならアレしかないか……」
私は両手を目の前で合せる。
そして少しだけ開くと、そこには小さな光る球体が出現していた。
それは時間が経つごとに少しづつ大きくなっていく。
『あの球体が内包するエネルギーが倍増し続けているだと!? これでは後一分もしないうちにこの施設なんて簡単に吹き飛ぶぞ!!』
『馬鹿な!? そんなエネルギーE-2が生み出せるはずがない! 機械の計測ミスではないか!?』
『いいえ、機器に異常は見られません、間違いなくあの球体のエネルギーは増え続けています!!』
『くそ、鎮圧部隊はまだか!?』
『今現場に到着した! よし、これなら』
『残念間に合わないよ』
焦ってるのか知らないけど、その会話はこっちにも丸聞こえなんだよね。
だからこうやって超能力を使って返事を送れる。
まあ、あまり意味はないけど。
『え?』
『誰だ!?』
『今まで散々やってくれたよね、これはそのお礼だと思って受け取ってね』
『貴様、まさかE--』
「エデンズシード開放」
返事は聞かずに、私はそれを解放する。
制御を離れたその球体は徐々に不安定になっていき、光が全てを包み込んだ。
「うっわ跡形もないや、さすが
少し離れた場所、私はさっきまであった施設が爆発し、消失する瞬間を見ていた。
私があれを開放した直後、手に入れたばかりの
「ま、巻き込まれた人はご愁傷様だけど、あんな研究に関わったことを恨んでね、一応原作の人らとかいないのは確認したし、特に罪悪感はないね、不思議と」
そんなくだらない事を呟きつつ、今後のことを考える。
「苛々に任せて爆破しちゃったけど、流石に無一文で生活できるわけないしなぁ……どっか適当な惑星探さないと」
意味はないけど、両手の人差し指をこめかみにぐりぐり当て続けること数分。
「あった、ちょっと遠い場所に人がたくさん住んでる星、一先ずここに行ってから考えようかな、必要なものは……現地調達でいいや」
目的地を定めて、私はここからその星へと転移した。