スノードロップ   作:何かと影響されやすい作者

1 / 11
プレゼントは突然に

織斑一夏が自殺した。

 

IS学園内にある彼に用意された部屋から飛び降りたのだ。彼の身体は地面に叩きつけられ、彼を中心に真っ赤な血が飛び散っていた。すぐさま救急車で病院に運ばれたが、死亡が確認された。彼の身体に腕輪*1はなく、当初はIS:白式を狙った強盗殺人として捜査が行われた。だが学園内や生徒からは見つかることはなかった。不振な点はあれど事件性が低いことと、学園内での犯人探しとした疑心暗鬼の危険性、そして世間体を考え物事を大きくしないために、最後は自殺として処理されることになった。仮にも亡くなった織斑一夏は貴重な男性操縦者の一人だ。それが殺されたとなれば、ISを笠に着た女性権利団体の仕業などと根も葉もない噂が立ち可能性もあったのも要因だろう。結局は臭いものに蓋をして、うやむやにしただけの話だ。

 

彼が死んだというニュースはテレビなどを通して報道された。彼の葬儀は静かに行われた。いや、静かすぎた。彼の唯一の肉親だった姉が喪主を執り行い、葬列には小学校時代の友人たちが訪れた。一方でIS学園からの生徒は一人も来なかったが。彼の遺体は研究材料として、日本政府が回収することが決定した。なぜ彼がISを動かせたのか解明するために、彼の遺体は切り刻まれてしまうだろう。しかし彼の姉はそのことに対して特別気にすることもなく、すぐに了承の書類にサインをした。関係者の意見では、身内を失ったという悲しみはなく、それこそ、やっと肩の荷が下りたというように、遺体に一瞥することなくさっさと持って行ってくれという投げやりな態度だったという。

 

インフィニット・ストラトス、通称ISと呼ばれるものが登場し、世界に大きな変化をもたらした。宇宙を目指すために作れたそれは、本来の目的とは別の、現代兵器を越えた個人兵装という部分が注目され、世界はISの取り合いに躍起になった。一方で、ISが使用できる存在が女性のみということで、男女共同を謡っていた社会は女尊男卑へと傾いた。まあ、そんなのは今作にはどうでもいいのだけどね。

 

そんなISを用いた世界競技大会で優勝者となった織斑千冬。自殺した織斑一夏という少年はその弟だった。初代ブリュンヒルデ*2の肉親の死。しかも自殺という話題性は、世界からしたらスキャンダルだったろう。なぜ彼は自殺したのか?実際は女性権利団体に殺されたのではないか?謎が話題を引き立たせ、それに目をつけたマスメディアが其処らじゅうを嗅ぎ回り、コメントを求めてマイクを押し付けてくる日々。そんな経験すれば、いくら女傑といえど気が滅入るのかもしれない。しかし小学校時代の友人たちからは、唯一の肉親の死に対する織斑千冬の態度は、あまりに薄情ではないか?という気持ちだった。不器用ながらも大切にしていたというのに。だが彼の死は世間からすぐに忘れ去られるだろう。なにせ物語としては、一人の少年が自殺しただけの話なのだから。

 

 

 

そして彼の代わり(真の主人公)は他にいるのだから。

 

 

 

面白い話だが、この世界において彼は主人公ではなかった。唯一の男性操縦者でもなければ、誰かを救えるヒーローにもなれなかった。強い心など持ち合わせておらず、どこにでもいるような脆い心臓だった。多少なりと人よりは優れていただろうが、そんな些末なことはこの世界では意味をなさなかった。

 

長年織斑一夏を慕っていた幼馴染はいたが、彼の態度を見てすぐに見放した。彼の言動に百年の恋も冷めたこともそうだが、彼よりも素晴らしい少年がすぐそばいたのだから。本来なら織斑一夏に救われるはずだった人たちは、彼を口先だけの偽善者と罵った。彼と関わる前にもう一人の少年に救われ、その姿に心酔してしまったのだから。色々なしがらみを振り払い、唯一の弟として溺愛していた姉は、その大切な弟を出来損ないとレッテルを張り、彼から縋られた手を振り払った。織斑一夏の存在は、この世界においては否定されるものでしかなった。それだけでしかなかった。

 

 

さて、この世界のヒーローを紹介しよう。彼の名前は真乃・英雄(マノ・ヒデオ)。年齢は19歳。18歳の時に海外ボランティアで世界を回っていた。大学へと進学しようとした矢先、織斑一夏がISを起動したことで、世界各国で行われた調査でISを起動してしまったのだ。結果、彼は合格していたはずの大学へ行くことが出来ず、IS学園へと行く羽目になった。ようは体のいいモルモットになってしまったのだ。

 

彼は人のために何かできないか?という夢を持っていた。そのためにボランティアに参加し沢山の人を助けてきたのだ。そんな彼の崇高な夢への一歩が、織斑一夏がISを動かしたことによって無惨に打ち砕かれてしまった。ただまあ、彼自身は織斑一夏を恨むようなことはしなかった。なにせ織斑一夏も、自分と同じ被害者だったからだ。英雄はそういったことに対しては気にしない優しい性格だったのもあった。人付き合いがよく、誰にでも優しい、でも曲がったことが嫌いな性格。それが真乃英雄なのだ。

こうして彼は、IS学園へと新たな生活をすることになったのだった。

 

 

もう面倒臭いから掻い摘んで説明しようか。この世界において、織斑一夏は俗にいう悪い人間だった。小学校や中学校時代とはまるで別人になったかのように、彼は悪い人間だった。頭が悪く、性格も悪く、空気も読めず、自分勝手で、他人に意見を押し付ける。

 

女尊男卑という社会情勢において、彼は「男は女を守るものだ」と言った。女が男よりも弱いという、時代錯誤の男尊女卑に染まった差別主義者として、彼は女子生徒から軽蔑されるようになった。

 

たかだか素人のくせに男性操縦者というだけで専用機を与えられたことに対しては、他の女子生徒の嫉妬を買った。織斑千冬の弟というのもあってか、姉の七光りなんて言う陰口まで叩かれだした。また専用機を与えられておいててんで話にならない操縦と、英雄に負ける無様な姿も相まって嘲笑が加わったのはおかしくないだろう。まあでも、剣一本しか持てないISを渡されてどうにかしろというのも笑える話だけどね。

 

自身が負けたことに対しては、卑怯だ、正々堂々と勝負しろだのと喚く姿は、あまりに不快なうえに、他者に八つ当たりする愚行を見れば、誰だって幻滅するかもね。たださ、ずっと距離を取られ続けて一方的に打たれ続けたら誰だってそう思わないかい?ならゲームでもなんでも、縛りプレイでやってみたらどうかな?

 

まあ、そんな姿を見せられ続ければ思い人だって幻滅するだろうし、大切だと思っていた身内だって恥な存在と思うだろう。結果として、彼はIS学園内のカーストは最低値。下駄箱には大量のごみが詰め込まれるし、下履きは汚泥まみれなんて当たり前。教科書は落書きや紛失なんていつも通りで、それこそ教師すらいつものことと放置状態。関わりたくない問題児の扱いなんてこんなものだろう。それこそ教師だって『女』なのだから。

 

結果として彼の『死』は、IS学園や彼女らにとっては『自殺に追い込んだ罪悪感』よりも『やっといなくなったという達成感』だろうか。先も言った通り、IS学園において織斑一夏は邪魔な存在になってしまっていた。そんな奴に対する感情なんてのは、解りきったことだろう。

 

さて織斑一夏の死後、IS学園はどうなったのか?なんてことはない、いつも通り平和な世界だ。なにせここには真乃英雄(真の主人公)がいるのだから。

襲い掛かる謎のISをヒロインたちと打ち倒し、銀の福音という軍事ISの暴走を止め、亡国機業という謎の敵対組織を壊滅させ、ヒロイン等とズッコンバッコンと不純異性交遊に励んだだけだ。さて、こうして彼らはハーレムの中で幸せに過ごし、学園を無事卒業をする。大きな豪邸の中で、彼らは蜜月を過ごすことになる。自分達が何をしたのかも忘れて。

 

 

だからこそ、それが届けられる意味を知らない。ピンポーンとチャイムがなり、贈られてきたのは花束。

差出人は『貴方方の思い人』と書かれ、手紙には『私の気持ちです』と一行。

そして花束には『スノードロップ』『タンジー』『黄色いカーネーション』『サフラン』『スイレン』『スカビオサ』『薊』等が添えられているのだった。

*1
待機状態のIS

*2
IS世界大会優勝者の称号

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。