スノードロップ   作:何かと影響されやすい作者

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セカンド党の皆様、申し訳ありません


さようなら、かつての友達

織斑千冬の死。そのニュースはすぐさま世界中に報道された。まるで自身の弟、IS学園で若くして自殺した織斑一夏と同じように。死因はショック死による心臓停止。椅子に縛られていたとはいえ、目立った外傷はなかった。一方で、織斑千冬の顔は涙と鼻水、よだれを垂れ流していたという、織斑千冬を知る人からすれば、想像もつかない無様な死に顔だった。はっきり言って理由がつかないのだ。

それゆえに、なぜ彼女はショック死をしたのか?その原因は?という不審な部分に目を向けられたのは自然なことだろう。その振る舞いから女傑と称され、実力で初代ブリュンヒルデとなったほどの人だ。それがショック死というつまらない理由で死ぬだろうか?あの人間離れした女関羽が?なんていう酷い評価も相まって、余計に訝しげられた。しかし明確な原因は一切わからず、唯一の手掛かりは彼女の前に置かれていたポータブルDVDプレイヤーだけだった。中身は抜き取られており、確認することは不可能。彼女が何を見、何を聞かされ、何故死んだのか、それを知るにはあまりに情報が足りなさすぎた。

 

織斑千冬の葬儀には多くの人が訪れた。彼女と面識があった人、近所の住民、かつて彼女と競いあったライバルたち、彼女に叱咤された元教え子、IS学園からは代表数名が参加した。内縁とはいえ、番である真乃英雄が喪主となり、屋根の下で彼と暮らしているとハーレムたちも彼を支えるべく、色々と取り仕切った。

そんな姿を、周りは同情と哀れみを向け、激励の言葉を送る。一方で、そんな彼、彼女らを冷ややかに見つめる参列者もいた。おそらく、ネットの動画を見てしまった人たちだろう。憤慨したい気持ちになるが、葬儀であることと、ことを荒立てないために、彼らは黙るしかなかった。ただし、そんなことはお構い無しと、マスメディアはこぞって葬儀に押し掛けた。葬儀もだが、結局はネットに流されている動画の真実を聴こうと躍起になっていただけでしかない。

 

「ちょっといいか?」

 

葬儀が一旦落ち着き、休憩しようとした凰鈴音は、誰かに呼び止められた。忙しさで余裕がなく、いら立ちを隠さずに振り向けば、そこにいたのはかつての友人だった五反田弾とその妹である蘭がいた。鈴音は気付かなかったのか、二人も葬儀に来ていたらしく、黒いスーツを着ていた。

 

「なによ」

 

一体何のようだと言わんばかりの表情の鈴音に、蘭は困惑し、弾は無表情なままだ。

 

「聞きたいことがある。けど、その前に場所を変えないか?」

 

ちらりとマスコミの方を見る。周りを取り囲み、様子を伺うようにカメラを向け、喋り続けているレポーターの姿が見えた。

 

「忙しいんだから手短にしてよ」

 

「分かってる」

 

ため息を吐きながら、こっちよと首を動かす鈴音の後に着いていく二人。その光景を、誰かが見ていたとも気付かずに。

 

受付から少し離れた場所、ちょうど家が入り口からの視界を遮る場所で、鈴音は振り返った。

 

「で?聞きたいことって何?ま、大方予想はついてるけどね」

 

「分かってるなら話は早い。一体なんなんだよあの映像は」

 

案の定、予想通りの質問に鈴音はつまらなそうに息を吐く。

 

「あんたもあの映像を見たって訳ね?で、あの映像が本当かどうか、って知りたくなったと」

 

「ああそうだ。俺だって今も半信半疑だ。鈴たちがそんなことをしないと思いたい。でもな、現に一夏は自殺して、千冬さんも死んじまった。あの映像を見れば無関係なんて思えない。だから俺は鈴に直接聞きに来たんだ。だから答えてくれ、鈴。IS学園でいったい何があったんだ?」

 

無表情なながら、問い詰めるような視線を送る弾と、兄の後ろで見つめてくる蘭。ネットでの言いたい放題のコメントや、しきりにかかってくる電話を思い出す。どいつもこいつも……

 

「ほんと、うざいわね」

 

「鈴…さん?」

 

鈴音の一言に、蘭が戸惑いを見せた。

 

「どいつもこいつも私らに言いたい放題。やれあいつが死んだのは~と好き勝手!ああもう、はっきり言って迷惑なのよ!」

 

いきなり声を荒げる鈴に、二人は呆然とする。

 

「鈴、いきなりどうしたんだよ」

 

「あいつが死んだのは私たちが悪い!虐め?はぁ?自殺したのはあいつの自業自得じゃない!私たちは悪くないわ!私たちがあいつのせいで振り回されてたのも知らないで!」

 

激昂する鈴音の姿に五反田兄妹は困惑する。鈴は感情的になりやすい性格なのは昔からの付き合いで解っていた。だが、こうも誰かを貶すこと、誰かを虐げることを嫌っていたはずだ。鈴自身、虐められていた経験があるのだから。

 

「あんたたちは知らなかったでしょうね?あいつがIS学園で何してたかなんてね。皆を護ると言ってた偽善者のあいつなんて!」

 

その後も激情を抑えきれず、言いたい放題の鈴音。やれ、口先だけの偽善者、ヒーローごっこ、力任せの雑魚などなど、堰をきったように溢れる罵詈雑言。だが五反田兄妹からすれば、まるで似ても似つかない別人を、一夏として罵倒しているようだった。あまりのことに、弾が吠える。

 

「いい加減にしろよ!鈴、お前、自分がなに言ってるのか分かってるのか!?お前、一夏のことが好きだったんだろ!?」

 

弾の一言に鈴音は呆気にとられた後、口を歪めて笑いだした。

 

「そうね、そうだったわ。今思えば、あいつに惚れてた自分は何も知らなかったのよ。私はIS学園に来て解ったわ。あんな奴、惚れる価値もないって。そして私は、英雄と出会って、彼に本当の恋をしたのよ。あいつとは比べ物にならないくらい、素敵な英雄にね」

 

「なんなんですか鈴さん!そんなことを言うなんて、一夏さんがあんまりすぎます!」

 

「なんにも知らず、あいつに夢見てるお姫様は気楽でいいわね。ほんと、あいつに縛られてたなんと考えただけでぞっとするわ。正直、あいつが死んだことに私はせいせいし…」

 

「黙れよ」

 

話に夢中になっていたせいで、鈴音は弾の接近に気づかず、胸ぐらを捕まれた。見れば怒りに歪んだ弾の表情。

 

「鈴、それ以上言うな。お前が今言おうとしたことを聞いたら、俺はお前を許せなくなる。だから頼む、それ以上は言わないでくれよ…」

 

次第に泣きそうになっていく弾の表情。

 

『あれ、私…今、なに言って』

 

そんな思いが鈴音を過る。だが急に弾の姿が視界から消えた。

 

「俺の家族に何してるんだ?」

 

意識を戻せば、目の前に見えたのは大きな背中。私たちを守ってくれる大きな後ろ姿。

 

「英雄!」

 

「大丈夫か、鈴?」

 

自分を心配する英雄の姿に、鈴音は疑問を口にする。

 

「どうしてここに?」

 

「さっき鈴たちが奥に行くのが見えてね。こっそり後をつけてた。それについては謝る。だが」

 

そのまま振り返れば、地面に倒れている弾と、彼にかけよる蘭が見える。

 

「鈴を危ない目から守れたんだから許してほしい」

 

その言葉に、鈴音の心は高鳴る。そして確信する。ああ、やっぱり私は英雄が好きなんだと。

 

「俺の家族に手を上げるような奴に言う義理はないが、一応自己紹介をしておこう。俺は真乃英雄。鈴の家族だ」

 

冷めた目で弾を見つめる英雄。それに対して、片頬が赤くなった弾が起き上がった。

 

「あんたは無関係だろ。これは俺達と鈴との話だ」

 

「いいや違うな。聞いてなかったのか?鈴の家族である俺が無関係なわけがないだろ。今まさに家族が危険な目に合いそうになったんだ。なぁ?」

 

ちらりと鈴音を見る英雄。

 

「いくら鈴の友人でも、礼儀知らずにまで人間の対応はしないのが俺でね。まるで死んだ織斑一夏を思い出すな」

 

英雄の顔が苦虫を噛んだように歪む。

 

「弾と言ったか、織斑一夏の仲間だから礼儀知らずなのか?ただまあ、これ以上何かするならそれなりの対応をするつもりだ。なんなら超法規的措置で、今すぐてめぇを病院にでも留置場にでも送っていいんだが?」

 

静かな怒気を込めた言葉に、後ろにいた蘭がへたりと地面に腰を下ろした。

 

「鈴の友人だから今回は見逃してやる。だか次に同じようなことをすれば、全力でやらせてもらうぞ。では申し訳ないがお帰り願おうか。出口はあっちだ」

 

そう言い、左手で門を指す。

 

「鈴、最後に教えてくれ。どうしてお前や箒は、一夏の葬儀に来なかったんだ…」

 

「もう…私たちには関係なかったからよ」

 

射抜くような弾の視線に、ばつが悪そうに顔を伏せる。

 

「わかった」

 

そう言うと、五反田兄妹は門へと歩いていく。顔を伏せながら、黙ったまま歩いていく二人。門を通り抜けた後、ちらりと振り向く。なにかを呟いたみたいだが、聞こえるはずもなく、英雄や鈴音たちは葬儀に戻っていった。その呟きの意味はなんだったのか。もう、彼女らが思い出すことも、ましてや知ることはないだろう。

 


 

織斑千冬の葬儀から数日後、新しい映像がネットに投稿された。

 

『私が今から話すことは……全て、真実です』

 

死んだはずの織斑千冬が映っていた。

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