スノードロップ   作:何かと影響されやすい作者

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先導者/扇動者、織斑千冬の告白

映像に映った、死んだはずの織斑千冬の姿は見るもの全員を驚かせた。もっと驚かせたのが、黒いスーツ姿の彼女が椅子に縛られていたことだろうか。両手両足、胴体まで椅子に縛られている徹底ぶりだった。縛られた胸のふくらみが強調されていたが、そんなことはどうでもいいだろう。

 

『皆さんもお気づきでしょうが、最近ネット上に流れていた映像は、かつてIS学園で実際にあった映像です。私のおとう、みう…家族である織斑一夏に行われた虐めの映像です。私は、わ、わたしたちは、織斑一夏を虐げてきました』

 

その開口から始まり、織斑千冬から語られる虐めの数々。暴力から始まり、無視、憂さ晴らし、罵倒などなど、映像では見ることのなかった内容が明るみにされていく。

 

『私は、教師として一夏の状況に対処するために振り回されてきました。くる日もくる日も。おそらく精神的に参っていたんです。その中で、もう一人の男性操縦者、真乃英雄は私を親身に気遣ってくれた。それが繰り返されるうちに、私は気付かぬ内に彼に惹かれました。そして気付けば英雄を愛し、肉体関係をもってしまったのです』

 

教師という立場を逸脱し、あろうことか男性操縦者との肉体関係を暴露。加えて、自分だけではなく、それこそ他の生徒、教師までもが真乃英雄と肉体関係を持っていたことを示唆する内容を話す。

 

『そうしている内に、私はおとう、と、織斑いち、か……一夏を邪魔だと思うようになりました。私の家族でありながらなんて情けない弟だと。英雄と比べてなんて無様だと。こんな奴のために私の人生は振り回されていくのか?と。そして私はこう考えてしまいました』

 

 

 

 

『一夏がいなくなれば、私は幸せになれる、と』

 

 

しばらくの沈黙による静寂が過ぎる。

 

『わ、私は一夏が虐められていたのを知っていました。一夏が私に助けを求めていることも知っていました。ですが私はその手を払い、挙句にいじめのことを見て見ぬふりをした。自業自得として無視をした。一夏が英雄やクラスメイトたちに虐げらえれている姿を、私は心の中で嗤っていた。一夏は知らなかったでしょうね、私が英雄と肉体関係を持っていたことも、虐めに加担していたことも』

 

それは自虐なのかそれとも黒い愉悦なのか、織斑千冬の顔が笑顔に歪む。

 

『一夏が死んだとき、心の中で重いものが下りた気がしたんです。ああ、やっとこいつから解放されると、ようやく私自身の人生を歩くことができると。あとのことは、皆さんも知っていることでしょう』

 

織斑一夏の自殺後、彼女はその死を悔やむコメントを発表していた。その後は英雄と内縁関係を発表しすることにつながる。世間では一部、それを揶揄することも言われていたが、すぐさまその手の話は消えていった。だがこの映像によって、事実が白昼にさらされたことになった。

 

『私の話はこれで終わりです。この映像が流れるころには、私はどうなっているのか分かりません。まあでも、仮に一夏に会ったら謝ろうと思います。不甲斐ない愚かな姉を許してくれと』

 

その一言を最後に、画面は真っ黒になった。

 

 

 

 

 

 

 

カチ

 

何かが動く音がした。

 

ウィーン

 

何かが回る音がする。

 

『あ、ああ……』

 

真っ黒の画面から織斑千冬の声がする。

 

『そんな、こんなこと…』

 

その声は酷く動揺している。しばらくの間、何かの機械音が流れ、それに呼応するように織斑千冬の嗚咽が聞こえる。

 

そして

 

『そうか、おまえだったのか』

 

カチ

 

『ああああああああああああああああ…あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あああ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・・あ・あ・あ・あ・あああああ・あ・あ・・あ・あ・あ・あ・あ・あ・・あ・あ・あ……………、あ」

 

 

その声を最後に、映像は止まった。

 


 

この映像は世界中に駆け巡り、その影響を様々な場所に与えることになった。

 

IS学園においては、過去の織斑一夏の自殺の原因となったであろう、生徒や教師たちによるいじめの事実確認に追われることになった。いくら否定しようにも、すでに織斑千冬の映像により、その説得力は意味をなさなくなった。むしろ、言葉を弄すれば弄するほど、IS学園の印象を下げることにつながった。それこそ織斑一夏の死という、間接的な殺人を見逃すどころか加担したとまで揶揄されるようになったのだ。IS学園による調査は今も続けられ、第三者組織による調査も含めて行われている。だがしかし、自分の無罪を自分が証明するという、なかば悪魔の証明を真実とするには、あまりにも手遅れだった。

 

更なる悲劇は、本来なら無関係の現IS学園の生徒たちが、過去の先輩たちによる行いと、世界における女性たちの振る舞いの被害に巻き込まれたことだろうか。誰が言い出したのかは判らない。だが、ネットから言われ出した『IS学園の生徒は平気で男性を自殺に追い込む』という、不安と恐怖からの呟きが瞬く間に溢れだしたのだ。それは恐怖と不安をあおりだし、それを呼応するかのように彼女たちは誹謗中傷と風評被害にさらされることになったのだ。

 

周りからの視線、間接的な嫌がらせ、男性からの怯えた視線と、女性たちからの責めるような視線。そんな、いわれもない批判にさらされることになった。結果、IS学園から転校する生徒たちが現れたのは当然と言えるだろう。その数は少しずつ増えだし、新入生は大半がいなくなった。2年生と3年生は、1年とはいえ学園で過ごした未練、卒業という区切りのせいか、去るものが少なかったのは、幸か不幸かは彼女たちにも分かっていない。

 

一夏が自殺した当時の教師らは軒並み懲戒処分を受けることになった。これもまた織斑千冬の独白によるものだ。生徒を守らなければならないはずの教師が、あろうことか虐めを放置し、加担していたのだ。そんな教師らを雇う等、IS学園からすれば、とっくになくなった信頼を更になくすことになるからだ。その中には、現教員として、生徒に笑顔で接していた山田真耶も含まれていたことは、生徒と一部の人しか知られていない。『どうしてこんなことに…!』と誰かがつぶやいていたが、それは虐めを止めなかった自分の不甲斐なさか、それとも自分の幸せを壊されたことに対する怒りなのか、知る由もなかった。

 

 


 

「なんで私たちがこんな目に合わなければいけないのよ!」

 

もはや苛立ちを隠さない鈴音の叫びが部屋に響いた。その叫びのよるものか、天井の明かりがちかちかと瞬くも、すぐに元に戻った。

 

「落ち着け鈴。今はそんなことを言っても意味がないだろう」

 

「意味がない?はぁ!?意味がないって何よ!」

 

「落ち着きなさい二人とも。いくら防音だからって、うるさいものはうるさいんだけど」

 

鈴音と箒の険悪な雰囲気を、更識楯無はにらみつけた。

 

「これからどうなってしまうのでしょうか」

 

不安げなセシリアの言葉に、部屋にいた一同が黙る。

 

織斑千冬の映像によって、彼女たちが非難の的になったのは当たり前だろう。それこそ織斑一夏の自殺を引き事したとされる虐めの当事者として世界中に暴露されたのだ。それにより、IS学園だけでなく、様々なところに影響を及ぼしたのだ。結果、彼女たちの住む家はすぐさまマスメディアが取り囲み、一部の人間からは嫌がらせと言った迷惑行為にさらされることになった。その比は、かつての嫉妬によるものや、一度目の『ワンサマー』によるネット映像の比ではなかった。結果、彼女たちは誰にも知られないように住処を捨て、更識楯無が用意した別宅に隠れているのである。

 

もちろん、この別宅は一部のものしか知られておらず、それこそマスメディアは嫌がらせをする連中は元の家に釘付けだ。しばしの間でしかないが、世間からの目から離れたことで彼女たちはつかの間の休息を得たのだ。

 

「映像の出所だけど、特定したパソコンは一般企業のもだったわ。一応、所有者が取り調べを受けたけど無関係でしょうね。幸か不幸か、投稿時間に彼は友人と食事をしていて使えるわけなかったから。おそらく、今回は海外の回線を複数経由してるのね。そのせいで今だわからずじまい」

 

「じゃあ何の手がかりもないってことじゃ…」

 

シャルロット・デュノアの言葉に、楯無は首を横に振った。

 

「ところがそうでもないのよ。千冬先生の自宅に付近で、不審者を見かけたってのが出てきたわ」

 

「もしかして、それが千冬さんを?」

 

「そうとも言えるしそうとも言えない。でもまあ、十中八九そうでしょうね。ま、私の感だけど」

 

「それで、そいつの姿はどうなんだ?」

 

英雄の言葉に、彼女はテーブルの上に一枚の紙を置いた。そこに描かれていたのは、白い甲冑を着た騎士の姿だった。

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