スノードロップ 作:何かと影響されやすい作者
銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声………
両手に握られたサブマシンガンから放たれる銃弾の雨。正確無比で容赦のない攻撃。その攻撃に晒された箒は耐えるしかなかった。防御に回している展開装甲が銃弾を弾くたびにカンカンと音を立てる。
傍から見れば、一方的に攻撃を受けている箒の方が苦しい状況だとと思われているが、実際はむしろ山田真耶の方が苦境と言える。なにせ、豪雨の如く放たれる銃弾を受け続けている紅椿の装甲は、多少なりと傷はついているが、壊れるような気配がない。それほどまでに紅椿は規格外なのだ。
そもそも紅椿は、ISの生みの親である篠ノ之束が直々に妹である篠ノ之箒のために作った第4世代の完成形なのだ。未だ第2世代であるラファールや打鉄が活躍し、専用機として扱われている第3世代のISが完成形に至っていないと言われれば、それを飛び越える第4世代のISなぞ、世界において並ぶものがほとんどいない機体なのだ。
第2世代どころか第3世代との性能差はあまりに大きいと言えるだろう。また紅椿に搭載されている単一仕様能力である『絢爛舞踏』はエネルギーを増幅する能力だ。言ってしまえば、エネルギーが僅かでも残っていればそれを増幅することが可能で、理論的には半永久的に活動ができるということである。つまり紅椿には、ISにおいて絶対的な弱点とされるエネルギー切れを狙うのがほぼ不可能と言える。それこそ回復する前にエネルギーを空にするまで攻撃を続けるか、一撃でエネルギー残量を零にしない限り無理な話だ。IS自体を止めるのであれば、絶対防御を越えた威力の攻撃で、搭乗者の篠ノ之箒を殺すかぐらいである。
しかし、ことはそう簡単にはいかない。箒が一方的に耐えていることにも理由がある、先にも行ったが機体性能と単一能力に加え、紅椿にはもう一つの機能が備わっている。それは『無段階移行』と呼ばれ、蓄積した経験をもとに紅椿自体が、自動で状況に合わせて性能強化し、また場に応じたパーツ開発などを行うのだ。もはや紅椿はIS工場ともいえる機能も携えているのだ。
つまり時間をかければかけるほど、紅椿は自動で強くなっていくのである。正直、あまりにも理不尽な性能と言えるだろう。相手を倒すために攻撃しなければならないのに、自分の攻撃が自身の敗北へと首を絞めていくのだから。それこそ山田真耶は攻撃をし続ければ続けるほど、山田真耶は紅椿に負ける要素を増やしていくのだ。結論を言えば、篠ノ乃箒はただ防御を固めて攻撃に耐えるだけで、最後には勝ってしまうだけの戦いでしかない。
しかし、今の状況がそれを許さない。箒からしたらその耐える時間すらも惜しいのだ。身体は無傷だが、時間が過ぎる度に箒の心が焦燥に苛まれていく。
なにせ剣道場の傍の神社はいまだ燃え続けており、その火が剣道場にも燃え移り始めだしたのだ。道場内に焦げた異臭と黒い煙が立ち込め始めているからだ。
そして目の前には、けがをして意識を失っている雪子おばさんがいる。黒い煙の中で、ISに乗っている箒と山田真耶は無事であっても、生身の雪子はその煙を吸ってしまう。黒い煙を吸い続ければ、果ては酸欠による後遺症、下手したら死んでしまうかもしれない。またケガの具合からしても、一刻も早く彼女を病院に連れて行かなければ間に合わないかもしれないのだ。
焦る箒をあざ笑うかのように、山田真耶の攻撃は箒の行動を阻害する。的確に、箒の進む意思を削ぐように、前に動いた場所を狙い、動きを止めてくる。
「ゴホッ」
雪子おばさんが咳き込んだ。
「ッ!!」
耐えきれなくなった箒は、防御した体勢のまま山田真耶に突進。加減や躊躇も振り払い、押し潰す気で山田真耶にぶつかり鈍い音が響く。山田真耶のISに展開されていた盾が、箒の突進を防いだのだ。
「あら?」
だが衝撃を緩和できなかったのか、山田真耶はバランスを崩し、その片方の手から銃器が離れた。彼女に沿うように盾もバラけてしまった。その隙を見逃さずに箒は距離を詰め、空裂を振るおうとする。が、銃声と共にそれが手から飛んでいく。見れば、山田真耶が持っているもう片方の銃口から煙が上っている。
「まだだぁ!」
自分の叫び声で発破をかけ、箒は紅椿に装備されているもう一本の刀、雨月で真耶に斬りかかる。態勢を崩している山田真耶には、この一太刀から逃れることはほぼ不可能。一撃必殺の振り下ろし。殺す気はない。だが動けなくするための本気の攻撃。今の箒自身のように、ただまっすぐな軌道の攻撃。そう、まっすぐ過ぎた軌道。
だからこそ、
「えいっ」
山田真耶はその刀身を、自分に向かって振り下ろされる刃を、新たに手にしたサブマシンガンの挺身で横から当てた。雨月の刃先は彼女を掠めるように斬りつけ、その勢いのまま木の床に刺さる。が、少し逸らされたせいか、真耶自身の衣服は裂け、その下から覗くISスーツから赤い線が滲みだすものの、彼女の顔を見るに痛手にはならなかった。
「くそっ!」
雨月を抜こうにも、勢いよく振り下ろしたせいか直ぐに抜けない。それに苛立った箒は、一瞬山田真耶から意識を離した。その隙を見逃さず、今やられたことを倣うように、今度は真耶が箒に突進。箒の手から刀が離れた。
何かぶつかる衝撃と音。箒が見たのは、山田真耶のISに付いていた四枚の盾が、自分と真耶を包み込むように迫ってくる光景。盾は紅椿の展開装甲との間に挟まり、箒をISスーツの自分を山田真耶の前に晒す。ゆっくりと暗くなっていく中で、山田真耶の瞳だけが、反するように異様に明るく見える。
「じゃぁ篠ノ乃さん」
箒の目と鼻の先で、ギラついた瞳をした山田真耶の顔が
「本物の暴力を教えてあげますね」
歪んだ。
「なんでこんなに渋滞してるのよ!」
目の前で連なる車の列に、運転手の鈴音が吠える。それこそ、進まない前の車にクラクションを浴びせる。
「ちょ、ちょっと落ち着こうよ、鈴!急いでるのは分かるけど、だからって変に目立つようなことはやめてよ」
助手席のシャルロットが、苛立ちを隠さない鈴音を必死になだめる。
「しかし、一体何なんだこの渋滞は?何かあったのか?」
後部座席のラウラがドアの窓ガラスを下ろし、顔を出して前方を見据える。
篠ノ之箒が飛び出して行ったあと、すぐさま鈴音、シャルロット、ラウラ、セシリアの4人は車で追いかけたのだ。なぜISを使わないのか?と問われれば、下手にISを使おうものなら、すぐさま自分たちの居場所を暴露する好意に等しいからだ。それこそ彼女たちのISは専用機、簡単に特定されてしまう。ゆえに、焦る気持ちを抑え、4人は車で箒が向かった篠ノ之神社に急いでいるのだ。
「箒さんは大丈夫かしら…」
ぽつりとつぶやくセシリアの言葉が車内の空気を暗くする。
「ふん、あいつだって伊達に私たちや英雄と一緒に戦ってきたのよ。そこいらの奴に負けるわけないわ」
「その通りだ。私たちはそれこそ数ある強敵と戦ってきた。それにあいつには紅椿がある」
「そ…そうですわね。箒さんなら問題ありませんわね」
各々が今まで積み上げてきたことを振り返り、互いに嫌な想像を払拭させる。
「見て、ようやく動くみたいだよ。えっと、どうやらいくつか信号機が故障したみたいだね。今は誘導員さんが指示してる」
今の4人はそれぞれ別人のように変装しているとはいえ、ばれることに危惧したが、誘導員は何も言わずに4人の載せた車を通した。
「無事でいなさいよ!何かあったら許さないんだから!」
鈴音の言葉が車内に響きながら、車は篠ノ之神社へと向かっていった。
殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打………
山田真耶の振るう拳を、箒はただ受け続けるしかなかった。いくら絶対防御があろうと、それは搭乗者に致命的でない限りは発動しない。あくまで、搭乗者が死亡するほどの威力のみに発動するのだ。では、そうでなければどうなるか?
「ぐぅぅぅうぅくくぅぅぅ………」
何ら武術に精通していない素人の打撃。だからこそ、加減もなく、どこを殴るかもわからない。何より、目の前の山田真耶を見ることすら、今の箒には恐怖だった。
もしも英雄がいてくれたら…!箒はこの場にいない英雄のことを思った。あいつなら、すぐにでも山田真耶を叩きのめしてくれるのに!だが彼はいない。ゆえに助けてくれるわけがない。
腹部に衝撃が走り、身体がくの字にまがった。今度は顎に攻撃が当たり、箒の意識が揺らいだ。揺れる視界の中、箒の頭にはとある光景が浮かんだ。
それは彼女の姉である篠ノ之束がISを作り、行方をくらませたあと、箒は家族と引き離されて転々と場所を変え続けていた時期の話だ。篠ノ之束の名前が出る度に箒は不安になった。もしも自分がその妹だと知られたら?女尊男卑の社会で、一方的に虐げられる男性たち。だからと言って、男たちも一方的ではない。時に、それこそ何もかもを投げすてたような表情で、女性を殴り続ける男だっていた。その光景をテレビで見た時、もしも自身だったら?と。名前を隠してはいるが、ばれない保証はなかった。もしも自分のことを知った男が来たら?そのことが箒の中で恐怖だった。
そんな日々を送っていた箒は、IS学園で一夏に出会ったことでずいぶんと救われた。幼い頃に初めて出会った時は気に入らない男の子だった。姉である束の友人の弟で、自分の剣道場の門下生だった。何度も喧嘩だってした。ある日、その少年が、私が男子のからかわれていた場面を見つけ、私を助けてくれた。それから離れ離れになるまで、そして今に至るまでずっと忘れることはなかった。
『久しぶりだな、箒』
もしも今、一夏がこの状況を見ていたらすぐにでも止めてくれるに違いなのに。でもそれは叶わない。
「篠ノ之さん、私の特技を覚えてますか?」
揺らいでいた意識が、山田真耶の言葉で戻された。そして、山田真耶の持っているそれに言葉を失った。その両手には、いつの間にかサブマシンガンが握られている。箒と山田真耶は、山田真耶が展開した盾に閉じ込められている。そこは逃げ場の無い閉鎖空間。そんな中で銃器を使えば…。
「やめ……!」
かつての教え子の言葉を無視し、躊躇なく山田真耶は引き金を引いた。