スノードロップ   作:何かと影響されやすい作者

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篠ノ之箒の奮闘

ガコン、と音を立てながらとじられた空間が広がった。赤やオレンジ色で炎々と燃え、真っ黒な煙に満たされつつある剣道場が目に映った。

 

「大丈夫ですか篠ノ之さん?」

 

目の前には、眼鏡が割れ、顔やら体中に青あざに覆われた山田真耶だった。片方の瞼が開かないのか、片方の目でこちらを心配そうに見つめている。

 

「あ…が……」

 

口を開こうにも、体中に走る痛みでうめき声しか出てこない。

 

「少しやり過ぎてしまいましたが、篠ノ之さんは大丈夫ですね!良かったです」

 

ニッコリと山田真耶の顔が酷く歪な笑顔になった。

 

「ちゃんと反省して、次からは先生の話を聞いてくださいね。さて、次はセシリアさんにラウラさん、シャルロットさんにも説教しなきゃいけませんね」

 

もはや箒に興味を失ったのか、ふらふらとこちらに背を向けながら離れていく山田真耶。

 

「あ、そういえば…」

 

何かを思い出したのか、山田真耶は立ち止った。ちらりと顔を動かし、倒れたままの雪子おばさんに目を向ける。そしてぎこちなく頭を下げる。

 

「申し訳ありませんでした。ご家族としては篠ノ之さんの指導にいささか熱が入ってしまい、こうしてご家族の前でこのようなことをしてしまいまして」

 

一息を吐くと、その目が濁った。

 

「ですが、こうして篠ノ之さんがこうなったのはご家族である、雪子さんにも責任があると思います。時折、篠ノ之さんの行動は目に余りました。それこそ学校内で木刀を振り回すなど言語道断でした!ましてや篠ノ之さんの家は剣道場を担っているわけです。これはご家族の躾にも問題があると思うんですよ!いったいどういう躾をしていたのですか!?」

 

ぜーはーと荒げ息を整える。そして山田真耶は倒れている雪子おばさんへとむけて、ゆっくりと左手を上げた。

 

「ですから!」

 

 

その手が一瞬光ると、その手には新たなサブマシンガンが握られていた

 

「ご家族にもその責任を取っていだたいてもよろしいでよね?」

 

そしてその引き金を引こうとして、ボンッと胸元に穴が開いた。

 

「あれ?」

 

ゆっくりと意識を失っていく山田真耶が見たのは、クロスボウのようなものを構えていた篠ノ之箒の姿だった。

 

 

 

篠ノ之箒の幸運はいくつかあった。一つは紅椿である。もともとが第四世代という破格の高性能機体。そもそもが姉である篠ノ之束が箒専用として作り上げたそれは、箒の命を守るために多大な貢献をした。彼女が着ていたISスーツ自体、銃弾程度ならば防ぐほどの頑丈さはあった。ISにそもそも搭載されている絶対防御も、搭乗者である篠ノ之箒が死ぬであろう攻撃には発動していた。そして山田真耶があくまでも箒への指導であったことで、真耶本人に命を奪う気はなかったこと。

 

こうした幸運が重なり、篠ノ之箒は生き残ったのだ。そして山田真耶が背を向けた時に、箒は紅椿に搭載されている遠距離武器、穿千(うがち)を使用したのだ。それは長年戦ってきた経験を元に、新たに生み出された紅椿の武器だった。自身の展開装甲をクロスボウの形にし、エネルギーを発射する2問のブラスターライフル。威力は任意で調節でき、最大出力で放てば、地面の直線状に大きな溝を抉り出すほどの威力になるそれが穿千だ。

 

意識が白濁していたことも含めて、山田真耶を殺すことに躊躇いはなかったと言えば嘘になるだろう。だが、家族である雪子おばさんが殺されそうになることを言い訳に、箒はその引き金を引いたのだ。幸いかどうかは分からないが、もはやエネルギーが僅かなことで、山田真耶はその胸に大きな穴をあけた程度で済んだわけだ。

 

どさりと木の床に倒れ、目から光を失った山田真耶の姿をみながら、篠ノ之箒はゆっくりと痛む身体を起こす。

 

「あ…う……い……?」

 

はじめて自分の手で殺した。それも自分がお世話になっていた恩師である山田真耶を殺した。震える自分の両手を見ながら、篠ノ之箒は自分の手がまるで赤く染まった怪物の手に見えた。ほろほろと両目から涙があふれるが、そんな箒に優しい言葉をかける存在はいなかった。

 

穿千を使ったことによりもはやISエネルギーも限界に近い。『絢爛舞踏』でエネルギーを回復する猶予もない。幽鬼のようにふらつく足取りで、箒は雪子おばさんの下へと歩く。

 

「早くおばさんを助けなければ……」

 

もはや縋るような思いで雪子おばさんへと歩く。そして倒れているおばさんを抱え、重い足をなんとか速めようと、じれったさと焦燥感に苛まれながら、箒は剣道場の外へ足を運ぶ。ISを纏ったまま倒れている山田真耶を一瞥するが、もはや火にまかれて逃げ場がなくなりそうな剣道場と自身の限界を考え、山田真耶のそばを通り過ぎる。どうにか外へと出ることができ、雪子おばさんを地面に下ろす。多少なりと煙を吸っているようだが、命に別状な程ではなかった。血のにじんだ衣服も、重傷なほどではなかったようだ。

 

「よ……がっ………だ」

 

そして安心のため息を吐いた箒

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

の胸から銀色の刃が突き出た。

 

 


 

 

口から溢れたのはなんだだろうか?

 

身体中に走る痛みに呻きながら、箒は震える右手で口元を拭い、片方しか開かない目でそれを見た。

 

赤い

 

粘着いた感触がしたその赤い液体。そして口いっぱいに感じる変な味。慣れない味に、箒は酷くえづいた。そのたびにパシャパシャと赤い液体が口から零れた。目を下ろせば、自分の胸から白い刃が突き出ていた。ゆっくりとそれに触れると、ピリッと痛みを感じ、触れた指先から赤いものが滲みだした。

 

何が起きているのか分からず、後ろを見ようと振り返った箒が見たのは、吸い込まれそうな真っ黒の瞳。死んだはずの山田真耶の顔が目に入った。

 

「あ………んで………?」

 

山田真耶の胸は、箒によって出来た穴がぽっかりと開いており、今もそこからはどくどくと赤い液体がこぼれている。

 

カチリと音を立て、銀の刃が光り輝く。

 

「あ……?」

 

紅椿のデータどんどんと消えていく。今まで積み上げてきた経験やデータが、片っ端から消失していく。

 

「やめ……ろ………」

 

箒の目が恐怖に震える。

 

やめろ、止めてくれ!今までの何かが消えていく。英雄やみんなとの過去が消えていく。一緒に戦い、共に手を取り合って強敵や事件に立ち向かっていったつながりがなくなっていく。ほら、英雄と背中を合わせて敵へと向かっていった経験が今、消えたよ。データが消えていくたびに、紅椿の性能がどんどんと弱くなっていく。いままのデータによって強くなるのなら、そのデータがなくなっていけば元に戻っていくのは必然だ。

 

そして紅椿は、篠ノ之箒が搭乗する前へと元に戻った(初期化された)

 

「あ、あ………」

 

もはや空っぽの紅椿。何も残っていない記録。再生不可能と移されるデータの数々。そしてエネルギーがゼロとなり解除される紅椿。そして

 

「あ?」

 

箒の顔が歪んだ。

 

「嘘…だ…」

 

口からゴポゴポと血をあふれ出しながら、箒の顔は信じられないという表情をした。開かれた目から見える瞳は揺れ動き、口からは「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ………」と壊れたラジカセのように同じ言葉を繰り返す。

 

「ゔぞだぁぁあああああああっぁぁぁぁぁあああああああぁっぁぁぁぁあああああああああああああぁぁああぁぁっぁぁああああああ!!!!」

 

刃はずるりと胸元から抜かれ、篠ノ之箒はそのままガクリと、頭を下げるような格好で動かなくなった。

 

 

「嘘でしょ……?」

 

それは誰が呟いた言葉だろうか。

 

法定速度を半ば無視しながら車をとばし、篠ノ之神社にたどり着けば、目に入ったのはもはや火の塊となった神社。所々で倒壊が始まり、大きな音を立てていた。その周りでは消防車のサイレンが鳴り響き、赤いランプが周りを赤く染めていた。その周りを野次馬たちが取り囲んでおり、パシャパシャと携帯電話のカメラで撮影している人でなしもいる。入口は黄色い制限テープですでに仕切られており、そこから入ることは出来そうにない。

 

「こっちだよ!」

 

茫然としていた鈴は、シャルロットの言葉に意識を戻す。見れば、シャルロットが手招きをしており、彼女についていけば、人が集まっている門の入口からは陰になる場所へとたどり着く。

 

シャルロットは無言でISの部分展開を行い、パイル・バンカーである灰色の鱗殻(グレー・スケール)を壁に打ち込んだ。ピシリピシりと罅が走り、人が入れるほどの穴が壁に出来る。

 

「無茶しますわね」

 

「非常事態だ、いくぞ」

 

半ば呆れたセシリアの言葉をラウラが制し、4人は篠ノ之神社の中へと入る。目指すは篠ノ之神社。おそらく箒もそこにいるだろう。どういうわけか途中から連絡が取れなくなっていたため、箒の現状が分からない。一方で、紅椿の性能と今までの経験を思い返し、彼女たちは不安を拭い去る様に走る。

 

そして

 

「おげぇぇぇえぇぇぇえぇぇぇえぇぇぇぇぇぇ」

 

 

そこにあったのは、()()()()()()()()()()()()()篠ノ之箒と山田真耶だった。

 

 


 

 

ガコン……と重厚な音を立てて、鋼鉄の扉が開いた。

 

カツカツとコンクリートの音が響く中、真乃英雄と更識刀奈は、奥へ奥へと足を進める。途中途中で特殊なキーで閉じられた鋼鉄の扉は、まるで中と外とを隔離するような威圧感を感じさせた。

 

「準備は良いかしら?」

 

「もちろんだ」

 

刀奈の言葉に英雄は頷き、刀奈は最後の扉のキーを解除した。

 

ゴゴゴゴゴ……と開く扉。そして、

 

「あれ?ここに誰か来るなんて珍しいねぇ。もすもすひねもす~?」

 

紫色の髪をした女性が二人に笑った。

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