ライブ後。香澄達は、興奮冷めやらぬ様子でCiRCLEを出た。
なんというか、足の先から頭の先まで「頂点を目指す音楽」に染っているような感覚だった。
「す、凄かった……」
ほんのりと頬を赤らめて、漠然とした感じで感想を言う香澄。何時なら、りみが
「師匠、師匠!」
と香澄にじゃれついてくるものだが、今はそんな場合ではなかった。
Roseliaーー頂点を目指す人達による音楽。
それは最強に思えて、最高に思えて。"こうなりたい"という思いを具現化した様なバンドだった。
「あのギターの人の技術、もの凄かったっす。あれだけガンガンに弾いているのに、全然走ったりしていないなんて……」
たえが、腕を組みながら考える。続けて、沙綾も口を開いた。
「あのドラムの子も、私より年下だよね。なのに、あんなに難しいフレーズを、あんなに楽しそうに叩けるって。……相当練習してる」
憧憬。そんなものを、沙綾から感じた。
「あのベーシスト、かなり目立っているように見えたが、激しいギターとキーボードを、そしてボーカルをしっかり支えきっていた。……ベンケー殿、私達も負けてられないぞ」
りみが有咲に視線を向ける。有咲は、瞑っていた目を開いて言った。
「……そうね。あんな演奏を見せつけられたら、私達だって負けてられないじゃない」
有咲が真面目な表情で香澄を見る。
「……かすみん!」
「ひゃ、ひゃい!?」
急に大声を出す有咲。ついでに指を刺された香澄は、不意な呼び掛けに変な声を上げた。
「追加クエストよ!」
「つ、追加……?」
香澄がポカンとしている。たえと沙綾は、香澄と同じように首を傾げ、りみは「任務か! 腕が鳴る!」と、ノリノリだった。
「そう! 私とかすみんの……ううん。おたえ、りみりん、沙綾による
いつの日だったか。香澄が、深紅のランダムスターと出会った時と、蔵にあった "夢"を撃ち抜いてみたあの瞬間と同じことを言う。
有咲は、近くにあった登り階段にジャンプして飛び乗った。
「そんな私達の物語は、まだまだ続いていくのよ! ……題して!」
"
蔵の王は、そんな事を言った。
「制限時間は無限! 私達が、Poppin’Partyの歌が! 私たちの想いが! 沢山の人達に届いた時がクリアよ!」
ビシッと、夜空に輝く月を指さす。
「私達の、歌が……皆に……!」
ドキドキする。とくん、とくんと言う"星の鼓動"が香澄の中で瞬き始める。
香澄は、自らの胸に手を当てて。自分の鼓動を確認していた。
「ええ! 誰かを感動させたり、記憶の中に永遠に残ったり! 誰かの支えになったり、誰かの勇気になったりするようなことを伝えに行くのよ!」
夜月に照らされた、蔵の王だった。腰に手を当てて、高らかに宣言するその姿に、かつて蔵弁慶と呼ばれた面影は存在していないように見えた。
「……す、凄いっす! 自分、感動したっす!」
ぴょんぴょんと兎のように飛び跳ねながら、感情を爆発させるたえ。隣に居た沙綾も、夜空を見上げながら言った。
「……うん。ポピパに入って感じた事とか、私も誰かに伝えてみたいな」
いつも以上にキラキラと輝いて見える星空。沙綾は、視線を香澄達に戻して笑った。
一方のりみは、いつの間にか用意していたベースを持ってべべベンと弾き始めていた。
「り、りみりんいつの間に……」
「うむ、修行するなら早い方がいいと思ってな」
べべべべん! と、ひとフレーズを弾き終わったりみ。いつの間にか集まっていた人達に手を振ると、パチパチパチと拍手が上がっている。
その人の集まり具合に香澄がじわじわと緊張して始めていると、りみが近寄ってきた。
「師匠、時間は待ってくれないぞ。課せられたらやる、思いついたらやる。その心意気こそが、ニンジャになる秘訣なんやで」
ーーニンジャには、別にならなくてもいいかな。
ポツリと、香澄は心の中で呟いた。
「別にニンジャにはなりたくないけど……。りみりんの言う事は確かね。時間は待ってくれないわ」
有咲の言ったことを反芻し、思い返す。
春にバンドを始め、学園祭までの期間。辛いこともあったけど、それ以上に楽しかった数ヶ月。有咲ちゃん、りみりん、たえちゃん、沙綾ちゃんという最高の友達と奏でる無敵の歌。それを"届けたい"と言う情熱的な思いは、香澄の過ごした約90日間をあっという間に通り過ぎていった。
……楽しい事をしているとあっという間に時が過ぎると言うが、流石に経ち過ぎじゃあないだろうか?
そんな事を考えてる香澄の他所で、段差から飛び降りる有咲。着地の衝撃にふらつきながら耐えた後、胸を張りながら言った。
「"今"を大切にして、1秒ごとに新しい私達に変わっていきましょ!」
なんでだろう。有咲ちゃんの言葉が、自分の放った言葉のように聞こえて、そのイメージが脳裏に浮かんでくる。
雨上がりに掛かる2つの環状線。二重の虹。耳を澄ませば、キラキラと音が聞こえてくるようなーー。
「それじゃあ、帰るわよ。明日もあることだし」
有咲の言葉で、脳裏の虹は霧散した。
こちらを見ずに踵を返す有咲を、香澄達は急いで追いかけた。