Cheers   作:冴月

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 次の日。学校を終え、4人でせかせかと有咲の蔵へと向かった。

 沙綾の授業は17時半に始まる。その為、17時位までが平日5人で練習出来るリミットだった。時間を可能な限り取る為には、急いで帰ることが必須なのである。

 

「……獅子メタル殿、今戻ったぞ!」

 

 一番にドアを開けるのは、やはりりみだった。

 普段から、電車と併走するくらいの脚力をもつりみは、5人の中でも屈指の走力を持つ。そんなりみを追うようにして、たえ、香澄、有咲の順番で蔵へと飛び込んでくるのが日常だった。

 そんな4人を、沙綾はソファに座りながら待っている。定時制の生徒である沙綾は、蔵で練習をした後に授業へと向かう。これもポピパの日常となっていた。

 だから、沙綾は4人が来る1時間くらい前に蔵に来て、お菓子やジュースを用意して待っている。

 

「ふふっ。おはよう、りみりん」

 

 りみに微笑みかける。随分と勢いのいいお辞儀と、敬礼でそれに応えたりみは、ソファに倒れ込むようにして飛び込んだ。

 

「わっ、ちょっとあんた飛び込むんじゃないわよ。ホコリ舞っちゃうでしょ」

 

 舞うホコリを手で払いながら、有咲がソファに座る。相変わらず疲れた様子で、背もたれに体を預けた。

 

「かすみんセンパイ、今カッパのメダル送ったっす!」

「ありがとうたえちゃん! じゃあ私からも……」

「え? ……こ、これは最近出たばかりのジゴにゃん!? いいんですか、かすみんセンパイ!」

「いいよー、私も欲しいメダル貰ったし!」

「か、かすみんセンパイ……!」

「たえちゃん……!」

「かすみんセンパイ!」

「たえちゃん!」

 

 手の平と手の平を合わせて、瞳をうるうるとさせている2人。香澄が元々やっていた"妖怪メダル"のスマホアプリ版が新しくリリースされていたらしく、たえと2人で一緒にプレイしているのだとか。

 ただ、その熱があまりにも深すぎて、バンド練習にまで支障が出てることもしばしばあった。

 

「かすみん、おたえ。楽しそうなのはいいけど、練習始めるわよ!」

 

 いつの間にか定位置に着いていた、りみと有咲と沙綾。2人が見ないうちに、そこそこの時間が過ぎてしまっていたらしい。

 

「ご、ごめん! すぐ準備するね!」

「すいません!」

 

 ギター組2人が、急いで支度をする。チューニングをさっさと済ませた香澄は、歌いやすいように制服のリボンを少しだけ緩ませた。

 

「……ごめん、お待たせ!」

 

 マイクを模したスタンドの前へと立つ。りみ、たえ、有咲、沙綾の順で目を合わせた香澄は、近くに置いてあった楽譜代わりのタブレットに触れた。

 

「えっと、準備したけど何やろう?」

「うーん……。とりあえず、オリジナル曲振り返ったらどうかな。"イエバン"から、"はしきみ"まで!」

 

 沙綾が三本のスティックを構える。ハイハットにスティックを構え、イエバンを叩く気満々だった。

 

「おっけー、じゃあそれで行こう! ……沙綾ちゃん、お願い」

「うん! ……ワン、ツー、スリー、フォー!」

 

 ここからは、私達の時間だった。

 音と音を結び、繋ぎ、編んでいくようなこの感覚。5人の音楽(キズナ)が音圧となり、うなっていくこの衝動は、何度体験しても新しく、そして楽しかった。

 

「……ふぅ」

 

 "はしきみ"までの演奏が終わり、一息つく。各々は飲み物を飲んだり、出怪しかったフレーズを振り返ったりする。

 

「獅子メタル殿、うち走りすぎてなかったか?」

「大丈夫だよ! いつも通りやりやすかった!」

「有咲センパイ、ここのフレーズなんですけど……」

「あー、ここね。私もちょっと違和感あったから、もう1回練習しましょ」

 

 みんなのモチベーションが上がっていた。

 昨日、"Roselia"の頂点を目指す音楽を見たことで、ポピパ達の熱は再び上昇している。

 

「私も、頑張って新曲の歌詞考えないと……」

 

 香澄には1つ、また新曲の歌詞を作ることを課せられていたのだ。学園祭も終わり、Roseliaのライブを見てちょうど熱がある今だからこそ、「作ろう!」という事になったのである。

 だが、構想は思いつかない。新しく完成させた「1000回潤んだ空」も練習していく中での作詞の為、なかなかスムーズに進まない。

 というか、歌詞が上手く刺さらないのだ。どんなものを書きたいかという構想はぼんやりとあるものの、それが香澄の中の言葉達とマッチしない。

 

「うーん……」

 

 香澄は、皆が楽器を持つ中一人で机に向かっていた。「うーん……」とか、「うーむ……」とか。声上げながら悩むその姿を見て、沙綾が香澄に声をかける。

 

「香澄ちゃん、悩んでるねぇ」

 

 ドラムスティックを仕舞いながら、沙綾は言った。ペダルとかその他もろもろは、全て有咲の蔵に置いていくつもりらしく、持っているものはカバンだけだ。

 沙綾は、手提げカバンを肩に背負って立ち上がった。

 

「沙綾ちゃん、もう時間?」

「うん。ほんとは、もうちょっと練習したいんだけどね」

 

 しょうがないといった感じで、にこやかに笑った。

 ーーいつの日か、沙綾ちゃんとも夜遅くまで練習できる日が来るのだろうか……。

 

 などと、香澄が思っている内に。沙綾は「それじゃあ、行ってきます!」と言って、蔵から登校して行った。

 

「……ところで師匠。その歌詞なんだが、どんなものを入れるつもりだ?」

 

 りみが、香澄に後ろから寄りかかってくる。軽い彼女の体重で、少しばかり前かがみになりながら、香澄は答えた。

 

「うーん……。とりあえず、ドキドキするような歌詞を入れたいかな。キラキラーって、してるようなイメージの……」

「ふむ、なるほど。なら、ホットケーキとかはどうだろうか。ハチミツでキラキラしているし、食べるとドキドキだぞ」

 

 ……えと、りみりんはホットケーキ好きなのかな?

 そういえば、ポピパの名前を決める時もホットケーキって言っていた気がする。休日練習の時、作って持っていつまであげようかな……。

 

 そんな雑談をしている最中でも、時間はどんどん進んでいく。

 香澄は結局、歌詞を完成することなくこの一日を終えた。

 

 

 

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