学校が終わってから、夜遅く迄ーーでは無いけれども。8時くらいまで、ポピパはただただ練習した。
休みの日にはスタジオを借りて、5人で合わせる。何度やっても慣れない一体感と、それから感じる高揚感に香澄達はドキドキしっぱなしだった。
練習以外にも色々やった。この前、"Roselia"のライブを見たライブハウス。"CiRCLE"でのライブを申し込んでみたり。あーだ、こーだいいながらセットリストを考えたりもした。それに向けての余興として、たえとりみといっしょにストリートライブをしてみたり。(沙綾は時間の都合上合わせられなかった。有咲には全力で拒否された。)
そんなことをしていくうちに、ポピパ達の技量はぐんぐんと上がっていく。
左手も踊れるようになった有咲。弾けるフレーズが増えたりみ。何故か寝ギターもできるようになったたえ。本来の音を取り戻しつつある沙綾。
そして、どんどんと自分の音を奏でられるようになった香澄。ギター&ボーカルという、初心者にしては難しいと思われる立ち位置に、香澄は見事に対応していたように見えた。
「かすみんセンパイも、かなり余裕が出てきたっすね!」
たえとマンツーマンでギターの練習をしている最中、香澄はたえから褒められていた。
自分の事のように褒めてくるたえに少しだけ照れつつ、香澄は答える。
「まだまだだよ。歌ってたら歌だけに集中しちゃうし、どっちかが疎かになっちゃってて」
「でも、前よりずっと安定してるっす!」
「そうかなぁ」
「そうっすよ!」
自分も負けてられないっす!
そう言って、たえはスウィープ奏法の練習を始めていった。
次々と音を奏でていくたえの奏法を香澄がぼんやりと眺めていると、有咲から声がかかった。
「かすみん。そういえば、新しい歌詞は完成した?」
キーボードの上からザンジを下ろしつつ、有咲は尋ねてきた。
「……実は、まだなんだよね。パッとしないって言うかなんて言うか……」
「ふうん。まぁ、何時までとか決まってないから、かすみんの満足する出来になったら見せてね」
「……うん!」
今回は、前の"スタビ"の時のように切羽詰まってはいない。自分の満足するまで何度も書き直して、作り直して、完成させればいい。
「よーし。……それじゃあ、みんな! 今度のCiRCLEライブのセトリ決めるわよ!」
有咲が声を上げると、練習していた面々がソファーへと集まってきた。机の真ん中に広げられたA4ノートを、5人はなにか何かと覗き込む。
「私達に与えられた時間は30分。曲数は4つってとこね」
「となると、オリジナル以外はやらない感じ?」
「そうっすね。腕がなるっす!」
「うむ。今こそ、うちの温め続けていたアンプを解き放つ時……」
各々が気合いの言葉を吐いていく。その様子を見た有咲は、監督のように頷きながら言った。
「それじゃあ、何やる? 私、イエバン入れてもいいと思うのよね」
ノートに"イエバン"と書入れる有咲。その様子を見て、たえが真っ直ぐに手を挙げた。
「自分、新曲やりたいっす! まだライブでやってない、"1000回潤んだ空"やりたいっす!」
「いいね、私も賛成だな」
たえと沙綾がノリノリだ。沙綾は、有咲からペンを受け取ると"1000潤"とノートに書入れた。
「それでは、ここいらでノリのいい"夏色SUN! SUN! SEVEN!でも入れておくか」
沙綾からペンを受け取り、"夏色"とりみは記入した。……それとは別に、
りみは続けて何かを書入れる。
「えと、新曲……?」
「せやで。……ということで、師匠が書いてる新曲を最後にやったらどうだろうか」
ぐるぐると「新曲」と書かれた部分を囲う。円、とは言えない渦巻く螺旋を見て、有咲は少しだけ眉を寄せた。
「いいかもしれないけど、それはかすみんと相談ね」
香澄の方を向く。有咲は、少しだけ首を傾げながら聞いた。
「ライブまでは後1ヶ月くらい。新曲を新しく作って演奏できるようにってなると、時間との勝負になっちゃうわ。さっきはあんなこと言ったけど、どう?」
1ヶ月で、出来るのだろうか……。
ちょっとした不安が、香澄に積もってくる。技術的にも強くなれたとは思う香澄だったが、新曲の歌詞がなかなか完成しない現状を考えると、なかなか「はい!」とは言い出せなかった。
「わかんない……。けど、学園祭後の久しぶりのライブだし、やりたいって気持ちはあるかな」
胸に手を当てる。どんな曲になるかわからないけど、とにかくやってみたい気持ちでいっぱいだった。
"スタビ"みたいにテーマを与えられたものではなく、"1000回潤んだ空"みたいに、今までとこれからを歌うような曲じゃないもの。例えば、大きく書いた円の上を、もう一回り上回るような。Poppin'Partyとして新生した。私たちの始まりになるような曲が、香澄は作りたかった。
けど、私の納得できるような曲が出来るのだろうか……。
猛練習のさながら作詞をする為、そんな不安も香澄にはあった。
「なら決まりね。かすみんの新曲ができるまでは、今の3曲をひたすら練習。新曲ができたら、その曲も含めて猛特訓よ!」
ポーズを決めて活気づく有咲と、それに伴ってテンションが上がる3人。
若干不安を感じながらも、香澄はその雰囲気に置いてかれないように振舞っていく。