Cheers   作:冴月

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「……あれ? かすみんは?」

 

 次の日の学校。いつもの集合場所に、香澄は現れなかった。指定の時間よりも少し遅れて歩いてきた有咲は、香澄の姿を探してキョロキョロと辺りを見回す。

 

「かすみんセンパイおそいっすね」

 

 たえがしきりに携帯を眺めている。連絡が来ることを期待するように、メッセージアプリを下に引っ張り、しきりに更新していた。

 

「ふむ。時刻は守る師匠だった筈だが。……はっ! まさか、何者かに攫われたのか!」

「そんなワケないでしょ。寝坊とか、なにかでしょきっと」

 

 カタカタと、慣れた手つきでスマホを弄る有咲。「かすみん大丈夫? 先行ってるよ」と文章を打ち込み、メッセージを飛ばした。

 

「さて、私達も遅刻しちゃうわよ。早く行きま……うん?」

 

 ピコンと。メッセージが一つ、有咲、たえ、りみのスマホに飛んできた。沙綾からかな……と、まず先に有咲がスマホを覗き込むと、

 

「……えっ?」

 

 有咲から驚きの声が上がった。

 後ろにいたりみとたえが、自分のスマホを確認する。

 

「ややっ!」

「うぇっ!?」

 

 声を上げる。

 それもそのはずだった。だって、いつもの通学路にいなかった香澄は、

 

「……ゴホッ。うう……」

 

 風邪をひいていたのだ。

 

 

☆☆☆☆☆

 

「……師匠! 具合は!?」

 

 バタバタと忙しない足音が聞こえた後、勢いに任せて扉を開けたりみは敵襲にあったかのような気迫で声を上げる。

 香澄からの連絡を受け、一足早く部屋に来ていた沙綾がドアの音に驚き、身体を震わせた。

 

「りみりん、しーっ。香澄ちゃん、具合悪いんだから」

「う、うむ。すまん」

 

 沙綾に諭され、たじろぐりみ。そんなりみに続いて、たえと有咲が部屋に入ってくる。

 

「か、かすみんセンパーイ……」

 

 ふらふらと香澄のベットまで寄ってくるたえ。ちょっと泣きそうになりながら、横になっている香澄の手を握った。

 

「かすみんセンパイ、具合はどうっすか?」

たえちゃん、大丈夫だよ。熱ももうそこまで高くないし、薬も飲んでるし」

 

 少し小さな声で、掠れた声で話す香澄。顔色はすごく悪いという訳でもなく、若干回復してきているようで血色はいいように見えた。

 たえの手をそっと握り返しながら、香澄は静かに答えていた。

 

「まったく、睨んでた通りね」

 

 後ろから様子を見ていた有咲が、香澄の元へとズカズカ歩いてくる。ちょっと怒ったような、それでいてちょっと心配そうななんとも言い難い表情をしていた。

 

「なーんか、いつもと違う感じしてたから、まさかとは思ったけど」

 

 寝ている香澄の視線に合わせるように、有咲はベットの傍に座り込む。

 

「違う……?」

「うん。結構前から、無理してるように見えてね」

 

 持ってきてくれたスポーツドリンクを、香澄に向ける。香澄は、それを受け取りながら上半身だけベットから起こした。

 するとどうだろう。何処からか美味しそうな匂いが漂ってきている。

 

「師匠、うちの米で作ったお粥だ。熱いから気をつけて食べてくれ」

「うわっ、りみりんいつの間に……?」

「獅子メタル殿に言われた後すぐにだ。米料理なら任せろ!」

 

 フンス! ドヤ顔をしながら胸を張るりみに、部屋の空気が和んだ。香澄はその様子に少し笑いながら、りみの作ってくれたお粥に意識を向ける。

 ほんのりと乗せられた青海苔と紅鮭のフレーク。混ざりあった潮の匂いが、香澄の空腹感を程よく誘ってくる。

 ーーそういえば、朝から何も食べてなかったな。

 そんな事を、香澄は思う。

 

「香澄ちゃん、はい、あーん」

「うん、あーん……。うぇっ!?」

 

 スプーンで1口分に救ったお粥を、沙綾が香澄に寄せてきていた。

 ーーこ、これは、噂に聞く「はい、あーん」というやつじゃ……。

 よそられたお粥と、沙綾とを交互に見ながら香澄は思った。にこやかな沙綾から向けられる純粋な目を見ていると、香澄は自分ドギマギしている事が恥ずかしくなってくる。

 とりあえず、沙綾沙綾のスプーンからお粥を1口口にした。

 

「師匠、どうだ……?」

「……うん! 美味しいよ、りみりん」

「せやろー、せやろー。丹精込めて作ったから、ゆっくり食べてな!」

 

 作ったはいいが、味が合うか心配だったらしい。りみは香澄の言葉を聞いて、心底安心しているようだった。

 着々とお粥を食べ進めている香澄を見つめる4人。(さすがに途中から自分で食べていた。)少し遅いペースながらも、黙々と食べる香澄を見て面々は安心したようだった。

 そんな香澄がお粥を食べ終わったのを見計らい、沙綾は口を開いた。

 

「香澄ちゃん、ちょっとごめんね……」

 

 そう言いながら、沙綾は香澄の額に自らの額を重ねた。香澄の体温を測るように、香澄の体温を掬いとるかのように目を瞑る沙綾に、香澄はドキッとした。

 

 ーーさ、沙綾ちゃん……! か、顔が近い……!

 

 何でもないように行われたその行為は、香澄にとって未体験のものだった。今の体温を測る行為にも関わらず、香澄の体温は恥ずかしさでぐんぐんと上昇していく(ような感じがする)。

 

「ん……、朝よりもだいぶ低くなったね。やっぱり、風邪の時は寝るのが1番だよ」

 

 にっこりと笑う。香澄は、沙綾と触れ合ったおでこを何度も何度も確かめながら、触りながらこくこくと頷いた。

 

「朝……? サアヤセンパイ、朝から居るっすか?」

「うん。お店お父さんに任せて、すぐ駆けつけちゃった」

 

 何故かは分からないが最近元気になってきたという沙綾の父親。そのおかげもあって、香澄が起きた頃にはもう沙綾が部屋にいてくれていたのだ。

 見た目通り健気な所に、香澄は心を打たれていたのは秘密だ。

 

「ほら、かすみん。ご飯ばっかじゃなくて水分もとりなさいよ。じゃないと、今度は脱水症になっちゃうよ」

 

 スポーツドリンクの蓋を開けて、香澄に飲むように促してくる。香澄は、何とかお礼を言いながらそれを受け取り、口にした。

 心地いい甘さが、身体中にしみ渡る。香澄の火照った身体を冷やすのには、ちょうど良かった。

 ポピパが、友達が、仲間がこうして私を心配してくれる。その事実が、風邪をひいている香澄にとってたまらなく嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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