真っ直ぐ逃げないあなたを見つめていた。
……そして気づけば、あなたに恋をしていた。
あたしには好きな人がいる。
三雲修。クラスメイトで、普通の男の子だと思う。
メガネをかけてて、特別顔がいいわけじゃない。
スポーツとかができるわけじゃないし、友達でいいね、って言ってる子もいない。
なんていうか、本当にどこにでもいる普通の男の子って感じ。
自分でも、何で彼のことが好きなのかわからない。
……けど、やっぱりあたしは彼が好きで。その理由も、少しずつだけど最近は見えてきていた。
あたしから見た彼は、真っ直ぐとでも表現すべき人だ。
いじめ、とは言わないがちょっと行き過ぎている弄りとか……そういう間違っていて、だけど当たり前のように起きているようなこと。
皆が見て見ぬふりしてしまうようなそれを、彼はいつも止めに入る。
当たり前であるべきことを、正しく当たり前として実行できる。
あたしは、そんな姿が好きになった……んだと思う。
はっきりしないのは許して欲しい。あたし自身、自分の感情を正しく把握できていないのだ。
……彼とは、正直そんなに話す機会がない。
距離感としては友達の、友達くらい。友達と一緒にいる時に話すことがある程度で、そこまで親しいわけじゃない。
だからいつだってちょっと離れたところから彼の姿を見つめるばかりで。
漫画とかで見るトキメキとか、そういうのを味わったことは一度もなかった。
それに、最近は今まで以上に話せていない。
ボーダー、という組織がある。
あたしは興味がなかったから全然詳しくなかったんだけど、どうやら彼はそのボーダーの一員らしい。
ネイバーという侵略者から市民を守ってくれる組織。そこに所属しているということは、彼も戦っているのだろうか。
彼は持ち前の正義感……っていうのはちょっと違うか。
彼はその手の言葉を言われると、いつも微妙な顔をしている。
だから……逃げないという意思? そういうのが普段の生活から伝わってくるから、きっと侵略者相手でも逃げずに戦っているのだろうというのは、容易に想像できた。
……だけど同時に、そこに不安を抱いてもいた。
転校生が来たくらい。学校にネイバーの襲撃があって、彼がボーダーの一員だと発覚したあたりだろうか。
その頃からなんというか……彼の雰囲気が変わったような気がするのだ。
どこか覚悟を決めたような顔になったというか……どこかを真っ直ぐ見つめているような顔をするようになったというか。
とにかく、なんだか彼が変わっていくような気がして……。
このままだとどこか、手が届かないところへ行ってしまうような気がしたから、あたしは。
「……好き、です」
勇気を振り絞って言ったその言葉に、彼から返ってきたのは如何にも驚いていますと言わんばかりの間抜け面だった。
ここで慣れたような対応されていたら、ちょっとショックだったかもしれない。
その程度で恋心が冷めるほど安い感情じゃない。ただあたしが彼に抱いていたイメージが間違っていなかったことは嬉しかった。
「あ……えっと、ごめん。正直驚きが大き過ぎて理解が……」
「だよね。そういう顔してる」
ごめんと言われて一瞬泣きそうになってしまう。
まだだ、フラれたわけじゃない。今のごめんは理解がまだできてないことに対しての謝罪だ。
……正直、自分で思っていた以上に彼に恋しているようでびっくりしている。
多分、燃え上がるような情熱的な恋ではない。あたしのこれは静かに広がっていくような恋。
どちらの方が優れているとかはない。あたしの恋がそういうものだったというだけ。
「――ごめん、君と付き合うことはできない」
だから、断られた時の悲しみも当たり前のようにやってきた。
「正直……ぼくは君のことをよく知らないし、なにより今ぼくにはやらなきゃいけないことがある。だから……」
多分、ちゃんと断る理由を伝えてきているのは彼の誠実さの表れなのだろう。それ自体は、あたしにとって好ましいものだった。
……ただ、その理由はあたしには納得ができなかった。
理解はできた。彼がそういうからにはきっと、本当に譲れないものなのだろう。
だけど、あたしからすればあたしの恋心に優先したいことがあるなんて、納得ができなかった。
ああ、本当に。自覚していたよりもあたしは彼のことが好きだったらしい。
「だったら!」
だから、そう簡単に諦めてやるものか。
「だったらそのやらなきゃいけないことが全部終わったら、あたしとデートして!」
「えっ、いや、でも……」
「でもじゃない! やらなきゃいけないことがあるなら待つ! あたしのことを知らないっていうなら教えてあげる!」
だから、とそこで区切る。正直凄く恥ずかしい。こんなに感情的になるなんてあたしらしくもない。
それでもここで全部言わなきゃ後悔するから。
「だから、ちゃんとあたしと向き合って答えを出して!」
このまま何もしなければ、彼はきっとどこか遠くへ行ってしまう。
だから約束。彼が例え遠くへ行ってしまっても、必ず戻ってきてくれるように。
「……わかった。全部終わったら、ちゃんと君と向き合うよ」
――あたしの初恋は、ここからだ。