やはり俺様の青春ラブコメはまさにパーフェクトである。 作:morikuma
俺は平塚先生の女性らしくない雄々しい背中の後ろを気だるそうに着いていく。
しかしなんだ、彼女のこの妙に凛々しい背中は俺に気丈な女性という印象を与える。
いいねぇ、気丈な女性、そんな女性が何かに驚いて『ひゃうっ──!?』や『きゃっ──!?』などと声を上げ、俺に抱きついた日にゃあ俺のハートはもうメンメロンのラブンラブンだぜ。
後先生が5歳くらい若けりゃあ教師と生徒のデンジャラスで危険なラブライフな生活が展開されていたのに…もったいない。
あれ……てかデンジャラスで危険てどっちも同じ意味じゃね?つかライフな生活ってなんだ…意味わかんなくね?
「ここだ」
俺が自分で自分の言葉にツッコミをいれている間、どうやら目的地に到着してしまったらしい。
平塚先生は教室の扉の前に立って腕組みしながら俺に言い放った。
そして俺はその教室に視線を向けた。
教室のプレートは文字が書いておらず、空白で、俺に対して何の変哲もない教室だな──と印象を与える。
一体こんなところで何をするんだ?と俺は首をかしげながらその空白のプレートを虚ろげに眺めていた。
はっまさか──!?
「俺をこんなところでいんこ…──ぐはっ!!」
俺の叫びを遮るように平塚先生の拳が頭に振るわれる。
そのジンジン後引く痛みに俺は頭部を押さえた。
「っ痛ーな!!何すんだ!?この淫乱教師!!」
「誰が淫乱だ……君は自分のイメージと現実をごっちゃにして相手に接するのをやめろ」
平塚先生は静かに憤怒しながら俺を咎め立てる。
糞がぁ……お前は世間が体罰問題で敏感であることを知らんのか……
さも暴力は仕方ないというような観念を誘発するような行為はヤメロォ!!
凄いさすが俺様!!この間に完全に俺様が正当な人間であるかのように見える!!
「全く…君と話していると心身ともに疲労がたまって敵わん…」
「何だそれはぁ!俺に負い目を与えて、『このまますがりついちゃヲ☆』的な、口説き文句のつもりか!!この俺様を誘いたならもっとマシなものを考えてこい!今更『あれ?どこがで会ったことありましたっけ?』的な常套手段は通じないんだよ!!昔を忘れろ平塚ぁ!生まれ変われ平塚ぁ!このままだと一生売れ残るぞ平塚ぁ!」
その俺の言葉を聞いた途端目の錯覚か、平塚先生の後ろ髪が炎のように揺り立っていた。
そして苦虫を噛み潰したように怒りに震えるその顔は俺の身体を反射的に仰け反らせる。
「生徒が教師を呼び捨てとは良い度胸だ櫻木……どうやら君は一度地獄を見ないとそのふざけた態度を修正できないらしいなぁ……!」
平塚先生は今までにない威圧感で握り拳を作りながら怒りの言葉を紡いだ。
その目は獣のように熱がこもっていて鋭い。
さらに握られた拳は血管が浮き出るほどに強く握られていて、人一人を殺せるぐらいの一つの凶器が出来上がっていた。
多分彼女がここまで怒りに震えているのは俺の口の聞き方ではない。
『売れ残るぞ』という俺の比喩表現が彼女の禁忌に触れてしまったのだろう。
「うぃーす……サ、サーセン……」
こう言うときは素直に謝る方が得策である。
俺は恐怖しながらも薄ら寒い苦笑いで小さく呟いた。
「あぁん!?なんだぁ!?声が小さい!!」
「すすすすすす、すみ、すみ、すみませんでしたぁ!!」
俺は平塚先生の迫り来る怒気に圧され背筋を硬直させる。そして声を震わせ謝った。
「ちっ……次はないぞ……」
大人は舐めてかかるとヤバイ──大人は世の中の『大人気ない』という言葉に縛られているから、と侮っていると、マジで怖い思いをする。
今度からは気を付けよ……
「とにかく入るぞ櫻木」
「は……はーい」
平塚先生は合図と共に扉を開いた。
その開け方は憤怒の余韻が残っているのか、些か乱暴である。
平塚先生が開けた教室の扉の先にはやはり、ありきたりで何の変哲もない空間が広がっていた。
他と違う所といったら精々壁際に机と椅子が無造作に積み上げられているということぐらいか。
しかし俺は見た──その中心に腰掛けている、この教室から浮いてしまっているような一際美しい少女の姿を──。
少女は美しく滑らかな黒髪に、端正な顔立ち。
また、化粧っ気のないその白く透き通った肌は他の女性と何か一線を画すような雰囲気であった。
「惚れたぜ……」
どこかで見たような素晴らしいレポートのフレーズを借りて俺はそう呟いた。
だが──彼女の全体像を瞳に写すと同時に俺は衝撃的な事実を突きつけられる。
おっぱいがない……だと……。
いや──あるにはある。
だがその胸部の線はいくらか慎ましい。控えめである。
だがとりあえず男ではなかったことに俺はほっと胸を撫で下ろした。
そうである。俺にとっておっぱいの膨らみとは非常に重要な要素であるが女は性格だ──!!
そう心中で息巻くと、あぁ……俺って紳士だなぁ…と自身に感心しつつ得意気に微笑んだ。
「平塚先生。またですか──入るときはノックを、と先程もお願いしましたよね?」
黒髪の彼女が冷ややかではあるが透き通った声で平塚先生を咎めた。
あぁ……声も素晴らしい──。
きっと美の女神であるアフロディーテもこのように透明感で品のあるお声なんだろうなぁ……うん!
俺は彼女の声の甘い余韻に浸りながら一人頷いた。
「すまない少しいきりったていてな。余裕がなかったんだ。許してくれ」
平塚先生の謝罪をに彼女は不満げに顔をしかめる。
そしてその視線を今度は俺に向けた。
キタッ!キタよ!目と目が合うその瞬間にフォーリンラブ!!
さぁっ!!存分に俺の胸に飛び込んできたまえ黒髪美少女よ!!
「それに誰ですか?その茶髪でピアスの人は?いかにも頭悪そうなのでこちらに近づけないでください」
「へ?」
だが彼女の返答は残酷な程に俺の期待を裏切った。
そして、その冷たい口調から発せられる痛烈な言葉を認識した途端に俺は間抜けな声をあげ、その場で硬直した。
あれっ?可笑しいな?初対面なのにやけに厳しい御言葉であっような気がする。
そりゃ俺だっていきなりフォーリンラブで抱きついてくるとは思ってないよ?
一応準備はしておいたけれども。
でも初対面なのだからもうちょっと礼儀をわきまえるべきなのではないのだろうか?
そうかっ…!彼女はまだ恥ずかしがっているのか!最近の流行り──『ツンデレ』というやつか!!
ならば彼女のデレを発揮させるためまずはこの俺様からアプローチをかけてあげよう!!
「あぁ…こいつは」
平塚先生が俺の紹介をしようと声を発した瞬間バッと──彼女の顔を腕で遮り、それを中断させた。
そしてカツカツと小気味良い足音をたて俺は黒髪美少女に歩み寄る。
彼女の目の前まで迫ると俺は仰々しくその場で膝をついた。
「美しいご婦人よ……良ければお名前をお伺いしてもよろしいですか?」
そして俺は彼女の白くか弱げな細い手をとり、ひざまづいた体制でそう問い掛けた。
「なに……?ごめんなさい……色々突っ込みたいところだけど、ホントに気持ち悪いわ……離して」
だが彼女は俺の手を汚いものでも触ったかのように乱暴に振り払った。
あ……あれぇ…可笑しいな?全然デレないんだけど……?寧ろ突き抜けてツンなんだけど?俺のハートを痛い感じに突き刺してくるぐらいにツンツンなんだけども?
ま…まぁ流石にひざまづいて手をとるのはやり過ぎかたか……
「はは!ごめん、ごめん。俺、綺麗な人を見るとつい仰々しくなっちゃう癖があってぇ。それに名前を名乗るならまず自分からだよね!俺は櫻木幸太!今をトキメク青春男子です!!なんちて☆」
俺はすぐさま自身の行動を反省し、立ち上がる。
そして笑顔でフレンドリーな感じに自己紹介した。
言っておくが俺はこの方法で女子の掴みに失敗したことはない。
どんな女子もこれを見れば『なにそれー櫻木君っておもしろーいー!!』と沸きだつのだ!!
「はぁ?なに?それは?もしかして自己紹介をしたつもりなの?私の国ではそんな自己紹介見たことないわ……悪いけど、今から貴方の国の流儀を教わる時間もないし、そもそも教わる気もないからおとなしく帰国してくれる?」
だが彼女は冷ややかな視線に加え下卑たものを見るかのように俺を見据えた。
そしてどす黒い者を全て吹き払うかのように俺の自己紹介を全否定して見せる。
「ははは……き、厳しいなぁ…ほらぁ見てぇ!俺は君と同じ制服だよ!つまりぃーその心は……なんとぉ!君と同じ総武高校出身さ!ということは俺もJapan出身ってことさ!!よろしく!ところで君の名前は?」
「あぁ…そうなの…まさか日本国籍だとは思わなくて……そうよね……確か両親が片方、日本人ならば日本国籍はなんとかなるのよね?それで?その特徴的なアホ面とおかしな風貌は元々どこの部族の遺伝子が入り交じっものなかしら?」
「………」
──女は顔じゃない性格だ。こういうことを言う奴は両性において胡散臭い奴だ。
存在するはずがない。それは断言してやろう。
だが俺に関しては一定の条件をクリアすることでそれを満たすことにしている。
そう、『おっぱい』だ。具体的なラインはCカップだ。現代巨乳傾向にある日本にっとっては実に良心的なラインである。
つまりだ──俺は『おっぱい』『性格』どちらかの条件を満たしていればその人を『女性』として紳士的に扱う。
あっ……あと『年齢』──三十路はだめである。
とにかく何が言いたいかと言うとだ──逆もまたしかり。
『おっぱい』もダメ『性格』もダメな女は──
「死ね」
俺はそう小さく、冷淡に呟いた。
そうもはや目の前のこの女らしき存在は女ではなーい。
仮に言うなら物体Xと読んでやる。
名称があるだけありがたく思え。理科の問題用紙ぐらいには使ってやる。
「ごめんなさい…あまりに下卑た言葉で耳が受け付けなかったわ」
俺の手のひらを返すような言葉にも動じず物体Xは冷静に鎮座しながら軽い口調で言い放った。
その顔は俺のことなど屁でもないといった感じである。
要するに言うとこの俺様を見下している。
「胸もねぇー!性格もブス!そんなあなたに死ねと言ってやりましたんです。敬語を使えば綺麗に聞こえんだろ?聞こえないなら今すぐ耳鼻科に駆け込みここから消えろ」
「胸……あなた最低ね……私のことそんな目で見てたの?近づかないで、卑猥だわ」
物体Xは生意気にもそのない胸を両手で押さえるようにして身を少し引いた。
そしてジト目で俺を睨み付ける。
「はぁー?てめぇ?そんな生意気な行為は胸のてっぺんにあるもん多少は浮かしてからやれよ?誰もお前の貧相なもんに興味ねぇんだよ。こっちまで貧相になんだろうが……!」
「あら、でもさっき私の胸の大きさについて認知しているようなあなたの下卑た発言が聞こえたのだけれど?」
「何ですか?じゃあお前はデパートで親に叱られてるこどもを完璧に無視して素通りできるんですか?無理だろうが?あぁん?あんな悲惨なもの目の前に出てきたら見ざる終えなねぇだろうが!つまりそういうことだ物体X」
「あなたに私の胸についてとやかく言われる筋合いはないのだけれど?それに貴方のような知性の欠片もない人間が人に指摘するなんて、相手をイラつかせるだけよ。今後あなたが誰かとマシな人間関係を築くために指摘しないことをお勧めするわ」
俺がギロリと睨み付けた視線の先に物体Xの冷ややかな視線がぶつかる。
そして互いに静かな怒気を込めて皮肉りあった。
「それと物体Xってなに?私にはちゃんと
すかさず物体X──もとい雪ノ下雪乃、物体X族が言葉を返してくる。
「あぁん?なにその妙に語呂の良い、取ってつけたような名前は?お前は両親に『名字が雪ノ下だから名前は雪乃にしたらいい感じじゃね?』的な軽いのりで決められたの?カワイソー、名前の由来が薄いとか、チョーカワイソォーなんですけどぉー」
「あなたはなに?櫻木幸太でしたっけ?……ごめんなさい…特に何も批判のしようがない中途半端な名前だわ。中身同様空っぽなのね……だから髪を染めてピアスまでつけて自分を着飾ってるのね…最初に頭の悪い容姿と言ったけど、悪いなりにちゃんと考えてたの?そうだったとしたら謝るわ」
「ざけんな。てめぇ、今俺の名前バカにしたよね?それはつまり名付け親の俺の親を侮辱したことだよ?今お前、完全に悪い奴だから、こ れが学級委員会と参観日のダブルパンチだったらお前もう完全に終わってるから」
「 その言葉、あなたにそっくりそのまま、お返しするわ」
確かに、これは失策であった。
そうだな、謝ろう。もしかしたら雪のように白く綺麗で清純であってほしいという願いを込めて『雪乃』と名付けたかもしれない。
でもお父さん、お母さん!!──こいつ白いのは外だけで中身う◯こみたいな女っすよ!!
糞女ですよ!──糞女!
「しかし、君たちは初対面なのに……よくも、そう互いを罵り合えたものだな。面識でもあるのか?」
平塚先生は困ったような表情を浮かべ、俺達の会話に割ってはいる。
そして悩ましげに頭を押さえた。
だがその顔はどこか微笑みが漏れている。
「やめてください。こんな以下にも頭が悪い人間と面識なんて……。私の株が下がります」
「ふざけんな……饅頭女……それはこっちの台詞だ」
俺と雪ノ下は平塚先生の言葉をすかさず否定した。
「というか何?饅頭女って。頭の悪い人の言葉はある意味高次元過ぎてついていけないわ」
「あぁん?中身う◯こじゃ可哀想だから、あんこにしてやったんだよ……感謝しろや饅頭が……」
「ごめなさい勘違いしていたようだわ。頭の悪い人間は等しく低次元で、ある意味高次元だと錯覚していたみたい」
そして互いの罵り合いが中断されたのも束の間ですぐさま視線と言葉をぶつけ合う。
見れば見るほど可愛くない。
最初にこいつに使ってしまった美的表現すべてが勿体無いと感じるほどである。
「うんうん、まるで君たちは出逢うべくして出逢った宿命のライバルのようだな」
平塚先生は勝手にうんうん──と頷きながら、俺と雪ノ下の間に割って入る。
その姿はやけに感心しているというか愉しな表情であった。
「私はこういう展開は大好きだぞ!!ぜひ存分に闘うと良い。ガンダムファイト・レディー・ゴー!!」
「だってよ……雪ノ下──構えろ。お前の唯一のアピールポイントである顔面を粉々にしてやる」
平塚先生がガンダムファイトの合図を取ると同時に俺はファイティングポーズを取って目の前で軽くジャブして見せた。
俺は女にはめっぽう紳士的だが女でない目の前の奴には容赦するきはない。
その顔を潰してお前の社会の有用性ぶっ潰してやる。
「はぁ?なぜ私がそんな野蛮なことに興じなければならないの?そもそもガンダムファイトって何?」
「GガンだGガン、ガンダムの中で一際飛び抜けておかしいジャンルな筈なのにやけに擁護されるガンダムだ。俺は基本的にアニメ見ないから内容はよく知らんが、とりあえず殴り合えば全てOKだ」
俺は雪ノ下の素朴な疑問にありがたく答えてやった。
もうアップは完全に済んで、俺の体は暖まっている。
いつでもこいつの顔面を破壊する準備は万端である。
「おい──櫻木、Gガンを馬鹿にすることはいくらお前でも許さんぞ。Gガンは人間が奪い尽くす自然についてをテーマにした最もガンダムらしいガンダムなんだ。」
平塚先生が腕組みしながら意気揚々にGガンダムについて語って見せた。
てかあんたが俺を許した試しがあったか?
今日だけで大分恐怖体験しまくったよ?
「それに、勝負は殴り合いで決めろと言っているわけではない」
「あぁん?じゃあ柔道?合気道?剣道か?」
「うむ剣道ならシャイニングソードなのだが……突きー!!突きー!!突きー!!と言った感じか?」
平塚先生は剣を握らせるような構えで、腕を振るわせる。
年甲斐もなくはしゃぐ、その姿はなんというか……その……恥ずかしい。
お父さんのパソコンをいじっていたら履歴からアレなサイトがでてきた並みに恥ずかしい。
「先生…年甲斐もなくはしゃぐのはやめてください」
そんな風に俺が呆れた態度を取っていると、雪ノ下のツン──とした冷たい声が平塚先生のテンションを遮断する。
平塚先生はテンションを一刀両断されると、少し頬を赤く染める。
そしてこほん──と1度咳払いをして、調子を整えた。
ホント五歳若けりゃあ、グッとくるもんがあったのに、勿体ねぇなぁ……
「うっ…いや、そうだな……とにかくだ──櫻木、勝負といっても物理的に相手を傷付けるわけではない」
「はぁ?じゃあ?内面からですか?無理、無理っすよこいつ既に性格ブッサイクですから、顔面ボコボコに腫れ上がって、もう叩きのめすところもないぐらい性格ブッサイクっすよ、こいつ」
俺は平塚先生の言葉に対して雪ノ下を指差しながら否定的な意見を述べた。
そんな俺の言葉に雪ノ下は勘に障ったのか、露骨に顔をしかめる。
「人の精神に対しても叩きのめすなんて言い草、ホントに野蛮な思考ね。いい加減に早く自分の村に帰ってくれないかしら?」
「おい!てめぇ!何気この俺様のホームポイントを国から村に狭めるんじゃねぇ!」
「あら、ということは自分が野蛮な民族と認めるのね」
雪ノ下は勝ち誇ったように俺を見下しほくそ笑んだ。
しまったぁ!!俺様としたことが……こんな安い手にかかるとは……!
女性の誘惑以外で誘導されるなど一生の不覚だ!!
その笑みを見て自身の不覚を自覚すると同時に悔しさが腹の底から込み上げてくる。
悔しさのあまりにその場で地団駄を踏み、地面に対してその怒りをぶつけてしまった。
職人さんが作り上げた廊下よスマン──。
だが目の前の性格不細工女にも踏まれているのだ。今更どうと言うこともあるまい。
任せろ!あの糞女の顔面は俺が必ず踏み潰しておいてやる!
「ふぅ…全くホントに君たちは水と油だな。それでそろそろ私の話を聞いてもらって良いかな?」
俺が廊下の思いを含めた、雪ノ下に対する復讐に意気込んでいると、平塚先生は溜め息混じりに呟く。
その表情は今度こそ本当に困窮しているようだった。
「では改めて発表する──勝負とはまさに奉仕活動に関することだ!」
「はぁ?どういうことだよそりゃあ?」
俺は平塚先生の言葉に訝しげに疑問をを投げ掛けた。
「と──まぁ説明したいところなのだが私はこれから職員室に帰って書類を片付けなければならん」
「んなの後にしろよ!気になるだろーが!東映の引き延ばしでもまだましにやるぞ!気ィ溜めたりとか、回想いれたりだとか!」
「わかった、わかった、今日中には教える。とりあえず雪ノ下、彼は入部希望者なんでな。しばらくここに置いてやってくれ」
平塚先生は両手で俺を宥めるようなジェスチャーをした後に、雪ノ下に頼み込んだ。
って?え?ちょっと待て『入部希望者』とはどういうことだ?
というより俺はここに奉仕活動をしに来たんじゃないのか?
つか俺の単位は!?
「嫌です。今日は死んだ魚のような目の男に加え、こんな蛮族まで保護しろと仰るんですか?生憎ですが、ここは珍種を扱う博物館ではないんですよ?平塚先生?」
「誰が蛮族だ!!お前なんて男でも女でもないニューハーフ野郎のくせに!!」
俺は相変わらず可愛くない雪ノ下の減らず口に一歩踏み出して反抗して見せる。
だがそんな中でも、俺の中で妙に渦巻くような疑問、言うなれば引っかかるものがあった。
死んだ魚の目のような男?誰だそれは?
俺はそれが不可解にも引っかかる。
確か、この教室には俺と平塚先生と雪ノ下雪乃しかいないはずである。
だがさっきからそこはかとなく、俺はこの教室で妙な視線を感じていた。
「おい……死んだ魚のような目とはどういことだ……雪ノ下」
希薄ながらも、聞くものに対してどんよりとした雰囲気をまとわせるような男の声が俺の耳にまとわりついた。
そして俺はその声のする方へ視線を向ける。
そこにはなんとも無味無臭、まるでしゃべる空気かのような黒髪の男が椅子に腰掛けていた。
そんな無特徴な男の容姿で俺の目を引いたのは、妙に薄開きで、全ての嬉々的な出来事を否定せんばかりの『死んだ魚のような目』であった──。