やはり俺様の青春ラブコメはまさにパーフェクトである。 作:morikuma
なんというか、今日は厄日である。
俺は今まで平坦で特に山もなく、谷もない素晴らしく平穏な人生を送ってきた。
『そんな人生の何が楽しいの?』──とかほざく、ジャンプの主人公気取りのような奴がいるが、お婆さんやお爺さんはみんな言っている。
『何もないのが一番幸せじゃ』──と。
まさに亀の甲より年の功である。
40年程度しか生きてないジャンプがお爺さんやお婆さんに勝てるはずもないのだ。
つまり、これはジャンプが掲げる『友情、努力、勝利』という土俵においてお爺さん、お婆さんが勝利したことを示す。
『そこに努力と友情はあるのかい?』──等と、最近、流行りの偽善もやし主人公気取りが 迫真の表情で詰め寄ってきそうなものだが、俺はそれに対しても『ある』──と言い切れる。
何故ならばこの日本には『勝てば官軍』という便利な言葉がある。
例え女、子供を叩き切ろうが、多少卑怯な真似をしようが、勝てばソイツは後世に偉人として語り継がれるのだから。
RPGだってそうだろ?
大体ラスボス一人にパーティー四人ぐらいで挑んでるじゃないか。
きっとそのゲームのラスボスだってかなり理不尽に感じているはずだ。
パーティー一人を殺せば僧侶が生き返らせる。
それ以前にダメージを与えてもその度に回復させるのは常套手段だ。
時々それを破壊するインフレじみた大技を出してはみるが、ラスボス戦ともなれば大抵何か物凄い回復アイテムを所持しているのは間違いない。
相手は4人でここまで生き抜いてきた精鋭たち、しかも全く絶望的状態でない準備万端の状態で相手をする。
そして極め付けには、『死んでもまたレベル上げればいいか!ハハ!!』――ぐらいの相手のメンタル面の余裕っぷりである。
そしてラスボスをボコりにボコり続けて、パーティーは勝てば『世界は俺たちの努力と友情で守られたぜ──!!』などと血も涙も無いことをほざくのだから、やはり勝てば官軍である。
まぁゲームはともかくスポーツとかで負けりゃあ、今までの努力はなんだったんだろう……──という後悔の念に包まれるし、互いに泣きわめいて慰めあっても、友情を盾にして負けという現実から眼をそらしてるんじゃないか?──という妙なとっかかりが生まれる。
だから友情や努力なんてものは、やはり勝利した上でしか成り立たない不確定な物なのだ。
そもそも『あるか?ないか?』などという次元で話すこと自体がちゃんちゃらおかしい。
あれ?結局何が言いたかったんだっけ?
じいさん、ばあさんがジャンプやRPGよりすげぇってことか?
いや、違う違う。
そもそも俺はこんな言い方をしているがジャンプもRPGも嫌いじゃない。寧ろ好きといっていい。
そうだ!思い出した!人生は平坦であるほうが幸せということである。
そして俺が一番に言いたいことは今日、この一瞬にしてその平和が崩れ去ったということだ。
平塚先生にレポートだけで俺の人格を否定され、『奉仕活動部』などという風変わりな部に俺の人格修正を依頼され、雪ノ下雪乃という外見だけの美少女に執拗な言葉責めを受け、俺のライフは殆どゼロに近い。
つーか人と殆ど関わらない俺には会話による攻撃の耐性が全くついていないとうのにまさしく無理ゲーであった。
極めつけにはまさかの茶髪ピアス。
いかにもDQNな野郎の登場である。
まぁとにかく、今日一日で俺の人生は波乱万丈だ。
なに?もしかして俺って主人公なの?選ばれちゃってる側の人間なの?などと錯覚してしまうほどに波乱な一日である。
「お前…誰?」
そんな他愛もないことを俺が思或していると、突然茶髪ピアス野郎の低く、こもった声が俺の鼓膜を通る。
その声の主の双眸はやけにギラギラとしていて、俺を畏怖させるようなものを放っていた。
クソ──!俺はこのDQNが怖くて空気に徹していたというのに、雪ノ下が俺を罵倒してしまったことで全て台無しである。
結局、俺が反射的につい声をだしてしまい、スネークは失敗した。
少佐ぁー!!頼む!脱出用のヘリを用意してくれ!!
茶髪ピアスは心中で悲鳴を木霊させる俺をいまだに訝しそうに見据える。
その特徴的な茶髪とピアスが妙に俺の恐怖を煽るが、顔は幾分か若々しい幼顔である。
まぁ顔については俺とどっこい、どっこいといったところであろう。
だが、茶髪で片眼が覆い隠れそうなその髪型はいかにもファッション雑誌に載っているオサレ(笑)ヘアーである。
つまりだ……相手には髪型補正がかかっているのに俺と同じくらいの顔面偏差値ということは、まさになにもしていない俺の方が顔面偏差値は高いと言う結果に辿り着く。
別に対抗してるわけじゃないけどね?
そもそもこんな頭悪そうなの相手にしてないし?
「おい、無視してんなよ」
茶髪ピアスの押し殺したような声で紡がれる強迫に俺は思わず体震わせた。
だがこのまま萎縮してこいつの強迫を無下にしては何をされるかわからない。
「へ、ひや、どうも、は、初めてましゅて。ひ、比企谷八幡でしゅ」
なので俺は取り敢えず、定石通りの言葉を返す。
だが俺は目の前の金髪DQNを前に完全に萎縮してしまったせいか、口がうまく動かず、思いっきり噛んでしまった。
しまった!?完全にDQNに揺すられるフラグ立っちゃったよ!?
「おう。初めまして。俺は櫻木幸太だ。よろしくな」
だが以外にもそのDQNの対応は噛んでしまった俺に対しても平常であった。
てっきりガン飛ばして、お金とか揺すられると思っていた俺は少し面食らってしまう。
とりあえず最悪のルートは回避できたことに安堵し、ホッと胸を撫で下ろした。
あれ?実はこいついい奴なんじゃね?──と不意に感情が揺れ動きそうきなるが、俺はそんな甘い男ではない。
不良が子犬を助けるだけで株が上がるような現実は絶対に認めん。
俺は忘れない。お前らが駐輪場の前でたむろしていたせいでなかなか自転車に乗れず家に帰れなかったあの日のことを──。
俺は忘れない。清純なあの娘がお前らのような奴に告白されあっという間に付き合っちまったという俺のピュアなハートを打ち砕いたあの思い出を──。
「もしかしてお前も連れてこられたクチなわけ?」
「え、あ、あぁ」
「そうか。ったくお互い苦労するな……」
ナニ?ナンナノコレ?何でこんなにもフレンドリーなの?
新手の詐欺なの?フレフレ詐欺なの?ぼっちを応援しちゃう詐欺なの?
俺は金髪DQNのあまりに真摯な態度に萎縮どころか、少し悪そうな人と自然と話してしまっていることに妙な優越感を覚えてしまっていた。
不覚にも噂のあの娘がこんな奴に持っていかれた現実を受け入れそうになっている。
確か櫻木幸太だったか?
俺は人の名前を覚えるのは苦手であるが、こいつの名前だけは胸に刻み込んどこう。
「てかお前、いつからいたの?」
櫻木は怪訝かつ真面目な表情で俺に尋ねた。
前言撤回──。
こいつの名前は一日で忘れてやる。
いや?確かに俺はスネークしてたよ?
光学迷彩無しに空気に徹した俺はマジで天才だと思うし、誉めてしかるべきだと思う。
でも気付けよ!!同じ空間にイス置いて座ってたんだから!
全然喋り掛けられないから、ホントにいじめかっと思ったよ。
普通に傷付いたし……。
だからこいつには俺を誉めさせた上で謝らせてやらなければならない。
なんだか不思議とお得な気分である。
「おい──」
俺は意を決して、櫻木に対して瞳を鋭く光らせる。
そして最大限に喉を押し潰し、声を尖らせた。
「あ"あ"?んだよ?」
だがDQNのプロはレベルが違った。
そのドスの効きまくった声と見開かれた眼光は俺の本能を直接刺激し、強制的に仰け反らせる。
少し反抗してみようとした自身の火種など一瞬にして消化されてしまった。
「い、いえ、なんでもないです」
すいませんマジ、調子乗ってました。
ちょっと優しくされたからって波に乗りまくってました。
僕なんかが湘南で肩並べてサーフィンしようとしてすいません。ヘヘヘ……。
「まぁ良いや、てか平塚先生は?」
櫻木は俺の反抗の色が消え失せたと同時に、興味なさげにそっぽを向いた。
そして教室をぐるりと眺める。
「先生ならさっき教室を出ていったわよ」
「はぁ!?まじかよ……つか俺の単位は!?」
櫻木が教室を見渡した後、それを察した雪ノ下が一声かける。
どうやら俺と櫻木の短いやり取りの間に平塚先生は雲隠れしたらしい。
櫻木は獲物を逃がしたからか、大層ご立腹な様子であった。
「まぁ良いや……しばらくここで待つとするか……」
櫻木は怒りの熱を冷やしたのか、ふぅっ…と息をついて、脇にあるイスを床に立てた。
そしてドスン──とまるで岩でも落とすかのように全体重をイスにかけ、ぶっきらぼうに腰を落とす。
「ったく……いつまで待たせる気だよ……」
妙に困窮した表情で櫻木はポツリと呟くと、スマートフォンを取りだし、一瞥した。
おそらくスマホに掲示されたデジタル時計を見たのであろう。
時間を気にして、苛立たしげにしているということは何か用事でもあるのだろうか?
「あなた、何故勝手に座っているの?」
俺がそんな推察をしていると、雪ノ下が櫻木に対して冷たく淡化を切った。
おい、お前、俺でさえ座らせることを許したのに、どんだけそいつのことが嫌いなんだよ。
も、もしかして俺は特別だったのか?
そんな訳ないか。
「あぁん?仕方ねぇだろうが平塚先生がここで待てつったんだからよ」
櫻木は雪ノ下の冷ややかな声に対して、微少ながら、熱を秘めた声色で答える。
どうやらこいつも相当、雪ノ下が嫌いらしい。
というかこいつ、最初に雪ノ下に接してた時と態度が違いすぎである。
今この場にいる者に、さっきまで櫻木が、雪ノ下に対してナンパまがいの態度だったと、証 言しても誰も信じないだろう。
意義を出しても全然逆転できそうにない。
即、俺が有罪になりそうな勢いである。
まぁ……確かに櫻木の気持ちも分からないでもない。
俺も初めて雪ノ下の態度をお目にしたときは、面食らったものだ。
そして口を開いた時にはドン引きである。
だがここまで、雪ノ下に手のひら返しで反抗するのは常人ではなし得ないないだろう。
成績学年一位で、おまけに美少女な雪ノ下はある意味校内において特殊な環境に身を置く存在だ。
そんな彼女を敵に回すということは、本人だけなく、校内の視線をも敵に回すことになる。
常人ではそれを気にして、そうそう反抗的な態度はとれないだろう。
そもそも初対面の人間と険悪な関係になることなど誰も望まない。
だがボッチはそれができる。
何故ならばぼっちは、今後誰かと友好的な関係を築く気もないお陰で、自分の身の振り方に気を遣わなくて済からだ。
そしてそんなことができるのは校内で唯一俺ぐらいのもんである。
だからそこに関して──この櫻木という男は称賛に値する。
ヤバイ、DQNに上から目線とか、マジ俺優越感。
「なら良いわゲームをしましょう。あなたが負ければここから出ていってもらうわよ」
「ゲームだぁ?」
雪ノ下は悪そうな笑みを張り付け、悪魔の提案を投げ掛ける。
そんな雪ノ下に対して櫻木は不思議そうに眉を潜めた。
「おい待て、そのゲームは──」
俺は櫻木がその理不尽な提案に乗らないよう、助け船をだしてやろうとする。
だが雪ノ下はそんな俺の様子を察したのか、ギロリとにらみ殺す。
その眼に杭を刺された俺は静かに沈黙した。
お前そんなにソイツのこと嫌いなの?
俺でもちょっと櫻木に同情するぞ……。
まさか俺と二人きりになりたいからなのか?
それもないか…。
「いいぜ……やってやるよ。平塚先生が来る前に丁度勝負をつけたかったところだ」
完全に噛ませキャラだよ櫻木君。その不良容姿も相まって三割増しだよ。
俺の勘が正しければ櫻木は間違いなく雪ノ下に負ける。
何故ならば雪ノ下の提示するゲーム内容は──。
「ならば櫻木君にクイズを出題するわ。ここは何部でしょう?」
ホラ来た。俺にも出題したあまりに理不尽過ぎるクイズである。
こんなふざけた解答、正解できるはずがない。精々『ボランティア部』と答えられれば健闘した方と言えるだろう
「おっぱいがなくてナイーブ(部)」
だが俺の予想を裏切り、櫻木は軽い口調で即答した。
櫻木は元々正解する気などないのだろう。
雪ノ下と同じ土俵で勝負するのでなく、散々罵倒するだけが目的だったのか──!!
大したやつだ……
俺も雪ノ下には今日だけで鬱憤が溜まりに溜まりきっている。
やってやれ!櫻木──!
「残念、外れ」
「じゃあ『貧乳が私の恥部』by雪ノ下」
ナイスだ櫻木──!
あれ……なんか急にバスケやってる気分になってきた。
漢字違うけど。
「うざ……正解は奉仕部よ。それと上手いこと言ってるつもりだろうけどあなたの解答はただのセクハラだから。一番痛いパターンだわ。」
平静とした態度で罵倒する雪ノ下の表情が今までに見ないものへと変わっていく。
彼女は初めて青筋を立て、怒る表情をみせた。
「あぁん?別にクイズに答えてるだけなんですけどぉー。クイズの答えに上手いとかセクハラとかあるのぉー?正解か不正解だけじゃないのぉー?悪いけど、ここJapanにはそんな文化ありませんからぁー。国に帰ってくださりますぅー?」
どこかで聞いたことのある言葉を櫻木は間延びな貴婦人口調で話す。
その口調は相手に酷く憎悪を与えるものらしく、雪ノ下の顔がみるみる強ばっているのが垣間見えた。
ヤバイマジでチビりそうだよ……。
お前らホントに初対面なの?
「ならそんな低レベルな解答を記憶に残したくないから、この世にあなたが存在していた経歴ごと消えてくれる?解答権は一回だけなのに二回も間違えたのだからそれぐらいできて当然よね?」
できねぇよ……クイズ二回間違えただけでペナルティのハードル上げすぎだろ……。
つか俺のとき解答権に回数とかなかったじゃん?
明らかに私欲に走ったペナルティだよね?それ?
「はぁ──?ふざけんな……。第一フェアじゃねぇだろうが……。何だよ正解は奉仕部って、なんだお前は?誰かを助っ人するのか?SKET DANCEか?スケダン気取りか?やけに暗い過去語って勝手に鬱病になって死ね!」
主要人物の過去はやけに暗いけどあいつら死んでねぇよ……櫻木。
みんな乗り越えていってるから。
「さっきから訳のわからない単語を使わないでくれる?低次元過ぎてあなたの言葉は理解できないの。人と話すときは同じ目線で――。習わなかった?」
「あーあ…やっちゃった…やっちゃたねぇ…今お前は全国の少年たちを敵に回したよぉー。それとごめんなさーい、俺は友情・努力・勝利の熱い少年だからぁー、生憎腰の悪そうなババァ精神のお前の目線にに合わせるつもりはないんでぇー。常に高みを目指しちゃってるっていうか?寧ろその勢いで天下統一――みたいな?」
「日本語もまともににできないくせに高みを目指すなんて笑わせるはね。まず日本人として文化に適応できるぐらいの教養を身に付けたら?一般人と同じラインに立ちなさい蛮族…」
「日本平均のCカップのラインにも満たない人間にいわれてもなぁ…!説得力がないなぁ!!」
「馬鹿ね。胸囲の平均なんて下着メーカーの売れているサイズを平均化しただけよ。信憑性の欠片もないわ」
「ふん…俺は今のところ全国の女性という存在をお前以外信頼しきっている。下着で胸を大きく見せるなんてこすい真似をする女性はいないとな!寧ろ女の子は胸が大きいことを気にして小さい下着を身に着けるはずだ!あぁ…想像するだけで最高に可愛いぜ!!」
櫻木は急に険悪だった表情を改め、恍惚な笑みを浮かべて語って見せた。
現れた瞬間から薄々気づいていたが、やはりこいつ馬鹿である。
「雪ノ下邪魔するぞ」
そんな二人の喧騒の中に凛とした声が教室に響く。
そして同時に教室の扉が開かれ、平塚先生が現れる。
「ノックを…」
今日三回目――雪ノ下が不満そうな声で言葉を紡ぐ。
「悪い悪い、それで?そこの二人の更生は順調かね?」
平塚先生は俺と櫻木を見据える。
そして腕組しながら、まるで業務を監督するかのごとく雪ノ下に尋ねた。
ていうかなんだよ…人格修正って…。
この茶髪はともかく、この俺がそんな有難迷惑を被むるいわれはない。
「そうですね…腐った目は自身の問題を自覚していないので、手こずっています。もう片方の蛮族は文化基準が通常のラインに達していないので、意思疎通が困難なため論外ですね」
「おいてめぇ…!!さっきから聞いてりゃぁこの俺様が蛮族だと!?文化基準に達っしてねぇだと!?ならどのへんが一般人の文化基準なのかてめぇはこの俺様に説いてみせることができんのかゴラァ!!」
「少なくとも通常の日本人なら語尾に『ゴラァ』なんて訳の分からない単語をつけないわ」
雪ノ下の冷淡とした声から紡がれる皮肉に櫻木が熱を帯びた口調で噛みついて見せる。
だが雪ノ下は軽快に櫻木の威圧ある言葉を返して見せた。
「ふむ、仲良くやっているようじゃないか…じゃぁ私は少し様子を見に来ただけなのでな――君たちも下校時間には帰りたまえ」
「いやちょっと待て!!」」
平塚先生がひらりと手を振り踵を返した瞬間に、俺と櫻木は同時に叫喚した。
そう、そもそも俺は『奉仕部』なんて訳の分からない部に連れて来られ、まだこの部に俺を連れてきて何をしたいのかさえも来ていない。
このままでは谷に突き落とされたのに何の成果もなく痛い思いをしただけだ。
主におれのハートが。
「そもそも更生ってどういうことだよ…つかここは主になにをするところなんすか…」
「そうだ!つか入部希望ってなんだよ!あと勝負の件と俺の単位賄賂の話はどうなった!!」
俺は間髪入れずに平塚先生に対して疑問を投げかける。
また同時に櫻木も疑問の言葉を羅列して見せる。
というか櫻木からなんか犯罪くさい単語が聞こえてきたんだけど気のせいか?
「まあ、少し落ち着け…。そんなに一遍に疑問を投げ掛けれらては私も対応に困るだろう…。ふむ、まずどこから説明したものか」
それに対して平塚先生は俺たちを制止するように両手でジェスチャーする。
そして顎に手を当て黙考して見せた。
「まずこの部についてだが。この部の目的は端的に言ってしまえば自己変革を促し、悩みを解決することだ。そして私が改革を必要と判断した生徒をここに導くようにしている」
平塚先生は俺たちに淡々と説明して見せる。
その言葉を櫻木は剣呑な表情ながらも、一応に沈黙して聞いていた。
「そして櫻木と雪ノ下、あと比企々谷を交えての勝負の件だが…」
「いや…ちょっと待ってくださいよ。なんで急にその勝負に俺の名前がエントリーされちゃってるんですか」
「なんだ比企々谷…勝負とはいつも突然だぞ。そしてこういう巻き込まれ系の人間のほうがなんだかんだで勝ちフラグが立ちやすい。良かったじゃないか勝利は目の前だぞ比企々谷」
「おい、いまあんた俺を無理矢理巻き込んだことを認めたよな?」
「そうつまり、君たちはこの奉仕部に入部し、三人で切磋琢磨しあうことで自身を向上させていく…という私の完璧なプランだ。勿論勝負の判定は私の独断と偏見で行う……」
ダメだ…この人…自分の都合の悪い言葉は完全に耳から遮断してる。
下手な暴君のほうが相手の持論をデタラメに覆すとはいえ、意見を述べさせるのだからまだマシだ。
この人は駄々はこねないが、欲しいものの前では絶対その場から動かない我儘な子供だ。
これ程迷惑で陰湿なことはない。
「おいちょっと待て。もう勝負やら奉仕部やらどうでもいい…それより俺の単位はどうなるんだよ!!そこをきちんと説明しやがれ!」
櫻木は平塚先生の無理矢理な釈明にとうとう腹の虫が収まらなかったの怒号を挙げた。
だが尚も平塚女史は平静とした態度である。
その姿はまさに彼女の傲慢な態度を表していた。
青春ドラマで教師って悪役にされやすいが、俺はこの日そんな安い配役を現実として受け入れることにした。
「だから…奉仕部に入部し、奉仕活動に努めれば自然と単位は追加されていくじゃないか…」
「単位もらえんのは一回の奉仕活動じゃねぇのかよ!つかそれ普通に部活して内申点もらえるだけじゃねぇか!」
「だれが一回の奉仕活動で単位をやるといった。それに部活をしていれば推薦入試やらで何かと役立つぞ」
「奉仕部なんてフワフワした感じの部活、世間的に評価されねぇよ!面接官に妙な不信感与えるだけに決まってんだろうが!」
平塚先生はその言葉に『うむ』――と一度相槌を打つと何か閃いたかのように、得意げに微笑んで見せた。
「ならばそれなりの戦う理由を君たちにやろうじゃないか。勝ったほうが負けたほうに何でも命令できるというのはどうだ?」
「なんでもっ!?」
俺は平塚先生の言葉に驚嘆の声を上げた。
なんでもということは…そういうことですよね?
悪代官が着物の腰のアレをくるくるしたり、エロ同人みたいなアレのことですよね?
ゴクリ…。
その刹那に雪ノ下が自分の胸あたりを抱え、俺の前から少し後ずさった。
「この男の卑猥な感情が垣間見えたのでお断りします」
「偏見だ!そんなテンプレ見たいな考えに至るほど俺の頭は簡易にできていない!」
そうだ!インターネット使えば取り敢えずアレな画像とかアレな動画とかみんな拾ってるとかおもうなよ!
え?俺?俺はシラネ…。
「そうだぜ雪ノ下…誰もお前の侘しい体になんざ興味ねぇから安心しろ」
すかさず櫻木が俺に対して擁護を促す言葉を返す。
ナイスだ不良!俺の生涯に迷惑をかけた分存分に俺に貢献しろ!
「馬鹿ね…あなた…。見ればわかるでしょ?私って昔から可愛いから大抵の男子は私に好意を寄せるものなのよ?今までだってそうだったもの。あなただって最初はそうだったでしょう?」
「ふざけんな…俺は大抵の女の子にいつも一目惚れでフォーリンラブだ。寧ろ年齢以外でフォーリンラブな段階にいかなかったお前は今までで一番ブスで最悪な女だ…。これを機に自分を一生ブスと卑下しながら慎ましく生きろブス」
「そう…あなたの部族の美的感覚がそうならそれで構わないわ。どうせ絶滅危惧種であなたみたいな蛮族たいして残っちゃいないんでしょう?あなたみたいな無知な人間そうそう見かけないもの…。なら私の生活に大して支障は出ないし問題ないわ」
「ふん…てめぇ…今まで男に殴られたことねぇだろ…。男が女を殴るなんざぁ最低な行為だと俺は思うが…てめぇの相対する蛮族はお前を女として見てくれるかなぁ?」
櫻木はこめかみに筋を浮き立たせると同時に雪ノ下に対して握り拳を作る。
双眸の眼球は剥き出しになっていて、その怒りに震える姿は血に飢えた獣を沸騰とさせた。
なにこいつらマジ怖い…。
てか俺こんな奴らと勝負しなきゃダメなの?
魔人の戦いにいきなり天津飯ぶち込むようなもんだよ?
瞬殺だったもの…。一応は一瞬だけ貢献したけども。
「どうした比企々谷。もう勝負は始まってるんだ…乗り遅れるなよ」
唐突に平塚先生が俺の肩に手を乗せ、鼓舞して見せた。
「いや、あんたちょっと前に物理的勝負じゃないとか言ってなかったけ…?」
「だがこれはこれでなかなか面白そうじゃないか」
「学校で死人沙汰になりそうなときは教師が率先して止めるべきだと思うんですけどねぇ…」
「ふん…まぁいいやパスで…」
そんなときだった。
俺が平塚先生に小さくぼやいてる途中――櫻木が熱の失せた声で誰に声をかけるでもなくそう呟く。
そして気怠そうに頭に腕を回して雪ノ下に対してそっぽをむけた。
「よくよく考えるとこの歳になってムかついたから勝負だとか…ねぇわ。つかきめぇし…」
櫻木は怠惰な色を込めた言葉で興味なさげにそう呟く。
「なにが気持ち悪い?」
そんな櫻木に対し平塚先生はいつになく真剣な表情をその顔に貼り付けると、重い声色で尋ねた。
そして櫻木に対して言葉を紡ぎ続ける。
「理由はどうあれ本気で勝負することに何の羞恥がある?それは何かに必死に打ち込んでいるものに対する侮辱に値するぞ櫻木」
「別にそこまではいってないっしょ…つか飛躍しすぎだし…変に熱くなるなよ…くだらねぇ」
「いや、君のその言動は真摯に何かに取り組むものにたいしても見下してるような言葉だ。根本では何に対してもそうか感じながら生きている現れじゃないのか…?」
「あーーちげぇつってんだろ。つか何よこの空気。気まずい空気は…俺のせいなわけ?寧ろ空気を変えちゃう俺って凄くね?よし、誰か俺にエアマスターという称号を与えて祝福してくれ」
櫻木は剽軽な言葉を並べ立て、その場の空気をごまかそうとする。
だが平塚先生は芯の一本通った人間だ。
このようなことでおいそれと折れることはないだろう。
「まぁそれならそれでいいわ…必然的に私の不戦勝になるけど」
だがそのやり取りの腰を雪ノ下が唐突に挫く。
いつも通りの見下したような冷然とした態度で。
それに対して櫻木はクルリと雪ノ下に振り向き、面と向かう。
これはまた一波乱起きるかな…と俺は再び二人の殺気に気圧されないよう身構えるようにした。
「あー…いいよ、それでもう」
だが俺の予想とは裏腹に櫻木は気の抜けた声で雪ノ下の言葉を肯定して見せた。
せっかく身構えたのにこれでは身構え損である。
省エネ体質の俺が無駄な労力使っちまったじゃねぇか。
どうしよう…ここは怒るべきか。
いや俺は同じ失敗は二度しないたちだからな。
別にビビッてるわけじゃないけどね?
「ふん……。学識がないとはいえ…私に真っ向から立ち向かってくるから多少非凡なところもあるのかと思ったけど…ただ愚鈍なだけだったなんて、興ざめね。寧ろ凡人以下──といったところかしら」
「おう…まぁ俺は学校の成績も良くないしな。同じことを言わせんな、それでいいよ」
櫻木は疲れたような表情でなおも雪ノ下の悪態をいなし続ける。
それを受けた雪ノ下の表情は幾分か曇ってみえた。
「ここまでいわれて悔しくないの?」
「もう冷めたよ。心はホットに頭はクールにが俺の心情でね。それに生憎俺様の生命は全世界の美少女に捧ぐためにあんだよ。勝ったらなんでもいうこときかせるだの、そんなフワフワした勝負に労力を費やす時間はねぇの」
そういうと櫻木は俺たちに対して背中を向け、教室のドアノブに手をかける。
「じゃあな」
一度気怠そうに手を振った後、櫻木は扉を開く。
櫻木が教室を出るとき、ハッキリとは視認できないはずなのにその顔は妙に陰鬱な顔つきだったように思えた。
何故なら今日見たそいつの軽い背中はこのときだけ少し、重そうに写って見えたから……。
って――青春不良ドラマの幕開けかよ…。
ちょっと良いことしたり、辛いこと乗り越えたからっておめえらの悪いこと全部清算で出来るわけじゃねぞ。
でも不良はどうやってもいいやつの基準が低い。
まじめに生きるのが阿保らしくなってくる。
まぁ最終的に何が言いたいかというと――DQN爆発しろ。