やはり俺様の青春ラブコメはまさにパーフェクトである。 作:morikuma
あしからずm(__)m
天井も、
床も、
壁も、
掛けられたシーツも、
敷かれたシーツも、
それを載せたベットも、
ただただ、俺の取り囲む空間は白で覆われていた。
そんな中で俺以外を包む存在がもう一人――。
薄い生地の病衣から僅かに覗かせるこの一面の純白に順応してしまっているかのような白い肌。
ベットから上半身だけを起こしているため全体像は確認できないが、胸部の布地を押し上げる抜群なプロポーションはそれだけで他の男が息を呑む魅力があり、 肩まで伸びた黒髪の中心に浮かぶ造形は端正で落ち着いた大人の雰囲気を漂わせていた。
そんな彼女の容姿は世間的に見て『美少女』と位置づけされても全く差支えないだろう。
そしてこの白で覆われた病室は俺の為ではなく『彼女』の為に存在しているのだ。
「何だか今日は浮かない顔だね?何かあった?」
その彼女――
俺はその言葉に少し苦笑を浮かべて答えた。
「今日は二人もはずれの女を引いてね。俺の心は恋もしていないというのに失恋したかのように傷心中なのさ」
俺は彼女の目を見ることなく視線を少し斜めに外す。
それを察しているのに彼女の柔らかい双眸は俺をまっすぐに見据えていた。
「ふーん相変わらずモテもしないのに女の子を品定めとは生意気だね」
「馬鹿…俺様がモテないわけないだろう。ただこうハンサムな容姿だとみんな俺に萎縮しちまうんだよなぁ…哀しいことに。あぁここまで完璧な造形を作り上げた神様を恨み続けるね…俺は」
「まぁ容姿の真偽はともかくとして、モテないことは認めるんだね」
「モテないんじゃない。ただ彼女ができないだけ」
俺の言い訳とも取れる言葉に彼女はクスクスと悪戯な微笑みを浮かべる。
その大人っぽい表情を崩した微笑みからは少女の表情が浮き彫りになっていた。
「そろそろ一人に絞ったら?」
「俺を一生虜にできるような美少女を連れてきたら考えてやってもいいけどな」
「じゃあ私をもう一度攫ってみれば?私は美少女だし」
「……自分で美少女いうなよ。あと大人をからかうんじゃねぇ…」
俺は彼女の最大限の
そんな俺の反応に彼女は少し表情を陰に落とすと、いつも通り微笑んで見せる。
「幸太だってまだ子供じゃん」
「馬鹿…俺は今日で大人をからかうことの危うさを知り、一気に人生の経験値を上げまくったんだよ。大人の階段は登らなきゃなんないのに踏み越えていっちゃたからね俺」
「意味わかんない…」
「具体的にいうと大人をからかうと鉄拳が飛んでくんだよ。人殺せるぐらいの」
「ますます意味わかんないよ?」
彼女は口に手を当てまたクスクス笑い出す。
その微笑みに俺は少し安堵し、苦笑する。
これが彼女とのいつものやりとり。
俺が外での出来事を剽軽とした言葉を並びたて彼女に伝え、彼女はそれに呼応するように笑いかける。
それが彼女と俺にとってのいつもの日常――。
だが今日はこの病室には入った瞬間に感じていた違和感に話題を転換してみることにした。
「そのPCどうした?」
そう――彼女の病院用ベッドに備え付けけられた胸の前のテーブルには、閉じられた薄いノートパソコンが乗っかていたのだ。
「ぴーしー?」
彼女疑問符を浮かべ、首を傾げる。
そしてまるで子供のような片言で俺にその単語を投げかける。
「personal computerの略だよ。上に乗っかてるそれのことだ」
そう、彼女はPCという単語も知らないほどに、電子機器やその他もろもろ、現代的なものに疎い節がある。
そんな彼女がノートパソコンを扱うなどあり得ないとは云わない、があまり似合わないと俺は感じた。
「あぁこれ?このNPCはおじいさまに頼んで買ってもらったの」
「つーかNPCってなんだよ…あの融通の利かない機械的なやつらのことか?」
「notebook personal computerの略だけど――知らないの?」
「いわねぇよ…それは普通にノートPCだ」
「なにそれ…意味わかんない。略してないじゃん。なんでそこで諦めちゃったの?」
「しらねぇよ。ノートって和製英語で使ってるからアルファベットにしにくかったんじゃね?」
「ナポリタンやらカレーライスとか勝手に発明してるのに今更そんな配慮するの?」
「食いもんまで疑問を広げるなよ‥きりないだろ」
俺はため息まじりに花美の疑問を制す。
そんな俺に彼女は少し煮え切らない表情でうつむいた。
「ふーんまぁいいや‥私はこのパソコンを使ってイケメン画像にhere we goするだけだし」
「お前…まさかそれだけのためにパソコン買ってもらったのか?」
「なに?嫉妬した?」
「いや…写真集でも買えばいいと思っただげ」
「だって今や違法ダウンロードやアップロードがはびこる時代だよ?お金を使うなんて馬鹿馬鹿しいよ」
「なんでそんなことには詳しいんだよ…」
「だって深夜アニメの最初のほうにいつも流れるから」
「病院で深夜アニメ見んな」
「大丈夫だよ。私の部屋、個室だし。特別待遇だから。金持ち万歳!」
「金持ちならインターネットで拾うなんてこすい真似せず、もっと日本経済に貢献してやれ…」
「嫌だ…。社会の仕組みに私は最後まで抗ってやる」
「お前…自分が入院患者って自覚してる?仕組みに抗うどころか世話になりまくってるからね?」
呆れたように言葉を紡ぐ俺に対し、彼女はまた嬉々の笑顔を漏らす。
だが唐突に彼女の表情が大人びたものにその色を変える。
「じゃぁどうすればいいと思う?」
あくまで柔らかい、いつもの声色で――そんな抽象的なことを俺に尋ねる。
「手術して退院すれば?」
「サラリと言うね」
「できないわけじゃないんだろ?」
「治れば幸せになるのかな?」
「なるよ。少なくとも…お前はな」
そう言った後の花美の答えはいつも決まっている。
彼女は総じて可哀想な人間だ。
「それじゃあダメだね…」
この会話も何度繰り返しただろうか――彼女は一度も俺の言葉を肯定したことはない。
だが、だからといって今更彼女を説得してやろうという気も起らない。
彼女はずっと可哀想な女のままだ、だがそれを彼女も臨んでいる。
ならばそれを俺がどうこういう気概はない。
そして俺はそれを胸の中で確認した後、おもむろに花美の相席だったパイプ椅子から立ち上がる。
「帰るの?」
彼女の視線が立ち上がった俺に泳ぐ。
なぜかいつもその顔は、どこか不安げに感じられる。
そんなはずはないというのに。
「いや…御手洗いにいく。具体的に言うと便器で大きいほう」
「それ…御手洗いで煙に巻いた意味ある?」
「俺は今日、社会に適応できないと指摘されたからほう・れん・そうは大事にすることに決めたんだよ。社会の基本だからな」
そう言うと俺は花美対してに背を向け、軽く手を振る。
そして病室のドアノブに手をかけ扉を開き病室を出た。
「あら…幸太君。また来てくれたの?」
扉を閉じ終えた瞬間――唐突にそんな声がかかる。
その声は花美とよく似た柔らかい声色から、僅かに残る幼さを削ぎ落としたような声だった。
そして俺の目の前には肩まで伸びた黒髪で端正な顔立ち、丁度花美を数年大人びさせたらこれぐらいの美人になるであろうという女性が立っている。
白いカーディガンに年季の入ったブルーのロングスカートを纏った彼女は、昭和な雰囲気を醸し出してはいるが、その健康的な白い肌により十分に若々しい印象を俺に与えていた。
だがそれぐらいに若々しく見える彼女は既に一児の母である。
具体的にいうと花美の母親だ。
「どうも…おばさん」
俺は小さく会釈すると消え入りそうな声で挨拶する。
「ふふ…ご丁寧にありがとう」
そんな俺の挨拶におばさんは儚げな笑みを浮かべ応えた。
その疲れたような笑みと声色はある種の妖艶さを醸し出している。
「幸太君がいつも来てくれてるから最近の花美、とっても元気に笑うのよ」
嘘をつけ…。俺の目の前の彼女はいつも寂しげだ。
すぐにでも朽ちてしまいそうなほどに。
もしそうなら花美はあんたのために笑っているんだ。
「はは…そうっすか。まぁ二人も綺麗な女性に出会えるんですから、その努力は惜しみませんよ」
「まぁ…お上手ね。こんなおばさんにまで気を遣えるなんて」
「おばさんなんて…まだ二十台にしかみえませんよ」
「あなただっておばさんって呼んでるじゃない」
「それは世間体に従って仕方なく…ならこれからはお姉様とお呼びしますよ」
「その呼び方じゃ落ち着かないから…おばさんでいいわ」
冗談交じりの俺の言葉におばさんは微笑する。
その彼女の口に手を当て笑う仕草も、表情でさえもすべて花美に重なる。
「今日はもう帰るの?」
「いや、ちょっと外の空気を吸ってこようかと」
「そう…なら私は早めに部屋を出るわね。花美もあなたと話しているときのほうが楽しいだろうから」
俺はこの女のことが嫌いだ。
俺という、花美に外を教えるための存在を、一種の娯楽のように与えている。
それは花美とこの女自身が優劣な立場に陥らないためだろう。
その行為は俺というエサを与えることで実の娘のご機嫌をとっているに等しい。
この女は俺から見れば卑怯でいやらしい女だ。
「あんまり気を遣わないで下さいよ。逆に話のネタがなくなりますから」
おれは作り笑いを顔面に貼り付け、明るい声で答えた。
そう――俺はこの女が嫌いだ。
親のくせに娘に対して卑怯なんて最悪だ。
卑怯で最低な親だと卑下している。
だが何より卑怯で最低なのはそれを自覚しながらも花美に固執し、縋るために、
偽りの笑顔を張り付け、この女の策略を、状況を、利用している俺自身だ――。
×××
用を足すことを終えた俺は取り敢えず病室に戻ろうとする。
だが花美と花美の母親はまだ会話を続けているのだろう。
一応に家族みずいらずの時間を俺などが奪ってしまうのは些か気が引ける。
なので取り敢えず俺はジュースを買うというこじつけを作り、遠くの自販機に向かうことにした。
そしてできるだけ時間をつぶすためにゆっくりと歩を進める。
そんな時だった。
「てめぇ…この
「おい…あんま熱くなんなって…そっちの娘とかマジ怯えってから。その辺でいいじゃん?な?」
閑散とする路地裏の中で、喧騒とそれを宥める声が叫喚する。
ビルとビルの間によって形成された路地であるためかその声は甲高く反響し、俺の耳を伝っていた。
「は、はぁ?あんたの図体がでかいせいじゃん?あーしは悪くないし」
「も、もうやめよ優美子?謝れば許してくれるって言ってるし」
震え声でありながらも聞き覚えのある強気な声。
そして相対する片方の男たちと同じように女の子であろう一団からも相手を宥める声が響く。
やはりその声も俺には聞き覚えがあった。
ふっ…如何やら愛を司るナイトの出番がやってきたようだな…いざゆかん姫君たちよ!!
取り敢えずガラの悪い不良たちに美少女たちが絡まれている――というところまで脳内補完した俺は彼女たちを華麗に助け出すことを決意する。
そして俺は彼女たちを救うため、意気揚々に流麗なステップで路地裏へとダッシュで飛びいった。
そんな俺の目に映ったのは、やはり俺の知る美少女たちだった。
明るめの茶髪に制服のブラウスからはみ出さんとしているワガママバストの持ち主である美少女
そして金髪縦ロールにその挑発ボディをひけらかさんとばかりに制服を着崩している美少女
ちなみに彼女は今年告白した28人のうちの二人だ。
まだ答えは聞いていないがクラスでいつも楽しく話してるしもう付き合っているようなものである。
だが俺の知っているのはその二人に留まらなかった。
路地裏に彼女に絡む190を超えようかという長身の赤髪、そして赤髪と対照に見える所為かやけに低身長の緑髪。
何とも残念ながら…いまからボコボコにしなければならない彼女たちの脅威――ガラの悪い不良どもは昔の
「なーに女の子に絡んでんのお前は」
俺は赤髪不良の制服の襟首を掴み強引にこちらに引き寄せる。
その赤髪不良は『うぉっ!?』と驚嘆の声を上げると同時にそのでかい図体を地面から滑らせた。
「このを喉を潰しかける胸糞悪い懐かしい感覚は――!?」
襟首を掴まれているため上体を方向転換させることのできない赤髪の不良は首だけをこちらに回し、俺の顔を視認する。
「よう久しぶりだな赤髪」
俺はそんな赤髪に対し、片手をあげ、再会の挨拶した。
そう――こいつは昔つるんでいたころの腐れ縁という奴だ。
まぁ俺にとって男という奴は腐れ縁以上のカテゴリーに分類されることはないのだが。
「てめぇ櫻木か!?」
赤髪は俺を視界に入れたとたんに驚嘆する。
まぁ多分、相変わらずの俺のイケメンぷっりに思わず叫んでしまった9割、脳みそ野獣以下だから取り敢えず脊髄反射で声を出しってしまった1割といったところだろう。
「つ、つか…首締まってるから放せ!!マジで死ぬ!ブボボボ――!!」
赤髪が珍妙な奇声と共に泡を口から噴出しだす。
このまま殺しても良かったのだが、清純な美少女たちの前でそんな残酷な現実を見せつけるわけにはいかない。
なのでヒョイっと、握っていた襟首を放してやった。
あぁ…俺はなんて紳士かつ良心的な男なのだろうか。
このままだと彼女たちがまた俺に惚れこんでしまうぜ…。
「はぁはぁ…てめぇ…いい加減自分が軽い気持ちで人を殺しかかっていることを自覚しやがれ…!!」
「だってお前でけぇんだもん。必然的に襟首が絞まんのはしかたねぇだろ」
「じゃぁ引っ張んな!!もっと穏便な方法で引き止めろ!!」
「お前みたいな頭部の自己主張激しいやつに穏便なんて聞きたくなかったよ…少し見ないうちに落ちぶれたな赤髪…」
「二年前から言ってるわ!!つか赤髪じゃなくて名前で呼べつってんだろぉが!」
「だってお前髪が赤いのとデカいくらいしか個性ないじゃん」
「めちゃくちゃ個性出てるじゃねぇか!!バスケだったらスーパースターだろうが!」
赤髪は剣呑の表情で俺を睨みつけ、怒号する。
俺はそんな赤髪の言葉を右から左に受け流すように捲し立てる。
その赤髪と俺の喧騒に緑色のブロコッリーみたいな奴が突然割って入きた。
「櫻木じゃん!!マジで久しいな!」
久しいっていつの時代の人間だてめぇは…。
俺は気怠そうに緑髪に視線を向ける。
その低身長に加え童顔な男は完全に高校デビュー仕立ての一年生にしか見えない。
だが残念ながらこいつは中学のころからこんな緑頭である。
てかなにが残念なんだ。
こいつの如何にも童貞が頑張っちゃいました感か…。
「久しぶりだな緑」
「てめぇ!俺もかよ!前から名前で呼べつってんだろうが!」
「だってお前マジで個性ないじゃん…なんで不良なの?死ねよ…」
「俺んときだけなんでそんな声冷てぇんだよ…。まじで怖いからやめてくんない?」
俺の冷淡とした声色に緑髪は一歩引くような体勢になる。
ほんとこいつはオチもつかねぇしつまんねぇな…。
その頭虫に喰われてもう背景に徹してろよ。
「あれ幸太君!?てか……その人たち知り合い?」
俺が二人の会話を怠惰な気持ちで、『早く隕石でも降ってきてこいつらだけ死なないかなー』なんて考えている刹那に怯えたような声色の可愛い子猫ちゃんのような声が響く。
その声を捉えた瞬間に俺の耳はヒクッと揺れ、すぐさまその声の主である、結衣ちゃんのもとに駆け寄った。
俺としたことが…こんなガラクタ同然の――寧ろいまは彼女たちの障害物と化した奴らに構っている場合ではなかった…。
俺の生き様いつでもレディーファーストであるというのに…失策だったぜ…。
そして俺はすぐさま結衣ちゃんの不安を掻き消すため、彼女の手を取り、そのか細い手を包み込んだ。
「結衣ちゃんさぞ怖かっただろうに…こんな人間以下のケダモノ不思議頭…視界に入れるのも耐えないだろう…今すぐこの悪夢は俺が消し去ってあげるからね」
「い、いやそれはちょっと言い過ぎなんじゃ…さすがに可哀想」
そんな彼女を宥める言葉に結衣ちゃんは、あんなゴミ以下の奴らに対して配慮する言葉を紡いで見せた。
あぁ…なんて彼女は優しいんだろう。
君は平成のナイチンゲールなのかい?
「ふぅ仕方ない…おいお前ら、結衣ちゃんの優しさに免じてせめて事情を聞いてから殺してやる。さぁ自分の罪をいまここで吐き出せ。その瞬間に首を落とすから」
俺は赤髪と緑髪に対して振り向き、情けの言葉をかけてやる。
「いや何を免じたんだよおめぇは…。せめて命ぐらい免じてやらねぇと何も残らねぇから」
「相変わらず清々しいくらいに女性主義だよね。お前」
俺の言葉に赤髪と緑髪の呆れたような声色がつんざく。
誰が無駄な言葉を発していいと言った。殺すぞ。
「いいから事情を話せよ。言ちゃった手前もう引き返せないだろう。ゴミの分際で俺を辱める気か?」
「なんかすげー言いたくないんだけど。辱めたままこいつ殺していいかな?緑?」
「お前…俺のこともいい加減名前で呼べよ…」
そんな無駄な会話が続く中、緑が困窮したようにため息をつく。
そしてやれやれと大仰に両腕を上げて見せた。
「わかった…。取り敢えず話すよ。俺も困ってたとこだしな。寧ろ櫻木…助けてくれ」
緑がため息まじりに、言葉を紡ぐ。
というか俺はお前を助けない。
助けるのは結衣ちゃんと優美子ちゃん、二人のヴィーナスだけだ。
「赤髪がそこの金髪縦ロールちゃんとぶつかったんだ。それで今に至る」
「……は?それだけ?」
俺はあまりの緑の簡易的な説明に素っ頓狂な声を上げる。
そしてしばらく呆気にとられていた。
「うん。それだけ」
そんな俺の体内時計を動かすように緑の返答の一言がかかる。
その声に意識を再起させた俺はすかさず赤髪に対して軽蔑するような視線を送っった。
「お前今更ぶつかっただけでここまでもつれるとか…昭和の不良かよ。街歩けねぇぞ。お前に触れたやつ全員敵なの?寧ろ全世界お前の敵なの?そういう時期なの?ダークフレイムマスターなの?」
「うるせぇ!俺だって一言詫び入れればここまで話がもつれなかった!だがそこの女が生意気でよぉ!!」
赤髪は絶叫ざまに優美子ちゃんに対して指差す。
思わず指摘された優美子ちゃんは羞恥と怒りの色が混ざったように顔を赤くしていた。
あぁ…その顰めたような顔も最高に可愛いよ優美子ちゃん…。
「は…はぁ!?だから私はなんも悪くないし!!あんたの図体がでかいせいじゃん!?」
そしてその表情のまま優美子ちゃんは反抗の言葉を叫喚する。
「つか櫻木!ソイツあんたの連れっしょ!早く何とかしてくんない!?マジ鬱陶しいし!」
優美子ちゃんは理不尽と言わんばかりに俺にすべての問題を投げつけてきた。
あぁ…だがこの理不尽さがまた心に来るものがある。
そう…言うなれば彼女の声はアルコール。
胃を痛めつけると自覚していても感覚を狂わさ何度も君を求めてしまう。
この世界から君が居なくなったならば俺はウォッカを禁酒にされながらも砂糖から作り続けたロシア国民の如く執念で君を求めてしまうのだろう…。
ふっ…。
「ちょっ…何黙り込んでんの!早く何とかしろし!」
「すまない…君のその甘い声についまどろんでしまったようだ…」
「そのいつものおちゃらけたのは今いらないし!」
酷いなぁ…俺はいつも全身全霊、真摯で紳士なのに。
あぁ、だがこの彼女の傲慢な態度に従わざるおえないのが彼女の魅力!!
まぁ元々愛のナイトとして参上したわけだし全力で彼女たちは助けるけどね。
仕方ない…そろそろ本気を出す。
「おい…赤髪お前…この俺様にそろそろ従っとかないと痛い目を見るぜ…」
俺は得意げに頬を歪めつつ言葉を紡ぐ。
刹那――空気が弛緩する。
その俺の言葉は冷淡な口調に聞こえるが、言葉の内には確かな熱が籠っていた。
そして俺は相手を食って掛からんとする雰囲気を放ちつつ、赤髪に一歩踏み出していく。
双眸をギラギラと輝かせ一歩、一歩っと…。
「えい」
「がはぁ!」
だが赤髪の簡素な掛け声と同時に容赦ない蹴りが俺の腹部に叩き込まれる。
胃の中の物が逆さまにになるような衝撃を受けた俺はその場で腹を抱え倒れ伏した。
「っ――なかなか腕を上げたな」
「いや…上げてねぇよ。つかお前俺に喧嘩で勝てたことないないだろ。あまりに強く出てくるからちょっと不安になったけど」
赤髪は俺を上から無表情で見下すと呆れたように呟く。
だが俺はまだ本気を出していない。
なんかよくわからんが俺の強さはまだ百八式まである…。
それをだしちゃうと流石にこいつも死んじまうし勘弁してやるか。
こんなところで死人沙汰はごめんだしな。
「仕方ない…ならクイズをしよう」
「クイズだぁ?」
俺はおもむろに立ち上がるとどこかのいけ好かない女の受け入れの言葉を赤髪に投げかける。
その俺の言葉に赤髪はバカっぽく顔を顰めた。
ほんとこいつ馬鹿!
まだ腹ん中押しつぶされたように痛ぇ…。
マジで死ねよこいつ…。
「そうだ櫻木幸太の超世界ふしぎ発見ウルトラヘキサゴンスーパーアタックチャ~ンスク~イズだ!」
「えぇ……」
「名前パクりすぎだし!てかあんたマジ助ける気あんの!?」
俺は大仰に両手を広げ俺様主催のクイズ名を宣言する。
だがそんな俺の宣言に結衣ちゃん困惑の息を漏らし、優美子ちゃんに至っては顔を真っ赤にして抗議した。
「そんな彼女たちの表情を見て俺は美少女はどんな顔でも美しいと再確認するのであった、まるぅ!」
「なに急に訳わかんない語り部入れてるし!」
「すまない…俺のあふれんばかりの愛情心理描写というやつが胸の内から溢れてしまったようだ…」
「だから真面目にやれぇー!!」
「つーかよぉてめぇ…そんな決着のつけ方でこの俺が満足すると思ってんのか…」
そんなとき俺と優美子ちゃんの夫婦漫才を赤髪が唐突に挫く。
『夫婦漫才』――ここ重要である。特に『夫婦』の部分めっちゃ重要である。
「るっせーな、人が日々の他愛のない痴話げんかに洒落込んでる時に空気読めよぉ」
「いや…今一番空気読めてないのはてめぇだからな」
「ちっ、わーったよ。んじゃあてめぇが俺様との勝負に勝ったら優美子ちゃんも謝るし、俺は一生てめぇのパシリとして仕えてやんよぉ」
「あぁ?」
俺の提示する条件に赤髪は訝しんだ表情で顔を顰めた。
「幸太君!?」
結衣ちゃんは俺の提示する条件を聞いて叫喚する。
きっと俺の身を案じてくれたのだろう。
さすが平成のナイチンゲール…。そんな君の優しさに僕のハートはラブヒール!!
「ふっ…大丈夫さ結衣ちゃん。君はそこに立ち僕の勝利のヴィーナスでいてくれれば良いのさ」
「ちょっ!ほんとにふざけてる場合じゃないってば!幸太君がそこまですることないし!こっちが謝れば丸く収まるわけだし!」
「こんな奴らのせいで女性に恥をかけるなんて俺のプライドが許さないよ。それに大丈夫――この勝負…俺が
だがそんな結衣ちゃんに俺は優しく心配ないと諭した。
やばい…俺めっちゃかっこよすぎる!!この俺の雄姿に優美子ちゃんもメロンメロン――
「はぁ!?なに勝手にあんたが負けたら私が謝るって決めてんの!?まじふざけんなし!」
えぇ…全然メロンメロンじゃないし…むしろ眼光ギランギランなんだけど…
「これで負けたらあんたほんと承知しないかんね!」
「なんだかんだで俺を認めてくれる!そんな優美子ちゃんが俺は大好きだよ!」
「うっさい!だから真面目にやれ!」
「一生てめぇをパシリか…まぁ悪くねぇ条件だな」
「ほんとにやんのか?櫻木?こいつマジでお前のことパシリにすんぞ。まるでジョーク通じねぇかんな、こいつ」
赤髪はその顔に悪そうな笑みを浮かべ、 一方で緑髪はいまいち腑に落ちないような顔で尋ねた。
「ジョークのつもりはねぇよ。赤髪が勝負に勝ったら俺は一生パシリだ」
「いいぜ、じゃあその勝負のってやるよ」
赤髪も俺の好条件に納得したようだ。
利害も一致し、これで準備は万全。
「よっしゃじゃあ始めるかぁ、櫻木幸太のスーパーウルトラ世界不思議発見アメリカ横断タイムショッククーイズ!」
「名前変わってるし…」
「真面目にしろっていってんのに…」
「まぁあんたら…櫻木に真面目にしろっつうほうが無茶だぜ。こいつ馬鹿だし…口開けばチャラけたことしか言わねぇしな」
緑髪が同調するように優美子ちゃんと結衣ちゃんに話しかける。
つかだれが馬鹿だ…てめぇ後でしめる。
「んじゃあ問題です、俺が小学生のころ恋した担任のティーチャーは誰でしょう?ちなみに全員参加型だからみんなも一緒に考えてね!」
「「「「わかるかぁ!!」」」」
俺が問題を出題した瞬間に一斉に全員の怒号が飛んだ。
そんな彼等の迫真の反応にも俺は動じずその場に立ち尽くす。
「つかなんであーしたちも参加しなきゃなんないわけ!?」
「まぁまぁ、レディたちを暇にさせるわけにはいかないし。解答のしかたは俺に携帯で──」
解答を携帯でメールして俺に伝えさせる。俺はある目的の為にそんな回りくどい手法を取ろうとした。
だがスマートフォンを手に取ろうとポケットを探って見るものの携帯は入っていない。
花美の病室に忘れたか?いやそもそもあの場で携帯なんて──
俺の中で妙な焦燥感が走る。
だが取り敢えずにその取っ掛かりは一度置いておくことにした。
「どうしたの?幸太君?」
結衣ちゃんが微妙な俺の異変に察したのか声をかける。
「うんあぁ……いや.……なんでもないよ。それより解答の方法だがみんなこの解答用紙に答えを書いてくれ」
俺はすぐさま考えをシフトし、鞄からメモ帳とボールペンを取り出す。
そしてメモ帳を一枚ずつ破り、それぞれの名前をボールペンで書いたものと、なにか筆記出来るものを全員に渡した。
「あと俺が途中で答えを変えないよう正解はこの紙に書いておく」
更に俺はもう一度メモ帳を破るとその紙に答えを記した。
「律儀だな、おい――?」
緑髪は俺の解答用紙を受け取り、見た瞬間に軽い沈黙を落とす。
そして俺の顔を一度見ることで目配せした。
「待てごらぁ!?つかそんな問題正解できるはずがねぇだろうが!?」
一方赤髪は俺の問題に納得がいかないようで、怒りに体を振るわせ叫喚した。
「しゃーねぇな、じゃあ二択方式にしてやるよ」
「そういう問題か!!」
「まぁ待てって、二分の一の確立で櫻木をパシリにできるんだから悪い条件じゃないと思うぜ?答えは先にメモッてんだから変えれねぇはずだしな」
そんな赤髪に緑髪がすかさずフォローを入れる。
ブロッコリーみたいな頭のくせにたまには使えるやつである。
「むぅ…そういわれると――そうなのか?」
問題という前提が崩壊してる時点でそんなことはない。
やっぱこいつ馬鹿だな…。
俺は何故か妙に納得してしまっている赤髪を見て心中で嘲笑した。
「では気を取り直して――二択方式ということで、1金八先生2鬼塚先生どちらでしょう?」
「おい!?やっぱおまえの問題おかしいだろう!?それ架空の人物じゃねぇか!?マジで正解あんのかよ!」
「だーからぁ、答えは先にメモってんだからそれが事実だろうが事実でなかろうがお前はどっちか答えりゃいいんだよ」
興奮した赤髪を緑髪が宥める。
「あぁ、そうか…そうだな…」
納得した赤髪は問題に思考を巡らせるため沈黙をを落とす。
「40秒前……」
そんな赤髪に俺はぼそっとが嫌らしく呟く。
「いつから時間制限方式になったんだよ!!」
「いいからとっとと答えろよ」
「あぁぁぁぁぁ!!どうせ答えは5割だ!!勘でいく!」
「ほんとにそれでいいのかな~?」
「そうだな、もうちっと真剣に考えたらどうだ赤髪」
「てめぇ緑!!どっちの味方だこら!!」
「もちろんお前の味方だっつーの、てか髪の色じゃなく名前で呼べ!!」
俺たち3人だけの喧騒が路地裏で木霊する。
「よし!答えは1だ1!1の金八先生!」
「ふむ……年代的には金八先生の方が先という考察に基づく素晴らしい解答だな……」
「いや、別に何も考えてねぇよ!」
「だが甘い!金八先生が始まる時代に俺は生きていない!つまりはGTOにもそれ相応の可能性が──」
「どうでもいいわ!とっとと答えを寄越しやがれ!!」
解答をなじる俺にたいし堪忍袋の緒が切れたのか、赤髪は強引に俺の手から解凍が書かれたメモを奪い去った。
「たっく──せっかちだなぁ」
俺は赤髪の強引な態度にも特に気概のない態度で呟いた。
なぜなら俺の目的はもうこの時点で達してしまっているかだ。
「で正解はと──よっしゃぁ!1だぜぇ!櫻木ぃ!」
赤髪は勝ち誇った表情で俺に宣言する。
そして解答が書かれたメモを俺に見せつけヒラヒラとなびかせて見せた。
「おぉおめでとう赤髪くん」
「へっ──!それじゃぁ?俺の勝利っつうことでまずは俺様に頭下げてもらおうかクソアマァ!!──?」
赤髪は大見得をきってそう宣言する。
だが唐突に赤髪は訝しげな表情にその顔色を変えた。
「あの女はどこいった──?」
そして惚けた表情でこの建物間から覗く、何もない空に呟いた。
「帰ったよ?」
「は?」
俺の言葉に赤髪は間の抜けた声をあげる。
「だからお前が色々悩んでる間にとっととお二人は家路につきましたとさ」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ──!?」
赤髪は怒りと、驚愕が入り交じったような声で絶叫する。
「ぶはははははははははははは!!ばぁぁぁぁぁぁぁかぁ!!俺がまともにクイズなんかで決着つけると思ったのかぁ?マジウケるんすけどぉ!」
そんな赤髪にたいし俺は全力で豪快に痛快にこいつを嘲笑ってやった。
「結衣ちゃんと優美子ちゃんに配っておいたメモにはてめぇがバカみたいにくっだらねぇ俺様のクイズに悩んでる間に逃げろとつたえておいたのさ!!」
「ちなみに俺にはうまく櫻木と口裏合わせるようにメモが来てたわけ」
俺が盛大にネタばらしをしたあと緑髪が間髪入れず解説して見せる。
「てめぇごらぁぁぁぁぁ!!緑!!どっちの味方だぁ!!」
「仕方ねぇだろう……俺だって面倒だったんだよ、つか名前で呼べ」
「ちきしょぉぉぉぉぉぉぉぉ──!!だが約束は約束だぁ櫻木てめぇは一生俺のパシリだごらぁ!!」
「あぁん?何でだよ?俺は勝負に勝ったらパシリになってやってもいいつったんだよ」
「あぁ!?負けただろうがてめぇは自分のだしたクイズでよぉ!」
「おいおい──いつ俺がこのクイズで勝負しようつったんだよ、俺は『じゃあクイズをしよう』っていっただけで勝負だなんてひとこともいってないぜ?」
そう、俺は勝負に負ければパシリにもなるし優美子ちゃんも謝らせるといったがこのクイズを勝負方式にするとは一度もいっていない。
「あぁぁぁぁ!?てめぇそんな屁理屈が俺に通じるとも思ってんのか!!」
当然と言えば当然だが赤髪がドスの聞いた声で意義を申し立てた。
だがそれももとより承知である。
ここからが俺のパーフェクトな計画の真骨頂だ。
「おい、てめぇ人の話聞いてんのかごら!つかなんで唐突にクラウチングスタート決めてんだごらぁ!!」
「なら勝負しようじゃないか赤髪君」
俺はよーいの腰をあげた状態で赤髪に提案を持ちかける。
「この俺様を捕まえられたらてめぇの勝ちにしてやるぜ──」
そして俺は華麗にスタートを切った。
完璧なフォームで俺の上体は風に乗り、地を駆ける。
そうこれは逃げているのではない。これこそが真の勝負であり、俺にとっての戦いなのである。
「待てやおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ───!!!!」
そんな俺を鬼の形相で赤髪は俺を追いかけてくる。
地を揺らすような叫びが辺りに反響した。
あぁそういえば花美の病室に携帯置いてきちまったなぁ──。
そんなことを考え、おれはひたすら足と手を回し続ける。
まぁでも今度取りに行けばいいか──。
そうだ今は逃げることが重要だ。
逃げ続けろ。
昔の連れから──。
今から──。
そして過去からも──。