やはり俺様の青春ラブコメはまさにパーフェクトである。 作:morikuma
何故か俺こと比企谷八幡は奉仕部という、ハーレムアニメなら超絶卑猥だったであろう今は夢の跡な部活に強制入部させられてしまった。
部長は美少女、顧問はなかなか美人、ともなれば一寸の可能性も見いだせたかもしれないが、残念なことに二人とも容姿と性格が反比例してる始末である。
ホントに誠についていない。
どうにかして違う部活に入れないかな……とも考えたが、群れること自体を嫌う俺にとって部活なんぞもってのほか、あんな青春スポコンはフィクションだからね……。
悪い先輩のいびりだけは多分マジだけど……。
噂をすれば相変わらず運動部のわーわーとした声と夕日の木漏れ日が鬱陶しい。
なんか俺が不浄な者みてぇじゃねぇか。
不浄じゃないからね……むしろ透明感に溢れてるから、あんま人に気に掛けられないし。
あれなんか自分で言ってて悲しくなってきたな……。
相変わらずモヤモヤとした独白を頭に張り巡らせ、俺は廊下を歩く。
だが今回違うのは俺が向かう場所──いつもなら奉仕部の部室なのだが、まず最初に平塚先生のいる職員室に向かっていた。
何故ならば俺は
「失礼しまーす……」
俺は気だるげな声で職員室の戸を開ける。
「おぉ、きたか比企谷まぁこちらに座れ」
平塚先生は俺が入室したことに気付くとすぐさま手招きして自身の机に誘導した。
平塚女史の机には大量の煙草の吸い殻が灰皿につまれていた。
なんというかこの学校の衛生管理はどうなっているんだろう。
そもそもこの人の体の衛生管理は大丈夫なのか……。
こんな人間に俺のモラルについて否定されたのかと思うといささか信じがたい。
それでもこの世界のモラルが彼女に準じているというなら、俺はこの世界に一生歯向かい続けるね。
やばいなんか俺マジカッコいい。
「それじゃあ聞かせてもらおうか、君がこの1週間で櫻木幸太をどのように思ったか」
そう、俺が平塚先生から指示された奉仕部の最初の活動はいけすかない茶髪ピアス、櫻木幸太の人間観察であった。
そもそもなんで俺が男の人間観察なんぞせねばならんのだ……。
まぁ俺はボッチとしてそのような人間観察は得意な部類である。
机に突っ伏してはいるが、聴覚はしっかり働いているので、教室全体の色んな物事が耳に張り付いてくる。
別に盗み聞きとかそういう類いではない。
だが長年一人で何もすることがないと、教室のみんなの話題を耳にいれるくらいしかすることがないのだ。
その過程で、このような話題の情報処理能力が培われてしまったのだある。
あれ?結局これ盗み聞きしてるのとあんま変わんなくない?
いやこれはボッチという経験から自然と培われた『心眼』
である。
物はいいようだな。
何が可笑しい!!いや何も可笑しくないのである。
そんな俺の心眼で捉えた櫻木幸太の情報をおれは簡潔に伝える。
「バカ、チャラい、アホ」
「真面目に答えろ」
「すいません、正確に言えばバカとアホは同義ですね、チャラくてバカです」
「真面目に答えろと言っただろうが」
平塚先生は俺の訂正をひときりすると、耳をおもいっきりひっぱた。
「痛い!!わかりました!!真面目に答えるんで耳はやめて!!」
俺の悲鳴混じりの懇願を聞き入れるとパッと耳を離してくれた。
痛い……まじで耳がちぎれるかと思った。
俺の心眼が使い物にならなくなるとこだった。
「よしでは改めて答えろ」
平塚先生は次はないと言わんばかりに腕を組んでおれを威圧しながら言葉を紡いだ。
俺はその姿に若干身を強張らせながら答える。
「そうっすね……まずあいつめちゃくちゃ友達多いっす」
そう櫻木幸太は友達が多い。
主には上位カーストに属しているが、あいつの交遊関係はそれに留まらない。
少しおちる下位のカースト、はたまたゲームやアニメの話しばかりしている若干クラスから浮いているオタクグループとも会話できる始末。
おそらくクラスのほとんどとはメル友位の交友関係にあるだろう。
あの威圧感ある茶髪ピアスが何故そこまでの交友関係を気づけるのか些か不思議である。
ていうかそれだけ友達多いのに何で俺とは友達になってくれないのか不思議である。
ていうか俺と奉仕部の教室であったとき、あいつ同じクラスの俺のことも知らなかったくない?
いや俺もあいつのこと知らなかったけどね。
まぁそれだけ目立ちそうな存在なのに心眼をもつ俺が知らなかった理由はそれなりにある。
「それはまた君とは正反対だな」
平塚先生なんの悪びれた様子もなく言い切る。
普段の何気ない言葉が生徒を傷つけることをこの教師は自覚した方がいい。
俺が登校拒否になったら十中八九この女のせいである。
「まぁそうでもないっすよ」
だが俺は平塚先生の言葉に反論の意を示した。
別にこれは悔し紛れから出た言葉ではない。
ここからが俺の心眼の見せどころである。
なんか自分で心眼いってて恥ずかしくなってきたな。
なにが可笑しい!!やっぱり可笑しいな。
「ほぅ……というと?」
「あいつの交遊関係はまさしく広く浅いんすよ」
そうあいつの交遊関係は広く浅い。
主に上位グループに属してはいるが、それさえも自身のクラスでの位置付けを保っているだけのようなものだ。
言うなれば教室に帰った時の自身の拠り所──『巣』を保持しているだけ。
何故あいつがその程度の交遊関係しか築けないのか、それにはそれ相応の理由がある。
「まぁあいつ学校でナンパしまくってるから、それなりにクラスでは浮いちゃうんすよね、休み時間もナンパのためにクラス中飛び回ってるからクラス内で深い関係もまったくっていうほど築けない」
そうあいつは休憩時間中ほとんど教室にいない。
休憩時間といば学校という狭い社会関係の中で交遊を深める唯一とは言わないが一番の時間であるといっても過言ではないだろう。
弁当の時間なんかで誰と誰がどのカーストに位置付けされているのかなんかがよくわかる。
この結果からもそれが導き出されるひとつの理由といってもいいだろう。
だが櫻木はその交遊を深める機会にもクラスを飛び回っている。
なので櫻木のクラスでの位置付けは浮いてしまっているのだ。
そしてそれだけ目立つ存在であるのに櫻木を知らなかった理由もそれである。
「それなら何故彼はクラスでそれ相応の位置付けを保っていると思う?」
平塚先生は俺を試すかのような言い様で尋ねた。
そう普通なら学校でクラスを飛び回り、ナンパばかりするような浮いたやつは、ある意味で警戒という名の線引きを引かれてしまう。
実際不穏の種とまではいかないが出る杭は打たれると言わんばかりに櫻木幸太には全員が不信感を持っている。
ならなぜあいつはかろうじだとしてもそれなりにクラスで受け入れられるのか?
「それはあいつがそれなりに良い奴だからです」
そうあいつはクラスにとって『有益』なものをもたらす『良い奴』なのである。
「あいつ普段はあんな適当な感じっすけどクラスの委員とか先生がクラス一人に押し付ける頼まれ事とか色々率先してやるんすよね。なんか最近女子を不良から助けたとか噂も聞きましたし」
そうあいつは面倒事を引き受けてくれる『良い奴』──クラスでの都合のいい存在。
クラスで浮いてるから避けたいと思うものの面倒事を引き受けてくれるうえで受け入れざるを得ない。
受け入れないことを良心の呵責が邪魔をする。
そしてクラス全体の良心の呵責が一体となって櫻木幸太を受け入れる空気が形成されているのである。
みんながみんな妙な愛想笑いをその顔に張り付けて──。
「ふむ……それは私も感じていた。あいつは学校の成績も最悪で、授業にも不真面目だが、先生が頼むプリントの回収やらは嫌に積極的でな……責めるに責めにくいと職員室でも話題だよ」
「なんかこの前の先生の態度を見るとそうでもなさそうですけど……」
「私は別だ……私は教師として唯我独尊を貫いているからな」
「そんなんだから独身なんすよ……」
「あぁ?何か言ったか?比企谷?」
「いえ何でもないです」
平塚先生のギラついた双眸が俺の視線を捉える。
俺は恐怖し思わず目をそらし、頬をひきつらせた。
「まぁいい……話を戻すぞ。仮に櫻木がクラスでそういう境遇にあるとして一番の重点はなんだと思う?答えろ比企谷」
平塚先生は気を取り直して俺に質問を投げ掛ける。
平塚先生が俺に投げ掛けた疑問の答え、それは──
「櫻木が故意にそんな交遊関係を築いてるか否かってことですか?」
「そうだ比企谷。仮に櫻木がそのような交遊関係を故意に築いてるとしたら……彼は本質的に君とそう変わらない存在かもしれないな」
いや……俺は故意じゃなく友達できないんすけど……。
ていうか希薄な友人でさえもいないし……。
あれ?なんかまた悲しくなってきた……何回心を涙で濡らしてんだ俺……。
「つうかなんで俺の奉仕部の第一の活動があんな不良の観察なんすか……」
俺は合点のいかない表情でそう尋ねた。
そうである、あいつの人間関係とか、クラスでの立ち回りとか、そんなものを暴いたところでなんの益ももたらさない。
いやもともと奉仕活動にそんなものを求めること自体間違いなのかもしれないが……。
「良いじゃないかあいつはこれから奉仕部として君達と切磋琢磨する
「いや……あいつうちの部に入る気なんてからっきし無さそうだし……つーかあんな奴と仲間とかこっちから願い下げっす」
「はぁ……全くそんな態度だから君はいつまでも友人という存在ができないんだ」
ほっとけ……俺にだって選ぶ権利はある。
そう俺に見合った人間がまだいないからボッチなのである。
そうに違いないのである。
「てかもう部活にいっていいすっか……」
「なんだ?早く奉仕部に行きたいのか?おぉ君も青春のなんたるかを自覚してきたみたいだな」
「違います。自分の身を案じて仕方なく行ってるだけです。言うなれば人間としての防衛本能です」
そうだよ……もとはといえば行かないとあんたが俺に数々の制裁を……あぁ……思い出すだけで身震いが……。
俺の頭で恐怖の映像がフラッシュバックする。それに呼応するよに俺は痙攣するように身震いした。
ヤバいまじでこれ洒落になってない。
不登校になる日も近いんじゃなかろうか……。
「まぁ理由はどうあれ青春の一歩を歩み始めたのだからいいことだ」
平塚先生は煙草を口に加え、一服するとまるで自身に感心するように呟いた。
よくねぇよ!!力による支配で奴隷としての一歩を歩み始めただけだよ!!
この世は弱肉強食を体に叩き込まれただけだよ!!
「む……なんだ?」
すると突然平塚先生が訝しげに呟く。
何故ならば突然faxの機械が動き出したからだ。
「なんだfaxなど受けとる予定があったかな?」
平塚先生は腑に落ちない表情で流れてくる用紙を取り出すそのときだった──。
ガガガガガピーーー───。
職員室が一斉に重高音に包まれる。
職員室中のfaxが順番に、淡々と一斉に動き出したのだ。
その光景は実に奇妙だった。
職員室中のfaxが動き出すなど正気の沙汰ではない。
当然偶然に起こったとは考えにくい。
そしてその光景はまるでなにかの悪意が一斉に動き出すように俺には感じられた。
後日知られることだがこのfaxの内容は学校中の生徒のメールにも送られることになる。
そう──主に櫻木幸太の友人といえる存在だけに、櫻木幸太とメールアドレスを交換したものだけに──その悪意の文面は櫻木幸太が保っていた浅いだけの交遊関係を完全に破壊する──。