やはり俺様の青春ラブコメはまさにパーフェクトである。 作:morikuma
TITLE警告
櫻木幸太はある女の子を死の寸前までおいやりました。
彼は危険です。
近づかないでください。
学校中に『櫻木幸太が女の子を死の寸前にまでおいやった』という内容のメールが校内中で出回ってから3日の月日が流れた。
かといって俺の日常が変わることはない。
俺はいつも通り退屈な休み時間を机に突っ伏して身をひそめるようにやり過ごす。
変わったことといえば――俺の周りの景色、具体的に言うと目の前だ。
俺は気怠そうに腕に乗せている頭を上にあげ前方を見る。
そう目の前には俺と同じように机に突っ伏して休み時間をやり過ごす櫻木幸太がいたのだ。
少し前ならナンパに飛び回っていたチャラい茶髪君が今ではボッチ野郎である。
普段の俺ならこの憐れな状況を嘲笑ってやるところだが、ぶっちゃけ全然笑えない。
というか俺は人の幸福を多少憎むことはあっても、不幸のどん底に落ちろとまでいうような残虐な人間ではない。
そういえるまでに今の櫻木幸太の状況は多少悲惨ではあった。
だがこんな愉快犯――にしては多少やりすぎてはいるが、信じるには裏づけの少なすぎるメールでなぜ櫻木幸太がここまで堕ちてしまったのか――時は3日前に遡る。
『おい、あのメールお前も来たってマジ?』
『俺どころか学校中に届いてるってよ』
『なんかあいつとメアド交換した奴にだけ出回ってるらしいぜ』
『なにそれ?スパムメールってやつ?』
『内容からして若干違くね?』
あのメールが届いてからクラスはその噂でもちきりだった。
格カーストごとでのヒソヒソ声がクラスを陰気な雰囲気に仕立て上げていた。
『つか死の寸前て…殺しかけたってことだろ?マジヤバくね?』
『マジなわけねぇだろそんなん…』
だが当然というべきかその内容を完全に信じる者はいない。
不信感でクラス中が浮足立っているというのが今の現状であった。
だが最上位カーストの方からある声が漏れる。
『でもさ、あいつこの前絡んできたデカい不良とつるんでたっぽいじゃん…』
突如クラスの声が一斉に止まり、閑散とする。
そしてその声にクラス中の注目が集まった。
『ちょ、優美子!あれは結果的に幸太君に助けられたじゃん!』
『ま、まぁそうだけどさ…』
クラスの雰囲気を察して不味いと思ったのか、声の主もその声色を縮まらせた。
だが気づいた時にはもう遅い。
櫻木幸太が『不良とかかわっている』その噂は櫻木に集まる不信感を後押ししてしまうには十分な要因であった。
最後のダメ押しとしてあの内容のメールが、学校中ののFAXで届いたということが知られていないのが不幸中の幸いだろう。
そんなことを俺はこのときも机に突っ伏しながら身を潜め、耳を潜ませ、考えていた。
そのときだった――ガランと乱暴に教室の扉が開かれる。
そこにはこの日に限って堂々と遅刻した櫻木幸太の姿があった。
その刹那にクラス中の視線が一斉に櫻木に集まる。
だが櫻木はそれを全く気に掛けることなく自身の机に座る。
そしてまさかの俺と同じように机に突っ伏し始めたのだ。
俺は櫻木のその行動に違和感を隠しきれなかった。
ふだんのこいつならクラスの視線が集まった時点で、『なんだ俺の美貌にみんな釘付けになっちゃのかな?』とでもチャラけたことを言いだしそうなものだ。
まぁこの事態が櫻木にも伝わっているならそこまでふざけたことを言わないとしても、なぜ弁解もせずに机に突っ伏したのか?
こいつがその噂を気にしてみんなに声もかけられない小心者とも思えない。
そして当然櫻木から何の弁解もなければ、それぞれにある可能性が頭に浮かび上がる。
『弁解することがないということはもしかしてあのメールの内容は本当なんじゃないのか?』という可能性である。
実際俺もこのときその可能性をを頭に思い浮かべていた。
そして3日――櫻木は今もこの状態でだんまりを決め込んでいる。
休み時間に得意のナンパをするわけでも、自分の巣である最上位カーストに募るわけでもなく、ただ、ただ机にはりついているのである。
なんか机にかじりつくなんてカッコいいな、作家みたい。
それを言えば俺も作家みたいでカッコいいな。
決して櫻木を介して俺を美化しているわけではない。
そう、机に突っ伏してる奴ってこんな惨めなんだなぁ…と客観的に見て初めて気づき、櫻木を介して敢えて自分をフォローしたわけでは決してないのである。
「ふぁ~あ」
唐突に櫻木があくびを上げ、欠伸びをすると同時に立ち上がった。
机に身をひそめていた噂の根源が動き出すことでクラスの視線は一斉に櫻木に集まる。
だがそれも一瞬のことで、みな気まずくなったのか一斉に目をそらすことで視線は四散した。
櫻木もその反応をとくに気にすることなく教室を出た。
そして俺も何故か櫻木と同時に教室を出てしまっていた。
何してんだ俺……。
そうだ俺が立ち上がって何をしようというのだ……。
クラスに同じボッチが湧いたから、奇妙な連帯感でも生まれてしまったのか…?
「おい…」
自分のなかで生まれた妙な行動力に疑問を浮かべながらも、俺の口は気づくより先に櫻木を呼び止めていた。
「あぁん?なんだよ?」
櫻木は振り向くと同時に、俺をその恐ろしい双眸で鬱陶しげに睨みつける。
やべぇ…まじでこぇぇよ…なんで俺話しかけたんだろう…。
「い、いや…あのメールの内容まじなの?」
や…やべぇぇぇぇぇ!!なに急に気に障っちゃうこと言ってんの!?
これ殺されるじゃん!!女の子よりも俺が殺されることで櫻木やばいやつになっちゃうじゃん!
「あぁ…まじだけど?」
だが櫻木から帰ってきた答えはあまりにあっさりで、かつそれに似合わないあまりに衝撃的な肯定だった。
その唐突な答えに度肝を抜かれた俺は一瞬地に足が離れるような感覚に襲われる。
そして意識をしっかりと取り戻すときにはその余韻に硬直したままであった。
「な~んてな、びびった?びびった?」
「へ?」
それが冗談だと認識すると同時に俺の強張っていた全身の力が抜けていく。
そしてそんな俺に櫻木は笑顔で駆け寄ると馴れ馴れしく肩をポンポン叩いた。
俺はその櫻木の態度に怒りを通り越し、呆れたように口元をひきつらせる。
ほんとにこいつの存在は心臓に悪い。
てか冷静に考えるとなんかイライラしてきたな……。
「てめぇ…」
俺の中でじわじわとこみ上げる怒りは自然と目の前の不良の恐れを凌駕していた。
そして俺は不機嫌そうに声を上げる。
「冗談だよぉ~そんな怒んなよ比企谷く~ん」
「心臓に悪いんだよ…」
「わりぃつってんじゃん。比企がやがやうるさいなかでもぼっちく~ん」
更に肩を馴れ馴れしく組むことで馴れ馴れしさのレベルを上げ櫻木は絡んでくる。
てかなにてめぇ俺の名前無理矢理にもじってんだ……。クラスがガヤガヤうるさいなかでおれがぼっちな事実は直結しねぇだろうが……。
ほんとにこいつのチャラけた言葉はいちいち人をいらいらさせる。
「てかなんでお前…それが事実じゃねぇなら黙認してんだよ」
そうだ…俺はもともとこれが聞きたくて櫻木を追いかけたのかもしれない。
こんな愉快犯紛いのメールに理不尽にもこいつの人生は狂わせかけられている。
なのにそれを受け入れるようにこいつはクラスから孤立している。
俺の中でその事実が妙な歯がゆさを植えつけていたのかもしれない。
「比企谷、知ってるか?」
「は…はぁ?」
櫻木はみょうに芝居がかった問いかけを俺に投げかける。
その問いかけまず真面目な話をしようとする奴の言葉ではない。
「男はさぁ…クールでちょっとその場から浮いた感じの奴が合コンでモテるんだってよ、バイトの先輩が言ってた」
「ま…まさかそれが理由じゃないよな?」
「馬鹿めぇ!それ以外になんの理由がある!俺にとってもてるということはぁ!ときに自分の身を削ることもいとわないのだ!まさに肉を切らせて骨を断つ!!」
「アホか……」
やっぱこいつただのあほだ……。
骨断つ前に肉削ぎ落とされて丸裸で死にかけてることに気づいてないのか……。
俺は櫻木のあまりにあきれた理由に溜息をこぼし、少し真面目に聞き入った自分を恥じた。
「つかお前どこ行くんだよ……」
「あぁ…平塚先生に呼ばれてんだよ最近俺に対するアプローチがひどくてなぁ…三十路はNOつってんのに」
まじかよ……まぁあの生き遅れてる人ならあり得ない気がしないのが怖い。
まぁ実際はそんなことはなく例のメールの件だろう。
「じゃあ昼休みが終わる前に俺はいくぜ」
「あ…あぁ…」
櫻木はそういって踵を返して手を振り、俺から離れていく。
だがなにかを思い出したように櫻木はまた振り返る。
「つかお前、案外いいやつだな」
それだけを言い残し櫻木は廊下を歩いて行った。
なんか最期に褒めるというテロ行為に俺は若干照れてしまうものの、やはりあいつの剽軽な態度にうまく流された感が否めない。
微妙な納得のいかなさを感じつつ俺も教室のほうに歩を進める。
取り敢えずあいつとの会話で感じ取れたことは――櫻木幸太の真意はやはりわからないということだった。