ありふれた連盟の狩人   作:静岡万歳!

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数ヶ月以上も投稿をせず誠に申し訳ありませんでした、久々の投稿です。


王城にて その2

ハジメは夢をみていた、それは地球で夜中散々見せられているヤーナムの夢だ。

 

 

夜中の大聖堂、彼の眼前にはカイン騎士の兜を被り、烏羽のアイリーンと同じコートを纏った狩人が居た。

 

 

手に持つのはカインハーストの近衛騎士だけが持つ"千景"と"教会の連装銃"、その狩人はハジメを見た瞬間、古狩人の業である"加速"を使って距離を詰めながら千景の刀身を振りかざす。

 

 

ハジメは狩人の攻撃を必死に避け、散弾銃で距離を空けて何とか反撃の隙を伺うも、狩人がそれを赦す筈も無く、距離を空けた瞬間に連装銃で確実に当てて負傷させる。

 

 

距離を空けては撃たれ、詰めては千景で斬られ、暫くはその繰り返しだった。やがて輸血液も使い切ると彼は焦り、ステップで近付いてはノコギリ鉈をひたすら振って狩人を仕留めようとした。

 

 

然し、目の前の狩人はそんな単純で愚鈍な攻撃に狩られる程弱くも無ければ甘くも無く、ハジメがノコギリ鉈を振り切った一瞬の隙を突いて銃撃するとハジメは体勢を崩してしまった。

 

 

そしてそんな体勢を崩して相手に隙を晒した彼に狩人は加速を使って至近距離まで詰めると、銀の手甲を纏った手で彼の腹部を刺し貫いた

 

 

 

 

その瞬間にハジメは夢から覚めた。

 

 

「......チッ」

 

 

ハジメはベッドから起きて舌打ちをする、元の世界で寝る度に散々見せられた悪夢のヤーナムはこのトータスに来てからも未だ健在の様だ。

 

 

彼がみていた夢は厳密にはヤーナム世界では無く、正確には彼自身が寝ていて見ていた唯の夢でしかない。尤もヤーナムに関連してる時点でハジメからしてみれば大して変わらないだろうが。

 

 

(よりにもよってあの"狩人"関連の夢なんか見せやがって......ふざけるなよ本当に)

 

ハジメにとって夢で見たあの狩人は恐怖の対象だった、連装銃からほぼ無限と言っていいくらい放たれてくる水銀弾に手に持った悍ましさを感じるぐらい斬れ味鋭い千景、距離をあっと言う間に詰めてくる加速。

 

 

この三つを全て使いこなし、殺される度に"やり直して"挑んでくる彼を何度殺したか。

 

 

ヤーナム世界では最終的に狩人を仕留める事は出来たものの、結果は辛勝だった。狩人が千景を振り切った瞬間にハジメはエヴェリンで銃撃して体勢を崩させたその瞬間、かつて自分を殺した時と同じように素手で狩人の腹部を刺し貫くと、そのまま腸管を引きずり出して仕留めた。

 

 

その時の事を思い出したハジメは嫌悪感と恐怖心を感じながらベッドから起き、装束へと着替える、次の装束は裾が前後開けられた黒いダブルブレストのコートに黒いズボン、太腿まで覆う革のブーツに、

 

 

ベルトを何重にも巻いた様な姿の腕帯に、コートの上から更にベルトをクロスさせ、そして17、18世紀頃に流行った黒い三角帽を手に取る

 

 

ハジメはヤーナムの狩装束に身を包んでいた、装束に着替えてベッドに少し腰掛けているとドアから2回ノック音がしてから声が聞こえてくる。

 

 

「南雲様、キャロルです。もう起きていらっしゃいますか?でしたら着替えて......」

 

 

「もう着替えてますよ」

 

 

キャロルが言葉を続け様とした瞬間にハジメはドアを開けて彼女に自分の姿を見せる。

 

 

 

「おや、着替えていましたか。では訓練場へと行きましょう、メルド団長と他の使徒様方がお待ちです」

 

 

キャロルにそう言われたハジメはノコギリ鉈を腰に掛けると、部屋を出た。扉を閉めて廊下に出るとそこにはキャロルしか居らず、ヘンリックが居ない事に気がつく。

 

 

「......ヘンリックは何方に?」

 

 

「ああ、あの黄衣の方ですか、あのお方は先に騎士団長と共に訓練場へと向かっていますので」

 

 

(メルド団長と一緒に......?訓練の件で何かしら話すのか?)

 

 

「分かりました、では一緒に行きましょうか、キャロルさん」

 

 

ハジメはそう彼女に返すとキャロルと共に訓練場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

訓練場

 

 

訓練場にはメルドとヘンリック、光輝を筆頭とした使徒の集団が各々武器を持って並んでいた。

 

 

「メルド団長、南雲様をお連れしました」

 

 

「来たか、すまないなキャロル、使いの様な真似をさせてしまった」

 

 

「私は使徒様の世話係ですから、これぐらい当然です。では職務があるので失礼致します」

 

 

彼女はメルドにそう言うと踵を返して訓練場を後にしていった、メルドは彼女の後ろ姿をしばらく見ていたが、やがてハジメへと顔を向ける

 

 

「さてと、坊主、来て早々早速ですまないが、お前にはこれを渡そう」

 

 

メルドはハジメに銀の小型のプレートを渡した、ハジメはメルドから渡されたプレートをまじまじと見るも、これがどういう物なのか分からず、聞く。

 

 

「何ですか?このちっさいプレートみたいな物」

 

 

ハジメは彼にそう聞くと、メルドはこう返す。

 

 

「このプレートはステータスプレートと呼ばれている。名前の通り、自分の客観的なステータスを数値化して表す物だ」

 

 

「ス、ステータス?待ってくださいロギンスさんステータスって何ですか」

 

 

ハジメはいきなりRPGゲームのキャラクターが喋る台詞の様な事を言い出したメルドに困惑し、質問をするがメルドは構わず続ける。

 

 

「ステータスプレートはこの世界で最も重要で、尚且つ信頼されている身分証明書としての側面もある、最悪迷子になってもこれさあれば何とかなるが......失くしたらかなり面倒な事になる、落とすなよ?」

 

 

「は、はぁ......」

 

 

(ステータスプレートねぇ.......身分証明書としての価値もあって、ステータスを数値化する物か......これじゃまるでゲームみたいじゃないか)

 

 

ハジメは困惑しながらもメルドの説明を受けてステータスプレートがこの世界ではどういう物なのか理解した。

 

 

「ああそうだ、すまないが坊主、プレートの上で血を一滴程垂らしてくれないか?それでその後に"ステータスオープン"と言ってくれ、坊主のステータスがわかる筈だ」

 

 

メルドがハジメにそういうと針を手渡す、これで指を刺して血を垂らせという事だろう。

 

 

メルドに言われるがままに針を指に刺し、微かな痛みを感じながら彼はプレートに血を垂らす。

 

 

「ステータス、オープン」

 

 

そう言うとプレートからは文字が浮かび上がり始め、文字列を形成していき、やがてメルドの言う"ステータス"が出来上がる。

 

 

 

 

 

 

南雲ハジメ 17歳 レベル:1

 

 

天職: 錬成師/狩人

 

啓蒙 15

 

体力:10

 

俊敏:10

 

筋力:25

 

技術:28

 

?質:18

 

??:15

 

魔力:10

 

魔耐 10

 

 

技能:錬成・言語理解/狩人の?・???文字/???文字・淀み、右回りの変態、左回りの変態、???の蠢き/リゲイン/共鳴の鐘/灯り・墓石

 

 

「......何だこりゃ」

 

 

まるでゲームの画面の様な物を写したステータスプレートにハジメは不思議な顔をする、ゲームをする時には何度も見る機会は有ったが、いざこうして現物を前にするのは"初めて"なのだ。

 

 

「ん?出たみたいだな、なら渡してくれないか?」

 

 

「ええ」

 

 

ハジメはメルドに言われるがままにステータスプレートを渡し、プレートを見たメルドは先ほどの彼と同じ様な顔をする。

 

 

「天職が二つ.....?一つは錬成師で、もう一つは狩人?それに表示されていない部分も技能もいまいち良くわからんな、坊主は何か知ってるか?」

 

 

「その前に聞きたいんですがメルドさん、天職って何なんです?それにこのレベルって奴も」

 

 

「おおスマン、説明をし忘れていたな」

 

 

そこからメルドは彼にステータスプレートの天職とレベルの概念を説明した、"天職"とは言わば"才能"だ、末尾にある"技能"と連動しており、その天職の領分において無類の才を発揮する。

 

 

また天職持ちは少なく、戦闘系天職と非戦系天職に分類され、戦闘系は千人に一人、ものによっては万人に一人の割合との事。

 

 

非戦系も少ないと言えば少ない物、百人に一人、または十人に一人という珍しくない割合であるらしい。

 

 

結論を言えばこの世界、"トータス"において生産職と言うのは"ありふれた職業"らしい。

 

 

因みにレベルと言うのは1の時点でステータスの平均は10の様で、ハジメはこの世界では平均よりほんの少し強い存在の様だ。

 

 

(つくづくゲーム染みてるなぁ......まさかプレートの何処に体力バーやらMPゲージとかは無いだろうな?)

 

 

「メルドさぁんッ!南雲の天職って何スカぁ?」

 

 

ハジメがそう思っていると、突如使徒達の方から声が響く、彼が声のした方へ向くとそこには檜山が下卑た笑みでニヤケていた。

 

 

ハジメは檜山が何をしようとしているのか概ね予想出来る。

 

 

「坊主の天職は......錬成師と狩人だな」

 

 

「その二つって強いんすかぁ?」

 

 

「いや、錬成師とは鍛治師.......言わば生産職だな、鍛治するには便利なんだが......狩人は......分からん、恐らくは魔物の関連なんだろうが......」

 

 

メルドは何処か歯切れ悪く説明し、それを聞いた檜山は下卑た笑みを更に強くさせながら突然噴き出した。

 

 

「っ、ぷははッ!おい聞けよみんなぁッ!南雲の奴、昨日あれだけイキっておいてステータスは俺たち以下なんだってよ!笑えるよなぁ!」

 

 

檜山がそう言うと、彼を筆頭に近藤、斎藤と言った友人や元々彼を快く思っていなかった男子たちが便乗する様に笑うが、一部の男子たちは笑わずにその場で俯いた。

 

 

昨日の恩を忘れて嘲り笑う彼等と違って、窮地に陥った醜態を晒した自分達を救い、その挙句誰かに意図的に誤射されたハジメを嗤う等到底出来なかった。

 

 

それどころか、檜山達と便乗した男子たちを心底軽蔑した様な目で見ている。それは女子達も同じ様だ、ハジメに直接助けられた優花や香織は睨み付け、雫からは軽蔑の目で見られているのに檜山はそれにすら気付いていない。

 

 

檜山達に馬鹿にされてるハジメだが、当の本人はメルドの説明を聞いて寧ろ己の天職に興味を持っていた。

 

 

 

(武器の鍛治が出来るのか、となると頑張れば現場で武器の修理とか出来るかな?)

 

 

(狩人が天職なのはクソ喰らえだけど、壊れかけてからいちいち持ち替えるのが面倒だったしなぁ......それ考えたら夢に戻って直すよりその場で武器を直せるって考えれば得にはなるな)

 

 

メルドは戦闘に向くとは考え辛いと思っていたから歯切れ悪くしていたが、当のハジメからしてみれば戦闘前後で武器の修理や整備が可能という点で見ており、互いの認識に大きく差があった。

 

 

「ステータスプレートの件は一旦終わらせるとして、おいお前達!いつまでも坊主のステータスで笑ってるんじゃない!次は"ヘンリック"が話すんだ!みっともない真似は今すぐ止めろ!」

 

 

「メルドさんの言うとおりだ、南雲だって好き好んでそんな天職を得たわけじゃない、大事な"仲間"を笑うなんて駄目だろう?」

 

 

「へへへ、スイマセン......」

 

 

教官のメルドとリーダーの光輝にそう言われて、檜山は媚びた笑みを浮かべながらハジメの侮辱を止めた。

 

 

「ではヘンリック、お願いします」

 

 

「すまないな、ロギンス君」

 

 

メルドにそう言われてヘンリックは前に出て、使徒達の顔に緊張が走る。

 

 

「使徒の少年少女諸君!私の名前はヘンリック、今日から諸君ら使徒の教導を担当する事になった、以後よろしくな」

 

 

ヘンリックは人の良さそうな笑みを浮かべてそう言った事で、使徒達の顔からは緊張が解けた様だった。

 

 

「ああそうだ、この中にヒヤマダイスケという奴はいないか?居たら前に出て欲しい」

 

 

彼にそう言われると、使徒達の中から檜山が前に出てくる。

 

 

「オ、オレが檜山っスけれど......な、なんか用スカ」

 

 

檜山は媚びた薄ら笑いを浮かべてヘンリックに話しかけ、ヘンリックは檜山にこう返した。

 

 

「服を脱げ、ああ上だけだぞ」

 

 

「へっ?」

 

 

ヘンリックにいきなり突拍子も無い事を言われた檜山は目が点になってしまうが、言った本人の圧力もあって止むを得ず上着とインナーを脱ぐ。

 

 

特に顔が良い訳でも無い男の誰も得のしないストリップが始まり、使徒の男子達はヒソヒソと話しだし、女子は顔を赤くしたり目を瞑ったりしている。

 

 

「あ、あのぉ.......ヘンリック、さん、脱いだんですけど次は何をしたらいいんですかねぇ......?」

 

 

「そうだな、次は背中を私に見せろ」

 

 

「へ、へぇ」

 

 

檜山は背中をヘンリックに向けると小声で「こいつホモかよ」と、小声で貶す。

 

 

ヘンリックは檜山の背中を見て、腰に掛けていた鞭を取ると次の瞬間、上半身裸の檜山の背中に鞭を思い切り叩きつけた。

 

 

「ぎゃあぁあああああッッッ!!?」

 

 

檜山は突如身体に襲い掛かった痛みに悲鳴をあげながら倒れ込む、背中には鞭で思い切り叩かれた事によって裂傷が出来ており、血が滲んででいた。

 

 

それを見た使徒達から悲鳴が上がる、メルドと光輝はヘンリックの行動に驚愕し、ハジメは傍観していた。

 

 

「ヘンリック殿⁉︎いったい何をッ⁉︎」

 

 

「ヘンリックさん!やめてください!」

 

 

メルドと光輝の2人ヘンリックに止める様言うが、彼は止める事をせず、もう一発鞭を檜山の背中には叩き込む。

 

 

「あぎゃあぁあああああッッッ!!!」

 

 

鞭を思い切り二発もう打ち込まれた事によって、遂に檜山の背中の箇所は皮膚と肉が裂け、骨が見え始めると使徒達の中から恐怖で涙する者や顔を青褪める者も出て来た。

 

 

ヘンリックの顔には先程見せた人の良い笑み等存在せず、あるのは冷徹な顔だ。

 

 

そして彼がもう一発打ち込もうとしたその瞬間、

 

 

「やめろぉぉぉぉッッッ!!!」

 

 

「光輝ッ⁉︎よせ!」

 

 

光輝がこれ以上の蛮行を止めさせようと聖剣を抜いてヘンリックの元に走り、メルドはやめさせようとしたがそれも間に合わなかった。

 

 

「なっ⁉︎」

 

 

ハジメが割って入る様に、ヘンリックと光輝の2人の間に仕掛けを機動させたノコギリ鉈を思い切り叩き込む。

 

 

「南雲......?いったい、いつの間に......」

 

 

光輝の問いにハジメは何も答える事は無く、ヘンリックに首を向けて話しかける。

 

 

「もう良いでしょうよヘンリック、貴方の腕力でこれ以上檜山の背中を叩き続けたら身体が斜めに真っ二つになりかねない。せっかく立場も貰ったのに使徒の1人を死なせたら不味い事になりますよ、色々と」

 

 

「......それもそうだな、"罰"はもう充分か」

 

 

ハジメにそう言われると彼は鞭を輪っか状に纏めると、それを腰に掛け、痛みに喘ぐ檜山と呆然とした様子のメルド光輝を差し置いて再び使徒達へ向き直る。

 

 

「先程、私がヒヤマダイスケにやった事は"罰"だ、諸君らを命の危機に晒しておきながら、"謝ったから許す"等という戯言で赦されてから今の今まで反省の色が見れなかったのでね」

 

 

ヘンリックは淡々とした様子でそう彼等に話すと、中から彼に反発する者が現れる。それは光輝だ。

 

 

「罰だって......⁉︎ふざけないでください!檜山はみんなの目の前で俺に土下座してまで謝ったんですよ!それを反省の色が無いだなんてよくもそんな......!」

 

 

「本当に反省していると言うのなら、先程のナグモのステータスとやらで嘲り笑う事なんかしないものだがね。その土下座とやらは反省のポーズだったんじゃないのか?」

 

 

憤慨する光輝にヘンリックはそう返すと、今度はメルドが彼に話しかけてくる、顔には微かな怒りを浮かべて。

 

 

「ヘンリック殿、確かに私は......私は大介に何かしらの罰を与える事には賛同しました。しかし......これは流石にあんまりではないですか!大介もまだ子供「子供だからなんだね?」っ......」

 

 

「子供だから大目に見てやる事が大事だとでも?女だろうが子供だろうが、武器を取って戦えばそれは立派な"戦士"なのだよ、何かをやらかせばそれ相応な罰は与えてやるべきだ」

 

 

「それにメルド、今回私が鞭を打つ事になったのは君にも責任があると言う事は忘れないで欲しい物だな?元はと言えば君が彼等を甘やかす様な真似をしたからあの事態が引き起こされたんじゃないのか?」

 

 

メルドのやや"甘い"と言える発言にヘンリックが言い返すと、彼は思う事があったのかヘンリックにそれ以上何も言い出せなくなった。

 

 

「さて、私が教官役に抜擢された以上、これから大きな失態を犯した場合のみ、先程のヒヤマダイスケと同じ様に鞭打ちによる罰を与える!男子は二回、女子は一回だ!」

 

 

ヘンリックが使徒達にそう宣言すると、彼に反発する声が出始める。

 

 

「ふざけんな!骨が見えるまでやるなんてあんまりじゃねーか!」

 

 

「そうですよ!騎士団の人達だってあそこ迄はしませんでした!」

 

 

そんな声に、ヘンリックは冷淡にこう返した。

 

 

「それが騎士団のやり方だったと言う事だ、私が教官職に就いた以上、私の教えには従って貰うだけの事だ」

 

 

「ああそれと、メルドと騎士団は教えを辞める事は無いから安心するといい、彼等にはこれからも教官役を続けて貰うからな」

 

 

それを聞いた彼等もホッとした顔をするがそれでも油断は出来ない、何せ相手は檜山を鞭打ちした相手だ、下手な真似をすれば彼と同じ目に遭わせられる。

 

 

「シラサキカオリ!」

 

 

「は、はい!」

 

 

「前にでろ」

 

 

そんな時、ヘンリックが香織の名前を呼ぶ。呼ばれた彼女は強張った顔で返事をすると周りの生徒達が心配そうにし出す。

 

 

何せ香織は二大女神の片割れ、行けば先程の檜山と同じ様に"見せしめ"でやられる可能性があったからだ。

 

 

そんな香織を見た雫は彼女を庇おうとヘンリックに話しかける。

 

 

「あ、あの!香織では無く私を」

 

 

「お前は呼んでいない、シラサキカオリに出ろと言ってるんだ」

 

 

「ッ......」

 

 

ヘンリックがやや睨みつける様な目で雫を見ると、彼女は怯んだ様子で黙ってしまった。

 

 

「早く出ろ、別にお前を鞭で打ちはしないし傷も付けない、ただこいつを治して貰いたいだけだ」

 

 

彼が顎を未だに痛みで呻く檜山へと向けると、彼女はハッとした顔で駆け寄ると"回天"で与えられた傷を癒し、完全に治癒される。

 

 

「ほぉ......見事な物だな、骨まで見えていた傷をこうも治すとは、実に素晴らしい腕だ」

 

 

「あ、ありがとうございます......」

 

 

彼に褒められた香織は恐怖で引き攣った笑みで返した。

 

 

「さて、早速だが訓練を始めるとするか......おい、いつまで突っ伏してるつもりだ?傷は治ったんだからさっさと服を着て戻れ」

 

 

「は、はぃぃ......」

 

 

倒れる檜山にヘンリックはそう言うと、彼は情けない声をあげながら返答して服を着だす。

 

 

(このクソジジイ......ッ!いつかぶっ殺してやるからなぁッ!)

 

 

心に殺意を宿らせながら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘンリックが先程の様な行動を取ったのは訳があった、それは聖職者の獣の戦いの時もそうだが、彼等の殆ど武器を取った理由と"戦後の処理"の仕方に心底呆れてしまったからだ。

 

 

それは使徒を集める前に時間を遡らせる

 

 

「はぁ......まったく、殆どの戦いに参加した理由がアマノガワ達が参加したからだとはなぁ......その癖身近に居る大人の声に耳を貸さずに参加した挙句」

 

 

「あの様な事態を引き起こした元凶をアマノガワが赦したから自分達も赦すとは、従順と言えばいいか隷属してると言えばいいのか......」

 

 

「申し訳ない......ッ!」

 

 

「これに関してはお前が謝る事じゃ無いだろうよ」

 

 

騎士団の宿舎にてヘンリックはメルドから使徒達の"事情"を聞いていた、当初は彼等を憐れんでいた彼ではいたが、事情や行動を耳にしてからはそれも薄れていった。

 

 

「そのうえナグモを撃った犯人を探しもしない、誰も異をとなえない、アマノガワに歯向いもしない、使徒達(あの連中)の男共は去勢でもされたのか?」

 

 

「犯人探しについては私もどうかと思っています、探して何かしらの罰則を与えるべきだと上には進言したのですが......」

 

 

「なるほど、その上が犯人探しを許可しないと」

 

 

どうやら王国の上層部も犯人探しには消極的らしく、メルド達騎士団もこれに関しては余り動けない様だ。

 

 

「誤射の犯人は一先ずおいて置くとして、問題は檜山大介の件ですが」

 

 

「ああ、ヒヤマダイスケか、奴については私が罰を与えてやる事にするさ、安心しろ」

 

 

ヘンリックがメルドにそう言って、メルドは何処か彼に不安を覚えながらも檜山に罰を与える事に了承した、それが二回も鞭を打つ事だと思わず

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ走れ走れ!私が終わりと言うまで休む事は許さんぞ!」

 

 

ハジメ以外の使徒達は男女問わず訓練場の外周を走らされていた、それも前衛後衛問わず。

 

 

ヘンリックが言うにはモンスターに襲われ、撤退する際のスタミナ強化が目的だそうだ。

 

 

当初は光輝が口答えして訓練内容の変更を求めたが、迷宮での一件を指摘されて更に鞭で地面を叩いて強制的に従わせた。

 

 

「はぁッ!はぁッ!もう、ダメ......ッ!」

 

 

そんな時、鈴が走り疲れてしまったのか、一度立ち止まってそのまま座り込んでしまった。

 

 

「誰が休んで良いと言ったんだ?」

 

 

「ヒッ⁉︎」

 

 

鈴の背後から男の声が聞こえ、彼女が振り返るとそこにはヘンリックが鈴を見下ろす様に立っていた。

 

 

「あ、へ、ヘンリックさん...」

 

 

鈴が声を震わせながら彼の名前を言うと、ヘンリックは彼女にこう言い放つ。

 

 

「誰が休んで良いと言ったんだ?タニグチ、私は休息など許可して等いない、私が良いと言うまで走り続けろと言ったが?」

 

 

「で、でも!もうクタクタで...だから」

 

 

「そうです!鈴に少しだけ休みを」

 

 

恵理が鈴と一緒にそう伝え様としたその瞬間、ヘンリックの眼光は鋭くなった。

 

 

「だから何だ?君達はモンスターに追われている最中に疲れたから途中で休み、追いつかれたら相手に疲れたから待ってくれとでも言うのかね?」

 

 

恵理はヘンリックに休息を与えてほしいと訴えるが、彼はそれを拒否した。ただでさえ疲労しているこの状態で、目の前に居る黄色の装束の男に鋭い目つきで此方を見られている鈴の眼には涙が浮かび始める。

 

 

「う、うう...」

 

 

「泣き出す暇があるんだったらさっさと立って走りたまえ、君が赤子の様に泣き喚いた所で私は同じ事しか言わんよ」

 

 

怒鳴られこそしないが人間味を感じさせずにただ淡々と、冷徹に事を伝えるその姿はある種の機械の様に見えて彼女はヘンリックに萎縮してしまう。

 

 

 

 

ヘンリックとメルドは同じ教官役を与えられているが、2人のスタンスはかなり異なる。

 

 

メルドは使徒達全員に優しく、時に厳しく接してから褒めて伸ばす方針に対し、ヘンリックのスタンスは徹底的なスパルタだ。

 

 

使徒が泣こうが喚こうが訓練を決して中止せず、文句を吐こうものなら無理矢理でも黙らせる、それが例え少年少女であろうと。

 

 

使徒達にとって、メルドが頼れる兄貴分であるのならヘンリックは恐怖の鬼教官だった。

 

 

 

この2人のスタンスについては実を言うとあらかじめ決められていた、2人の役目は言わば飴と鞭、人参と棒だ。

 

 

メルドが飴を与え、ヘンリックが締め付ける。当初の褒め伸ばす方針とは打って変わったこのやり方で2人は使徒達の新たな団結を目指す事にしたのだ。

 

 

 

 

 

「ッ!ヘンリックさん!少しは鈴を休ませてあげてください!鈴だって女の子なんですよ!」

 

 

「ああ、タニグチスズは女の子だ、それも可愛いらしい小柄な少女だ、だからこそモンスターは真っ先に狙うだろうなぁ......こんなか弱い少女の身体に鋭い牙の付いた大口で食らいついてグチャグチャに噛み砕くだろうよ」

 

 

その様を想像した鈴は顔を青褪め、光輝は"か弱い女の子"を怯えさせたヘンリックを睨み付ける。

 

 

「なんだその目は、不満があるなら言ってみろ」

 

 

「なら言わせていただきます!大体何で後衛の恵理や鈴、香織や辻さんまで参加させる必要があるんですか!それに南雲だけが参加しないなんて納得がいきません!」

 

 

光輝の今更と言う言葉にヘンリックは深い溜め息を吐くと、出来の悪い子共を見る様な目でもう一度説明する。

 

 

「はぁ......君は昨日の事をもう忘れたのか?ナグモの件はもう決まった事だ、それに後衛の人間達も走らせるのはモンスターの襲撃からの撤退を想定してと」

 

 

「俺が居るから大丈夫です、それに次からはあんな事は」

 

 

 

そこからは論争が始まった、ハジメだけが特別扱いを受けてそれを快く思わない者達と光輝が彼を貶し、優花や香織がそれに激昂し、雫が2人と光輝を必死に宥める光景ができた。

 

 

昨日と同じ様な光景になった事にメルドは片手を額に乗せて天を見上げ、ヘンリックは両手を腰に当てて深い溜め息を吐いた。

 

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

(何やってんだあいつら......また同じことやってるよ)

 

 

そんな貶されているハジメは光輝達に呆れの視線を送っていた、手には筆と木の板に乗せられたクラスメイト達の名簿を持ちながら。

 

 

名簿にはそれぞれの名前の隣に○、△、×と成績表の様に書かれている。

 

 

それが何を意味するかは今のところ、まだわからない。

 

 

 

 




SEKIRO要素は次回に必ずお出ししますので是非お待ちを

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