世界が壊れても明日は来る   作:霧ケ峰リョク

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以前GA文庫に応募した作品です。
昔の作品ですので何を考えてこんな事を考えたのかは分かりませんが、当時は色々とあったのでこんな話を書いたんだと思います。


プロローグ

 

「うーん。今日も良い天気だ」

 

 学校の屋上で満天の青空の下、僕こと藤原柘榴は背筋を伸ばす。

 少しだけ肌寒い朝の頃、この陽山学園に入学して一年が経過しただろうか。

 この屋上から見渡せる景色は少々見慣れてしまったと言う他無い。

 本当に見慣れた景色だ、見慣れた景色になってしまった。

 

「…………本当、良い天気だよ」

「ちょっと柘榴さん? 一人でサボってないでちゃんと手伝ってくださいな!」

 

 一人朝っぱらからフェンスに身体を傾けて黄昏ているとツインテールの少女、竜胆西瓜がその手に持っているハツカダイコンを僕の方に突き付けていた。

 怒っているのか若干口調を荒げており、僕に詰め寄って来る。

 竜胆西瓜とは幼い頃から同じクラスの所詮腐れ縁と言う奴だった。家が隣同士だった為に付き合いが出来ただけで、決して幼馴染と呼べる間柄では無いだろう。

 仲は悪いようで悪く無い、だけど決して良いかと言われればそこまで良いとは言えない、そんな関係だった。

 

「全く、これだから柘榴さんから目を離せないんですよ。マイペースなのは良いとしてももうちょっと手を動かさないと駄目なんですよ?」

「ま、まぁまぁ落ち着いて西瓜…………柘榴はちょっと休憩しているだけだからさ」

 

 怒っている西瓜を諫めるのは金髪の少女、メーレ・フェレスタである。

 メーレはイタリア出身で僕と西瓜が一年の頃に留学生としてやって来たのだ。

 日本に来る前は教会でシスター見習いをやっていたとかで、首からは十字架を下げている。

 留学初日にメーレの日本での学校生活のサポートをしたのが切欠になり、腐れ縁だった僕等の中にもう一人メンバーが追加された。級友達からは「二人組から仲良し三人組になった」と言われたこともあった。

 今では懐かしく、とても良き思い出だ。

 

「ま、まぁ…………メーレさんがそこまで言うのならやめてあげても良いですよ?」

 

 メーレからの制止を受けて西瓜は顔を背けながらそう呟く。

 ちなみに西瓜は極度の男嫌いで女の子が大好きな所詮百合っ子である。

 幼馴染の僕に対してはそれ程酷く無いが他の男に対してはあまり良い顔をしない。それでもサボっていたことで罵倒しないのだからマシな方かもしれないが。

 

「ごめん、ちょっと考え事していた」

 

 視線を西瓜とメーレ、二人の方に向けて謝罪する。

 

「考え事、ですか…………まぁ、黄昏ていた理由もなんとなく察しがつきますが、一応聞いておきましょう」

「別に大したことじゃない。ただ、あれから3ヶ月も経ったんだなぁって思ってた」

 

 その言葉を言った瞬間、二人の顔色が変わる。

 西瓜は憂いを帯びた顔になり、メーレは僅かにだが恐怖に震え首から下げている十字架を握りしめる。

 僕は視線を二人から街中の方に向ける。

 

 そこには地獄としか言えない世界があった。

 

 街中にある家々やビルなどといった建物の中には崩壊した物が存在し、中には完全に骨組みしか残っていないような残骸もある。

 しかし、それだけじゃない。それだけだったならまだ天国だっただろう。

 道路、校庭、グラウンドにはボロボロの上に血で汚れた服を纏った亡者達が徘徊していた。

 顔に生気は無く、真っ青な顔色に加え焦点が合っていない血走った瞳、とても人間の物とは思えないような叫びを上げて彷徨いている。中には全身が傷だらけで動くことが出来ないようなモノも居る。

 その内の何体かは僕達が居ることに気が付いているのか、校舎の中に入ろうと閉じてある扉に体当たりをするのも居る。

 正に地獄絵図、B級のホラーパニック映画が現実になったような存在がそこらかしこに居た。

 

「こんな世界になっても、意外と変わらないものもあるんだね」

 

 三ヶ月前のあの日、あの時、全ての日常が非日常に変わり、非日常が日常に変わってしまった。

 何が切欠かは不明だが、突如として一人の人間が亡者にへと変貌してしまい、まるで肉食動物の如く他の人間を次々と襲撃したのが始まりだった。

 次々と人間が亡者に変貌してしまい、感染拡大しあっと言う間に今の文明は崩壊した。

 生態系の頂点は人類から亡者に移り変わり、日に日に数を増していく。人は互いの主張同士をぶつけあい、僅かな資源を求めて互いに命をかけた殺し合いを繰り広げている。

 しかし、だからといって今現在残っているであろう人類の全てが最前線で亡者共と生存を賭けた闘争を繰り広げていたり、自分が良い目を見る為に他の人間を蹴落としているかと聞かれればそう言うわけでは無く、大半が難民生活を送っていることだろう。

 そしてそれは僕達も同じである。この陽山学園に取り残された三人だけの生き残りなのだ。

 

「そう、ですわね。もう、あの亡者共が出現してから三ヶ月も経っているんですものね」

「私達…………いつまでここで暮らせば良いのかな? そもそも、ちゃんと生き残れるのかな?」

 

 二人も僕の発言に同意し、同じように黄昏た表情で校庭に視線を向ける。

 校庭ではここの生徒だったのか、陽山学園の制服と思わしき布切れを纏った生徒達だった亡者が徘徊していた。それ以外にもそんなに数は多くないがスーツを着た男達も何人か存在している。

 今はもう取り戻せない、三ヶ月前までのの日々を繰り返しているのだろうか。

 だとしたら本当に可哀想だと思う。彼等の日常はもう取り戻せない。

 亡者となったモノを元の人間に戻す方法があったとして、あそこまで損壊していたならば決して元の生活に戻る事は不可能だろう。

 

「さぁ、ね。でも一つだけ言えることがあるよ」

 

 近くにあったキュウリを採取して口に運ぶ。

 パキッと心地の良い快音と共に新鮮なキュウリの味が口の中いっぱいに広がる。

 

「きみたちみたいなゴリラはサバンナだろうがアマゾンだろうが生き残れるよ、この僕が保証する」

 

 僕がそう言った瞬間、僕の顔目掛けて拳が振り貫かれた。

 偶然にも顔を横に逸らしたことで回避することが出来たものの、かすったのか頬が擦り切れたかのように痛かった。

 軽く痛い箇所を撫でてみる。ぬらりとした液体が出ていた。

 

「あのー、私達、仮にも女の子なんですのよ? 理解できます?」

 

 額に青筋が浮かんだ西瓜がさっき振り抜いたであろう拳を構えていた。

 

「うん。女の子(アマゾネス)だって分かってるよ」

「聞こえてんですのよ。誰がアマゾネスですか」

「ゆー」

 

 西瓜の問いに僕を二人を指す。

 瞬間、ドロリとした濃厚な殺意が屋上に満ち溢れた。

 もし殺意と言うものが液体だったなら今頃は洪水になって溢れていただろう。

 

「あ、あははは…………面白い冗談を言うね」

 

 怒りと殺意を露わにする西瓜に対しメーレの方は口の端を引くつかせていながらも、怒ってはいなかった。

 元より大人しい気性のメーレである為、このぐらいでは怒らない。そもそもとして怒った所を見たことが無いのだが。

 

「だけどさ柘榴。女の子にアマゾネスって言うのは失礼だよ。私達は誰もが羨む花の女子高生なんだからさ」

 ニコニコと微笑みながらそう語るメーレ。

 確かに、顔や体形だけなら花の女子高生と言う表現が似合っているだろう。

 

「花の女子高生が腕相撲で僕の腕を圧し折ったりなんてすると思う?」

「すみませんアマゾネスでした」

 

 僕の言葉にメーレはすぐさま頭を下げて謝罪した。

 大人しいからといって、彼女の膂力は男子高校生の腕をいとも容易く圧し折れるぐらいに怪力であることは変わらないのだ。

 

「全く、女々しいったらありゃしないですわね。男の子なんでしょう? 女の子の失敗は笑って受け入れるものじゃないんですの?」

 

 自身の髪の毛を手で払いながら西瓜がそう呟く。

 

「全く、細かいことばっかり気にして、本当に男の子――――ああ、ゴメンあそばせ」

 

 西瓜は僕に向かって謝罪をし、懐から取り出した鏡を見せて来る。

 鏡には白髪のウェーブがかかった長髪の少女が映っていた。

 ゆるふわウェーブとでも言うべきか、羽毛や羊毛を連想させるような白い髪の毛はふわふわとした感触をしていた。触ったらきっと柔らかいだろう。

 顔立ちの方も整っている上に小顔で、眼も大きくぱっちりと開いている。

 目の色はとても珍しい緑色で、誰もが振り向くであろう八重歯が特徴的な美少女だった。

 

 それが自分の顔でさえ無ければ、自信を持って美少女と言えただろうに。

 

「その外見じゃ男だって分からないですわよねぇ」

 

 憎たらしい笑みを浮かべ、西瓜は口元に手を当てながら「プークスクス」と嘲笑う。

 その仕草を可愛いと一瞬だけ思うがそれ以上に怒りが沸き上がって来る。

 

「おまっ、人が気にしていることをよくもまぁぺらぺらと話せるよなぁ…………!」

「おやまぁ…………それは悪かったですわねぇ。でもまぁ、仕方が無いですわよねぇ。女の子にしか見えない上に私達よりも背が小さいんですもの。女々しくてもしょうがないですわね」

 

 怒りを露わにする僕に対し西瓜は笑いながら僕の頭を撫でて来る。

 さっきからこの女は人が嫌がることばっかりしてきやがって、だったらお前も思い知るが良い。

 されたら嫌なことをされるとどんな気分になるのかを――――。

 

「相変わらず性格が悪いよねぇ。そんなだから寸胴なんだよ」

「てめぇ誰が寸胴ですかぁあああああああ!!」

 

 僕の一言に西瓜は怒りで我を忘れ、僕の頭にアイアンクローを仕掛けてきた。

 頭蓋が割れるかの如き激痛が走り、苦痛から逃れようと悲鳴を上げる。

 

「いぎゃぁぁぁああああああ!!? いたっ、マジで痛い!! やめろ離せ西瓜ァ!!」

「誰が離すものですかぁ!! このまま名前の通りにザクロのようにしてやりましょうかねぇ!! いいえ、いっそのこと去勢して本当の意味で女の子になってもらうとしましょうか!!」

「ちょっ、本当に止めろぉ! 服に手を掛けるな脱がそうとするなぁ!!」

 

 アイアンクローを仕掛けながら器用に服に手を掛けて脱がそうとしてくる西瓜に、僕は必死で抵抗する。

 そんな時だった。僕達の頭に拳骨が振り下ろされたのは。

 

「いい加減にしなさい!!」

 

 振り下ろされた拳骨は僕と西瓜の頭頂部に直撃し、そこから鋭くも鈍い痛みが全身を支配する。

 あまりの痛みに僕と西瓜は声にならない悲鳴を上げながら悶え苦しむ。

 拳骨を振り下ろした張本人、メーレは「やれやれ」と言わんばかりに顔を横に振っていた。

 

「二人とも、喧嘩している場合じゃないでしょ? まだやらなきゃいけないこと、あるよね?」

「は、はい…………申し訳ございません」

「な、何で僕まで…………」

「喧嘩両成敗、だよ! ほらっ、二人ともさっさと立って! 手加減したからすぐに立てるはずだよ?」

 

 メーレの手加減は常人にとっては過剰攻撃力だよ、そう言いたくなるのを我慢して立ち上がる。

 恐らく西瓜の方も同じことを、考えてはいないだろう。多分女の子からの痛みは西瓜にとってご褒美の筈だ。

 そう考えていると西瓜は血走った眼で此方を見ていた。

 どうやら違うらしい。流石に痛みを快楽に変換できるほど変態ではなかったようだ。

 

「ようし、それじゃあ収穫の続きをやっていこう! ほらほら、二人も声を上げて!」

「お、おー…………後で覚えていろ寸胴」

「おー、ですわ…………絶対に去勢してやりますわよクソチビ」

「喧嘩しない!!」

「「へちまっ!?」」

 

 再び振り下ろされた拳骨に再び意識を闇に沈められる。

 世界は確かに崩壊した、人類は亡者に敗北し人々から秩序が失われた。

 だがそんな世界になっても変わらないものは存在する。

 傍から見れば現実逃避とも見えるかもしれないし、閉じこもってゾンビの脅威から隠れているだけなのかもしれないが、これだけは間違いないと言えるだろう。

 

 世界が終わっても僕達の日常は続いている、それが砂上の楼閣だったとしても――――。

 

   +++

 

 今から二ヶ月前の冬の終わり頃、人類の文明は深夜に突如として現れた亡者と呼ばれる存在によって終わりを告げた。

 亡者はB級ホラー映画に出てくるようなゾンビと殆ど同じ性質を持っており、噛まれることで人間も同じように亡者になってしまう。その身体は酷く頑強で致命傷を受けても死ぬことは無く、例え首だけになったとしても活動することが可能である。

 そんな亡者の出現は科学の発展によって築き上げられてきた人類の文明をいとも容易く壊してしまった。

 生き残った人類は科学文明と言う今まで自分達を守ってくれていたモノを失い、亡者から逃げ惑い怯えながら日々の生活を送っていた。

 

 そんな中、偶然と幸運に恵まれた三人の少年少女が居た。

 

 ルーマニア人の血を四分の一引き継いでいるクォーター、外見は小学生の美少女にしか見えない藤原柘榴。

 元お嬢様ながらも中身は結構野蛮、かつ若干サイコパス気味な幼馴染の竜胆西瓜。

 イタリアからの留学生にしてシスター、しかし身に宿す力は明らかに人類の規格をぶっちぎっている超人中の超人、もし亡者になってしまったら間違いなく最強の怪物が誕生してしまうだろうメーレ・フェレスタ。

 

 世界が滅ぶと言う不運に見舞われながらも、明らかに世界が滅ぶことを前提にして建てられたであろう設備で暮らすと言う幸運に恵まれ、結果的に世界が滅んでいるのだから不運なのかもしれないが世界が滅ぶ前と何ら変わらない日常を送っていた。

 これは滅んだ世界で自堕落な毎日を過ごしたり、意味も無く会話をして時間を潰したり、時には亡者と戦ったり、知らなかった方が良かった事を知ったりする日常を送る物語である。

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