世界が壊れても明日は来る   作:霧ケ峰リョク

8 / 21
世界は無情である 4

「前々から思ってはいたんだよ。ここは普通の学校じゃないって」

 

 今まではそんな事を思わないようにしていた。と、いうかそんな事を考える余裕すら無かった。

 人間だった生き物が突如としてパニックホラーゲームに出て来るような人類の敵としてそれもタチが悪い事に普通なら死んでいてもおかしくないような傷でも問題無く活動出来るぐらいアグレッシブに活動してるのだ。

 見た目とか外見的にグロテスクで視覚的に不快感を与え、人だった存在を傷付けて二度と活動出来ないように破壊するしか無い。対話や相互理解は不可能であり、そもそもそう言った精神や理性といったものが存在しない。かと言って本能だけで行動しているのかと言えばそうではなく、明らかに人間だけを狙って行動している。

 もしこれが人間の手によって引き起こされた人災であるのならばその人間の論理感は間違いなく無いだろう。

 そう思ってしまうくらいに今の世界は酷かった。

 

「今の今まで僕達にとって都合が良かったから目を瞑っていたし、気にしたところでどうにもならなかったからあえてつっこまないでいたよ。実際、ここまで設備が整っている理由だってもしもの時に備えてって考えられたからね」

 

 そんな中でこの陽山学園の施設には本当に助けられた。

 この学園が非常に頑丈な事に加え、無駄に優れ過ぎている設備と多過ぎる食料。こんな世紀末な世界になったというのにここまで平和に過ごすことが出来たのは間違いなくこの陽山学園だからだ。

 だからと言ってこれは流石に無いだろう。そんな思いが僕の胸中に渦巻いている。

 いや、きっと僕以外の二人も同じようなことを思っているだろう。

 

「でもさ。これは明らかに違うよね? 準備だとかそういう言い訳を重ねても弁護できないくらいにダメだよね」

 

 僕はたった今開けた扉の先にあった部屋の中にあった物を見てそう呟く。

 部屋の中にあった物、それは今のような血と絶望と悲鳴に満ちた世界になる前の、もう二度と戻ってこないだろう平穏で平凡な世界には似つかわしくない非常に物騒な代物だった。

 具体的に言うと銃火器である。拳銃やライフル、挙句の果てにはロケットランチャーとかこういったミリタリー関係で詳しくない僕から見ても一学校にあって良い装備ではない。と、いうか銃刀法違反に抵触しているどころかぶっちぎりでアウトなラインナップである。

 

「うわぁ…………外国人の私から見てもこんなに必要なの? って思っちゃうくらい整ったラインナップなんだけど」

 

 メーレは近くにあった拳銃を人差し指と親指でつまんで持ち上げる。

 無骨なデザインの黒い拳銃はモデルガンとは思えない程の威圧感を与えている。

 幸いなことにマガジンは入っておらず、暴発する危険性も無い。

 

「あらまぁ、前々から過剰な設備ばっかりだとは思っていましたけど…………まさか本当に銃弾があるなんて思いもしませんでしたわ」

 

 西瓜は意外そうな表情を浮かべながらリボルバーを手に取り、慣れた様子でシリンダーに弾丸を装填していく。

 そしてこの部屋から出た後、近くの窓を開けて銃を構えた。

 

「って、おい西瓜! 何やって――――」

 

 突然の西瓜の行動に思わず絶句し、すぐに止めようとするが時既に遅し。

 西瓜は既にリボルバーの引き金を引いており、ズガンと銃声が鳴り響く。

 

「ひゅー、ナイスヘッドショット…………ですわ」

 

 銃口から出る硝煙を西瓜は西部劇のガンマンがやるようにフッと息を吹いて散らす。

 今も銃声が耳に響いて頭がくらくらするが、何とかそれを我慢して西瓜が開けた窓から身を乗り出して外を見る。

 外には相変わらず亡者がうようよ居たがその中の内の一体、頭から血を流して倒れているのが居た。

 亡者というものは内臓を露出し、普通ならば歩く事すら出来ない状態であっても問題なく活動することが出来る。それこそ上半身と下半身を二つに分けても上半身だけで行動できるぐらいに。亡者の活動を完全に停止させるには脳みそ、即ち頭部を破壊する以外に存在しない。もしかしたらそれ以外にもあるのかもしれないが僕等はそれしか知らない。

 そんな亡者が全く動いていないということは完全に死んでいるのだろう。

 よく目を凝らせば倒れて動かなくなった亡者の頭部に穴が開いている。恐らく西瓜が撃った銃弾が当たったんだろう。

 

「な、何が『ナイスヘッドショット…………ですわ』だ! と、いうか見るからに怪しい武器を平然と使うなアホ!!」

「何を言っているんですの柘榴は…………」

 

 捲くし立てる僕に対し西瓜はやれやれと言わんばかりに首を竦める。

 

「良いですの柘榴。冒険と言うものはいつだって危険というものがつきものなんですのよ。むしろその程度のリスクはスリルとして楽しまなくちゃいけないものなんですの」

「だからと言って拳銃に平気で弾丸を込めて、挙句の果てには人間だった存在を撃つのはおかしいだろ!」

 

 前々からサイコパス、論理感が薄い気がするとは思っていたし常々悪態をつく時にそう言う事もあった。

 だが西瓜がそんな簡単に拳銃の引き金を引くなんて思ってもいなかった。

 口だってお嬢様とは思えないぐらいに悪いがだからと言って人を平気で傷つけるような奴じゃ無かった。

 それになんだかんだ言って優しいのだ。そんな西瓜が亡者だからとは言え簡単に銃の引き金を簡単に引いて命を奪うなんて信じられない。

 

「はぁ…………良いですか柘榴。亡者はもう人ではありません、死人なんですのよ。あれはもう人間として見てはいけない存在ですわ。そしていつか絶対に必ず私達も倒さなくちゃいけないことになる相手なんですの」

「そ、それは分かってるけど……………」

「いいえ、柘榴…………貴方は分かってはいませんわ。分かっているつもりになっているだけですわ」

 

 否定することは許さない、そう言わんばかりに西瓜は僕に言い聞かせるように話を続ける。

 

「貴方の気持ちも分からないわけではありません。亡者相手に同情するその気持ちはとっても尊いものであり、この先決して忘れてはならないものです。ですが貴方が抱いた優しさと慈悲が相手に伝わるかどうかは別問題なのです」

「西瓜…………」

「最早この世界に優しさは余分なものとしてしか見ていない人だって居ます。時と場合によっては亡者ではなく、人間だって倒すべき敵になる時があるのです。最早この世界に法と秩序は存在しないのですから」

「色々と理屈や理由を並べて話を誤魔化そうとしているけどさ。後者の亡者を撃った理由は兎も角として、前者に至っては全く答えてないよね?」

 

 真剣な表情をして訴えていた西瓜の表情は次第に冷や汗を流し、僕の顔から目を逸らしていく。

 

「後者の理由は分かったよ。でも前者の理由について答えていない。だから何で安全性を確認していない拳銃に弾丸を込めて撃ったのか。その理由を正直に答えてね」

「え、えっとぉ…………保留ですわ」

「何で安全性を確認していない拳銃に弾丸を込めて撃ったのか。その理由を正直に答えてね」

「い、いや、だから…………」

「ちなみにふざけた回答をするとゴリラから制裁の鉄拳が与えられまずっ!?」

「誰がゴリラかな?」

 

 いつのまにか僕の背後に立っていたゴリラ、もといメーレの鉄拳が振り下ろされた。

 流石に加減をしていると分かるが、鉄筋のコンクリートを素手で破壊出来るほどの力を有するメーレの拳骨は手加減していても凄まじいダメージを僕に与える。

 拳骨を後頭部に喰らった僕は床に倒れてしまった。

 位置関係的に西瓜の真下に頭がある為、頭上を見上げれば西瓜のパンツが見えることだろう。身動きすら出来ないほどの激しい痛みに苦しんでいる今の僕にそんな余裕があるわけないが。

 と、いうか痛い。一瞬脳みそから言語という概念そのものが吹き飛びかけた。そう思ってしまうぐらいに痛い。

 

「ちょっ!? 柘榴さん!? その倒れ方は普通じゃないですわよ!! なんか身体も奇妙に震えていますし!」

「全く、失礼な話だよね。か弱いレディをゴリラ扱いだなんて」

 

 倒れた僕の心配をする西瓜だったが、そんな事をどうでも良いと考えているのか平然としているメーレは西瓜の前に立つ。

 か弱いと言う言葉を一度辞書で調べなおして見ろ、今声を出すことが出来たならばそう言っていた事だろう。もし言っていたなら流石に死んでいた。

 と、いうか自覚あるんじゃねぇか。

 

「それはそうとさ、さっきの柘榴が言っていた言葉。私もちょっと、ちょっとだけね、ちょーっとだけ西瓜に言いたいことがあるんだけどさ」

「は、はい……………」

 

 最早先程までの不敵な笑みを浮かべていた西瓜の姿はそこには無く、これから起こるであろう結末を予期してしまったことに絶望している一人の少女の姿しか無かった。

 まぁ、何と言えば良いのか分からないが、死なない事を祈っておこう。

 

「何で安全性を確認していない拳銃に弾丸を込めて撃ったのか。その理由を正直に答えてね。ちなみに正直に話してくれなかったら柘榴が言ったように拳骨だからね」

「はい! 拳銃がそこにあったから使ってみたくなりました!」

 

 メーレの脅しのおかげもあって西瓜は背筋を伸ばして言い切った。

 理由の内容については大方の予想通り、好奇心を抑えられなくなってついやってしまったとのことであるらしい。

 

「そんな理由で拳銃を使ったんだね。ダメだよ西瓜。拳銃っていうものはねとっても危ない物なんだから。素人が簡単に手を出しちゃいけないものなんだよ。幸いなことにここにあるのはちゃんと手入れもされていたやつだったから良かったけど、もしこれが不良品だったり粗悪品だったりしたら暴発しちゃうかもしれないんだよ」

「う、ご…………ごめんなさいですわ」

「私に謝るんじゃなくてそこで倒れている柘榴に謝らなくちゃ駄目だよ。柘榴はきみの事を本当に心配していたんだからあんなに怒っていたんだよ。動けるようになるまで時間が掛かるから後でちゃんと謝るんだよ」

「…………はぁ…………分かりましたわ。後でちゃんと謝罪を致しましょう」」

 

 若干不貞腐れている様子だがメーレが言っている事の方が正しいというのが分かっている為、溜め息混じりにそう呟いた。

 全く、僕の言う事も少しは聞いてくれたって良いのに。そうすれば少しは楽になると言うのに。

 だが西瓜が言う事を聞くのはメーレがシスターをやっていたからなのかもしれない。

 一応お嬢様な筈なのに男の子の僕よりも派手にやらかす時がある西瓜でもメーレには敵わないらしい。

 

「まぁそれはそれとして西瓜には罰として今からキャメルクラッチするから。身体に傷が残らないようにするから安心してね」

「えっ、そ、それの何処に安心する要素があるんですの――――あぁああああああああああああああ!!?」

 

 訂正、暴力と言う名の恐怖でもって言う事を聞かせていたらしい。

 メーレは気性は大人しいが怒っている時は本気で怒る。そして必要であるならば暴力を振るうことあるのだ。

 ある意味敵わないといえば間違ってはいないが、だからといってシスターが暴力は駄目だろうに。

 

「た、助けてくださいな柘榴さん! このままじゃ私、都市伝説に出て来るテケテケのように上半身と下半身が真っ二つになってしまいますわ!!」

 

 暴力シスターによるキャメルクラッチを喰らっている残念サイコパスな西瓜が僕に助けを求めて来る。

 僕がさっきそのアマゾネスな暴力シスターの立場に居るゴリラに拳骨を振り下ろされて身動きが出来なくなっているのは知っているだろうに。

 最も動けてたとしても今回は絶対に助けないが。少しは反省してもらいたい。

 そんな事を考えながら全く収まろうとしない激痛に身悶えしていると、現在進行形で西瓜にキャメルクラッチを仕掛けているメーレが何かを思い出したかのように「あっ」と洩らす。

 

「あ、そうそう。さっきの武器が沢山置いてあった部屋にさ。なーんか変な扉があったんだよね。二人はさ、それについてどう思う?」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。