「うわっ、なにこれ」
ふと、机の上にある卓上カレンダーに目を向けると、そこに映っている子どもの目がギョ
ロリと大きく変化しているのに気づく。なぜ突然こんなことになったのだろうか。少なくと
も一時間ほど前まではこんなことになってはなかった。
それにしてもグロテスクだ。元々の子どもが遊んでいる写真の愛らしさは見る影がない。
例えるなら、あたかもバイオハザードに出てくるゾンビの目のようになっている。
私は今日一日、卓上カレンダーに触れてなんかない。こうして変化した原因を考えると怖
くなってきた。
「ほんっと気持ち悪い……。このカレンダー結構気に入ってたのになあ。でも、こんなカ
レンダーを置いとくわけにはいかないから捨てるけどさ」
私はカレンダーを捨てようと、ゴミ箱へ向かう。すると、映っている子どもが急に動き出
した。ギョロリとした目をグルグルと回しながら、少しずつ近づいてくる。そして、カレン
ダーも小刻みに震え始めた。
「きゃ!」
震え始めたカレンダーに驚いてゴミ箱とは反対方向へカレンダーを放り投げてしまう。
私の手が離れてもカレンダーは振動をやめない。それどころか、より一層振動が強くなって
いるではないか。
「なに!? なんなのよ! 怖いってば!」
止まらない。どんどんと振動が強くなってくる。振動が強くなっていくのを眺めることし
か出来ない。
一分ほど経っただろうか。突然カレンダーが振動するのをやめ、動き出した。そして、私
の方へと近づいてくる。地を這うように動く姿はとても不気味だった。
「いや! なんで近づいてくるの!?」
そんなカレンダーに対して、金切り声のようなものを上げてしまう。本当にわけがわから
ない。私は何もしてない。こんなことに巻き込まれる謂れなんてないじゃない。
怖い。なんで私が。そんなことを考えている間にも、少しずつ私との距離は埋まっていく。
動くカレンダーはカチカチと音を鳴らしている。それはまるで、誰かを嚙み砕こうとして
いるようだった。そんなカレンダーに捕まってしまえば、嚙み殺されてしまうかもしれない。
そうなる前にどうにかしないと。
とりあえず家から出て、人目のある場所へ行くべきだ。私一人では対処の方法に限界があ
る。
そう考えた私は玄関の方へ走りだす。流石に走れば追いつかれることなんてないだろう。
ドアを開ける。
ドアを開ける。
この廊下を走り抜ければ玄関だ。取り敢えずは助かることが出来たのだと安堵する。
「なん、で。なんで、私一回も追いつかれてなんかなかったはずだよね……?」
けれど、そんな期待を裏切るようにカレンダーは玄関に立ちふさがっていた。一回も追い
つかれた気配なんてなかった。この一瞬で動いたっていうの?
駄目だ。玄関にいられては出られない。もう、私ここで死んじゃうのかな……。
そうやって私が絶望しているのを見て嗤うように跳ねるカレンダー。お前なんていつで
も捕まえられるのだと言っているようだった。
けれど、私はこんなところでは終われない。こんな若さで死ぬなんて、絶対に嫌だ。
幸い、カレンダーは油断しているようだ。玄関をふさいだことで私に打つ手がないと思っ
ている。
だから、意表をつける。
バっと方向転換をし、玄関とは反対のベランダへ走り出す。
玄関から出られないなら、ベランダから飛び降りればいい。ここは三階。例え飛び降りて
も死にはしないだろう。
また回り込まれるかもしれない。だけど、なにもしないよりはマシだから。
走る。走る。来た道を戻る。
カレンダーが追いかけてくる気配はしない。
無駄かもしれないけど、カレンダーに追いつかれにくくするために出来る限り周りを荒
らしながら進んでいく。
そして、ベランダが見えた。ベランダの前にはカレンダーが回り込んでいる様子はない。
怖くて、後ろを振り返ることは出来なかった。
立ち止まってしまうと追いつかれそうで怖かった。
だから、走ってきた勢いをそのままに窓を開け、柵を乗り越えてベランダから飛び降りる。
けど、ベランダから飛び降りるのは、やっぱり怖くて、目をつむってしまった。
どうしてだろうか。一向に衝撃がこない。ここは三階だから、すぐに地面に着くはずなの
に。
不思議に思った私は目を開ける。
映ったのはギョロリとした子どもの目。
彼女が住んでいた部屋のすぐ下には、彼女が持っていたのであろう鉛筆のキャップだけ
が落ちていた。