あ……やってしまった。灯油をぶちまけてしまった。ストーブをつけようとしたのだが、灯油を運んでいる最中に躓いてしまった。このままでは引火し、火事になってしまう。下手なことが起こる前にしっかりと拭かなければ。
灯油を雑巾で拭いていると父親が煙草を吹かせながら声をかけてくる
「おーっす。なにやってんだ?」
「おやじ! まじで危ないから外に出ててくれ! 灯油こぼしたんだ! 火事になっちまう!」
煙草は流石に不味い。本当に引火してしまう。
「なにしてるんだよ……。分かったさ」
そうふてぶてしく言いながら、来た道を帰るおやじ。煙草をぶらぶらとさせている。危機感がないのか!
案の定、玄関口に達したところでおやじが煙草を落としてしまう。
「あ、やべ……」
「ああああああああ! なにやってんだよおおおおお!!!!!」
煙草の火が灯油に当たり、家が燃え始める。火はすごい速度で燃え移り、俺のいるところから玄関までの道が閉ざされてしまう。
しかし、おやじは玄関の近くにいたため外に出られそうだ。どうやっても俺は逃げられないからおやじに消防車を呼んでもらわなければ。
「おやじ! 外に出て、消防車を呼んでくれ!」
「お、おう! 分かった!」
おやじが外に出て、消防車を呼ぶために電話をかける。そして残されたのは俺一人。
ヤバい。ヤバい。ヤバい。そこまで速い速度ではないのだが、徐々に火は広がっていく。このままでは死んでしまう! 部屋に置かれていたぬいぐるみにも引火する。ああ、結構お気に入りのやつだったのになあ。
「ってそんなこと考えてる場合じゃない! どうにかして消防車がくるまで持たせないと!」
炎から一番遠いベランダが一番火が届きにくそうだと考え、ベランダに逃げる。しかし、ベランダに逃げたところで俺はどうにか出来るわけでもない。おやじがこのまま帰ってこなかったら座して死を待つことになる。
「おやじ──ー!!! 早く帰ってきてくれ────!!!」
体感でかなりの時間が経つ。10分くらいだろうか。まだ消防車とおやじはこない。
そこからさらに時間が経った。ヤバい。ヤバい。ヤバい。ヤバい。もう火がそこまで来ている。そんな風に考えているとついにおやじが到着する。
「すまん! 待たせた! 消防車、呼んだんだが道が渋滞してるらしくてな。結構時間がかかりそうなんだ。
だからトランポリンを持ってきた!」
「ト、トランポリン!? 意味が分かんねえよ!!」
「消防車が来るまでにはベランダに火が届いてしまうだろ? ベランダの下にトランポリン置くから飛び降りるんだ!」
「はあ!? そんなことできるわけないだろ!」
馬鹿なんじゃないのか。俺はスタントマンでもなんでもないんだ。そんなこと簡単に出来るわけないだろ!
「けど、しないと死んじまうぞ! それでいいのか!?」
それは流石に嫌だ。でも、飛び降りるのは怖い。
そうやってうだうだしているうちに本当に火が近くなってくる。あと1分もしないうちに俺にも燃え移ってしまうだろう。ああ、嫌だなあ。けど、覚悟を決めるしかないようだ。
「ああ、わかったよ! 飛んでやる!」
意を決してベランダから飛び降りる。
怖くて目を瞑ってしまう。数秒もしないうちに足にトランポリンのものであろう衝撃が訪れる。
「うおぉ!」
勢いよく飛び降りたからなのか、反動でベランダの方まで飛び上がる。そこで見えたベランダは火が燃え移っていて、あと数秒でも遅れてしまえば死んでいただろう。
消防車が到着する。火は無事に鎮火した。けれど家は完全に燃えてしまった。どうやって母さんたちに説明しようか……。