三単語小説   作:薫。

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お題:「T字のカミソリ」「岩」「道場破り」

 俺は様々な場所を旅し、色々な道場を巡っているしがない道場破りだ。俺は今とある道場の前にいる。たまたま訪れたこの地に道場があると聞きここまでやってきたのだが、なにやら地響きのようなものが絶えず鳴り響いている。いや、怖いんだけど……。

 いや、俺はこれまで色々な道場を破ってきたのだ、こんなことで怖気づいていては話にならん! 

 

「頼もう! 俺は道場破琉。しがない道場破りである。この道場の最高責任者を出してもらお……

 

 真っ先に目に入ったのは、大量の大きな岩だった。その大量の岩を門下生と思わしき人々が砕いていっている異様な光景だ。思わず言葉を詰まらせ、後ずさってしまう。

 

「なに!? 道場破りだと? 師範、師範を呼べ!」

 

 不届き者の俺に気づいた門下生たちが一気に騒ぎ出す。やばい、流石の俺でもこんな岩を日常的に割っているようなゴリラには勝てないぞ!? 俺が習得しているのは至って普通の格闘技なんだ。岩を容易く割るような強度の練習なんてしていない。俺はもっと普通の道場を予測していたんだ! 

 絶対に勝てないと判断し少しずつ後ずさっていく。そして道場の扉を閉めようとする。

 

 しかし回り囲まれてしまった!! 

 

「おう、兄ちゃん。勝手に人の道場入ってきといてなんもありませんでしたはないやろ? 

 もうちょいで師範来るからなあ。それまで俺たちと遊ぼうや」

 

 そう言って殴りかかってくる門下生たち。一撃はものすごく重い。だが、攻撃はかなりの大振りだ。これなら躱せる! 

 

 門下生たちの攻撃を躱し続けて数分。未だに師範の姿は見えない。くっそ、いくらこいつらの攻撃が躱しやすいからって、結構な数がいる。流石に疲れてきたぞ……。

 

「お前たち。攻撃をやめるのじゃ。この不届きものには儂が直々に相手をしてやる」

 

 現れたのは白い髭を長く伸ばした如何にもな人物だった。こいつが道場の師範なのだろう。とてつもない筋肉だ。門下生たちも十分なほど筋肉はあったが、こいつの筋肉は比べ物にならない。こんなの一発で即死だぞ……。謝ろう。うん、そうしよう。そんで早くこんなところから離れるんだ。

 

「大変申し訳ございません! 来る道場を間違えてしまったようです。どうか、見逃してはくれないでしょうか!」

 

「ダメじゃ。我が道場の掟として、一度申し込まれた道場破りはいかなる理由があろうとも不履行は許されない。というものがある。

 なに、覚悟が出来るまではいくらでも待ってやろう」

 

 しかし逃げられなかった!! 

 

 まずいな……。絶対にこんなやつには勝てない。軽く赤子をひねるように殺されるのがオチだ。どうにかして逃げないと。

 

「ただ待つのも暇じゃな。どれ、髭でも剃ろうかの。

 髭剃りでも持ってきてくれ」

 

「は、ただいま」

 

 完っ全になめられているな。相手がこんな調子ならどうにか付け入る隙がありそうなものだが……。

 

「師範。こちら髭剃りになります」

 

 っぶ!! そういって門下生が持ってきたのはT字のカミソリだった。これでどうやってあの長い髭を剃るんだよ。流石におかしいだろ。

 

「おい、お前。なにわろとんねん」

 

「っひ!! すみません!」

 

 少し吹き出しただけで睨まれてしまう。当人たちは至って真面目なようだ。だからなのか、師範はT字のカミソリを器用に使って長い髭を剃っている。すごいな……。あいつ、パワーだけじゃなくテクニックもあるのか。するすると師範の髭が道場の床に落ちていく。元々かなり長かった髭なので、かなりの量がありそうだ。髭は門下生が片付けていた。

 って、駄目だ。今はどうにかして逃げるすべを考えないと。

 いや、髭、髭だ。これを使えばなんとかなるかもしれない! 

 

「準備、出来ました……」

 

「思ったより早かったのう。

 どれ、捻りつぶしてくれるわい」

 

 作戦を思いついたのはいいが、五分といったところだろう。ガチガチと歯が鳴ってしまう。失敗すれば死待つのみという状況はやっぱり恐ろしい。だけど、やらなければ普通に死んでしまうだけなんだ。やる、俺はやってやる。

 開戦の合図が鳴った。まずは回避に専念しよう。と、そんな風に考えていると師範が飛びかかってきた。

 

 ドゴォォン!!!!! 

 

 間一髪で回避出来たが、俺が元々いた場所の地面は深く抉り取られている。いよいよ死ぬってのが現実味を帯びてきた。そしてその衝撃で片付けられていた髭が辺りに散らばる。よし、手間が省けた。髭が散らばったのにも別段気にしていないようだ。かなり好都合と言える。いける、いけるぞ……! 

 

「ほう、初撃を躱すとは。道場破りを自称しているだけはある」

 

 そう言い残し師範は連撃を繰り出してくる。どれも威力は凄まじい。こんな攻撃を連続で出せるとかどんな体してるんだ。そんな連撃を俺は寸でのところで躱し続ける。

 殴られる。躱す。殴られる。躱す。殴られる。躱す。ずっとそれの繰り返しだ。

 

「回避ばかりでは勝つことなんて出来んぞ! 体力が切れて負けるのが関の山じゃ!」

 

 そんな言葉には耳を傾けない。

 

 殴られる。躱す。殴られる。躱す。殴られる。躱す。殴られる。躱す。殴られる。……今だ! 

 俺は躱すときに師範の足に巻き付け続けていた髭を引っ張る。師範の髭は持ち主のためか、通常では考えられないほどの強度を持っていた。これを巻き付けられて、引っ張られたら、いくらゴリラみたいなやつでも隙が生まれるはずだ。

 俺の予想通り、師範が盛大に転倒する。門下生たちは何が起きたのか分からないようで互いに顔を見合わせている。この隙を見逃さない。俺は素早く道場の窓から飛び降り、道場から逃げ出した。

 

 それからは精一杯走った。一時間ほど逃げ続けただろうか。逃げるときにある程度の細工をしたから、そう簡単には追いつかれないはずだが……。

 

 それから数週間。件の道場からかなり離れた場所でとある噂を聞いた。なんでも、ある道場が総出で一人の人物を探し続けているとか。 

 

 

 ……まじかよ。

 

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