Battle of the Islands ~島の戦い~   作:スカツド

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第1話 とある外交官の憂鬱

ロリスア標準時 七月二十七日 午前十時二十三分

 

 ノドヌールの首都チビルから百キロほど離れた空の上。重たい荷物を抱えたC-17輸送機が西に向かって飛んでいた。

 巨大な主翼にぶら下がった四発のP&W社製F117-PW-100 ターボファンエンジンは豪快な唸り声を上げ、それぞれが18,460kgの推力を発揮している。

 操縦席の背後にある補助席の座り心地はまずまずと言ったところだろうか。まあ、ファーストクラスとは比ぶべくもないのだが。

 日本から数千キロ離れたロリスアの空をぼぉ~と眺めながら外務省ロリスア局第三ロリスア課の金田桃子課長は今日になって何十回目かの溜め息をついた。

 

「はぁ~っ…… 何の因果で私がこんな目に遭わなきゃならんのかしら」

「しょうがないですよ。課長の見た目がアレ過ぎるんですから。恨むんならご両親を恨むことですね」

 

 人を小馬鹿にしたような薄ら笑いを浮かべながら安村事務官が相槌を打った。

 ちなみに外務省に係長という役職は無い。他省で言うところの係長相当以下は全て事務官という役職になっているのは公然の秘密だ。って言うか秘密でも何でも無いのだが。 

 

「どゆこと?!」

「もしかして知らなかったんですか? 今から我々が交渉に行く相手はロリーダ民主主義人民共和国(自称)っていうのは知ってますよね? だから外務省で一番ロリっぽい外見の金田課長に白羽の矢が立ったんだってもっぱらの噂なんですよ」

「そ、そ、そんな阿呆な理由で選ばれたとは…… うがぁ~! 祝ってや…… じゃなかった、呪ってやる! ロリーダ民主主義人民共和国(自称)許すまじ! 奴らに塩! 塩、塩、塩!」

 

 

 

 二人がそんな他愛ない会話を繰り広げている間にもC-17輸送機の周囲にロリーダ民主主義共和国(自称)の物と思しき戦闘機が急接近してきた。

 だが、C-17輸送機とてジェット機の端くれ。巡航速度はマッハ0.74(時速833キロ)、最高速度はマッハ0.77(時速867キロ)に達する。これはF-15戦闘機の巡航速度に近い数字だ。いかに戦闘機とは言え、燃料をがぶ飲みするアフターバーナーを使わなければそう簡単に追い付ける速さではない。

 

 ところがギッチョン! 日本側には知る由も無いことだが、ここへきてロリーダが投入してきたのは最新鋭機だった。その名もガーラ-ゼラ要撃戦闘機。最精鋭の首都圏防空隊にのみ極少数の配備が始まったばかりの高性能機なのだ。

 最高速度は2348キロ、巡航速度980キロ。おそらくターボファンじゃなくて純ターボジェットなんだろう。

 と思いきや要撃戦闘機にも関わらず戦闘行動半径900キロと意外に長い。航続距離に至っては無駄に長い4300キロにも達する凄い奴なのだ。

 

 四機のガーラ-ゼラ要撃機はまるでC-17輸送機を威嚇するかの様に前後左右を取り囲む。

 だが、これくらいのことは日本側も予想の範疇といえる。C-17輸送機の後方上空、雲や太陽で見え難い位置に四機のF-35Aを待機させていたのだ。

 ステルス機であるF-35Aをロリーダのレーダーは全く持って捉えることができない。さらにロービジ迷彩に塗装されたコンパクトな機体は薄雲の掛かった空に上手い具合に溶け込んでいて目視することも難しい。お陰でF-35Aはガーラ-ゼラ要撃機に全く視認されることなく背後を取ることができた。できたのだが……

 

「き、気付いて貰えないんですけどぉ~!」

 

 四機のF-35Aを率いるフライト・リーダーの神田一等空尉は苦虫を噛み潰す。

 前近代的な設計のガーラ-ゼラ要撃機はキャノピーの後方視界がとっても悪い。そもそもマッハ2が出せる戦闘機に追いつける奴などいるはず無いとでも思っているのだろうか。格闘戦を想定していないのでリアビューミラーも付いていないのだ。

 

「しょうがないなぁ…… 前に出るとしようか」

「了解!」

 

 アフターバーナーを焚いたP&W社製のF135-PW-100エンジンが191.27kNの推力を発揮する。四機のF-35Aは急加速するとガーラ-ゼラ要撃機を一息に追い越した。

 

「な、なんじゃこりゃぁ~!」

 

 突如として眼前に現れた灰色の飛行物体にロリーダ空軍のヨーバ大佐は絶叫する。

 アレはニホンの戦闘機なのか? 戦闘機なんだろうか? そうだとして加速して追うべきか? 追うべきなんだろうか? だけど、とてもじゃないけどあの加速に追い付けそうも無いんですけど。どうすれバインダ~!

 と思いきや、灰色の飛行物体は速度を落としてくれたらしい。どうやらガーラ-ゼラ要撃機たちが追い付くのを親切にも待っていてくれたようだ。そして真横に並んで暫く飛んだ後、再度の急加速を行う。

 

「やっぱり全然付いて行けないぞ。アレがニホンの戦闘機の性能だというのか? うわぁ!」

 

 突如としてF-35Aがコブラ機動を行い、そのまま垂直に上昇して視界から消えて行く。

 ヨーバ大佐は唖然とした表情で見送ることしかできなかった。

 

 

 

「飛行機だ、飛行機だ! 見て見て、ヤス君! 飛行機だよ!」

「いやいや、金田課長。僕たちが乗ってるのだって立派な飛行機じゃないですか」

 

 子供みたいに大はしゃぎする金田課長の横顔を安村事務官はマジマジと見詰めながら考える。この人ってどこからどう見ても中学生くらいにしか見えんよなあ。今年三十になる俺より十は年上のはずなんだけど。

 

 嘘か本当か知らないが金田課長には物凄い伝説があるらしい。噂によれば彼女が休日、こどもの国へ遊びに行ったんだそうな。いい年した大人が一人でこどもの国に行く時点で既にどうかしている感がありありだ。

 とにもかくにも彼女はそこでポニー牧場のこども乗馬をやりたくてたまらなくなったんだとか。だが、ポニーに乗れるのは小学生以下と決まっている。しかし彼女は諦めなかった。まずは身に付けていたアクセサリー類を全部外したらしい。そして髪の毛を三つ編みにして精一杯に子供っぽく見えるよう工夫したんだそうな。

 それでも流石に小学生と言い張るのは無理かも知れん。そう考えた彼女は係の人にこう言おうと思ったんだとか。『中学生なんですけど乗せて貰えませんか?』と。だが、金田課長がそう言う前に係の女性はチラリと彼女を見て言ったそうな。『順番に並んでね』と。

 

 うぅ~ん。何とも恐ろしい伝説だ。金田課長、恐ろしい課長! 安村事務官はガラスの仮面を被った少女みたいに白目を剥いて呆けてることしかできなかった。

 

 

 

「ぽ~ん! 当機は間も無く着陸体勢に入ります。シートベルトをお締め下さい」

 

 機長がアナウンスの物真似をすると同時にC-17輸送機はヨン-スレグ空軍基地へのアプローチに入る。金田と安村はじゃれ合うのを止めて真顔に戻った。

 背伸びしてパイロットの肩越しに前方を見るとコンクリート製らしき灰色の滑走路が延々と伸びている。

 ちなみに一般的な滑走路はアスファルト舗装だ。しかし、アフターバーナーを使う戦闘機なんかがいる場合、熱に強いコンクリート舗装を行うことが多いんだそうな。

 

「へぇ~! へぇ~! へぇ~! へぇ~! へぇ~! ヤス君って意外と物知りなんだねえ」

「金田課長、そんなにへぇ~ボタンを連打しないで下さいな。壊れちゃいますよ。それはともかく、どうやらここは空軍基地か何かみたいですね」

「そんなの見れば分かるじゃないの。あんな風に後退翼が急角度な小型機なんて戦闘機に決まってるわよ」

「その割に対空ミサイルとかは見当たりませんね。まあ、完璧に偽装してるのかも知れませんけど」

「そういう物なんじゃないのかなあ。空自の基地だって普段から対空ミサイルを露天で配備してたりしないでしょう?」

 

 そうこうする間にもC-17輸送機は静かに接地…… と思いきや、激しい衝撃に襲われた。

 もしかして滑走路の品質が悪いんじゃね? C-17輸送機を操縦する真田一等空佐は小さく舌打ちする。だがC-17輸送機は不整地での運用能力を有している。残念ながら降着装置の接地圧が致命的に高いんだけれども。

 ブレーキが効かない不整地着陸を想定した超強力なスラスト・リバーサーが轟音を立て、百パーセントの推力で逆噴射を行う。体を前に持っていかれそうな強い制動力によって急激にスピードが落ちる。

 ところで駐機場はどこにあるんだろう? あっちかな? こっちかな? きょろきょろと辺りを見回しながら真田一等空佐はそれっぽい場所を探して適当に進んで行く。ここでようやくロリーダ側の誘導員が現れて駐機場を示してくれる。C-17輸送機は滑走路脇の空き地でぐるりと方向転換するとエンジンを止めた。

 

「ほんじゃまあ…… ちょっくら参ると致しましょうか。はぁ~っ……」

 

 金田課長は安村事務官にシートベルトを外して貰いながら今日になって何十回目かのため息をつく。

 ヨン-スレグ空軍基地の遥か上空では四機のF-35Aがグルグルと行く当ても無く旋回を続けていた。

 

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