Battle of the Islands ~島の戦い~   作:スカツド

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第10話 外交は爆発だ!

ロリスア標準時 八月二日 午後一時三十四分 ノドヌール首都チビル郊外 ロリーダ植民地空軍基地 ヨン-スレグ空軍基地

 

 C-2輸送機のカーゴドアが開くと姿を現したのは…… ロボット台車に縦置きされた五十インチの液晶モニターだった! 

 一台、二台、三台、四台…… 次々と現れる謎の小型車両にロリーダ側は開いた口が塞がらない。

 前回の戦車や装甲車とは全く違う方向への突き抜けっぷりに誰もが呆れ果てて二の句が継げないようだ。

 だが、何か突っ込まねば。たとえ蛮族とは言え、相手は一国のトップなのだ。最低限の儀礼だけは尽くす必要があるだろう。だけども何を言えバインダ~?

 ファスラ少将はなけなしの勇気を振り絞って口を開いた。

 

「基地司令官のドール-レ-ファスラ少将です。困った事があれば何なりと仰って下さい。閣下? のお世話を任されております故」

 

 四千キロ離れた首相官邸のモニターに完全武装した兵士と途方に暮れた顔の中年将官が映る。

 困った顔をしているのはあんたの方だろうが。太田総理は愛想笑いを浮かべながらぺこぺこと頭を下げた。

 

「いやいや、お世話を掛けて申し訳ありませんなあ。もし貴方が日本に来ることがあったらお返しにお世話させて頂きますよ。それにしても物凄い厳重な警備ですね。失礼ですけどもしかしてよっぽど治安が悪いんですか?」

「うぅ~ん、お恥ずかしい話ですが酷い物なんですよ。ここ最近は日中でも女子供は一人で出歩けない様な有様でして」

「そ、そうなんですか。それはご愁傷さまですな。んで、あなた方の元首はどちらに?」

 

 ファスラ少将は卑屈な笑みを浮かべると手振りで大きな建物を指し示す。

 

「ロリーダ国家元首アクリギス-ラ-メカスシ第一執政官閣下の所へご案内致します。ささ、こちらへどうぞ」

 

 第一執政官ってことは第二執政官や第三執政官もいるんだろうか。第六万五千五百三十六執政官とかいたら嫌だなあ。太田総理は想像して吹き出しそうになったが空気を読んで必死に我慢した。

 とにもかくにも日本代表団のロボット台車はファスラ少将の後を金魚の糞みたいに行列を成してくっ付いて行く。一方でC-2輸送機は彼らを待つことなく日本への帰路に就いた。

 

「わけが分からないよ……」

 

 ファスラ少将は轟音を上げて飛び去って行くニホンの輸送機を見上げながら小さく呟いた。

 

 

 

 変テコな門を潜って噴水の脇を通る。大きな建物の入り口は横長の階段だ。どうやらバリアフリーとかはこれっぽっちも考えられていないらしい。だが、ロボット台車のゴム製キャタピラはそれを物ともせずに登って行く。

 

 長い廊下を暫く進むとそれほど広くもないロビーが現れる。その奥から突如として目の前に薄汚い格好をした集団が現れた。

 全員が揃いも揃って黒っぽい服を着ている。男たちの先頭にはゴテゴテした装飾の付いた棒切れを持った爺さんが仁王立ちしていた。

 

「えぇ~っと、貴方がロリーダの代表でしょうか?」

「いいや、違うぞ」

 

 突如として爺さんが大声を出した。

 

「我々は貴方にキサラズ神の偉大さを伝えるためにここへやって来たのだ」

「しゅ、宗教の勧誘とかなら間に合ってるんですけど?」

 

 太田総理が遠慮がちに断りを入れた。だが、聞く耳持たんといった顔の司教は続ける。

 

「全知全能なるキサラズ神は最強で最高の神だ! ロリスア大陸やニホンは直ちにキサラズ教に改宗し、ロリーダに服従せよ! これは偉大なるキサラズ神のご意思なるぞ!」

「なに言ってんだ、こいつ?」

 

 太田総理は助けを求めるように視線を彷徨わせる。って言うか、リモートのカメラを操作する。するとロビー奥に控える集団の最前に若い女が目に入った。

 これって…… さっきまで見ていた資料写真に出てきた人だぞ。確かラードナとか言う人だったような。前回はこの人が代表だったはずだ。

 

 そんな阿呆な事をしている間にファスラ少将がラードナの元へ駆け寄った。

 

「お待たせしました議員閣下。ニホン側代表団がお見えです」

 

 ラードナは太田総理…… って言うか、ロボット台車に載った液晶モニターたちに向き直る。

 その顔は呆れたというか呆然というか…… 『どうすれバインダ~!』と書いてあるかの様だ。

 だが、どげんかせんと。どげんかせんといかん。意味不明な使命感だけが彼女を突き動かしていた。

 ラードナはちょっと戸惑いながらも精一杯の虚勢を張りながら口を開く。

 

「ニホンの首長よ、今や貴様らの命は既に我らの手中に握られているぞ。こうなった以上は覚悟を決めよ。キサラズ司教の話を聞き入れて我らに従え。然らばその命だけは助けてやるぞ」

「え、えぇ~っと…… いや、その、あの。実は前回の接触の後、我が方の代表団の中に体調を崩した者がいましてね。それでもしかすると未知のウィルスや病原体かも知れないって事で今回はリモート会議にさせて頂いたんです。予告も無しにこんな事になってすまんこってすたい」

 

 太田総理は用意していた言い訳を披露した。もちろんウィルスや病原体なんて嘘っぱちだ。金田課長や安村事務官の体調にも何ら問題は無い。

 だが、そんな事を知る由もないラードナは大いに面食らっている様だ。

 

「謝罪は受け入れよう。だが首長、諸君が我らと同じテーブルに立つ資格があるとは到底思えぬぞ。貴様らも航空機は有しておるようだが我々は物凄っごく強力な爆弾を持っているのだ」

「あぁ~あ、『神の火』とかいう原始的な核兵器ですか。ですけど我々にも切り札があるんですよ。もっとも、より優雅に『仏の雷』と呼んでおるがね」

 

 炭疽菌よりそっちの方が優雅だろう。太田総理は咄嗟の機転で適当な名前をでっち上げた。

 

 一方、ラードナも一瞬だけ焦る。神の火の存在を知っているだと? それに『仏の雷』とやらも気になる。とは言え、ここで怯んだら足元を見られてしまう。ここは強気で攻めねばならん。

 

「ふ、ふぅ~ん。だがなあ、首長よ。実際問題、貴様は我らの罠にまんまと引っ掛かり今や身を守る術すら無い状態では無いか? 前回連れて来ていた戦車や兵はどうしたのだ?」

「ああ、アレは貴国の出方を伺うための撒き餌みたいな物ですよ。んで、そちらのやり口が分かったので今回はリモート会議にした。それ以上で無ければそれ以下でもありません」

 

 太田総理は早くも真面目に話をするのが馬鹿らしくなって来た。だが、給料分の働きだけはしておかねばならん。そのためには何かもっともらしい事を言って相手を煙に巻かねば。何とかして良いアイディを捻り出そうと頭をフル回転させる。ポク、ポク、ポク、チ~~~ン! 閃いた!

 だが、太田総理が口を開きかけた刹那にラードナが先に話し始めた。

 

「つまるところ貴様らは一方的に約束を反故にしたと受け取っても宜しいか?」

「約束ですって? そもそもそんな約束した覚えが無いんですけど。まあ、私は記憶力の無さには自信があるんで忘れちゃったのかも知れませんけどね。てへぺろ! でも、忘れちゃった物はしょうがないでしょう?」

「我らにとって約束とは対等な者同士で結ばれる物だ。貴様ら如き野蛮人にどうこう出来る物では無いと知れ」

「はっきり言う、気に入らんな。と思ったけど気に入った! 殺すのは一番最後にしておいてやる」

 

 集中力の完全に切れた太田総理は適当な言葉を並べてラードナを煙に巻こうとした。

 

 一方、ラードナもこのタイミングで手を翳そうとする。翳そうとしたのだが……

 右手を上げるべきか、それとも左手を上げるべきなのか一瞬だけ躊躇してしまった。

 どっちを上げるのが良いかなあ。散々に迷った末、ラードナはバンザイする様に両手を上げる。

 次の瞬間、ロボット台車を包囲するかの様に完全武装した兵士たちが現れた。

 その手には全員が全員、銃を構えている。

 

「首長よ、さあ決断しなさ……」

 

 だが、ラードナが言い終わる前にファスラ少将が西部劇のクイックドロウみたいに素早く銃を抜くと僅か0.3秒の早業でぶっ放した。

 それを合図に三百六十度を取り囲んだ兵士たちも一斉に発砲を始める。しかし、全周を包囲しているという事は対面には味方がいるという事だ。そのお陰でそこかしこで酷いフレンドリーファイアーが発生してしまう。およそ三分間ほど続いた銃撃が終わるころには彼方此方で腕や肩、足や脇腹を押さえた兵たちが血を流して蹲っていた。

 狭い室内でフルオート射撃なんかした物だから酷い硝煙で息が出来ない。おまけに物凄い騒音で皆が皆、騒音性難聴になってしまった。

 

「これってどゆこと?」

 

 とんでもない超展開に付いて行けないラードナは思わずぽかぁ~んと呆けてしまう。

 

『首長さえ捉えればニホン人は恐れおののいてひれ伏すだろう。そんな高度の柔軟性を確保しつつも臨機応変に対応可能なプラン。言い方を変えれば行き当たりばったり』というラードナの作戦とも言えない浅知恵は完全に無茶苦茶になってしまったのだ。まあ、そもそもプランなんて無きに等しかったんだけれども。

 

 呆れて二の句が継げないといった顔のラードナに対してファスラ少将は軍服の内ポケットから勿体ぶった手付きで茶封筒を取り出す。ダイソーとかで十七枚入りが百円(税別)で売っている長形3号(ながさん)封筒だ。その中から三つ折りになったA4用紙を取り出して『勝訴!』とでも言いたそうなドヤ顔で眼前に翳した。

 ラードナはその文面を見ようとして…… 見ようとして首を九十度真横に傾ける。傾けたのだが…… 首を元に戻すとファスラ少将から紙を受け取って上下をひっくり返した。

 

「なになに…… 執政官の命令書ですと?! すると何か? 私の全然預かり知らぬ所で別の計画が動いてたってことなのか? この場の責任者は私じゃなかったのかな? 違うのかなあ?」

「さ、さあ? どうなんでしょうねえ。とにもかくにも私は軍人です。上から言われた事は黙って従う。それが私の処世術なんだからしょうがないでしょう? 犬に噛まれたとでも思って諦めて下さ……」

 

 その時、歴史が動いた。仰向けにひっくり返って消灯していた五十インチ液晶モニターが突如として点灯し、太田総理の顔が写ったのだ。

 

「うわぁ、びっくりしたなあもう。いきなり銃なんて撃つんだもん。死ぬほど驚いたぞ」

「なっ! 死んでいなかったのか? ニホンの首長よ!」

「こんなこともあろうかと防弾仕様にしていたんですよ。まあ、貴方たちの銃が拳銃弾を使ったサブマシンガンだったお陰もありますけどね。とは言え、制御系がやられちまったんでそう長くは持ちそうも無いですけど。ところでラードナさん。一番最後に殺すと言ったな。アレは嘘だ! ハッ! ハッ! ハッ! ハッ! ハッ!」

 

 突然、太田総理が笑いだすと同時に液晶画面が切り替わる。表示されたのは日本の文字でもなければロリーダの文字でも無い。楔型の不思議な文字は『ピッ! ピッ! ピッ!』という電子音とともにカウントダウンの様に変化して行く。

 

 これってもしかして、もしかしないでもヤバいんじゃね? 我に帰ったラードナは走る。走って走って走りまくる。

 部屋を飛び出し廊下を駆け抜け建物から外に出る。その途端、大音響が耳をつんざく。次の瞬間、背中に熱風を感じると同時にラードナの意識は途切れた。

 

 

 

 八月二日に発生し、後世『五十型液晶モニター損壊事故』と称されたこの事件はそのスケールの小ささも然ることながら、原因の阿呆らしさも相まって人々の耳目に上ることはほとんどなかった。ただ、一応は新聞のベタ記事に掲載されたらしい。

 ちなみにこの液晶モニターは4K未対応の旧モデルで減価償却も済んでおり、廃棄を待つばかりの物をリサイクルしていたので損害としては計上されなかった。

 とは言え、ロボット台車やリモートカメラ、最新のデジタル通信機器や秘密保持のための自己破壊装置、エトセトラエトセトラ。合計すると一千万円以上の機材がパーになってしまった。

 だが、人命には変えられないという事で誰も責めを負うことはなかった。

 

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