Battle of the Islands ~島の戦い~   作:スカツド

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第11話 死ぬにはもってこいの日

日本標準時 八月五日 午後一時十二分 〒100-0014 東京都千代田区永田町1丁目7ー1 国会議事堂 衆議院

 

 日本の国会には衆議院と参議院の二院がある。国会議事堂を正面から見た時、向かって右側にあるのが参議院。左側にあるのが衆議院だ。

 これって意外と知らない人が多いのではなかろうか。まあ、国会議員なら誰でも知っている一般常識なんだけどな。太田総理は誰に言うともなく心の中で呟いた。

 

 八月二日の事件…… じゃなかった、事故扱いになった例の一件の衝撃は早くも人々の記憶から忘れ去られてしまった。代わって今、人々の興味を引いているのは夏コミの事だ。なにせ今年は海外からの参加者が大挙して押し寄せて来るのが確定している。その受け入れ体制を整えるため、関係各所は猫の手も借りたいくらいの大忙しなのだ。

 まあ、本当に貸してくれてもありがた迷惑なんだけれども。

 

 そんな風に日本中の耳目が夏コミに集まっている最中。まるで火事場泥棒が隙を狙うかの様にロリーダ駆除作戦が決行された。

 日本国はロリーダを主権国家として認めていない。って言うか、そもそもロリーダ人を人間として認めていない。だから国会承認なんて必要が無いのだ。

 

 まずは、農林水産大臣がロリーダの存在は日本の生命や財産に重大な害を及ぼす可能性が高いと判断した。

 続いて『鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律』に基づいて現場に最も近い行政機関である市町村が野生鳥獣に対する様々な被害防止のための活動を実施する。

 その際、ロリーダが日本国外であることは問題とされなかった。なぜならばロリーダの領有権を主張する『人間』はいなかったからだ。この様な土地を無主地と言う。

 日本が勝手にロリーダを駆除して良いのか悪いのかは一先ず置いておくとして、もし悪いとしたところで文句を言う権利のある奴がいないんだからしょうがないのだ。

 

 まずは長射程ミサイルによる先制生物兵器攻撃が敢行される。

 イプシロンロケットを転用した長距離弾道弾は八千キロもの距離をニ十分で飛翔した。

 千五百キロものペイロードを利用して五十キロに小分けされた十数発もの炭疽菌弾頭がロリーダの首都ダロアスネを始めとする大都市に降り注ぐ。

 事前の気象観測データによる計算通り、炭疽菌は風に乗って適度に街中に拡散した。数日を経ずして数百万ものロリーダ人が命を落とす。

 だが、それが遥か彼方のニホンによる攻撃だと気付く者は誰一人としていなかった。

 

 

 

 続いて日本が行ったのはロリスアを無視してロリーダの首都ダロアスネの空爆を行う事だった。

 自衛隊が害獣駆除に協力することは決して珍しくはない。古くは空自のF-86Fがトド退治に機銃掃射したことがあった。近年でもエゾシカ退治などで活躍している。湾岸ゴミ処理場で大量発生したネズミやハエ、ゴキブリを駆除した時など火炎放射器で焼き払ったんだそうな。まさにリアル『汚物は消毒!』だ。自生していた芥子(ケシ)を焼き払った事すらあったそうな。

 

 炭疽菌の無差別攻撃によって都市部住民の約半数を失ったロリーダは混乱の極みにあり、既に組織的な抵抗力を失っていた。

 そこで太平洋戦争におけるドーリットル空襲の様に初手から首都を直接攻撃することが計画されたのだ。これによりロリーダは残存戦力を本土防衛に振り向けざるを得なくなり、ロリスアに展開する余力は無くなるだろう。

 作戦には海上自衛隊の保有する全てのヘリコプター搭載護衛艦が動員され、露天にまでF-35Bが搭載された。

 

 ロリーダ側の哨戒艦は発見されるや否や遠距離から対艦ミサイル攻撃を受けて次々と沈んで行く。予め強力な電波妨害を掛けているので万一にも通報される心配は無い。

 海自の攻撃艦隊は白昼堂々とダロアスネに接近すると攻撃部隊を次々と発艦させた。

 

 

 

 そしていよいよ本拠地、首都ダロアスネで迎えた日ロリ決戦。

 先発のガーラ-ゼラ要撃機による邀撃がまさかの大失敗、頼みとしていた中距離空対空ミサイルも勢いを見せず惨敗だった。

 第一執政官官邸に響く民衆のため息、どこからか聞こえる「ロリーダもお終いだな」の声。

 無言で逃亡を始める兵士達の中、第一執政官アクリギス-ラ-メカスシは独り執務室で泣いていた。

 元老院で手にした栄冠、喜び、感動、そして何より信頼できる元老議員……

 それを今のロリーダで得ることは殆ど不可能と言ってよかった。

『どうすれバインダ~!』メカスシは悔し涙を流し続けた。

 どれくらい経ったろうか、メカスシははっと目覚めた。

 どうやら泣き疲れて眠ってしまったようだ、冷たい執務机の感覚が現実に引き戻した。

「やれやれ、帰って演説の原稿を書かなくちゃな」メカスシは苦笑しながら呟いた。

 立ち上がって伸びをした時、メカスシはふと気付いた

「あれ……? 国民がいる……?」

 執務室から飛び出したメカスシが目にしたのは広場を埋めつくさんばかりの国民だった。

 千切れそうなほどに国旗が振られ、地鳴りのようにロリーダの国歌が響いていた。

 どういうことか分からずに呆然とするメカスシの背中に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「メカスシ、演説だ、早く行くぞ」

声の方に振り返ったメカスシは目を疑った。

「ラ、ラファエナス?」

「なんだメカスシ、居眠りでもしてたのか?」

「ド、ドクグラム?」

「なんだ、メカスシ。かってにラードナを引退させやがって」

「カディス……」

 メカスシは半分パニックになりながらスコアボードを見上げた

1番:トーロ大佐 2番:ヨーバ大佐 3番:ランパス中佐 4番:フルジョス司令 5番:ナスティファ中将 6番:内川 7番:ンヴァ提督 8番:ラグス大将 9番:メルロス議員

暫時、唖然としていたメカスシだったが、全てを理解した時、もはや彼の心には雲ひとつ無かった

「勝つる…… 勝つるんだ!」

ナスベルセ長官から演説原稿を受け取り、議事堂へ全力疾走するメカスシ、その目に光る涙は悔しさとは無縁のものだった……

 

翌日、ベンチで冷たくなっている内川が発見され、吉村と村田は病院内で静かに息を引き取った。

 

 

 

ローリダ標準時 八月十五日 午前六時十七分 ロリーダ南東 ラルトダント空軍基地

 

 大きなカマボコ型の格納庫から四発の重爆撃機が牽引されて出てくる。ギラギラと太陽光を反射するのは無塗装のジュラルミン製の機体が故だ。核爆弾を投下する爆撃機は熱線を反射するように白っぽく塗られている事が多い。だが、銀ピカの方が反射率は高いだろう。それにペンキ代だって節約できるし。

 ワイドボディの機体の中央に位置する巨大な爆弾倉の中には重そうな太っちょ(ファットマン)の爆弾が搭載されている。

 

 ロリーダ戦略空軍の第871爆撃隊所属、ドロム-775戦略爆撃機『エライ-ヴァノ』は今や風前の灯火となったロリーダにおける最後の希望の灯火だった。

 思い起こせば僅か二週間前、突如として都市部で謎の病気が蔓延。瞬く間に国民の半数を死に至らしめたのだ。

 その混乱を突くかの様にニホン軍が首都を空爆した。空軍と海軍の全ては文字通りの壊滅状態。陸軍も指揮系統をズタズタにされて組織的な行動は最早不可能だ。

 

 だが、ロリーダには未だ反撃手段が残されている。この『神の火』と超重爆撃機『エライ-ヴァノ』が奥の手と言うか切り札と言うか。とにもかくにもそんな奴なのだ。

 

 戦略空軍司令部は飛行隊長シルセス-ボ-ゲ-ミルカス大佐と愉快な仲間たち、そして戦略空軍で唯一飛行可能な爆撃機に全てを委ねようとしていた。

 

 串形に配置された四基の空冷エンジンがマグネシウム製ターボチャージャーの力を借りてオーバーヒート寸前にまでブン回される。六翅の二重反転プロペラが千切れんばかりにフル回転した。

 さらに、ロケット補助推進離陸(RATO)がエライ-ヴァノの巨体を強引に加速する。

 だが、巨大な爆弾と満載した燃料はとっても重い。とてつもなく重い。長い長い滑走路をフルに使ってエライ-ヴァノはどうにかこうにか離陸に成功した。

 

 

 

 雲の上にまでエライ-ヴァノが上昇したところでミルカス機長はオートパイロットを作動させた。後は目的地に着くまでぼぉ~っと雲でも眺めているだけの簡単なお仕事だ。

 

「頼みがあるんだが、着くまで起こさないでくれ。死ぬほど疲れているんだ」

「はい、機長。喜んで!」

 

 ミルカス機長は副操縦士に一声掛けるとアイマスクをして仮眠を取った。

 

 

 

ロリーダ標準時 八月十五日 午前六時四十五分 首都ダロアスネ 第一執政官官邸

 

「たったいま連絡が入りました。『キサラズ』は定刻通りに発進完了です」

「……」

 

 へんじがない、ただのしかばねのようだ。

 この報告が届く少し前、第一執政官メカスシは原因不明の病気で息を引き取っていた。

 代わって報告を受けたのは数少ない元老議員の生き残りラードナだ。

 

「目標到達は何時ごろの予定だ?」

「さ、さあ…… 風向きとかにも寄るんじゃないですかね?」

「大体で良い。大体ですら分からんのか?」

「六時間くらいじゃないでしょうか? 多分ですけど」

 

 空軍の連絡将校が卑屈な笑みを浮かべながら左手を開き、右手の人差し指を立てる。

 別に指で示さなくても六って数字くらい分かるんですけど。ラードナはちょっとだけイラっときた。

 

「ってことは、ひい、ふう、みい…… お昼ご飯を食べ終わる頃にはニホンは焼け野原になっているわけだ。勝つる! これで勝つるぞ!」

「いやいや、ニホンにはダロアスネより大きな都市だけでも十以上はあるそうですよ。その中の一つを焼いたくらいで勝てたら苦労はしませんよ。むしろ酷い反撃を受けそうなんですけど?」

「そ、それもそうだな…… ちなみにニホンの『仏の雷』っていうのが何なのか情報は無いのかな?」

「さ、さあ。何なんでしょうねえ。もしかして『神の火』を超える威力を持っていたらそれこそロリーダはお終いですよね」

 

 他人事みたいな顔をした連絡将校は人を小馬鹿にした様な薄ら笑いを浮かべる。まあ、本当に他人事なんだけれども。

 

「だ、だよなぁ~!」

 

 言われてみればそうかも知れんな。もしそんなことになったらそれこそロリーダ最後の日だぞ。

 まあ、今更そんな事を考えてもしょうがない。なんくるないさぁ~! ラードナは頭を軽く振って嫌な考えを頭から追い払った。

 

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