Battle of the Islands ~島の戦い~   作:スカツド

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第2話 バカが戦車でやって来る ヤァ! ヤァ! ヤァ!

ロリスア標準時 七月二十七日 午前十時三十七分

ノドヌール首都チビル ロリーダ民主主義人民共和国植民地ノドヌール総督府

 

『視聴者の皆様。今まさにニホンからの使者がヨン-スレグに記念すべき第一歩を踏み出そうとしております。これは一人の人間にとっては小さな一歩ですが、我々ロリーダにとっては偉大な飛躍であると申せましょう。ニホンは遅まきながら我が軍の実力にようやく気付き、使節団を派遣して参りました。いやあ、お陰でこっちから行かないで済みましたねえ。良かった良かった、本当に良かった。感謝感激雨あられですねえ』

 

 国営TVの中継放送にはC-17輸送機の機体後部が大写しになる。ゆっくりとカーゴドアが下方に開く。そこから姿を現したのは…… 16式機動戦闘車だった!

 

「な、な、なんじゃ、ありゃあ~? 戦車やないかいな! 外交交渉にあんな物で乗り付けてくるとは情緒も糞も無い野蛮人だな……」

 

 ロリーダ民主主義人民共和国(自称)の元老議員ラードナの寸評は遠慮会釈の欠片も無い。まあ、全く持って本当のことなので仕方が無いんだけれども。

 

「いやいや、アレには履帯が付いておりませんぞ」

「ほな、それは戦車とちゃうで。戦車には履帯が付いてないとあかんからなあ」

「そやけどアレには旋回砲塔が付いとるようやけどなあ」

「やったら、それは戦車やないかいな! それは戦車やで!」

「そやけど……」

 

 そんな阿呆な遣り取りをしながらもラードナはノドヌール総督の執務室から市街を見下ろす。

 大塚家具で売っているような豪華なソファーに深々と腰を掛けた彼女は普段は飲めないような高級酒をラッパ飲みしていた。

 何せ出張中の飲食代は議員の経費で落とせるらしい。この機会に高い酒を片っ端から飲み尽くそうというさもしい腹積もりなのだ。

 

「議員殿におかれましては随分と辛口の評価にございますな。まあ、あんな人間モドキみたいな連中を相手に交渉というか何というか…… アレをアレしないといけないんですから。まあ、アレをアレして下さりませ」

 

 ラードナと向かい合わせのソファーに沈み込むように深く座った赤髪ロン毛の青年が人を小馬鹿にしたような薄ら笑いを浮かべる。名前は植民地ノドヌール総督スルデフ-カリ-メディチという。

 

「全知全能たる議員閣下にあらせられましては、此度の評定において確固たる見通しと言うか目処と言うか…… 要するに何かお考えがおありなのでしょうかな? もし宜しければ後学の為、ご教授賜りたく存じ上げ奉りまする」

「か、考え?! 考えねえ……」

 

 飲みすぎで頭の回らないラードナは考える、考える、考える…… ポク、ポク、ポク、チ~~~ン! しかし何も思いつかなかった!

 阿呆だと思われたら嫌だなあ。ラードナは照れ隠しに卑屈な笑みを浮かべる。

 

「見通しとは同じレベルの者同士の時に立てる物なんじゃないのかなあ? ん!? 間違ったかな…… とにもかくにも今までの交渉で私は事前の見通しなんて立てたことが無いのが自慢でな。出たとこ勝負のアドリブ合戦。なんくるないさぁ~!」

「…………」

 

 真面目に相手をするのが阿呆らしくなったんだろうか。メディチは黙って空になったボトルを片付けると新しい酒瓶を差し出した。

 

「で…… その出たとこ勝負のアドリブ合戦のようなものは夕方までに終るのでしょうか?」

「えっ? 気になるのはそこ?」

「歯医者の予約をしておりましてな。ヌガーを食べたら奥歯の詰め物が取れちゃったんです。ヌガーだけに『ヌガー!』ってなりましたよ」

 

 ラードナは吹き出しそうになったが奥歯を噛み締めて必死に我慢する。こんな阿呆な駄洒落で笑うなんてプライドが許さない。許さないのだが…… 我慢すれば我慢するほど反って下らなさが面白く感じてしまうのは何故なのだろうか。遂には我慢の限界を超えて大爆笑してしまった。

 

「うひゃひゃひゃひゃ、げはははは、うぴょぴょぴょぴょ、ぷぅ~くすくす……」

 

 ラードナが腹を抱えて大笑いし、メディチは『勝ったな!』といったドヤ顔を浮かべる。

 

 コン、コン、コン、コン。その時、歴史が動いた!

 誰かがドアを四回ノックし、会場が準備できたことを告げたのだ。

 泣いても笑っても交渉の刻限は一時間後…… 空になった酒瓶を弄びながらラードナは念の為に議員歳費規程を見直す。

 

 どれどれ、えぇ~っと…… 議員が国政に関する調査研究その他の会議に伴う飲食経費を要した時(一人当たり 五千デュールを超える場合)参加費、資料代、交通費等、宿泊費、食事代等、云々かんぬん(死語)……

 アレ? もしかして五千デュールまでしか経費で落ちないってことなのかな。いやいや、そんな馬鹿な話があるか。もっとちゃんと読めば……

 

『議員の業務に関係ない飲み代は経費になりません……』

 

「な、なんだってぇ~っ! そんな阿呆なぁ~っ!」

 ラードナの絶叫がノドヌール総督の執務室に響き渡り、メディチは迷惑そうに顔を顰めた。

 

 

 

 一方そのころ、基地に帰還したヨーバ大佐はモブの空軍中将にたった今、見てきたことを報告していた。報告していたのだが…… 信じて貰えなかった!

 

「ですからニホンの戦闘機と思しき機体はガーラ-ゼラを圧倒する加速力と上昇力を持っていたのです。お願いですから信じて下さいな。騙されたと思って。ね? ね? ね?」

「いやいやいや、騙されちゃいかんだろうに。もしかして君は仕事のし過ぎで頭がちょっとおかしくなってるんじゃないのかね?」

「そもそも君が謎の戦闘機を見たという時間、基地のレーダーは何一つとして不審な物体を捉えていないんだよ」

「でぇ~すぅ~かぁ~らぁ~~~! それが大問題なんですよ。レーダーに映らない敵とどうやって戦えば良いんですか? ミサイルだって当たらない。そもそも見付けることすらできない。一方的に殺られちゃいますよ」

 

 ガンカメラで撮影しなかったのは失敗だったなあ。ヨーバ大佐は今ごろになって激しい後悔の念に襲われる。だが、後悔先に立たずとはこのことだ。

 

「とにもかくにもヨーバ君、レーダーに映らない敵なんて存在しないのと同じことだろ? 恐るに足らずだよ」

「いやいや、そこは『恐れるに足らず』でしょう?」

「文語形の慣用句だから『恐るるに足らず』が正しいんじゃないですかね?」

 

 あっという間に将軍たちの興味は別のことに移ってしまう。ヨーバ大佐は小さくため息をつくと黙って部屋を後にした。

 

 

 

ロリスア標準時 七月二十七日 午前十時三十八分

ノドヌール首都チビル郊外 ヨン-スレグ空軍基地

 

 金田課長と安村事務官は操縦席を後にすると96式装輪装甲車へと乗り込んだ。車内で待っていた車長に言われるがままに後部乗員席にある左右向かい合わせの四人掛けベンチシートに座る。

 まずは自動小銃を構えた普通科隊員が周辺を警戒しながらC-17輸送機から飛び出すように展開した。

 一通りの安全確認が済むと続いて16式機動戦闘車がゆっくりと降りる。暫しの時間を置いてようやく金田課長や安村事務官たちを乗せた96式装輪装甲車がC-17輸送機から外へ出た。

 急傾斜のカーゴドアから道路に降りた途端、装甲車を正体不明の衝撃が襲う。

 何だか知らんけど道が悪いなあ。これって凸凹しているんだろうか? いや、ゴツゴツとは違うな。どっちかって言うと『うわんうわん』といった感じの気持ち悪さだ。たぶん舗装の質が悪いんだろうなあ。いや、もしかしてC-17の余りの重量で誘導路が凹んじゃったのかしらん。金田課長は陸自の運転手さんに頼んでなるべくゆっくり走って貰う。

 

 道路の両側にはロリーダのマスコミ関係者と思しき人たちが鈴なりになっていた。

 

「侵略によって得た西ロリスアから撤退する意思はあるのか?」

「リュグエラルト号を拿捕、拘束し続けているのは何故か?」

「国防軍医務部隊を虐殺したのはニホンの軍隊なのか?」

 

 沿道の記者と思しき人たちが次々と疑問を投げ掛ける。だが、96式装輪装甲車の車内は非常に騒がしい。それに分厚い装甲に阻まれているので外の声は中までは届かない。仮に届いたとしてもロリーダ語なんて誰一人として分からない。これぞ正に馬耳東風そのものであった。

 

 16式機動戦闘車を先頭に二両の96式装輪装甲車は時速百キロ近い猛スピードで疾走する。凸凹道を進むこと暫し。戦闘車は妙ちきりんな建物の前で急停車した。

 装甲車の車体後方にある右開きドアを備えたランプがゆっくりと外向きに開いて行く。またもや自動小銃を構えた普通科の隊員が飛び出すように展開する。

 たっぷり時間を掛けた安全確認が済むとようやく金田課長と安村事務官に降車の許可が下りた。

 二人が後部ランプを歩いて降りると何とも妙ちきりんな格好をした中年男性が立っていた。

 

「◎△$♪×¥●&%#?!、○!※□◇#△!。○▼※△☆▲※◎★●!?、○×△☆♯♭●□▲★※▲☆=¥!>♂×&◎♯£!」

 

 わ、わけがわからないよ…… 安村事務官は慌てて自動翻訳機のスウィッチを入れる。

 

「すみません、もういっぺん言って貰えますか?」

「貴殿らの警護を仕りますシュレディンガー大尉であります。以後お見知りおきのほどを」

「いや、あの、その…… 有り難いことですが『この国にも警察があってね。もっとも、より優雅に衛士と呼んでいるがね』なんですよ。せっかくですけど今回は遠慮しておきますね」

「そ、そうですか。まあ、こちらはいつでも待機していますので御用の節はご遠慮なく申し出て下さいね。すぐにでもすっ飛んできますんで。どうぞよろしく」

 

 ナントカ大尉はスゴスゴと引き下がった。と思いきや半笑いを浮かべながら戻ってくる。

 

「取り敢えず控室にご案内を致します。こちらへどうぞ。ささ、こちらです」

 

 金田課長、安村事務官、完全武装の普通科二個分隊はナントカ大尉の後ろに金魚の糞みたいにくっついて歩いて行った。

 

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