Battle of the Islands ~島の戦い~   作:スカツド

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第3話 カンバセーション…… 盗聴……

ロリスア標準時 七月二十七日 午前十一時三十分

ノドヌール首都チビル郊外 ロリーダ植民地駐留軍司令部

 

 金田課長たちが通されたのは一階奥の狭っ苦しい部屋だった。いや、人数が少なければこんな物でも十分に広かったのだろう。だが、完全武装の普通科二個分隊まで一緒に入ると圧迫感が物凄いのだ。

 勘弁して欲しいぞ、全くもう。安村事務官は苦虫を噛み潰す。

 

 案内された室内にはIKEAで売っていそうな机や椅子が並び、それなりに小綺麗に掃除されているようだ。

 唐突に金田課長が人差し指で机の上をツーっと擦ると眼前に持って行ってまじまじと観察する。ドラマなんかで良く見掛ける『嫁の前で姑が(ほこり)をチェック』するシーンだ。

 結果はどうだったんだろう。金田課長は不満そうに小さく鼻を鳴らすと指先にふっと息を吹きかけた。

 

「さて、金田課長。今からちょっと予習を……」

「ちょっと待って、ヤス君。この部屋はたぶん盗聴されてるわ」

「そうかも知れませんね。そうじゃないかも知らんけど。でも、確認もせずに何でそう言い切れるんですか?」

「交渉相手をホームグラウンドに呼んで置いて盗聴しない奴なんているわけがないでしょうに。そんな阿呆が交渉相手だったら最初から苦労していないわよ」

 

 何の根拠も無いじゃんかよ。まあ、課長がそう思うんならそうなんだろう。課長の中ではね。安村事務官は小さく舌打ちをした。

 

「まあ、そもそも連中に日本語が分かるとは思えないんだけれどね。とは言え、何の盗聴対策もしていないと阿呆だと思われるかも知れないでしょう? 遣り方は私に任せて頂戴な」

 

 まずはバッグからタブレットを取り出すとメディアプレイヤーを立ち上げる。

 待つこと暫し。スピーカーから般若心経が大音量で流れ出した。金田課長がこれ以上は無いといったドヤ顔を浮かべる。

 安村事務官は口をぽか~んと開けて呆けるのみだ。

 だが、彼女の手は止まることがない。今度はスマホを取り出すと同じように操作して古典落語メドレーを再生した。金田課長のドヤ顔は最高潮だ。

 それに比べて二個分隊の普通科隊員たちはこの上もなく迷惑そうな顔をしている。

 

 部屋中が喧騒に包まれるのを待って二人はインカムを付けた。マイクはドイツ戦車兵が使っているような咽喉式だ。これならば周囲の騒音に構わず会話することができるだろう。

 

「そんじゃあ予習を始めますよ、金田課長。まず、我々の目的は何でしょうか? シンキングターイム!」

「流石の私だってそれくらいのことは知ってるよ。時間稼ぎなんでしょう? だよねえ?」

「正解です。だけど何であんな奴ら相手に時間稼ぎしなきゃならないか、ちゃんと分かってますか?」

「それは連中が核兵器を持ってるからだよね? 核兵器に対抗するには核兵器? 日本では今、大急ぎで核兵器を作ってるんじゃなかったかなあ?」

 

 金田課長の言葉は徹頭徹尾に疑問系だ。もし間違ったことを言った時の予防線でも張っているつもりなんだろうか。安村事務官はちょっとイラっときたが強靭な忍耐力でもってそれを抑え込む。

 

「半分正解といったところですかねえ。まあ、実際には核兵器以外のオプションも同時並行で動いてるんですよ。たった一つに全てを賭けるのはリスクが大きすぎますから。文部科学省が核開発。厚生労働省が生物兵器開発。農林水産省が化学兵器開発を担当しています。ちなみに本命はロリーダ人だけを選択的に死に至らしめるウィルスの開発です。グリュトラエル号を拿捕したのだって本当は人体実験に使うためのロリーダ人が欲しかっただけなんですよ。だからロリスア人は『放してやったよ(笑)』なんですから」

「へぇ~! へぇ~! へぇ~! へぇ~!」

「細菌兵器は上手く行けば一番コストパフォーマンスが良いですからねえ。ただし早くても半年。場合によっては二年くらい掛かるかも知れないって言われています。次善の策は神経ガスと炭疽菌のコンビネーションですね。これもかなりコストパフォーマンスに優れています」

「私、良く知ってるよ。なんせ生物学専攻だったんだもん。とあるWHOの推計によれば五十キロの炭疽菌を都市に散布すれば場合にもよるけど三万六千人くらいを殺傷し、五万四千人を無能力化できるんだってさ」

「そんな物では済みませんよ、課長。別の計算例ですけどハワイのオアフ島で南風が吹いているタイミングを狙って胞子状の炭疽菌を五十キロ散布した場合の推計があります。これだと人口八十三万六千人のうち五十万人が炭疽菌に晒され、二十二万人くらいを殺せるんだそうです。しかも炭疽菌は土中で半永久的に生存し続けます。ロリーダは生命の生存に適さない環境になることでしょう。これぞ正に『ロリーダ人問題の最終的解決』ですね」

 

 聞くだけでも悍ましい民族浄化プランを二人は心底から楽しげに語る。こいつらマジもんのサイコパスじゃなかろうか。側で話を聞かされる普通科隊員たちはげんなりした顔だ。

 

「さて、話を戻しましょうか。そんなわけで生物兵器が完成するまでロリーダとの開戦を引き伸ばすというのがプランAです。しかし、残念ながら敵はそこまで悠長に待ってくれそうにありません。どんなに引き伸ばしても年内開戦は不可避というのが政府見解なんですよ。そこでプランBの出番です。和平交渉で安心させながら奇襲攻撃しちゃうんです」

「真珠湾奇襲攻撃の再来ね。あの時は現地大使館の失態で宣戦布告が二時間遅れたのよ。まあ、戦線布告は必須じゃないんだから国際法的には問題無いんだけれど」

「とは言え、不戦条約に違反してるんだから戦争その物が問題なんですけどね。まあ、そんな昔の話はこの際どうでも良いですよ。我々、日本国はこの異世界を旧世界とは別の場所と認識しています。だからどんなに人間に似ていようがロリーダ人は人間では無い。人間に災いをもたらす害獣って扱いなんですよ」

「うぅ~ん、だから侵略的外来種に指定された駆除対象でしか無いわけね。分かったような分からんような。まあ、どうせあと何年かしたら『絶滅した動物一覧』に載るような奴らよ。気楽に行きましょう。なんくるないさぁ~!」

 

 そんな阿呆な話が終わるのを待っていたように例のナントカ大尉が部屋を訪れた。

 いや、本当に待っていたのかも知れないな。安村事務官は警戒感を新たにする。

 

「大変長らくお待たせ致しました。会場の準備が整いましたのでニホンの皆様方におかれましては移動をお願いいたします」

 

 ナントカ大尉の声は何とはなしに不満そうだった。

 

 

 

 そのころ、執務室に集うロリーダ人たちは頭を抱え込んで唸っていた。

 

「残念ながら蛮族どもの言葉は一言たりともさぱ~り分かりませんでした。そもそも何でこんな簡単なことに誰も気付かなかったんでしょうねえ?」

 

 連絡士官が人を小馬鹿にしたような薄ら笑いを浮かべる。ノドヌール駐留軍総司令官ルターナ-ラ-フェ-スラグ大将はイラッときたが阿呆だと思われるのも真っ平御免の助なので黙っていた。

 

「シュレディンガー、役に立たん奴。蛮族が何を話しているのか盗み聞きするだけの簡単なお仕事すら熟せんとはなあ」

「まさかとは思うけど盗聴してるのがバレたんじゃなかろうな?」

「まあ、ちょっと考えれば誰でも思い付くことだもんなあ」

「意外と手間取るな」

「我々に楽な仕事はありませんよ」

 

 情報部長のクルヴァ-ルサ-スレディ中将は偶然にも『THE END OF EVANGELION』で戦略自衛隊の副官が言ったセリフを喋ってしまう。だが、そんなことに気付く者はその場に誰一人としていなかった。

 

 慌てふためく男性陣を他所にラードナは相変わらず酒をガブ飲みしている。

 それと言うのもメディチが取って置きのナイスアイディアを教えてくれたからだ。

 

『ニホンの代表団を接待するために酒を出したことにすれば良いんですよ』

 

 領収書の宛名を書き直して貰ったラードナに取って恐れる物はもはや何もない。

 

「連中が何をどうしようと知ったこっちゃない。なんでかっていうと……」

 

 男性陣の目が酔っ払って管を巻く一人の女に集中する。

 

「出たとこ勝負のアドリブ合戦! なんくるないさぁ~! きゃはははは!!!」

 

 ラードナの嬌声がさほど広くもない室内に響き渡る。これだから酔っぱらいは嫌なんだよなあ。男たちは黙って視線を反らせた。

 

 

 

 待つこと暫し。のこのことシュレディンガー大尉が戻ってくる。

 

「大変長らくお待たせ致しました、議員閣下。やれるだけはやったんですが力及ばず申し訳次第もござりません」

「シュレディンガー大尉」

 

 突如としてラードナに話しかけられたシュレディンガーは怪訝な顔で振り返る。

 

「はぃぃ?」

「これは私の機関の仕事です。貴官は兵隊を必要な時に動かして下さればよい。もちろん私が政府の密命を受けていることもお忘れなく」

 

 ラードナもまた、偶然にもムスカ大佐と同じセリフを喋ってしまった。

 

 

 

 退出するシュレディンガー大尉を見送ったラードナは新たな酒瓶を明けながら呂律の回らない口調で語り掛ける。

 

「無事にこの交渉が終ったら一杯やりましょう」

「そ、そうですね。無事に終わったらね……」

 

 苦虫を噛み潰したような顔のファナティスは誰にも聞こえないくらい小さなため息をついた。

 

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