「う~ん…?なぁんでこの人達……を……事が…ないんですかねぇ……?」
ゆっくりと覚醒する意識の中で、優里は聞き覚えのある声を耳にした。
(えっと…確か私は修了式の日、瑠花と一緒に帰ってて…その途中の信号で…)
「って、そうだ!私事故に巻き込まれたんだわ!!」
「ピャア゚ーッ!?!?」
勢い良く起き上がった優里の目の前には、それはもうとてつもなく胡散臭い、目深に被ったシルクハットで顔を隠した男がいた。もう一度言う。とてつもなく胡散臭い男が、横たわっている優里、瑠花、瑞輝、葵の周囲を、何かブツブツと呟きながら歩き回っていた。優里が勢い良く飛び起きた事で、彼の足は止まったが。ついでに言うと、男の絶叫によって優里以外の3人も飛び起きた。瑠花はまだ眠そうだ。
「もうっ!驚かさないでください!!脇腹から
「………」
「あっ、そんな冷めた目で見ないでください本当に。悲しくなっちゃいます……って、そうじゃなくてですね」
大袈裟に悲しむフリをした後、男はキョロキョロと周囲を見渡して、近くに誰もいないことを確かめてから、再び口を開いた。
「あの、貴方達、まだ死んでませんよね?って言うか誰ですか?どうやってここに来たんですか?最後の記憶は?まさか、突然何もないところから電車が現れてそれに轢かれた、なんて言いませんよね!?」
「五月蠅いよ不審者。一気に聞かれても分かる訳ないじゃん。一個ずつ聞けよ。その口縫い合わせんぞ?」
「瑠花、落ち着いて。一つずつ整理して答えよ?不審者さんもそれで良いですよね?」
「不審者呼び定着させないで頂けますぅ!?」
余談だが、寝起きの瑠花はいつにもまして機嫌が悪い。修学旅行で一緒の部屋で寝泊まりした生徒からは、『魔王』と呼ばれたくらい、寝起きの彼女の言動は恐ろしかった。一例を挙げると、周囲の人間が騒がしい時、普段なら「勉強に集中したいからもう少し声量落としてもらえる?」と頼むのだが、寝起きだと「五月蠅いなぁ…喉潰して喋れなくしてやろうか……」と、それはもう女性とは思えない程低い声で言うのだ。
話が逸れた。とにかく、そんな彼女は今起きたばかりで機嫌が悪く、更に目が覚めれば見知らぬ場所にいて、そして目の前にはどう見ても不審者にしか見えない男。しかも瑠花と優里は事故に巻き込まれているのだ。普通、目が覚めたら病院だと思うだろう。なのに、そこはどう考えても病院ではない。見渡す限り、講堂と呼ぶのが相応しい場所だ。
「あのー…ちょっと良いすか?」
「あ、はい。どうしました?」
優里が瑠花を宥めている間に、すっかり心を折られた男に葵は話し掛けた。先程の男の言葉の中に、引っ掛かるものがあったからだ。
「とりあえず…あの女の子も状況が理解できなくて混乱してるだけかも知れませんし、貴方も不審者って呼ばれたくないでしょうし…自己紹介しませんか?正直、俺も混乱してますが、情報があれば少しは落ち着いて物を考えられます」
「自己紹介しましょう!ほら、貴方もそんな部屋の隅で蹲ってないでこちらへどうぞ!」
「小生は空気、小生は空気……あっちょ葵氏引っ張らないでっ…!!」