「じゃあ、言い出しっぺの俺から……俺は朝比奈葵。ここに来る前、最後にしてた事は…木陰に座って本を読んでたな。だから間違っても死んだとは思えない。来た方法は思い当たる節がない訳じゃないが…話すと長くなりそうだから、割愛させてもらうぞ」
「ほえ~…あ、次私?オッケーですです。えーと、名前は辻優里。最後の記憶はアレですね、信号待ちで事故に巻き込まれたとか言うテンプレ。しかも横転したトラックに押し潰されそうになった記憶があるんで、死んでてもおかしくないかなぁ…来た方法はさっぱり。以上です。ほら、瑠花も自己紹介しなって」
「はいはい…私、葉月瑠花。殆ど優里と一緒かな。けど、あんまり役立ちそうな情報、私達は持ってないと思う。」
「………」
「あー…コイツは俺が紹介するよ。彼は黒野瑞輝。俺が本読んでた時、隣にいた。来た方法も多分一緒だな」
「成程成程、貴方達は二人ずつ纏まって行動してたんですね?では、改めまして、私も自己紹介を…私、怪異の怪人アンサーと申します。質問等はアオイくんの、"ここに来た方法の心当たり"について聞いた後で受け付けますね」
葵が"心当たり"について話し始めると同時に、アンサーは心の中で盛大に溜息を吐いた。葵が「心当たりがある」と言った時から、何となく予想はしていたし、出来ることなら今すぐにでもこの場を離れ、古くからの友に詰め寄りたかった。どうして私の仕事を増やすんだ!?と…怪異としての生を受け、数百年。まだ生きている人間がここに来るのは、そう珍しい事ではなかった。80年に一回は彼が"ミス"で生者を連れて来る。が、当時のアンサーは忙しかったため、衣食住こそ提供したものの、その後の彼等がどうなったかは知らない。教頭や保険医の彼等ならば、知っているだろう。しかし、生者がコチラに来るのはほんの数回ではないし、幾度も対応を繰り返していては、疲れてしまう。だが、どんなに疲れていても。どれだけ逃げ出したくても。彼はまた、笑って生者を受け入れる。紳士として、教育者として、怪異として…完璧でなければならないと、彼が、自身さえ理解しえない心の奥底で、自身を縛りつけているから。
「何もないところから列車が出て来るとか…ええ、完全に猿夢くんの所為みたいですし、コチラに落ち度がありますね……とりあえず帰るまでの期間、衣食住その他諸々保証させてください」
「ここはアンダーランド。地下の国であり、怪異の国。怪異と言うのは、未練を残して死んだ人間と、物に意思が宿って生まれた、所謂付喪神、生まれつきそう言う…例えるなら、何でしょう…まぁ、居るんですよ。生まれた時から妖怪だったり、都市伝説だったりする方が。そんな方々の総称でして…ついでに言うなら、神もこの中に入ってますね。一言で表すと、この世界の住人の事です」
「次に、この学園についてお話ししますね。ここは怪異が集う学園です。厳密に言えば、怪異に成り立ての方々と、力を制御し切れない怪異が通う場所ですが…人間界で言うなら、高等学校辺りでしょうか」
「それから、怪異と言うのは、皆何かしら能力を持っています。元人間で未練のあった方は、その未練と強く結びつくような能力を。付喪神の方は、物であった頃の用途がそのまま能力になってます。後は…この世界で生まれた方。例を挙げると九尾くんなんかがそうですかねぇ。お察しいただけるかと思いますけど、火を操る能力ですよ。それから、猿夢くんもこちらですね。彼は応用を利かせて夢だけでなく、現実でも列車を走らせているようですが」
「保護するに当たって伝えておくべき事はこんなもんですかねぇ……ああそうだ、能力については私のものを一部お貸ししましょう。無能力者イコール生きている人間なので。因みに、学外でそれがバレたら…まぁ………怪異になるでしょうね、良くて天に昇るか地に堕ちるかです」
「え~っと…?つまり下手したら死ぬ、って認識で良いんすかね?」
「ええ、そうなりますね!」
「いや、そうじゃないでしょ」
口元にニッコリと笑みを浮かべて答えたアンサーの脇腹に、瑠花は堪らず肘を打ち込んだ。瑠花は変質者を見る目でアンサーを見ている。
実際、彼とは初対面だし、目が覚めたら見知らぬ場所にいるし、アンサー曰く知り合いの所為、らしいので、瑠花目線だと彼は誘拐犯なのである。
…瑠花以外は深く考えていないだけで、本来ならこの状況、アンサーを誘拐犯ないし変質者と考えるのが普通である。
「イタタ…分からない事でもありましたか?すみません、私の説明が至らない所為で…」
「分からないって言うより、信じられないでしょ。怪異って何、死んだ人間って。どう見ても生きてるじゃん。痛がってる辺り痛覚もあるっぽいし。って言うか触れた時点で幽霊じゃないし。そもそも今すぐ帰る方法とかないの?」
「んー…無い事は無いと思いますが、五体満足で帰れる確率は低いと思いますよ。リスクを冒すより、時間が掛かっても確実に帰れる方が良いですよね?前者の証明は…これで良いですか?」
アンサーが次に取った行動によって、部屋は絶叫に包まれた。苛立ち、額に青筋を浮かべていた瑠花でさえ叫んだ。無理もない。彼は自分の首を180°どころか360°ぐるりと回し、そのまま捩じ切ったのだから。捩じ切られ、片腕に抱えられた頭部は紅い血を滴らせながらニコリと笑う。
「どうでしょう!信じていただけましたか!?…あれ、皆さんどうして気絶してるんです?」
ところで、アンサーの思考は尋常ではない。怪異に成ってから永い時が経った事もある。それだけなら血を見た生者が気絶しても、理由をすぐに察する事が出来ただろう。しかし、彼にはそれが出来ない。当の昔、彼がまだ生きていた頃から、彼は普通ではなかったのだから。