「いや、マジでビックリしたよね…瑠花に信じてもらおうとするために首捩じ切るとか凄すぎて草」
(待って待って、優里氏って実は同志なのでは…?)
「草?…良く分かんないけど、安全な生活が確保されてるなら、私はそれで良いかなぁ…」
「2-2、2-2…ここだな。皆、着いたぞ。準備は出来たか?」
「出来てるよー」
2年2組の教室前、廊下にて。生者の四人は、アンサーから支給された教科書を詰めたバッグを持って立っていた。制服の指定がないため、昨日彼が慌てて買ってきた服に身を包みながらも、普段通りの雰囲気でいる。いつもと違うのは、それぞれ指輪やピアス等のアクセサリーを着けている事だろうか。言わずもがな、これもアンサーから支給されたものである。それは彼の力を、ほんの少しだけ込めて作られたもの。
優里には水を纏うブレスレットを。
瑠花には氷の宝石がついた指輪を。
瑞輝には火を閉じ込めた十字のネックレスを。
葵には風の声を聞くピアスを与えた。
それから、万が一の事を考えて、反射や防御の術が込められた、そんな、特製のアクセサリー。これを渡した後、アンサーは風のように走り去った。優里達が部屋にあると助かる物及び欲しい物を書いたメモを手にして、美術室へ走った。しかし、アクセサリーでさえ徹夜で作成していたのだから、そのまま眠りにつくのだろう。
それはさておき、優里達である。彼女達はアンサーから保護されるのに、二つの条件を言い渡された。
その条件とは、【楽しい学園生活を過ごす事】と【決して生者であると知られない事】である。
後者はともかく、前者については簡単であった。何故なら、彼等は元々高校生であり、学校生活には、慣れっこなのだ。つまり、生者である事がバレなければ良いだけの話。そうすれば、彼等の安全は確保される。
「それじゃ、開けるぞ」
葵が扉に手を掛けながら、言った。
「「うん」」
優里と瑠花が元気良く返事する中、瑞輝だけは黙ったまま俯いていた。
「どうした、瑞輝。具合でも悪いのか?」
心配になった葵が顔を覗き込むと、瑞輝は首を横に振りながら口を開いた。
「や…あの……葵氏は知ってますよね……小生がどれだけ…目立つのが嫌いか……」
「……まぁ、良く知ってる」
「瑞輝君…気持ちは分かる!すっごい分かる!!でも……慣れなきゃ……!」
「ぐぐぐ…し、しかし……優里氏……」
「まぁ、慣れって大事だよ。とりあえず朝比奈君の陰に隠れながらでも、慣らしたらどう?」
「全く、いつまで言ってても進まないだろ……」
三人がそうこうしている間に、ガラガラという音が聞こえてきた。優里と瑠花はハッとして顔を見合わせる。そして、急いで姿勢を正した。
扉が開いた瞬間、教室の中から高らかな声が響く。
「ハッハッハ!我が居城へ良くぞ参られた!!入るが良いぞ!!」
優里が先陣を切り、瑠花が続く。そして、瑞輝は葵の陰に隠れながら、そっと扉を閉めた。
「宜しいか汝ズ?汝ズに新しき級友が参りき。さぁ編入生ズ、我等に自己紹介すべし!」
教壇に立つ、紺色の髪の男が言う。どうやら、彼がこのクラスの担任の教師のようだ。
その言葉に従い、優里達は一歩前に出て挨拶を始めた。
「初めまして!私、辻優里です!!」
「私は葉月瑠花。よろしく」
優里と瑠花の明るい雰囲気に釣られて、クラス全体が明るくなる。そんな中、一人だけ暗いオーラを放つ少年がいた。瑞輝である。
(くぅ……何たる恥辱……)
葵の陰からチラリと顔を出し、辺りの様子を伺うが、生徒達の視線が突き刺さり、思わずまた隠れてしまう。
「どうも。俺は朝比奈葵だ。宜しく」
「エト…黒野瑞輝、デス…オナシャス……」
他の3人からの視線を受け、瑞輝は消え入りそうな声で何とか自分の名前を言い終えた。優里は、効果音が着きそうな程ニコニコと笑顔を浮かべている。まるで子の成長を見守る親のような表情だ。
「ハッハッハ!愉快なり、編入生ズ!!我が名はオーエン、この級の担任なり。して、汝ズの席は一番後ろ故、着座すべし」
オーエンの言葉に従って、4人はそれぞれの席に着いた。窓際の列から、優里、瑠花、葵、瑞輝の順に並んでいる。
全員が座ったのを確認すると、オーエンは満足気に微笑んだ後、口を開く。
「では、改めて……ようこそ、我等が学び舎へ。汝ズはこれから、ここで様々な事を学ぶであろう。共に切瑳琢磨せねばならぬ。故に、仲睦まじい関係を築くように努力すべし。我はこれより教員会議がある故、汝ズは互いに親睦を深められたし。以上!」
オーエンは言い終わると、フッと姿を消した。同時に、優里達の周りに生徒が集まって来る。
「ねぇねぇ、どこから来たの?」
「何か部活に入る予定ある?」
「どんな能力なの〜?」
「趣味とかありますか?」
「え、あ、ちょっ……」
「わー、待って待って!落ち着いてよ!」
「コラコラ、皆さん。ユウリくん達が困っていますよ」
突如聞こえたその声は、優里達がこの世界にやって来て、最初に聞こえた声だった。
そう、いつの間にか教室の隅に、いるのだ。怪人アンサーが。
「学園長先生なの〜、おはようございま〜す」
「はい、リリィくん、おはようございます」
「へぇ、アンサーさんって学園長だったんですね」
葵がそう言うと、アンサーはクツクツと笑い出した。
「アッハッハッハッハッ!ごめんごめん、まさかこんな簡単に引っかかるとは思わなくってね」
「……はい?」
「やあ、やあやあ、初めましてこんにちは。俺は世界に何人もいる。だけどたった1人の君の影」
そう言うと、アンサーの姿が煙に包まれる。煙が晴れると、そこには葵の姿が。
「俺が…もう1人……!?」
「あああ、葵氏が増え、増え増え増ええ……!!!!!!!!????」
「み、瑞輝君落ち、落ち着、落ちつつつつつつつ」
「優里が落ち着いて」
「ハハッ、君達面白いねえ」
笑いながら、もう1人の葵は煙に包まれながら次々と姿を変えていく。葵から優里へ、優里から瑞輝へ、瑞輝から瑠花へ。そして、最後に煙が晴れると、そこには竜胆色の髪の青年が立っていた。
「やあ。俺はドッペルゲンガー。ドッペルでも、ゲンでも、ゲンガーでも…まぁ、好きなように呼んでよ」
「ほよよ〜、学園長先生かと思ったらゲンくんだったの〜」
「アハハ、リリィちゃんの事を騙すつもりは無かったんだけどね…」
いつの間にかドッペルゲンガーの隣に、兎耳を生やした少女がいる。
「えっと…」
「初めましてなの。リリィは、リリィなの〜!」
「リリィちゃんって言うんだ!ふふ、お耳がふわふわで可愛いね〜!!」
「うん。リリィちゃん、よろしくね」
「えへへ〜」
ニコニコと背景に花を撒き散らしながら、リリィと優里、瑠花の3人は談笑を続ける。
ドッペルゲンガーは、その様子を見てクスリと笑うと、葵に向き直った。
「ひょっとして、君達ってこの世界に来たばっかり?」
「嗚呼、まあ…そうだよ」
「やっぱり。そんな気がしたんだよね」
「アンサーさんに色々と頼んではいるが、少し街の様子を見てみたいんだよな……」
「成程ねえ」
「なぁ、ゲン君……あー、待った。ゲンって呼んでも良いか?」
「勿論」
「よし……ゲン、もし良かったら、街を案内してくれないか?」
「オッケー、お安い御用だよ」
葵の提案に、ドッペルゲンガー…否、ゲンは快く承諾してくれた。
「ありがとう、助かる」
「良いの良いの。じゃ、今日の帰りに早速行こうか」
「ああ」
「葵く〜ん!」
葵が返事をすると同時に、優里が大声で葵を呼ぶ。その声に反応し、葵は優里の方を見た。既に懐いてしまったようで、リリィは優里に抱えられている。
「リリィちゃんが、学校帰りに街を案内してくれる〜って言うんだけど……」
「あー……」
「奇遇だね、リリィちゃん。俺も同じ事考えてたんだけど、一緒に案内しよっか」
「は〜い!」
「汝ズ〜?親睦は深められき〜?」
突然、オーエンの声が響いた。いつの間にか、職員会議を終えて戻って来ていたようだ。
「ふむ…既に編入生ズと友になりきべく、我はいと嬉し。汝ズの門出を祝わん」
「ありがとうございます」
「さて、汝ズ。本日は始業式がため、校内放送にて学園長殿の語を聞かば下校なり」
オーエンがそう言うと、リリィは優里の腕の中からぴょんと抜け出して、席に着いた。気付けば、葵と話していたゲンも席に着いている。オーエンの言い回しの所為で生者の4人には分からなかったが、アンサーが校内放送で話をする、と言う事らしい。
優里達が慌てて席に着くと、同時に教室の壁に設置されたスピーカーから、アンサーの声が聞こえて来た。
『おはようございます、皆さん。今日から新学期ですよ〜!』
そうして、そんな呑気な挨拶から始まったアンサーの話は、かれこれ15分は続いた。
オーエンの古語っぽい口調は翻訳サイト頼りのところ(べし、とか、なりきべく、とか)と、自力で訳してるところ(汝ズ、とか、編入生ズ、とか)が融合してるので、変に感じる箇所があるかと思います。が、創作なので多めに見てください。